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毛づくろう猫の道しるべ  作者: CoconaKid
第二章 迷い込んでしまった猫道
14/50

 夕飯を食べ終わった後、居間で私はブンジを可愛く撮ろうと、色んな角度からスマホを向けて写真を撮っていた。

 そこに父が菓子折りの箱を手にして入ってきた。

「会社の人がお土産にこれを持ってきたんだけど」

「えー、またマカデミアンナッツのチョコレート。それお父さんも良く買ってくるから飽きた」

「お母さんも、架も同じ事言ってた。これはアメリカ土産の定番だからな。ついこれになってしまうんだよ。学校に持っていってみんなで食べたらどうだ?」

「あっ、それはいいアイデアかも」

 希莉と話すきっかけにも繋がるし、これはちょっと役立つ小道具になるかもしれない。

 頭の中でチョコレートの使い道が定まると、私は箱を父から受け取った。

「学校は楽しいかい?」

「えっ?」

 不意に父に質問されて、私は驚いた。

「いい友達はできたのか?」

「うん、まあね」

「それならいいけど。あまり無茶をするんじゃないぞ。あの学校は中々いい所だから、変な人はいないだろうけど、高校って言うところは、それなりにステイタスやらを気にして見栄張ったり、羽目を外す時があるからな。まあ、千咲都は大丈夫だけどな」

 まさにそうなんですよ、お父さん。

 只今私は無理をして大変な事になってます。

 そんな事も言えるはずがなく、曖昧に返事しておいた。

 父はもしかして私から何かを感じたのだろうか。

 去っていく父の背中を見つめていると、軽いチョコレートの箱なのに、心苦しい思いが乗り移って手に重みが伝わってくるようだった。

 

 翌日、学校に一歩近づく度に、向かい風を強く感じるように体が強張り、憂鬱さが増していく。教室に入った時は、無理に突進んだ後の疲労感が最高潮に達していた。

 不安と恐れ。

 教室の中はいつもとかわらないはずなのに、自分で視界を狭くして窮屈だった。

 友達と問題をこじらせた時のクラスの中は、水の中のように抵抗を感じて体が動きにくい。

 希莉も柚実もまだ来てないが、この後教室に入ってきたら、何もなかったように「おはよう」と挨拶してみようか。

 希莉の機嫌が直ってなくても、私はいつも通りに振舞って少しずつ話す機会を増やせば、そのうち譲歩してくるかもしれない。

 ここは平常心で、前日の事はあまり持ち出さないように自然に接してみよう。

 希莉が教室に入ってくるのをドキドキしながら待っていたその時、普段挨拶するだけの間柄の相田さんが教室に入ってくるなり、私のところへ突進してきた。

「ちょっと遠山さん、あなた二年の草壁先輩と付き合ってるの?」

 目を丸くし、突っかかりそうに興奮した声で話してくる。

 私は椅子に腰掛けていたが、思わずのけぞった。

「えっ、付き合ってないけど……」

 否定した直後、相田さんのグループの人達も集まってきて、私は取り囲まれた。

 相田さんもまた積極的な人だが、少し夢見る女の子が入って、何かと妄想しながら話すタイプの人だった。

 気さくでフレンドリーでもあるから、何かあれば障りない話はするけど、話がいつも濃くなり、一人で自分の世界に入り込むから、長話はできない人だった。

「だけど、昨日見たわよ。一緒に帰ってるところ」

「えっ、あっ、あれは、ちょっとしたハプニングで」

「一体どうやって知り合ったの。一緒に帰れるなんて羨ましい。ねぇ、どんな話してたの。詳しく教えて」

 相田さんだけではなく、それに便乗して同じように草壁先輩に憧れてる女子達が興味津々で催促してきた。

 忘れたい事なのに、まさか根掘り葉掘り聞かれるなんて思いもよらなかった。

 自分の悩みを聞いてもらっていたと要点だけ伝えても、この人達はそれで済ませてくれないだろう。

 悩みを話せる仲だと誤解されても困る。

 あれは、自分がいたたまれなくてつい人に話してしまいたくなっただけで、思い出すとものすごく恥かしくて堪らないというのに。

「あのさ、ほんとに他愛ないことで、人に話せるほどではないの」

「やだ、もったいぶっちゃって。遠山さんって、シャイなんだから」

 なんだかややこしいことになってきた。

 その時、希莉と柚実が一緒に教室に入って来た。

 私の周りに人だかりができてるのを見て、あっさりと敬遠されてしまった。

 私が席から立ち上がろうとした時、相田さんが突然手を握ってきた。

「ちょっと握手させて。草壁先輩と一緒に並んで話した人なんて、すごく尊敬する。ねぇねぇ、今度一緒に帰る時は私も呼んで。お願い」

「えっ?」

 相田さんのパワーというのかノリというのか、これは引いてしまった。

 この人ちょっとどこかおかしいんじゃないだろうか。

 周りの人も、それに合わせるように「私も、私も」とお遊びのように連呼した。

 この人達はこの人達で、学校にアイドルを作って勝手に妄想してはキャーキャー騒ぐのが楽しいのだろう。

 だけど、ここまで崇められるとあまり悪い気はしなかった。

 一層のこと、この人達のグループに入って残りをすごそうかと揺れ動いてしまう。

 この人達と付き合ってるうちにチャイムが鳴り、担任が教室に来てしまった。

 そして希莉と柚実に挨拶する機会を完全に失ってしまった。

 これでは益々、気まずくなっては希莉に近づきにくかった。

 一時間目は二人と接触がないままに始まり、そして終わった時が私は非常に戸惑った。

 このまま無視する訳にも行かないので、自ら立ち上がり、とにかく柚実の席に行った。

「おはよう、柚実。あのさ……」

「もし希莉の事だったら、私は関係ないからね」

 まだ話しはじめたばかりだというのに、話も終わらないうちからつっぱねられ、相変わらず冷たい。

 柚実と喧嘩している訳でもないのに、いきなり釘をさされてしまった。

 普通なら、仲を取り持ったり、仲直りさせようとか思ってもよさそうなのに。

 私の考えが読めたのか、柚実は表情を硬くした。

「私も意地悪でやってるんじゃないの。どっちかの肩を持つのはフェアじゃないと思うだけ。希莉の前でも全く同じだからね」

 首尾一貫して、柚実は中立を保ちたいようだった。

 これが彼女のやり方だとしても、どこか私は引っかかるものがあって、とても寂しく感じてしまった。

 友達ってもっと感情移入して、色々と熱く思う友情があってもいいと思うのだけど、自分の味方になれとは言わないけど、ほんの少しの同情くらいは欲しいと正直思ってしまった。

 希莉の事もわからないが、柚実の事もわからなくなった。

 出会った頃は、とても楽しいと思っていたのに、歯車が狂って違う方向に行ってしまった。

 違和感を持ちつつ、柚実には笑顔をむけ、あたかも柚実が正しいと納得したフリをした。柚実は無表情で私をじっと見ていた。

 柚実が何を考えているのかわからなかった。でも一番わからないのは自分の事だった。

 柚実に頼れないので、私は勇気を出して希莉の席にとりあえず行ってみた。

「おはよう、希莉……」

 様子を探ってる、おどおどした声だったと思う。

「……おはよう」

 希莉から返事が返ってきた。

 一先ず安心した。

「あのさ、あの手紙返してきた。希莉は絶対受け取らないって強調して伝えておいた」

「それで?」

「えっ、あっ、その余計な事をして本当にごめんね」

「また謝るだけ?」

「だって、お節介にも程があったし、希莉が嫌な思いしたのは私のせいだから」

「そう、それはわかった」

 やはり冷たかった。

「まだ、怒ってる?」

「怒ってるというよりも失望してるかな」

「失望? どういうこと」

 希莉はじっと私の顔を見ていた。

「私も、頑固な所があって悪いとは思ってる。でもね、千咲都は暖簾に腕押しだから、根本的な事がわかってないのが嫌なの」

「だったら教えてよ」

「それが、嫌なのよ。それって受身でしょ。まさにいつもの千咲都の悪い癖だから。今回は特に自分でも納得できなくてさ。このまま千咲都が気づいてくれなかったら、ずっと私はわだかまりをもったままになってしまう。それが嫌なの」

 一体どんなわだかまりをもってしまうのだろう。

 普通謝ったら、それなりに軟化して心開いて許すものじゃないのだろうか。

 私はこれほどまで希莉の事を気遣って、希莉に嫌なことなどしてこなかったのに。

 その時、希莉は少し拗ねた表情になり、私も戸惑って硬く強張っていたと思う。

 それ以上話す事がなく、私は適当な理由をつけて希莉から離れた。

 自分の席に戻り、次の授業の教科書を準備しだした。

 希莉も柚実も一人で席についてポツンとしている。そして私もまた、一人ポツンと席についていた。

 元祖一人ポツンの近江君もいたので、ポツンポツンと孤島が増えたような奇妙な光景だった。


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