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迷子になった少女

 行先も決めずに出かけたこともあり、近くをぶらついていた。


「どこか行きたいところはある?」


「美月と一緒ならどこでもいいよ」


 そう言われると、返す言葉もなくなってしまう。


 どうしようと思ったとき、可愛い洋服が目にはいる。


 最近オープンしたのか見たことのないお店だ。


 心惹かれるが、拓馬はこういうところに行きたいか分からない。そう考え、そのまま通り過ぎようとした。だが、突然拓馬がわたしの手をつかむ。


「寄ろうか」


 わたしが戸惑っていると、拓馬が笑顔を浮かべる。


「顔に書いてあるよ」


 心を見透かされたようでどこか気恥ずかしく感じながらも彼の優しさを受け入れることにした。


 中に入り、わたしお店の奥にある木製の棚にかけてある白のコットン地のワンピースを手に取り、拓馬に見せる。


「どう思う?」


「似合うと思う」


 いつもと同じ彼の表情が引っかかり、その隣の明るいピンクのワンピを見せた。


「これは?」


「似合う」


「拓馬は似合うしか言わないんじゃないの?」


 同じテンポでそう答える彼に苦言を呈した。

 そのとき、店員の一人がわたし達のところまでやってくる。


「美月が着たらなんでも似合うよ」

「拓馬」


 そうあっさりと言い放つ彼をいさめるが、店員の女性はそんなわたしたちの話を聞いて笑っていた。彼はそんなことを聞かれても表情一つ変えない。


「一番似合うのはどれだと思う?」


 拓馬が選んだのは最初に手にした白いワンピースだった。そんな可愛い洋服が少しわたしに似合うか不安だったが、彼は絶対に似合うと言い張る。


 試着室で念のために袖を通した。似合っているのかはよく分からない。


拓馬に聞いてみようかとも思ったが、また可愛いを連呼されるのが恥ずかしくそのまま服を脱いだ。


 カーテンを開け、外に出る。


「もう着替えたんだ。見たかった」


 先ほどの女性の店員は他の客に案内をしていた。


「今度会うときに着てきてあげる」


 拓馬は少しだけ目を見張るが、すぐに笑顔になった。


「楽しみにしている」


 わたしたちはレジに行き、会計を済ませお店を出る。


 彼の足がふととまり、ある一点を見つめていた。そこは雑貨などが売っている店だった。


「見たいの?」


「再来週、千江美の誕生日なんだ。あいつの誕生日プレゼントを買いたいんだけどいい?」


 あいつという言葉にドキッとした。拓馬との距離を感じた直後に、彼にとってそういう女の子はわたしや奈月だけではなかったと教えられたからだ。


 店の中に入ると、彼は真剣に物を選んでいた。


 従兄妹だとしても、いつも彼がわたしを優先してくれたからか、わたし以外の子のことを必至に考えている彼を見ると少しだけ嫉妬してしまっていた。


「どうかした?」


「何もないよ」


「美月はどういったものがいいと思う?」


 わたしに対する彼女の敵意のまなざしを思い出しながら、店内を見渡した。


 奈月にあげるものならいくらでも思いつくのに、彼女にあげるとなると何を選んでいいのか分からない。


 きっと彼女にとって何をもらうかではなく、拓馬に選んでもらったことが何より大切なのだろう。


「何でも嬉しいと思うよ」


「そう言われてもね」


「じゃあ、彼女の部屋にあるものとかは分かる?」


「ぬいぐるみかな。ベッドとか机の上とかにたくさん置いてあるよ。ばあちゃんがよく買ってくれたんだってさ」


 さっき感じた独占欲を申し訳なく思いながら、店内に陣取っているぬいぐるみの群を見つけた。


「あそこから選べばどうかな? きっと喜ぶと思うよ」


 彼とそこまで行くが、難しそうにそれらを見つめていた。


「どれがいい?」


「拓馬が選んだほうがいいよ」


「ウサギと、クマと、ブタと、ネズミはどれが好き?」


「クマかな。でも拓馬が決めたほうがいいよ」


 彼は結局、最初に選んだウサギをレジに持っていく。


 だが、戻ってきた彼は二つの袋を持っていた。そのうち、小さな袋をわたしに渡す。


「お礼」


 彼の許しを得て袋を開けると、小さな熊のぬいぐるみが入っていた。


 だが、そっと握りしめると、拓馬にお礼を言った。


 わたしたちはそれからてきとうにふらふらし、日が落ちる前に天気が悪くなってきたこともあり、帰ることになった。


 洋服を取り出し、鏡の前であててみる。最初はどうかと思ったが、見慣れてくると意外と似合っているような気がしてきた。


 ドアをノックされ、わたしは洋服を椅子にかけてドアまで行く。


 奈月が無表情で立っていた。彼女はごはんだと告げるが、動こうとしない。


「なにかいいことでもあったの?」


「別に」


 隠したかったわけではないが、下手に言うと彼女には延々とからかわれそうな気がしたからだ。


 階段をおりかけたとき、奈月の部屋から携帯の音楽が聞こえた。


「携帯鳴っているよ」


 奈月はため息を吐くと、部屋に消えていく。すぐに携帯を耳に当てて出てきた。その和やかな表情から誰から電話がかかってきたのかすぐに分かる。


「お姉ちゃんに替わる?」


 からかうような表情が一瞬で凍りつく。


 奈月が携帯を取る。彼女は顔をひきつらせた。


「知らない。連絡もない。…分かった」


 彼女は携帯を着るとじっと液晶画面を見つめている。


「どうかしたの?」


 彼女はわたしと目を合わせると、ためらいがちに目を逸らした。


「千江美が家に帰っていないんだって」


「今日はお母さんと一緒に出かけていると聞いたよ」


「その帰りに用事があるからと言い出して、別れたらしいの。それが四時半くらい」


 思わず時計を確認すると時刻は八時を指していた。


「探しに行かなきゃ」


「行かなくていいよ」


「どうして」


「きっと千江美はお姉ちゃんが苦手だから、拓馬に任せたほうがいいと思うの」


 彼女なりにわたしをきづかってくれたのだろう。


 そのとき激しい雨音が窓を叩く。雨が降り出したのだ。


 奈月は窓の外をじっと見つめた。彼女の携帯を握る力が強くなっているような気がした。


「奈月はあの子と仲がいいの?」


「そこまでは。拓馬のことで何度か話をしたことあるくらい」


「やっぱり探しに行こうか。見つけたら即効拓馬に連絡をしたらいいんだよね」


 彼女は戸惑いがちにわたしを見て、小さく頷いていた。


 わたしはそれから母親に簡単に事情を話し、家を出ることになった。



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