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ハードモードは地力をきちんとつけてから

 「おじさんが、私たちの武器を作ってくれるの?」


 シエルは、エリーから話を聞いてドワーフの男に嬉しそうに尋ねる。エリーもあんな事は言ったが、実際にするつもりは無かった。それを言ったら、呵呵と笑い。


「そうだろうと、思ってたさ。嬢ちゃんは、そんな役じゃねえもんな」


 見透かされたような、そんな気がしてエリーはあまり気に食わなかったが、言っておくに越したことは無かった。


「あ、あと俺はオジサンじゃなくてアトラな」


 アトラは苦笑いしながら、そう付け加える。エリーがアトラに何を言ったのかシエルは気になったが、本人が言うつもりが無いようで、しぶしぶと引き下がっていた。



「それじゃ、武器を作る……と、言いたいところだが、生憎材料が足りん」

「どうするのよ?材料というか、素材が足りなきゃ作れないでしょう?」


 エリーの一言に、シエルもそうだよね~? と同調する。

 アトラはだから、と続けて。


「嬢ちゃん達に、素材を採ってきて欲しいんだが、頼めるか?」


 アトラの頼みに、エリーがなんともいえないような表情を作る。素材にもよるが、物によっては危険な場所に行かなければいけない素材も存在する。


「どこで取ってきたらいいの?」


 食いついてしまったシエルにアトラは場所を教える。


「ダンジョン内だ。前は、十分に探索とかもできなかったんだろ?」


  確かにその通りだった。シエルの全力の魔法で通路をふっ飛ばし、周りの魔物もまとめて消し飛ばせば、実力の証明としては十分だろう。


「え…まあ、そうだけど」


 エリーは、そっぽを向いて答える。アトラは、ならちょうどいい、と言わんばかりに。


「それじゃあ、今回は俺からの正式な依頼、という事で受けてくれないか?そうすれば、ダンジョンにも入れて探索もできる。それで、素材を手に入れてきてくれればポイントも貰えて一石三鳥位じゃないか?」


 そう言われると、断るにも無下には断れない。

 そう、エリーが葛藤していると。


「いいよーっ」


 シエルが軽い感じで了承していた。勝手に、依頼を受けられて困っていると。


「いいじゃん。だって、実はえーちゃんも楽しみだったんじゃないの?探索するの」


 エリーはびくっと身体を震わせると「そ、そんなことないし!!」と言って、自らの銀の髪をいじる。

 すると、シエルはにやっと笑い。


「えーちゃんが動揺した後に髪をいじるのはその通りの時だよ~?」

「そ、そんな事ないし!?」


 輪にかけて動揺しているエリーに、シエルは追い撃ちをかけようとしたが、止めておいた。これ以上はエリーが泣いてしまうとでも、思ったのだろうか。


「とりあえず、場所聞こうよ? あと、ルリもこっち来ていいよ」


 シエルはルリをちょいちょいと手招きすると、ルリはとてとてと尻尾を振って近づいてくる。目鼻立ちが幼さを残す分、獣人族ワービースト特有の動物の特徴を残した尻尾や耳があどけなさにさらに拍車をかけている。


「え、っと……いいです、か?」


 尻尾をぱたぱたと左右に振るルリに、シエルはぽんぽんと膝を叩く。それは、勿論膝の上に座って欲しい。というサインだ。


「ふぇ……!?あ、あの……私……!?」


 完全に動揺しているルリをからかうように笑っているシエルを見ながら、アトラは呟く。


「あの娘、奴隷なんだろ?なのに、大丈夫なのか?」

「問題ないわよ。元々、しぃがいきなり買おうとか言って買った娘だったし。そもそも、しぃは奴隷として扱うつもりは無いみたいだし」


 そう聞いて驚いたのだろう。アトラの表情が明らかに変わっていた。それもそうだろう、奴隷を奴隷として扱わない事に驚いているだろう。


「だろうな、嬢ちゃんが奴隷を奴隷として扱うとは思えんしな」


 それについてはエリ-も頷いた。シエルは人を使う立場になるにしては優しすぎる。

 そんなやり取りを聞くことも無く、ルリの頭を撫でて楽しんでいた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 結局あの後、ダンジョンに潜る事が決まってしまい、行く事になったのだが。


「……なんか、ごつい人が守ってるんだけど?」


 エリーが苦笑いしながら、ダンジョンの門番的な役割をしている男たちを見ていると、こちらに気づいたのか威圧的な眼光がこちらに飛んでくる。

 だが、目の見えないシエルはお構いなしに男たちのほうへと向かう。


「何だ? ここのダンジョンに用か?」

「うん、おじさんから素材取ってきてって頼まれたから~」


 そう言って、アトラから受け取った依頼書を見せると。


「……確かに、入る事を許可する。中の魔物は強力なものが多い、十分に気をつけろ」


 案外、すんなりと通してくれた。エリーの後ろに隠れていたルリも早足についてきて、シエルの後ろに隠れ直す。

 一概にダンジョンといっても、見た目も中身も様々だ。通常の地下にできるものから、天空城やら海底殿と呼ばれるようなダンジョンまである。

 中の魔物も、環境に影響されるのか地下と海中のダンジョンでは出てくる魔物が全くといっていいほど違う。今回のダンジョンはRPGにもありそうな王道の塔の形をしたダンジョンだ。

 全てのダンジョンは自然にできるものだが、稀にこのような人工物のような形に近いダンジョンも生成される。このタイプのダンジョンは総じて魔物が強いため、入れるのは騎士やギルドの関係者などの一部に限られるのだ。

 中に入ると、シエル達はアトラからいったん借りてきた武器を、ルリは譲り受けた鋼刃拳を装備する。


 『ねえ、シエル?』


 大きな広間のような場所で準備をしていると、アクナが呼びかけてくる。


「ん?どうしたの?」

 『この二人は人類族ヒューマニアじゃないんでしょ?』


 聞いてきたのは、そんな事だった。シエルが頷くと、


 『なら、星霊回廊チャネリング出来るんじゃないの?見える才能があるなら、の話だけど』


 星霊回廊、名前だけはあの夢のときに聞いていた。

 効果は星霊と契約した者と関係を結ぶ事によって、星霊の姿を見る事ができるようになり、力を一部使う事が出来る、というものだ。

 だが、できるものは星霊を見る事ができる才能をもった者に限られてしまう。


 『私達全員と繋げれば相当戦力上がるはずだと思うけど?』

「そうだね、いいんじゃないかな~? お~い」


 シエルは二人を呼びだすと、


「んっ」


 エリーから順番に唇を合わせる。


「ちょっ、しぃ何する……あれ……?」


 いきなりの事にエリーが動揺したが、星霊回廊が正常に働き星霊の姿が見えるようになったのか語尾が弱くなる。

 今、星霊が見えているならシエルの周りには闇、水、地、火の四つの光が浮いているはずだ。


「えーちゃん、私の周りに飛んでるの、見える?」

「このふよふよしたやつ?」

「うん、そう……だよね?」


 聞いたはずが不安になって、アクナに訊ねる。


 『あってるわよ。普通の目じゃ私たちの姿を正確には捉えられないから』


 どうやら合っていたようで、やった♪ と弾んだ後は流れるようにルリの唇も奪った。


「~~~~っっっっっ!!?」


 こんな事が初めてなのか、それとも奴隷の自分がキスされて困惑しているのかは分からないが、耳まで真っ赤にして飛び退く。


「な、何……!?」

「あ、大丈夫?何か、宗教みたいなので禁止されてた?」

「あ、いや、じゃなく、って……!!」


 ならどういうことなのか、と不思議そうにしているシエルにエリーは耳打ちして教える。

 ああ、と相槌を打つと頭撫でて、


「だいじょぶだよ~これキスじゃないから~」


 そう言ってシエルに言った様に星霊のようなものが見えるかどうか聞いてみると、


「ふわふわ、したものなら、見えてます……よ……?」

「お~それなら、だいじょうぶ~」


 無事に繋げる事ができた、という事でシエルは星霊回廊の事をアクナから聞いたことを説明すると、いつものようにエリーは苦笑して、ルリは顔を紅潮させていた。

 それでは、とシエルは紙を見て素材を確認しようとしたら、


「……わかんないや」


 シエルの目には何も映っていなかった。

 紙の上にはきちんと書かれていたが、魔力のみを視覚化するシエルの目には映っていなかったようだ。エリーは紙をシエルから受け取ると、素材の名前を声で伝える。


「えっと……? 私のが天空鋼、天使の羽、朱幻玉…で、シエルのが風牙結晶、大炎珠、氷帝の冠、地核の欠片……難易度高すぎない?」


 そこに書かれているのは全て超がつくほどの一級品、それを得る事ができる魔物も必然的に強くなってしまう。

 幸いなのか、素材の備考欄に得る事ができる魔物は説明されていた。


「ここで、全部出るやつだったの?」

「アトラから聞いた話だとそうだけど……」

「それじゃ、問題ないね♪」


 シエルはエリーの心配など知る由も無く、階段を上っていく。二人も妹が勝手にどこかへ行ってあわて姉のようについていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「そぉれっ!!」


 シエルの魔法弾が壁に反射し、相手の分厚い甲殻を綺麗に避けて直撃する。活動を停止した、通路全体を塞げるほどの大きさを持った、蟹型の魔物からエリーは素材を回収しようとナイフを突き立てると、がつん、と硬質な音を立てて跳ね返した。


「こいつ……どうやって素材回収するのよ……」


 エリーが困り果てていると、ルリが寄ってきて、


「素材、回収、ですか……?」

「そうよ、硬くってどうやってこんなのから回収するのかしら?」


 そんな事を愚痴る。ルリはそれを聞いて、


「えっと……えぃっ」


 軽く爪を振り下ろすと、甲殻なんて存在しなかったかのように三枚卸しにされた。


「あれ……?魔物って、血液ってないんですか…?」


 三等分されても一滴の血も流さない魔物を見て、ルリは純粋に気になった。奴隷としてつかまる以前もダンジョンに入った事がルリには無かったからだ。


「ああ、ダンジョンで出現……っていうのか、生まれた魔物っていうのはダンジョンと繋がってるのよ。だから、血液もいらなければ栄養もいらない。だけど、ダンジョンが崩壊したら一緒にそのダンジョンで生まれた魔物も一緒に死ぬけどね」


 その説明を聞いて、感心してるとエリーはめぼしい素材をあらかた回収したようで、魔法で容量をあげたバッグの中に詰め込んでいた。


「地核の欠片回収完了……と、まだまだあるわね……」


 さて、とエリーが後ろを振り向くとそこにシエルとルリの姿は無く。


「え?」


 やってしまった。あのフリーダムな妹ポジションから目を離すとすぐにどこかへ言ってしまう事を完全に失念していた。

 そう、考えるよりも早くエリーの行きそうな方向へ走り出した。


「あの、えっと…だいじょうぶ、何ですか?」

「ん~?えーちゃん置いてきたの?」


 シエルは何事も無いように言っているが、仲間を置き去りにして先に進んでいるのだ。普通の人間なら、関係に綻びが生じかねない。

 だが、シエルは嬉しそうに笑って言う。


「私たちは仲良しだから、どんな事があっても一緒にいるんだよ♪」


 もちろんルリも、と付け加える。


「で、でも…ここのダンジョン、敵が強い、ですよ?」

「えーちゃんも強いから大丈夫。それに、私のお友達も力を貸してくれると思う」


 お友達、と言うのは星霊の事だろうかとルリは気になったが、主人の事をあまり詮索するのは良くないと考えたのか、その質問は心の中に留めておいた。

 スキップしながら上機嫌にダンジョンを上っていくシエルについていくと、開けた場所に到着する。

 そこには、魔物を取り込んだ魔物『アルカナキマイラ』が佇んでいた。今までのふわふわしていた感じから、一転して歴戦の魔法使いといったような雰囲気になったシエルはルリに訊ねる。


「あの魔物って多分、追加素材に書いてあった魔物だよね?」


 こくりと頷く。だが、書かれている内容には追加素材でさらに能力を上げることができるが、必要となる素材を落とす魔物は強いため、あくまでもできるならと、書かれていたのだ。


「大丈夫、ですか?」

「大丈夫だよ。私とルリ、それに後からえーちゃんもくるんだし、ね?」


 こちらにまだ気づいていない、相手に不意打ちの魔法を打ち込んだ。それは、完璧に直撃したはずなのに、


「効いてないっぽいよね…」


 何事もなかったかのように、そこに佇んでいた。もちろん、それで気付かれない訳もなく雄叫びを上げながら、こちらに猛スピードで向かってくる。

 向かってくるキマイラにルリは、カウンターで一撃を叩き込む。自らの速度が強力な武器となり、その巨体を吹き飛ばす。だが、それも効果的な一撃とはなっていないようで、返って警戒させる一撃となってしまった。


「魔法効かないのかな、あいつ」


 属性魔法を打ち込んでは見るがどれも効果的には見えない。そこで、属性を司る星霊に聞いてみることにした。


 『効くよ、でも部位によって効く属性が変わっているから気をつけて』


 ロウはそう言って、このキマイラに効く属性を伝えてくれる。

 どうやら、物理的な攻撃も部位によって通りやすさが変わるらしい。ルリには魔法で伝えておく。


「ルリ頼んだよ!」

「はい!」


 改めて、攻撃を開始する。その音がエリーに届くよう、出来るだけ派手に、激しく。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「あぁ、もう……次から次へと!!」


 一方、エリーは次々に沸いてくる蟻型の魔物の群れに足を止めていた。剣を一度振るえば、目の前の敵は紙の如く飛んでゆくが、どれだけ倒しても底が知れない。

 おそらく、この敵を呼び寄せている相手がいるのだろう。そいつを斃せば敵の発生は収まるはずだが、肝心の敵の位置がつかめない。


「まとめて、始末してやろうかしら…?」


 ガチガチと歯を鳴らして襲ってくる魔物をいなしながら考えていると、魔物の群れの奥から派手な爆発音が聞こえてきた。

 それが、誰のものか直感的にエリーは察して、この魔物達をまとめて斃すことにした。

 これだけの量だと魔力をかなり消費するが、今は大きな問題ではない。剣を鞘におさめ、それに自らの魔力を込める。

 魔法や魔力を込める技に大切なものは魔力だけではなく、それを具現化、そして事実に変えるほどの強いイメージだ。

 だから、イメージする。鋭く、その一撃はすべての物質を切り裂く音速の刃、それを見ることは誰にも敵わない。


騎士剣セイバー『閃風』!!」


 目視すら危うい速度での一閃。その斬戟は時間を切り取ったかのように、魔物たちの動きを一斉に止めた。

 次の瞬間、魔物たちは一様に真っ二つになっていた。奥の方に隠れていたらしい色の違う蟻も等しく切られていた。この魔物たちの死骸はダンジョンが吸収し、また作り直すのだろう。

 その死体の山を踏みつけ、エリーはシエルが居るであろう方向へと向かう。考えたくない想像が頭をよぎるがそんな事はない、と言い聞かせる。

 どんな事があっても、結局シエルは無事に帰って来て、悪戯っぽく笑いかけてくれる、そう信じているから。


「うわっ!?」


 シエルはキマイラの突然の加速を辛くも見切り躱す。ダメージを一定量与えたからなのか、その甲殻は色をより攻撃的なものに変え、速さも威力も一段階上がっている。

 それに加え、攻撃方法も増えていた。その激しくなった動きに二人は対応に追われる。


「ぅ、ぁっ…」

「ルリ!?」


 予備動作なしの突進にルリは壁際まで吹き飛ばされる。シエルはキマイラに向き直るが、その凶悪な叫び声がシエルの心を折ろうとする。

 足が竦み、うまく力が入らなくなる。動けと言い聞かせても動いてくれない。

 巨大な牙が目の前に迫っても、その体は一向に動こうとしない。


「い、いや……」


 魔法を打とうとしても、うまく発動してくれないばかりか、魔力だけを消費してしまう。

 少しでも逃げようと、後ずさりしながらルリとの距離をとる。ルリならば多少距離をとれば逃げられるだろう。そう考えての行動だったが、


「お嬢、さまっ…」


 ルリは立ち上がり、キマイラに向かって走り出す。先ほどの一撃はかなりの重みがあったはずだ。いくら獣人族といえどもただでは済むはずが無い。

 それでも、向かってくるルリにキマイラは鬱陶しげにその強靭な尻尾を振ってはじき返した。


「ルリっ!」

「に、げて……くだ、さい」

「いやに、決まってるでしょ!!」


 尻尾には氷属性の魔法が通るはずと、氷柱を作り出し打ち出したが。


「効いてない!?」


 攻撃を受けた素振りなど見せなかった。攻撃方法が変わるのと同時に効く部位も変わったのだろう。

 歯噛みしながら、こちらに向かってくるキマイラを睨みつける。



「しぃに、触るなぁっ!!!!」



 そんな声と同時の剣閃。偶然にも攻撃が通る部位だったのか、うなり声を上げて飛びのく。

 助けに来たエリーの背中には薄く羽が見えていた。それは、危ないと思ったときだけ使うと約束していた超加速の跡だった。


「ただじゃ、済まさない」


 指を鳴らすと、キマイラの両脇に二つの竜巻が発生して、挟み撃ちにする。唯一開けている正面からは、エリーの最速の一撃が迫ってきていた。


「騎士剣『鏡華霊月』!」


 音をも超える神速の一撃、それはキマイラの目を捉え、その目を抉り取る。

 目は変化の対象にはならないのか、劈く叫び声をあげてのた打ち回っている。エリーはそれを見逃さずに、追撃の一撃を加えようとした。


「もう一撃!」


 剣をすくい上げるように、胴をなぎ払おうとした時。


「ダメ!」


 シエルの声が聞こえた。だが、既に遅くその剣はキマイラの体に吸い込まれ──弾き返される。

 その大きすぎる隙を見逃さず、キマイラはエリーを食い殺そうと走り出す。全員が、もうダメなのかもしれない、そう考えたくなくても考えてしまった。

 刹那、声が聞こえる。


 『奈落の獄炎アビスブレイズ


 キマイラの体が黒い炎に包まれる。何故か、その炎は無効化される事は無くその身体を灼いていく。

 だが、その尋常ではない生命力はそれでも殺しきれる事は無く、怒りの雄たけびを上げている。それを遮るように、一陣の風が通り抜ける。


「黙ってな」


 その風は三人の横を通り過ぎると、キマイラに襲い掛かる。

 次の瞬間には、その風は収まり男の剣士が剣を鞘に納めていた。何が起こったのか理解できなかった三人と一体だったが、キマイラは本能的にその場から逃げ出そうとした。


「おせーよ」


 その首がずれ落ち、遅れてその生命活動を終わらせる。ずしん、と重たい音を響かせ倒れた姿を眺めた後、シエルたちの方へと歩いてきて、


「お前らバカなのか!?実力に合ってるかどうか位は判断できるだろ!!」


 と、まくし立てるように叱り付ける。


「ご、めんなさいっ……!!」


 びくりと身体を震わせ、後ずさるシエルにルリが庇うように前に出る。それが、シエルを威圧しているように感じたのをルリの様子から察して、


「ああ、すまん……別に、怖がらせるつもりはないんだ……ああっ、くそっ」

「ふふ、ごめんね。リュー君言葉が足りないから」


 男の横に現れたのは、銀色の長い髪と藍色の瞳をもった女性だった。どうやら、男の連れだったらしく、二人で言い合っている。


「んなことねーだろ?」

「足りないよ?言葉も足りなければ頭のねじも足りてないよ?」

「ちょっと待て、何で頭のねじまで足りてないんだよ!?」

「だって、私がお風呂入ったときに──」

「その話はやめろ!いや、やめて下さい」


 そんな会話を端で聞いていて、シエルはくすっと笑う。エリーもいつの間にか隣に来ていて、その会話を聞いていた。


「三人とも、大丈夫だった?」


 そう聞かれ、大丈夫とは言いがたいが、死んではいないためなんともいえない様なそんな表情を作ったが、助かった事には変わりなかった。

 女性は、三人に同時に回復魔法をかけて、その傷を癒してくれる。


「あ、ありがとう…ございます」

「いいのよ、それよりそろそろ行かなきゃだから、またどこかで会いましょうね」


 そう言って、行ってしまった。名前も聞けないまま。

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