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毛づくろう猫の道しるべ  作者: CoconaKid
第四章 ぎゅっと抱きしめられた猫
33/50

 降り続く雨。誰もが傘を差して学校に向かって歩いていた。

 私もその中の一人だが、傘で視界が狭まり、雨に気をとられてしまって周りをよく見ずにいたら、まさか常盤さんが歩いている隣に出くわすとは思わなかった。

 傘をずらした瞬間、視界に入った時はすでに手遅れで、思わず「あっ」と声が漏れて、私の存在を知らしめてしまった。

 常盤さんも振り向きざまに「あっ」と声を上げていた。

 厄介な人に出会ったが、雨の中走って逃げる気力もなく様子を見ていると、案の定常盤さんは突っかかってきた。

「あなた最近、いい気になり過ぎね。櫻井さんが辞めるのを分かっててサッカー部に入り込んだり、マネージャーを盾に草壁君に近づいたり、立場を弁えまえないといけない一年生の分際で、生意気すぎるわ」

 全ての事情を知ってるので、常盤さんの言い分に呆れてしまった。

「それって、八つ当たりですか?」

「何を言うの。私は一年生がどうあるべきか忠告してるだけよ。遠慮ってものもわからないの」

「遠慮? 何に対してですか?」

「あなたね、そんな事言われないとわからないの?」

「この場合は、誰もがわからないと思います」

 本当の理由を知ってるが故、常盤さんの理不尽なルールはナンセンスだ。

 私は半ば軽蔑する眼差しを向けて、常盤さんを一瞥した。

 それに簡単に反応し、常盤さんの怒りがどうやら収まらないのが睨む目の強さで伝わってきた。

 こうなると常盤さんは苛立ちから行動にでてしまった。

「つべこべ言うんじゃないわよ。このぉ!」

 常盤さんが奇声を上げて私を突き飛ばそうとする。

 上手い具合にひらりとかわせたので、そのまま逃げた。

 その時、常盤さんは反動で、後ろからやってきた歩きスマホをしている男子生徒とぶつかっていた。

 精神をきたした人に構っていたら不幸になるだけなので、私は知ったこっちゃないと、そのままどんどん先を急いだ。

 腹も立って嫌な気分だったが、学校の門を潜った時は回避できただけよしとしようと思えるようになっていた。

 そして下駄箱で自分の上履きを取ろうと手を伸ばせば、またそこに『偽桜井さん』からの手紙が入っていた。

 こんな事をしてばれないとまだ思っているのだろうか。

 一応目を通せば、きっちりと場所を確保できなかったことを責め、草壁先輩と仲良くするなと言った僻みが書いてあった。

 加地さんも草壁先輩に憧れているんだろう。

 その怒りを櫻井さんの名前を語って、八つ当たりしている。本当はばれている事もわかっているんじゃないだろうか。

 私が何も言わないお人よしということで、好き放題に鬱憤を晴らしているだけなのかもしれない。

 実際波風立てたくないし、私が強く出てこないと分かって露骨にやってるのだろう。

 もしかしたら、岡本さんの時のように私を辞めさせようとしてるのかもしれない。

 加地さんなら、こんな事が平気でできるような気がする。

 常盤さんに続き、加地さんも病的すぎて、嫌になる。

 私はそういうのに疎ましく思われる体質でもあるのかもしれないが、あの二人にとって、力のない格下と位置づけられているのも納得できない。

 同じ土俵には立ちたくないが、やられるままもなんだか嫌だ。かといって、一人でどう立ち向かえばいいのかもわからない。

 草壁先輩や櫻井さんに相談したところで、事が大きくなるだけだろうし、陰湿に水面下で嫌がらせされそうな気もする。

 実際草壁先輩は面と向かって庇ってくれたが、常盤さんは怯むことなく、私が一人の時に露骨に攻撃してきている。

 加地さんも同じようなタイプだから、言ったところであの手この手で意地悪をしてきそうに思えた。

 我慢するしかないのだろうか。

 それにしても朝からダブルで辛い。

 嫌な気分のまま、教室に入れば、相田さんが走り寄ってきた。草壁先輩とその後どうなっているのか気になって仕方がないらしい。

 草壁先輩の話もややこしくなってるだけに、何も言いたくないが、こうやって構ってもらってるだけに、ヘラヘラとして当たり障りなく付き合わないといけないのもつらい。

 相田さんが積極的に私に近づくから回りの友達も引き寄せられて、私は今のところ一人にならずに済んでいる。

 それがなければ、希莉との問題でやりにくい毎日を送ってボッチな高校生活だったかもしれない。

 しかし、ボッチになりたくない理由のために無理に付き合うのも辛い。

 これも希莉が頑固で頑なに私を受け入れてくれないから余計にややこしくなってこじれてしまっている。

 希莉もいい加減、譲歩してくれればいいのに。これだけ長く続いてしまうと私も希莉が恨めしくなってしまう。

 いつまでこの状態を続けるのだろう。

 目が合う度に一応笑ってはいるが、私ばかりが気を遣うのも疲れてきた。でもこの負のスパイラルからは抜け出せないから、気弱に笑うことしかできなかった。


 登校時間ギリギリに近江君が大きなあくびをしながら、教室に入ってきたのが目についた。

 近江君はいつも一人だけど、誰も近江君が一人で居ることを気にしないし、どっちかって言えば、一目置いて見ている。

 学力もクラスでトップを争うくらいだし、当たり障りも悪くなく、落ち着いた風貌から邪険に扱う人はいない。

 近江君も何をするにも気兼ねなく堂々としている。

 例え留年がクラス中に知れ渡っても、近江君をバカにする人はいないだろう。

 私も近江君が留年したからと言って、別に気を遣うこともない。寧ろ今迄通りに私は近江君と接したいと切望するくらいだ。

 このクラスで唯一私が、近江君と一番仲がいいと誇りのように思っていた。

 コソコソと私は近江君の様子を盗み見していた。

 近江君は静かに机について、再びあくびをしながら本を開いている。

 本当はもっと気軽に近江君に近づきたいけど、常に勉強する姿を見てると憚れる。こうやって見てるだけでも、なんだか後ろめたいというのに。

 振り返れば、近江君には色々と助けられた。

 ブンジの事も気にかけてくれるし、このクラスでなんとかやっていけるのは、いざという時近江君と接触して話せるからだと思う。

 近江君の前だけはありのままの自分で居られてとても楽なのもいい。

 それに甘えて、近江君を頼って昼休み図書室に行く癖がついてしまったが、それがこの先できなくなるなんて思いもよらなかった。

 なぜなら、私の他にも近江君と会う人物が現われてしまったからだった。

 そして新たな真実を知ってしまい、胸が張り裂けそうになった。


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