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悪意の矛先

 あの殺意が向けられてから二週間。あれからは何かが起きる事もなく学校生活が過ぎていった。


「あれから……何も無いね」

「何もないに越したことは無いわよ」

「そうですよ。お嬢様の身に何かあってはいけませんから」


 エリーの言葉にルクスリアが同調する。シエルは「そうだね」と頷いて廊下を歩く。学期初めから休みを取っていた訳だがセッカからの依頼として話がされていたのか、授業が終わるとシエル達の下にどんな依頼だったかを聞きに来る生徒たちが数多くいた。

 そんな状況も幸いしているのか、襲われるような事もなく平穏無事に過ごすことが出来ている。

 夕日が差し込む廊下を歩いていると、視界の先に一人の男子生徒の姿が見えた。シエルにはその男子生徒が誰だか理解できていなかったが、ルリはシエルが白魔法科に初めて訪れたときに突っかかってきた男子生徒だと気が付いた。

 だが、彼からは特に怪しい気配も感じなかったルリはシエルに気を使わせないようにさりげなくその男子生徒から距離を取るようにしてすれ違おうとしたその瞬間──


 世界から色が消え、時が止まる。


 誰もがそれに気づく事なく、時が止まったというそれに従うように固まっている。それは、シエル達でも例外ではなかったのだが……彼だけは違った。


「はは……あの声は、本当だったんだな……」


 乾いた笑いを上げながら、彼はシエルにゆっくりと近づいていく。そして、シエルの目の前にまでたどり着くと装飾の入った柄から意匠の凝らされた真っ黒なナイフを抜く。



「……全ては、盟約の為に」



 彼はそう言って、そのナイフをシエルの脇腹に突き刺した。魔法で戦闘を行ってきた彼にとっては初めての感覚だった。だが、彼には恐怖の感情などどこにもなく、ただ彼の口にした盟約の為に義務的にその刃を根元までシエルの身体に突き刺した。


「これで……これで、良いのですか……?」


 彼は突き立てたナイフをそのままに、フラフラとした足取りで去っていった。



 彼の姿が完全に見えなくなると、世界に色が戻ってくる。

 そして、ルリはシエルに突き立てられているそれに気づいた。


「お嬢、さま……?」


 震えた声と指でそれを指すと同時に、シエルの身体がグラりと傾き廊下に倒れる。


「シエルっ!?」


 傷口からは血が溢れだし、廊下を赤く染める。エリーはシエルに駆け寄って抱き起こすとシエルは苦痛に顔を歪めて、浅い呼吸を繰り返している。


「だい、じょうぶ……心配、しないで……?」

「今は喋っちゃダメ! すぐ治療するからっ!」


 エリー達はシエルを抱きかかえて医務室に走る。ベッドの上にシエルを寝かせてエリーはエリミアと二人で回復魔法をシエルに使うが、全くと言っていい程に効果が無い。


「なんで……どうして!?」

「何よこの毒……」


 エリミアの力をもってしてもシエルを蝕む毒を治すことが出来ない。シエルの容体はどんどんと悪化していき、今は意識もなく予断を許さない状態だ。

 エリミアの全力の回復魔法で辛うじて何とかしているという状況であり、彼女がどうにも出来ないのであれば、どうすることも出来ないだろう。


 学園に勤めている医師の力も借りてシエルの治療を続けているが、未だに良くなる気配は無い。ナイフを抜き、傷口に包帯を巻いた上で回復魔法を使ってようやく止血が出来ているという状態だ。

 エリーとエリミアはマナポーションを飲んで交代で回復魔法をかけ続けている。ルリとクオンはセッカを探しに行ったきりで戻ってきていない。

 夜も深まり、エリーは体力を回復させるために一度部屋に戻って休みに行き、エリミア一人でシエルの治療を行っている。そんな時──


「やっぱり、間に合わなかったか……」


 そこにはロキの姿があった。


「ロキ……! 何をしに来たの……」

「まだ、大丈夫だよね?」

「ええ、でも時間はあまり残されていないわ。何か……何か、打つ手があれば……!」

「安心して、僕はその為に来たんだ」


 ロキはそう言って服の中か小瓶を取り出す。


「これを飲ませて。そうしたら毒は何とかなるはずだから」


 エリミアは静かに頷くと、小瓶の蓋を開けてシエルにゆっくりとその薬を飲ませる。


「疑わないんだね。それが薬じゃないかもって」

「貴女がこのタイミングで持ってきたんだもの、ちゃんとした薬に決まってるわ」


 ロキの持ってきた薬を飲ませしばらくすると、シエルの呼吸が落ち着いてくる。それと同時に顔色もほんの少しだが良くなっていた。


「これで大丈夫なはずだよ。エリミアは解毒魔法を重点的にかけてあげて」

「分かった。ロキは、またどこかに行くの?」

「ああ、まだやる事があるからね」


「じゃあね」と言ってロキは扉を開けて去っていった。


「あれ……今、誰か来てた?」


 入れ違いになるようにエリーが部屋に入ってくる。


「ええ、ロキが来てました。彼女のくれた薬のおかげでシエルちゃんの容体もかなり安定したわ」

「そうなんだ……ロキには感謝しないとね」


 エリーはそう言ってシエルの隣に座ると、優しくシエルの頭を撫でる。エリーが回復魔法をかけていた時と比べると信じられないくらい穏やかな顔で寝息を立てて眠っていた。


「シエルをこんな目に合わせた奴を、絶対に許さない……ぶっ殺してやるんだから」


 穏やかな口調でこそあったが、明確な怒りのこもった言葉。表情こそ変わっていなかったものの剣の柄の上に置いてあった手は怒りで震え、微かに音を鳴らしていた。


「……ぁ、ぅ……?」


 小さくだがシエルの口が動き、そしてゆっくりとその瞳を開く。


「っ! シエル、目が覚めた……!?」


 エリーはその声を聴いてシエルの方を向くと、シエルはエリーを安心させるように優しく微笑んで、


「え……ちゃ、げほっ、げほっ……」

「まだ無理しちゃダメ。ほら水飲んで」


 エリーはシエルに吸い飲みを渡す。シエルはそれを受け取って、水を飲む。


「……ふぅ、ありがとう、えーちゃん。みーちゃんも私に魔法をかけてくれてたんだよね?」

「ええ、本当に無事でよかった……」


 エリミアはシエルの容体が問題なさそうな事を確認すると、大きくため息をついて安心する。シエルが起き上がってベッドから起き上がろうとするのでエリーがシエルを再び横にさせる。


「まだ寝てなさい。治りきったわけじゃないんだから」

「ぅ……わかった、ごめんね」

「謝らなくていいから。ゆっくり休んで」


 シエルは素直に言うことを聞いて、横になる。エリーはシエルを安心させるために横に座って眠るまで手を握り続けた。


「エリーもしっかり休みなさい。貴女が元気じゃないと、シエルもきっと不安になるから」

「分かったわ。しぃを、お願い」

「まかせなさい」


 エリミアはぐっとサムズアップしてエリーに伝えると、エリーは小さく笑って医務室から出ていく。しばらくした後、シルフィードとルクスリアが戻ってくる。


「戻ったわ。シエルの容体はどう?」

「ロキの持ってきてくれた薬のおかげで回復したわ。少し前に目覚めたけど、エリーちゃんに寝かせてもらったところだから」

「よかった……」


 エリミアの言葉にシルフィードは安堵のため息をつく。


「それで、シエルを刺した犯人は分かった?」


 エリミアは声色を落としてルクスリア達に問う。怒っているのはエリーだけではないのだ。感情を表に出していないだけで、シルフィード達も当然怒っている。


「いえ……あのナイフも証拠となりそうな痕跡はどこにもありませんでした……」

「ナイフに塗られていた毒だけど、星霊に聞いても分からなかったから少なくとも人の作れるような代物ではないはずよ」


 二人はエリミアと情報を共有する。人に作れない毒となると……


「竜か私達のような星霊クラスの作り出した毒……ということになりますね」


 だが、そんな存在がわざわざシエルを狙う理由が分からない。シルフィード達霊姫が常に守っているのは理解できるはずだ。そのような行為を行えば霊姫達が自分に牙を剥くことになると分かっているはず……


「向こうの出方が分からない分、一層シエルの警護に力を入れないといけないわね」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ──想定外ね。これで私の新しい身体が手に入ると思ったのに。


 夢の中で誰かがそう言った。暗闇の中で誰がそう言ったのかは分からないが、悔しさの滲んだ女性の声がシエルの耳に残る。


 ──まあいいわ。いずれこの娘は私の元へやって来る。その時に身体を貰う事にしましょう。



「っ!? ……夢、か」


 ベッドから飛び起きたシエルは荒くなった呼吸を整えてから、汗で湿った服を脱ぎ捨てて下着姿になる。

 そして近くに置いてある服を着る。多分、この服はルクスリアが持ってきてくれたものだろう。


「おはようございます。まだ万全の状態ではないでしょうから、無理はしないでくださいね」

「うん、分かってるよ。るーしゃ、とりあえず部屋に戻ろっか」


 ルクスリアは「はい」と返事をして、シエルと共に自室へと一緒に歩いていく。部屋に戻ると、既に起きていたエリーがシエルに気づいて駆け寄ってくる。


「しぃ、身体は大丈夫?」

「うん、今のところは平気。調子も悪くないよ」

「よかった……」


 エリーはほっと胸をなでおろす。


「セッカが昨日の夜にやってきたのだけど、しぃが回復したら聞きたいことがあるって言ってたわ。あとでルリ達に呼んでもらいましょうか」

「私達が行かなくてもいいのかな……?」

「しぃは襲われた被害者なんだからいいの。いつまた狙われるか分かんないんだから」

「わ、わかった……」


 エリーは納得したシエルの頭をぽんぽんと撫でる。


「じゃ、私は朝食を取りに行ってくるわね」


 エリーはそう言って朝食を取りに行った。シエルはベッドの上で小さくなって眠っているルリの横に座って頭を優しく撫でてエリーが戻ってくるのを待つ。


「ん……おじょう、さま……?」

「うん、そうだよ。おはよう」

「……お嬢様っ!?」


 寝ぼけ気味のルリがシエルに気づいたのか、ベッドから跳ねるようにして飛び起きる。


「も、もう大丈夫なんですか……?」

「うん。大丈夫だと思う。えーちゃんはもう少し休んでてって言ってたけどね」

「そうなんですね……」


 ルリはほっと息を吐いた後に、まじめな表情をして頭を下げる。


「……本当に申し訳ありませんでした。私は、お嬢様を守らないといけないのに」

「気にしないで。だって、えーちゃんやしるふぃでも駄目だったんだもの。ルリが気にしても仕方ないよ」


 シエルはそう言ってルリを安心させるように笑う。それでも、ルリは申し訳なさそうな表情をしていたが、シエルを心配させないためかふるふると首を振った後に、


「……分かりました。でも、次は絶対にこんな事にならないようにします……!!」

「うん、期待してるね」


 シエルはそう言ってルリの頭を優しく撫でた。

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