砂漠で特訓?
シエル達が宿を出てしばらくサバラの町を歩いていると、前方から見覚えのある人物が気怠そうに歩いてくる。
「お、君たちは確か……シエルちゃん達だね?」
「は、はいっ。えっと貴女はつば──じゃなくて、カレンさんが連れて行ってくれた喫茶店の……」
「フェリアだよ。君たちは観光かい?」
「はい。今日ここを離れるので、馬車に乗るまではって思って」
「なるほどねぇ……じゃあ、楽しんできなよ。私は用事があるから案内できないからさ」
じゃあね、とフェリアは手を振って手入れのされていない髪を揺らして去っていった。
「フェリアさんはカレンさんが霊姫だって事、気づいているのかな……?」
「どうでしょうね……まあ、あの人は一目見て私たちの事に気づいていたから、勘づいてはいるかもしれないわね」
シエル達は話をしながら大通りへと出る。朝市が終わった後の大通りは商人たちの荷馬車と、時折通る冒険者
達以外の姿はほとんど見かけなくなってしまったが、それでもある程度の賑わいは見せていた。
「……それで、行きたいところとか、あるの?」
セラはシエルにそう聞く。セラが言うにはここが賑わう時間帯は基本夜か早朝の時間帯らしい。なので、朝市が終わってしまった今、この街の名物となる場所もそう無いらしい。
「うーん……特にそういうのは決めてなかったなぁ……」
「……それなら、星詠みの丘とか、どう? 街外れだけど、遠くないし。昼の馬車までには、間に合うと思う」
「じゃあ、そこにしよっか」
「わかった、じゃあ出発っ」
◇◆◇◆◇◆◇
シエル達はセラに案内されて星詠みの丘へ向かう。それは街外れにある小高い砂丘で、そこからはサバラの町と、アルドラ方面に向かう通称東の砂海、そしてセラ達がいた砂漠の図書館がある通称果ての砂海の全てを一望することができる。
その丘に着くと、果ての砂海の先にほんの僅かに青い水平線が見えた。
「あの海の向こうって何があるんでしょう……」
「ルリは行ってみたいの?」
「あ、えっと……は、はい……」
「じゃあ、見に行こうよ! 学校を卒業してからは自由でしょ? 色んな所を見て回ろうよ! ね、ルリ、えーちゃん!」
「い、いいんですか……!?」
「私は、しぃが行きたいのならついて行くわ。私は貴女の騎士なんだからね?」
シエルの言葉にエリーは小さく笑ってそう答える。ルリはシエルの方を見た。シエルは、それに答えるように微笑んだ。
「……それじゃあ、学園に戻ろっか!」
「そうね、今から戻ればある程度時間の余裕は出来るでしょうし」
シエル達は星詠みの丘に背を向けて、サバラの町へと歩き始めた。その時、シエルは背後からの魔力に気づき、それの正体を突き止めるために集中する。
「……っ!」
「どうしたの?」
エリーの不思議そうな声を出すのと同時にシエルは、簡単な魔力弾を背後に放つ。威力調整はしてあるから、仮に当たり所が悪かったとしてもちょっと吹き飛んで気絶するくらいだ。
シエル達の背後、十メートルほどの位置で突然魔力弾が音を立てて弾けた。明らかに不自然な消え方をしたそれを見て、エリー達も瞬時に構えをとる。
「そこにいるのは、誰?」
「いやー、ごめんごめん。気づかれないと思ったんだけどね。その眼を想像以上に使いこなせているね」
声が聞こえると同時に、夜色の髪が揺れルクスリア達にとっては、見覚えのある人物がそこに現れた。
「ロキ……!」
「久しぶりだね。この場にツバキ以外揃ってるのかな」
「……何の用ですか」
「何の用かと聞かれたら、そうだね……シエルちゃん」
「え? な、何ですか……?」
突然、シエルの名前を呼ばれ困惑しながらも返事をする。ロキは何かを確認するように一瞬ルクスリア達の方を見た後に、口を開いた。
「悪いんだけどさ、アルドラに戻るのは一旦延期してほしいんだよね。具体的にはそうだね……二十日位延期してもらえると僕としてはうれしいんだけど」
「……その理由は何?」
エリーはロキの頼みに対してそう問いかける。ロキはそれに対して飄々とした態度ではなく真面目な表情で、
「このままアルドラに帰ると間違いなくシエルちゃんに危険が降りかかってくる」
「……その根拠は?」
「……僕の予感、だよ。ルクスリア達はこれでわかるんじゃないかな?」
ロキはそう言う。エリーは訝しげな表情でルクスリア達の方を見ると、納得といった表情で思案していた。
「……お嬢様、ロキの悪い出来事に対する予感は必ずと言って良いほど当たっています。……これは、過去に共にしていたから私以外も分かっているはずです」
ルクスリアの言葉にシルフィードやエリミアは、こくりと頷いた。
「シルフィ達がそういうって事は、今戻ると本当に危険な目に遭うんだよね?」
「ええ、恐らくはそうだと思います」
「まあ、二十日間も何もせずに待っててとは言えないから、僕も用意してきたよ」
そう言ってロキは地図を取り出してエリー達に見せる。ほぼ茶色一色の地図の端の方にバツ印が付けられている場所がある。
「果ての砂海にある図書館──セラ達が居た場所から東に約二刻くらいかな、そこに君たちの為になるものを用意してあるから」
そう言ってロキはエリーの手に地図を渡した。
「……ありがとう。じゃあ、向かってみることにするね」
「ううん、こちらこそ僕の勝手なお願いを聞いてくれてありがとう」
シエルの言葉にロキは安堵の表情を浮かべて礼を言う。
「じゃあ、また会おうね」
ロキはそう言うと現れた時と同じように霧のように消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇
シエル達はサバラに戻ってロキの地図に示された場所に向かうための準備をする。ロキが言うにはそこまでたどり着けば食べ物の心配はいらないと言っていた。念の為道程で必要になりそうな食料よりも少し多めに買ってカバンに詰めておく。
そして、サバラを出発し目的地へと向かう。一度目に向かったときは大体一刻くらいの時間で図書館に着けたが、あの時はやたら硬い蟲に襲われたりしたせいで普通に行くよりも時間がかかってしまっている。
今回は前回のようなことはなかったが、昼間の砂漠を歩いていたので体力はあの時と同じくらい消費してしまっているかもしれない。
一先ず図書館まではたどり着いたので、次は東へと向かって歩き出す。シエル達の魔法で暑さや日差しを和らげながら、時折休憩をとりつつひたすらに東を目指した。
休憩を含めて三刻ほど歩いたあたりで視線の先に洞窟が見えた。地図と照らし合わせてみると砂漠ばかりで分かりにくいが恐らくあの洞窟が目的地だろう。
「たぶんここ……よね?」
「地図を見る感じそうだと思います。とりあえず向かってみましょう」
ルクスリア達がシエルを守るような隊列に並び変わってから洞窟を目指して歩く。
洞窟までたどり着いたシエル達は、慎重に洞窟の中に入る。洞窟の中には複数の人が生活をしていた様な跡が残っていた。
「ここは一体……?」
不思議そうにした後、シエル達は洞窟の奥へと歩を進めようとした次の瞬間──
「動くな。貴様たちは何者だ」
洞窟の中の四方八方から敵意と武器をシエル達に突き付けられる。全く気配も魔力も感じさせなかった潜伏に驚きながらも、エリー達はシエルを守るような陣形をとってその問いに答える。
「……私たちは、ある人から地図をもらってここに私たちの為になるものがあるって聞いて、ここに来ました」
シエルはそう言って自分の持っている地図を見せた。囲んでいた男たちの一人が近くに寄ってきてその地図を見ると、男はシエルに聞く。
「本当に、この地図は貰ったものなのだな?」
「は、はい……そう、ですけど」
シエルがそう答えると、奥の方からこの男たちの長らしき老人が現れてシエルの顔をじっと見つめる。
「ふむ……嘘はついておらんな。すまなかったね、お嬢さん方。ここに来るもので五体満足な者は大半が盗賊だったのでな」
「私たちが盗賊に見えるのかしら?」
エリーが不機嫌そうにそう言うと、老人はふぉっふぉっと愉快そうに笑う。エリーは納得がいかないといった表情で老人のことを見ていると、囲んでいた青年の一人が申し訳なさそうに、
「悪かったな。あの爺さんは捻くれてんだよ。ロキさんから地図を貰ったって事は俺たちはあんた達を鍛えればいいんだな」
「鍛える……?」
「ああ、僕から地図を受け取ってここに来た奴らを鍛えてやってくれってロキさんが言ってたんだよ」
青年はそう言ってふぅ、と息を吐く。
「えっと、貴方の名前はなんて言うんですか……?」
「俺か? 俺の名はレギスタだ。誰が誰を鍛えるのかはしらねーけど、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします」
シエル達はレギスタに自己紹介を軽くしてから、後ろについていき洞窟の奥へと向かう。壁面に張り付いている苔が僅かに光源として機能している程度で薄暗い道をしばらく歩いていると、突然視界の先に光が見えた。
眩しさにやられないように目を細めて先へと進むと、砂漠の洞窟の中とは思えない自然にあふれた明るい村の前に出た。
「ここ……洞窟の中、なのよね?」
「ああ、天井に穴があって光が差し込んでるんだ」
そう言ってレギスタが天井を指さすと確かに天井に穴が開いていて、そこから日光が差し込んでいた。その時、レギスタが何かに気づいたのかこちらを見て、
「そういやあんた達の寝床どういたらいいかな、ここは閉ざされた村だから宿屋とかないし……」
「空いている部屋とかないの?」
エリーがそう聞くと、レギスタは少し考えてから口を開く。
「あるにはあるが……かなりの期間使われていない空き家だから掃除しないと使えないだろうし……」
「それなら気にしなくていいですよ。掃除ならみんなでやればそう時間がかからないと思いますし」
シエルはでしょ? とエリー達に聞くと、こくりと頷く。
「悪いな、余計な仕事増やさせちまって」
「大丈夫ですよ」
シエルがそう言うと、レギスタは付いてきてくれと言って再び歩き出した。村の中は人の姿こそまばらだが、村の中は広く畑もあり中央に井戸が作られていて、ここが砂漠の洞窟の中とは到底思えないほどに美しい村だった。
「今日はあんた達の使う家に案内して終わりでいいだろう。明日からはあんた達の特訓だな」
レギスタが村の奥の方まで案内して着いたのが、村外れにある古びた家だった。
「数年前に町に出ていった奴の家でな、ここで寝泊まりしてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいんだよ。俺たちだってここを掃除してもらうんだしな。飯の時間になったらまた呼びに来るよ」
そう言ってレギスタはシエルに鍵を渡して戻っていった。
シエルは受け取った鍵をエリーに手渡して、その鍵で家の鍵を開けて中へと入っていった。




