寸説 《耳のないウサギ》
童話を書きたくて書きました。見ていってください!
昼の暖かな日差しの下、広い草原にたくさんの黒や茶色の兎が草を食んでいた。
「ここの飯は相変わらずうめえな」
「だな。でも最近、この辺を人間が彷徨いてるらしいぞ」
「本当かよ!? なら潮時だな。美味い餌場見つかるかな」
ウサギたちが相談するなか一匹のシロウサギは綿毛をつけたタンポポを見ていた。
(美味しそう)
シロウサギは何度も綿毛を食べようと挑戦したが、その度に綿毛は飛び去ってしまう。まるで綿毛が自分に食われまいと逃げているように。だから今回はゆっくりと近づく作戦だった。
「大変だ! 人間が来たぞ!」
見張りの兎が逃げると周りの兎たちも一斉に逃げ出す。
(逃げるなよ、綿毛)
シロウサギだけはタンポポを見ていた。人間が近づいていることを気づかずに。
人間が刃を掲げてシロウサギに後ろから一歩一歩近づく。そしてあと一歩で刃が届く距離のとき。
ドゴン
人間は真っ逆さまに落とし穴に落ちた。
「ヨッシャアアア! 人間を落としたぜ!」
アカギツネが落とし穴の縁から中を覗く。
「やーい、やーい。引っ掛かってやんの。狐を舐めんなよ!」
人間を馬鹿にして喜ぶアカギツネ。ひとしきり笑うと帰るために踵返す。
「おい、白いの一匹で何してんだ?」
今更ながらシロウサギの存在に気づいたアカギツネ。彼が問い掛けるがシロウサギはじっとタンポポの綿毛を見つめている。
「ふうー」
(あッ!?)
アカギツネが息で綿毛を飛ばすとシロウサギはガックリと肩を落とす。
「お前逃げなかったのか?」
(今日も綿毛に逃げられたか)
「無視するな!?」
(痛い!)
シロウサギの頭を叩くアカギツネ。シロウサギは涙目で自分を叩いた相手を探す。
(誰?)
アカギツネを睨み付けるシロウサギ。だが兎に睨まれても怖くないとアカギツネは笑う。
「それで何で逃げなかったんだ?」
(逃げなかった? 逃げられたのは私なのに)
シロウサギは小首を傾げる。
「兎のくせに人間に気付かないなんて鈍感だな。何のために長くて大きな耳がーー」
そこでアカギツネは目を見開く。
「お前、兎だよな? 何で"耳が無いんだ?"」
彼の言う通りシロウサギには兎特徴の耳が無かった。耳のないウサギ。彼女は生まれたときから音が聴こえなかった。
(またか)
シロウサギは気味悪がられたり好奇の目で見られることに慣れていた。今回もそうなるだろうと思っていた。だから無視してやった。
「そうか! 分かったぞ。お前はモルモットだな。だから耳がーーぐはっ!?」
失礼なアカギツネには蹴りを喰らわせてやった。
「何しやがるモルモット!?」
(失礼な狐)
シロウサギは頬を膨らませてプイと顔を逸らす。
「変な奴だな」
ポリポリと頭を掻くアカギツネ。
「ん?」
アカギツネが何かに気づき宙を嗅ぐ。
「なあモルモット。この臭い」
アカギツネの行動にシロウサギも倣う。
(これってーー狼!?)
「ヤバイぞモルモット! 走れ!」
(え?)
アカギツネが駆け出す。
「おい! 何やってんだ!? 逃げないと喰われんぞ!」
(逃げるってどっちに?)
臭いだけじゃ狼の大体の位置しかわからない。だからといって臭いがしない方に逃げたら土で臭いを消して隠れている狼に捕まってしまう。彼らはそれほどまでに頭が良いのだ。
(嫌だ! 食べられたくない!?)
シロウサギは恐怖で動けなくなってしまった。耳が聞こえなくても地面から響いてくる無数とも感じられる足音が徐々に彼女から逃げ場を奪っていく。
(誰か助けて!)
「ああもう! 腰抜けモルモット!」
アカギツネはシロウサギを背負って再び駆け出した。
「ふん、アカギツネ。お荷物など捨てて逃げれば良いものを」
狼のボスが仲間を率いて樹々の間を静かに素早く移動する。
「あいつら、仲間が待ち伏せしてる森に入りましたぜ」
「そうか。合図を出せ! 熊の野郎には気を付けろと伝えろ!」
手下が遠吠えで森の仲間に指示した。
「やっぱり待ち伏せがあったか」
アカギツネはシロウサギを背負ったまま右に左にへと樹を避けて逃げていた。
「おっと!」
樹の陰から飛び込んできた狼を避ける。
「捕まえた!」
アカギツネの死角から狼が襲う。
「残念だな!」
「なッ!?」
狼の足に蔦が絡まって宙に吹き飛ばした。
「アカギツネの罠か!?」
「そうさ。この森は俺の庭だ!」
次々に狼たちが罠で脱落していく。
「それなら森を抜けたところを襲うまでだ」
狼たちは森から追いたてる。
「チッ! 近付いてくれなくちゃ罠が使えねえ!」
(森が!?)
ついにシロウサギとアカギツネは森から抜けてしまった。だけど止まることはできない。
「仕方ねえ。あそこに頼るか」
アカギツネは進路を変える。
(ダメ! そっちは!?)
シロウサギはアカギツネが向かう先に気づき、彼の耳を引っ張り止めようとする。
「心配するな」
アカギツネはニイと笑う。
「あそこなら狼たちも追ってこられない。ほら見えたぞ!」
彼が指で示した先には木材で作られた柵の壁。その中では羊たちがほのぼのと生活している。
アカギツネは柵を飛び越える。
「もう安心だ」
アカギツネはシロウサギを下ろすと一息吐く。
(柵を越えただけじゃ狼が来ちゃう!?)
シロウサギはアカギツネの腕を引っ張って逃げようとする。
「だから大丈夫だって。ほら見ろ」
彼が顎で示した方を見ると追いかけてきた狼たちが悔しげにこちらを見ていた。そして森へと去っていく。
(どうして?)
シロウサギが小首を傾げる。
「ああ、それは……」
アカギツネはダラダラと冷や汗を流す。
「アカギツネ、今度は何しに来た?」
声にシロウサギが振り返ると大きな影が彼女を覆った。
(お、大きい)
シロウサギを見下ろすのは大型犬のジャーマンシェパードドッグだった。
「ジャーマンの旦那。久しぶりです」
「一昨日会ったと思うが」
ジャーマンに睨まれて小さくなるアカギツネ。
「何しに来たんだ?」
凄みの利いた声にアカギツネは顔を青ざめる。
「じ、実はですね。一生のお願いを聞いてほしくて」
「何度目だ。貴様の一生は猫よりも多いのか?」
凶悪な笑顔で皮肉られてもアカギツネは笑えない。
「出来たらで良いんですが、コイツを保護してくれませんか?」
「保護だと?」
そこでジャーマンはシロウサギの存在に気づく。
「なんだこの兎は?」
「コイツはモルモットーーぐはっ!?」
失礼なアカギツネには蹴りを喰らわせてやった。
「なぜ俺たちが野生の兎を保護しなくてはならない」
「そこを何とか。コイツ、仲間とはぐれちまったみたいで。今は外を彷徨いてると狼が居て危ないんですよ。俺がコイツの仲間を見つけられるまでで良いんで」
「兎は一匹を好んだはずだが」
「え?」
そうなのか? アカギツネが訊くとシロウサギは頷く。
「まあ、それでも今は危険ですから。どうか」
アカギツネが頭を下げる。
「野生の兎が俺らの主人に見つかってみろ。鍋にされるぞ」
冗談を言うジャーマン。だが凶悪な顔と『鍋』という言葉がシロウサギは恐怖に震える。
「あら。良いじゃない」
ジャーマンの隣に並んだのは長毛の美犬ーーシェットランドシープドッグ。
「可愛い兎さんじゃないの」
長毛の美犬はシロウサギの頭を撫でて優しく微笑む。
「良いのかシェトラ?」
シェットランドシープドッグのシェトラはジャーマンに頷く。
「家族は多い方が楽しいわ。安心してね。私たちの主人に狩りの趣味はないから」
シェトラの言葉にシロウサギは頷く。ジャーマンと違ってシェトラは笑顔が柔らかい。
「それは良かった。じゃあ俺はこれで」
手を振って立ち去ろうとするアカギツネ。彼をジャーマンが呼び止める。
「貴様はどうする? 狼が彷徨いているんなら貴様も危ないはずだ」
アカギツネは苦笑する。
「心配してくれるのは嬉しいです。だけど狩りをしない人間でも羊の中に狐がいちゃあ撃たざるを得ない。俺は森に帰ります。森には熊の大将も居ますから狼たちもデカイことは出来ないでしょう」
「そうか。気を付けろよ」
「はい。それじゃあ」
アカギツネは森へ去った。
それから一ヶ月間、シロウサギは牧羊犬たちと共に暮らした。彼らとの生活はとても楽しく新鮮だった。彼らの主人も耳のない彼女を優しく育てた。彼女は音が聴こえなくても幸せだった。
だけどぶつかる壁もあった。音が聴こえないシロウサギは会話が出来なかった。
「それなら」
ある日、毎日通いに来てるアカギツネが言った。
「身体の動きだったり指で文字を書いて話すんだ。確か人間がやってた」
(動きで?)
「確かこれが『おはよう』」
アカギツネが思い出した動きをやってみる。拳を顔の横で作り顎まで下げる。
「これが『ありがとう』」
左手の掌を下に向けて甲を右手の手刀で切る。
(難しそう。出来るかな)
不安げに俯くシロウサギ。
「心配すんな。口の動きで言葉が分かるんだ。会話だって直ぐに出来るさ」
アカギツネに励まされたシロウサギは自信に溢れた。
二匹は毎日、陽が沈むまで会話の練習をした。
「じゃあ今日は帰るわ」
(またね)
今日は昼に会話の練習を切り上げて二匹は左手の人差し指と中指を伸ばして揃え右肩の前。それを左下へ下ろして最後に両人差し指の腹を向かい合わせた。そして別れを告げた。
「最近、アイツと居ると楽しいな」
アカギツネは森に戻ると自分の住み処へ向かう。
「おやおやアカギツネ」
「森の賢者! 久し振りだな」
アカギツネの頭上の太い枝に現れたのは老いた猿。彼は人間と同じくらい頭が良くて森では生き字引として森の住人に慕われていた。
「最近どこに出掛けておるのだ?」
「少しな。知り合いに会いに行ってんだ」
「人間に飼われている奴にか?」
森の賢者の深いシワの笑みにアカギツネは背筋に悪寒を感じた。
「ま、まあな。用がないなら俺は帰るぜ」
「用事ならあるぞ」
立ち去ろうとしたアカギツネだったが歩みを止める。
「ここのところ森に人間が立ち入るようになった」
森の賢者は悲しげに語り始める。
「先週は鹿の家族が殺された。昨日は力自慢の猪が撃たれた。今日は私の数少ない旧友が人間の子供の玩具にされて死んだ」
「それは災難だったな」
アカギツネは無関心を装って話を切り上げたかった。
「なぜ人間は我らを殺すのだろうか?」
「……生きるためだろう」
森の賢者は首を滑稽なほど傾げる。
「生きるため? 人間は雑食であろう。草花を食べれば良い」
「肉だって必要なんだよ」
「ならば人間に飼われている『家畜』を食べれば良い」
「何で森の賢者が俺に質問する? 俺より頭が良いだろ」
アカギツネは苛立ちを抑えて言った。
「ならば単刀直入で言うぞ」
森の賢者はアカギツネを嗤う。
「我らは人間に宣戦布告する。その第一歩に近くの牧羊を襲う」
アカギツネは目を見開く。
「まさかあそこに!?」
「そうだ。だからアカギツネ、お主に力を貸してもらいたい」
嫌な予感しかなかった。今すぐ逃げなければ最悪から戻れなくなる。
アカギツネは踵返す。
「まあ待てよ」
アカギツネの進路を塞いだのは狼のボスだった。
「お前ら!?」
樹々の陰から続々と狼たちが現れる。
「おいおい。俺を捕まえるために山から下りてきたのか? ご苦労様なこった」
アカギツネは皮肉る。だが狼たちは笑い出す。
「今日は仲良くしに来たんだ」
狼のボスの言葉にアカギツネは怪訝そうな表情になる。
「分からねえか? 俺たちも協力してやるって言ってんだよ」
「お前らが!? どういうことだ森の賢者?」
アカギツネは振り返り頭上を睨む。
「彼らも人間を殺したいらしい。つまり同志だ」
「熊の大将は? あの人がこんなことを許すはずがねえ!?」
森の賢者にすがるアカギツネ。だが残酷な言葉が返る。
「彼なら許可したよ。狼が森に入ることも、人間と戦争することも」
「そんな!?」
アカギツネはガックリと肩を落とす。
「アカギツネ、お主に頼みたいのは牧羊の主が留守の日を探ることだ。お主なら知っているはずだ」
「何で俺なんだ? 俺が居なくても勝手に攻めれば良い」
「必要なんだよ」
狼のボスがアカギツネの隣に並ぶ。
「同志はまだ少ない。静観をする奴や臆病者が戦列に加わらないからだ。そんな奴らの背中を押すために俺たちだけで成功させなくちゃならない。だが人間は強い。俺たちだけじゃ簡単に狩られる。だから人間が不在のときに襲撃する。そのためには情報が必要なんだよ。あそこに毎日通ってるお前なら知ってるよな?」
「知らねえな」
アカギツネは顔をしかめて立ち去る。
「そういうと思ったよ」
アカギツネは彼らが諦めると思った。
「手荒な真似はしたくなかったんだが」
「?ーー!?」
アカギツネの頭に衝撃が奔る。だが意識を手放すわけにはいかない。
「コイツを取り押さえろ!」
狼のボスの指示に狼たちが従い、アカギツネを捕まえて地面に押し倒す。
「放しやがれ!」
アカギツネは抜け出そうと暴れるが頭の痛みで力が出ない。
「これ知ってるか?」
狼のボスがアカギツネの顔の前に差し出したのは指で摘まむほどの小さな木の実。
「それは!?」
「知ってるよな。親がガキに教えるもんな。この木の実は何があっても食べてはダメだって」
狼のボスは楽しげに嗤う。
「でも理由は教えてもらえないよな? だから俺が教えてやる」
狼のボスが指示を出すと狼の一匹が抵抗するアカギツネの口の中に無理やり入れて苦しませる。
苦しみのなかでアカギツネは木の実を飲み込んでしまった。
そしてすぐに吐き気を催す
「その木の実を食うとな全て吐き出したくなるんだよ。食ったモノも、秘密にしたいこともな」
アカギツネは意識が朦朧とするなか狼たちの嗤い声を聞き続けた。
「どうしたシロウサギ? ボーッとしちまって」
森の方角を見続けるシロウサギにジャーマンが声をかける。
(アカギツネが来ない)
シロウサギの身体の言葉をジャーマンは理解する。
「そういえばそうだな。このところは毎日来ていたのにな」
アカギツネが姿を見せなくなってから三日が経っていた。
「ジャーマン、主人たちが出掛けるわよ」
「分かった。すぐに行く。陽が沈むまでには戻れよ」
ジャーマンが立ち去る。
(アカギツネ)
アカギツネは陽が沈んでも現れなかった。
草木も眠る丑三つ時。森から飛び出す影が百以上。
「アイツが言ったことは本当ですかね?」
「間違いない。あの木の実の効能は確かだ」
「狐、食いたかったな」
「馬鹿言え。あんな木の実を食べた奴の肉なんて」
「静かにしろ。着いたぞ」
狼のボスが見据える先には誰も居なくなった柵の壁。
「光はねえな。行くぞ!」
狼たちは羊たちが眠る羊舎に突撃した。
「何の音だ?」
見回りをしていた牧羊犬の一匹が異音に気づいた。
「そうか? 俺には何もーー」
牧羊犬の首が食い千切られた。
「て、敵だ!?」
見回りの牧羊犬は仲間に危険を知らせて食い殺された。
「敵襲か!?」
ベットから飛び起きるジャーマン。すぐに仲間を叩き起こす。
「防衛部隊は出るぞ! 誘導部隊は羊たちを羊舎の奥へ」
ジャーマンが二十匹以上の大型犬を率いて外に出る。シェトラは中、小型犬を率いて羊舎に向かった。
「何だこの数は!?」
月夜の下でジャーマンたちを囲んだのは両目をギラつかせて牙を剥き出す百を超える狼の集団。
「よう、ジャーマン。久し振りだな」
「貴様は!?」
狼の集団から現れたのは狼のボス。
「今日は本気だ。死んでもらうぞ!」
「させるか! 防衛部隊、命を賭けろ!!」
狼と牧羊犬は激突した。
「シロウサギちゃん! 逃げるわよ!」
シロウサギはシェトラに手を引かれたまま混乱していた。
(何があったんだろう?)
今の状態では身体で会話をすることが出来ず、さらにはシェトラの焦りにシロウサギは不安を募らせる。
「シロウサギちゃん、ここに隠れて」
シェトラは羊舎の奥の部屋にシロウサギを入らせる。
「私が良いって言うまで絶対に開けないでね」
シェトラはシロウサギの額にキスすると扉を閉める。
(待って!)
シロウサギは言葉を伝えられなかった。
彼女は羊たちと一緒に震えるしかなかった。
「おい! 聴こえるか?」
声をかけられてアカギツネは目を覚ます。
「熊の……大将?」
アカギツネの前に立っていたのは見上げるほどの巨大な黒い熊。
「すまねえ。まさか森の賢者が狼にここまでさせるとは思ってなかったんだ」
熊の大将はアカギツネを幹に縛り付ける蔦を引きちぎる。
「狼たちは?」
「もう、行っちまった」
弱々しい声のアカギツネに苦しげに熊の大将は答える。
「行かないと」
走り出そうとするアカギツネを熊の大将は止める。
「傷だらけじゃないか! それに狼たちに毒の木の実を食わされたんだろ? 毒を抜かないと死ぬぞ!!」
熊の大将が言う通りアカギツネは満身創痍だった。だけど彼の瞳の光は消えていない。
「行かせてくれ」
「お前が行ったところで何が出来る? 殺されるだけだぞ!」
「俺は狐だぜ? 策ならある」
一歩一歩歩むがアカギツネはガクリと膝をつく。
「無理だ。送ってやる。家で休め」
熊の大将はアカギツネを背負う。
「熊の大将! 一生のお願いだああああ!!!」
「!?」
アカギツネは吼えた。
「俺に罪の意識があるなら手を貸してくれ!」
喉が裂けるほど叫ぶアカギツネ。
「助けたい奴が居るんだ! 俺に森の住人最強の力を貸してくれ! 一生のお願いだああああああああ!!!」
「アカギツネ!?」
熊の大将は瞠目したが、やがてフッと笑う。
「お前の一生は猫よりも多いのか?」
「そうかもな」
アカギツネも笑い出す。
「良いだろう。さあ何でもしてやる。何がしたい?」
アカギツネは礼を言う。
「俺が指示した場所に向かってくれ!」
シロウサギは部屋で震えていた。周りではヒソヒソ声で羊たちが不安を吐露していた。
(!?)
扉に何かが激突する。
(何があったの!?)
シロウサギは扉を叩き外の状況を知ろうとする。
「ダメよ。絶対に開けちゃ」
とんとんと弱った音がシロウサギに応える。シェトラだ。
「何だ? ここに羊どもが居るのか?」
狼が傷だらけのシェトラを蹴り飛ばす。
「チッ。何かで塞いでやがるな」
数匹の狼が扉に体当たりする。
(!?)
音が聴こえなくても扉が破られようとしているのがシロウサギには分かった。後ろでは羊たちが悲鳴を上げている。彼らは奥に逃げようとするが、この部屋にはもう奥はなく、ただ羊毛の塊になるだけだ。
シロウサギは覚悟を決める。
(みんな! 一緒に戦おう!)
身体の動きで羊たちに語りかけるが彼らはそれどころではない。
シロウサギは怒られるのを覚悟して塊の一番後ろに居た羊のお尻を蹴り上げた。
「何するんだ!?」
痛みで涙目の羊が振り返る。すかさずシロウサギは言葉を身体で伝える。
「俺たちだけで戦うって? ふざけるな!」
羊が大声を上げたので他の羊たちもシロウサギに振り返る。
シロウサギの戦おうという言葉を羊たちは全て否定した。臆病な彼らは狼と戦うなど論外だった。そうこうしているうちにーーついに扉が破られた。
「ヒャッハー。観念して俺らに食われなーーぐはっ!?」
先頭をきって部屋に入ってきた狼の顎をシロウサギが蹴りあげる。
「何だ? 何伸びているーーごはっ!?」
一匹目が倒されたことに怪訝そうな表情だった二匹目にもシロウサギは蹴りを喰らわせてやった。
「兎が俺らの邪魔をするんじゃねえ!」
シロウサギに飛びかかる一匹の狼。音が聴こえないシロウサギは反応が遅れた。
「でいやああ!」
死を覚悟したシロウサギの前に飛び込んできたのは白い羊毛の塊。
「シロウサギ、ありがとう! 君のお陰で俺たちも戦う勇気が出た」
一匹、また一匹と奥で震えていた羊たちが勇気を得て部屋から飛び出した。
「戦えええええ! 狼を追い出せええええ!!」
羊舎からの声に戦っていた狼と牧羊犬は動きを止めた。
「臆病な羊が勇猛果敢に戦っているのか!?」
ジャーマンは自分が見ている光景が信じられなかった。
「羊が自分たちから出てきた。殺っちまえ!」
「殺らせるかああ!!」
羊たちの乱入により乱戦に持ち込まれた。
「何だ? うるさいな」
人間の男が目を覚ます。先程から扉を叩く音が煩わしかったのだ。
「こんな時間に来るなんて。犯罪者か?」
男は念のために猟銃を持って扉を開けた。
「何だ狐かよ。どっか行っちまえ」
男は苛立たしげに扉を閉める。さあ寝ようとしたとき再び扉が叩かれる。
「うるさい! 撃ち殺すぞ! ぐはっ!?」
男の顔に何かが投げつけられる。
「何するーーってくせえ!? 動物の糞じゃねえか」
狐がケタケタ笑いながら逃げ出す。怒りが頂点に達した男は狐を追いかけた。
「待ちやがれ!」
銃弾をギリギリのところで避ける狐。それが男の怒りを突き上げた。
「ん? 騒がしい」
狐が男の友人が経営する牧羊場に入ったとき男は違和感に気づいた。
「た、大変だあああ!?」
狼が牧羊場を襲っている光景を目の当たりにした男は仲間を呼ぶために走った。
男が仲間を呼びに行ったとき戦いに負けたシロウサギたちは隠れていた部屋に再び籠った。
(大丈夫?)
「ええ。命に別状は無いみたい」
怪我した腕を押さえるシェトラをシロウサギは看病している。彼女以外にも怪我をした牧羊犬と羊で部屋は溢れていた。
「このままじゃ保ちません!」
「耐えるんだ! 主人が帰るまで保ち堪えろ!!」
狼たちが体当たりして揺れる扉をジャーマンたち動ける牧羊犬と羊たちが押さえる。
(このままじゃ皆が死んじゃう)
絶望的な状況のなかシロウサギは祈った。
(助けてアカギツネ!)
扉が破られる。狼たちがギラついた瞳で嗤う。
「今夜は腹一杯食っちまえ!」
狼のボスの号令に狼たちはシロウサギたちに襲いかかった。
ダーン
銃声が響いた。
「まさか!?」
狼のボスが瞠目する。
「ボス!」
一匹の若い狼が息を切らせて狼のボスの所へ駆けつける。
「大変です! 人間どもが俺たちに気づいて攻めてきました!」
「撤退しろ!」
狼のボスは迷うことなく狼たちに逃げるように叫んだ。羊舎から出ると月明かりの下でランプの明かりが揺れ、猟銃が火を噴いた。
戦いは唐突に終わった。
人間たちに保護された牧羊犬と羊たち。亡くなった動物たちは弔われた。
シロウサギは一匹抜け出して森に来ていた。そこで大きく黒い熊と出会う。
(アカギツネ!)
熊に案内されてきた場所では樹に一匹の狐が凭れて眠っていた。
(起きて! 起きてアカギツネ!)
シロウサギに揺らされて重たそうに瞼を上げるアカギツネ。
「シロウサギ、無事だったのか。良かった」
掠れた声のアカギツネ。シロウサギの無事を確認すると弱々しく、だが確かに微笑む。
(どうしてこんなにボロボロなの? 狼の仕業なの?)
必死に言葉を伝えようとするシロウサギ。そんな彼女をアカギツネは残る力の限り抱き締めた。
「好きだ! 俺はお前が好きだ!!」
彼の言葉にシロウサギは動けなくなった。
(どういうこと?)
「そのままの意味だよ。俺はお前を愛してる」
腕に力を無くしたアカギツネは再び樹に凭れる。
(アカギツネが私を?)
「そうだよ」
信じられないとばかりに言葉を伝えるシロウサギにアカギツネは苦笑する。笑われたことに頬を膨らませるシロウサギ。だけど嬉しそうに微笑む。
(ありがとう)
そして人生、いや兎生で初めて言葉を口にする。
「私、も、あなた、を、愛して、います」
今回は動物をメインで書きました。ですが文字ですので彼女たちが動物の姿をしているのか。それとも亜人なのかは皆さんの想像にお任せします。私は後者で。
sおれでは、kょうはここまで。skでした!




