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毛づくろう猫の道しるべ  作者: CoconaKid
第三章 頭上で揺れる猫じゃらし
24/50

 草壁先輩と肩を並べて再び歩くことがあるとは思わなかった。

 辺りをキョロキョロとして、サクライさん親衛隊隊長の常盤さんが周りにいないか確認してしまう。

「千咲都ちゃん、何か気になることでもあるの?」

「いえ、その、へへヘヘヘ」

 誤魔化した笑いが虚しい。

「困ってることがあるなら、俺に遠慮なく言って。ほら、あの時、出渕の手紙の事で僕を頼ってくれたようにさ」

「あっ、あのときはその、切羽詰ってて」

 それも今更持ち出して欲しくない話題なだけに、体がむず痒くなって鳥肌が立ってしまう。

 なぜか意味もなく笑い、ヘラヘラしてるのが情けなかった。

「千咲都ちゃんは、俺と一緒にいると楽しくない? いつもなんかぎこちないというのか、何かを恐れているというのか。もしかしたらまた常盤たちに嫌がらせされてるのかい?」

「えっ、そ、そんなことは」

「千咲都ちゃん、正直に話してくれないかな。俺、本気で千咲都ちゃんの事考えてるんだけどな」

「はい?」

「だから、俺は千咲都ちゃんと付き合いたいってこと」

「えーー!!」

 今一瞬口から心臓が飛び出したのが見えた気がした。

「何もそんなに驚かなくても。俺の事、嫌いかい?」

「ち、違うんです。その、先輩は、その、なんていうのか、ほらサクライさんがいるし」

 ここで草壁先輩は口を一文字に閉じて黙ってしまい、難しい顔になった。

 そして再び口を開いた時は、大きな溜息が出ていた。

「櫻井とはなんでもないんだ」

「だけど、サクライ先輩は草壁先輩の事まだ思ってるし、だから常盤先輩も友達だから心配してああやって私に警告してくるんだと思います」

「櫻井は俺の事なんてなんとも思ってないよ」

「そんなことないです。思ってるから、上手く気持ちが伝わらなくて、それで辛くてサクライ先輩はマネージャーをやめるんでしょ」

「えっ?」

 草壁先輩はこの上なく驚きの表情をして、私を見ていた。

「やっぱり草壁先輩はその理由を知らなかったんですね」

「そんな、まさか、ありえない」

 絶対に信じようとしない頑なな態度だったので、私はそれを証明しようと、以前下駄箱に入れられていたサクライさんからの手紙を鞄から取り出して見せた。

 あまりいい手紙ではなかったけど、これしか証拠になるものをもってなかったから仕方がない。サクライさんは悪くない事を何度も強調した。

 それを草壁先輩はじっと見ていて、眉根を寄せた。

「これを櫻井が君に?」

「はい。ほら、この部分、草壁先輩に近づくなってあるでしょ。やはり私なんかが現われて辛いんだと思います」

「ちょっと待ってくれ。これは櫻井が書いたものじゃない。絶対にそれはありえないんだよ」

「えっ? でも」

「ほら、ここを見て」

 草壁先輩は、サクライさんの名前が書かれたところを指で示していた。

「ここの最後のところ『桜井』ってなってるだろ。これ間違ってる」

「えっ? 間違ってる?」

「ああ、だってサクラっていう漢字は木へんに貝を二つ置いてから女を書く方の『櫻』だ。本人なら自分の苗字の漢字を間違う事はないだろう」

「でも、中には略式で使う人だっていると思うんですけど」

「いや、この手紙はそれ以前に絶対櫻井が書いたものとはありえないんだ。だって櫻井は俺の事など好きでもなんでもないんだから」

「えっ!? でも、櫻井さんには親衛隊がいて、あたかも櫻井先輩と草壁先輩をくっつけようとしてるじゃないですか」

「あれも変なんだ。だけど、俺はそれで助かった事もあったから、あまり追求してないんだけどね」

 私には意味が全くわからなかった。

 草壁先輩の瞳は虚ろな鈍さが現われ、悲しげな表情をしている。そして乾いた笑みを浮かべて、自虐的な苦い表情を私に向けた。

「千咲都ちゃん、俺の話聞いてくれるかな」

「は、はい」

「長くなりそうだから、あそこでお茶でも飲もうか」

 いつの間にか駅前の中心街に来ていた。賑やかな人通りのあるところには飲食店が多数並んでいる。

 その草壁先輩の指差した方向には、某有名カフェショップがあり、この時間帯は学校帰りの学生や若者が多く利用するようなおあつらえ向きの場所だった。

 話を聞くと返事をした以上、そこへ一緒に入らざるを得なかった。

 またとんでもない方向へと進んでいく恐れもあり、緊張した面持ちでその店へと向かった。

 店に入れば、草壁先輩は先に窓際の空いてる席に私を座らせた。

「ここで待ってて、俺が注文してくる。何がいい?」

「私、アイスティで」

「わかった」

 注文カウンターに向かう草壁先輩の後姿を目で追いながら、何が始まるのかドキドキしてしまう。

 そんなに混んでなかったので注文を済ませると草壁先輩はすぐに席に戻ってきた。

 お金を払おうと財布を出したとき、草壁先輩は首を横に振った。

「いいよこれくらい」

 男の人と店に入ることにも慣れてないが、奢ってもらうのが心苦しい。それでもここは潔く受け入れた。

 草壁先輩を前にすると、緊張の方が勝ってできるだけ簡素に済ませたいと思う自分が居た。 

 テーブルを挟んで二人きりのこの状態だけで、蒸発してしまいそうに体が熱くなっている。

 女生徒の憧れの草壁先輩とこんな風になったことが信じられなかった。

 サッカーボールに当たっただけでこんな展開を誰が予想できただろうか。私はモジモジと落ち着かなくてかしこまって草壁先輩を見ていた。

「さっきの続きだけど、俺はこんな事、まず誰にも話すつもりはなかったんだ。だけど、ずっと誰にも言わずに抱え込むのも苦しいものがあってね、一層のこと全部さらけ出したくなるときもあったんだ」

「はい」

「俺にとってはとても恥さらしなことなんだけど、君には話せそうな気持ちになったんだ。それに、君が見せてくれた櫻井からだという手紙。あれを見たとき、なんだか腹が立ってさ、それが自分のやってることと同じだと思うと、自分の中で爆発しちゃった」

「はぁ」

 全然意味がわからず、曖昧な相槌を打ってしまった。

 草壁先輩はそれを見てクスッともらしていた。

「こんな抽象じみた話、分かるわけないよね。ごめんごめん。ちゃんと分かるように話すよ。実は、俺の方が先に櫻井に惚れて、思い焦がれてたのは俺の方なんだ」

「えっ?」

 ちょうとその時、番号が呼ばれ草壁先輩は注文した品を取りにいくため腰をさっと上げた。

 おい、そこで引き伸ばしのCMかとつい、好奇心が疼いていた。


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