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砂塵の魔女‐2

 翌日、シエルとルリはぐっすりと眠れたのか、互いに笑顔を交わして部屋の扉を開けて外に出る。

 丁度同じタイミングで、隣の部屋から出てきたのは眠そうな顔の二人だった。


「二人とも大丈夫なの……?」

「ん、大丈夫よ。流石に今日は大切な事があるのだから、それに支障が出るようなへまはしないわ」


 エリーは、小瓶を持ったクオンを一瞬見た後。


「それを飲むかどうかは貴女の自由だから、飲むなら飲んだ後に降りてきてね」

「うむ……了解なのじゃ」


 エリーはそうクオンに言ったあと一足先に下に降りていってしまった。


「くーちゃん大丈夫……?」

「うむ、問題は無い……のじゃが……どうにも身体にうまく力が入らなくてのう、これを飲めば多少はマシになると思うから、お主らも先に行っていて欲しいのじゃ」


 クオンにそう言われた以上、無理に連れていくわけにもいかない二人は、また後でね、と言って下に降りていった。


「……気は進まぬが、背に腹は何とやら、か」


 一人になったクオンは諦めたような表情で、小瓶の中の赤い薬を一気に流し込む。

 ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ後に、余程のものだったのか、ゲホゲホと咳き込んでいた。そして、身体の奥からじわじわと何かが湧き上がってくるような、そんな感覚を得た。


「はあ……さて、行くとするかのう」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 少し時を遡り、昨日の夜。

 クオンがエリーに連れ去られ、エリーの宿泊している部屋に入ると、そこにはクオンの見た事のない夜色の髪と、クローバーと星のマークが妙に目を引く中性的な見た目の人物が椅子に腰掛けていた。


「連れてきたわよ」

「だ、誰なのじゃ奴は?」


 警戒するクオンに詫びるようにその人物は口を開く。


「あぁ、驚かせてしまったなら申し訳ない。僕は前にこの娘、エリーちゃんとあった事のあるただの詩人さ、少しだけ昔話をよく知っている……ね」


 よっ、と椅子から立ち上がると商売道具のギターをどこからともなく取り出した。

 それは、相手がマジックバッグを持っているという事であり、そこからいつ武器が出てきてもいい様に最低限身構えておく必要があるという事を暗喩していた。


「別にそこまで身構える必要は無いんだけどね」


 苦笑しながら、ぽろん、とギターを弾いたあとからかうような声で。


「あと、別に今日の用事は物語の語り部っていう訳じゃないのさ。君達はここの土地の伝説はもう知っているんだよね?」

「伝説……? リュステの魔法使いの事かしら?」


 思い当たる節など一つしかない為、その名前を出すと詩人はそれだね、と頷く。


「君達が何の目的で来たのかは知らないけど、あの伝説は本物だよ。魔法の水晶……一部の人間達からは『泉水晶』なんて呼ばれてるけどね」

「ふぅん、それでそれを私達に教えてどうするつもり? たまたま私にあってその事を話しました、だったら割に合わなさすぎるし、色々な意味であなたを信用出来ないのだけれど」


 エリーの警戒しきったその声に、詩人は少し困った表情を見せながらどうしたらいいかと悩み、ごそごそと鞄の中を探る。


「んー……君達が信用出来ないっていうのはすごく分かるよ。だから、交換条件をしよう」

「交換条件……?」

「ああ、僕は君達の欲しがっている情報を与える。君達は諸事情で僕では出来ない事をやってもらう。それでどうかな」

「それ、本気で言ってるの?」


 エリーは呆れた視線を詩人に向ける。それもその筈、彼女たちの欲しがっている情報、それは土の霊姫の居場所だ。そもそも一般人には星霊の姿は見えない。ましてやその属性を統べる霊姫の居場所など分かるはずもない。


「本気さ。僕は何でも知ってるからね」


 詩人のその言葉からは純粋な自信が感じ取れた。それだけ言うのであれば、とエリーも交換条件を飲む事にした。


「それだけ言うのなら教えて欲しいわね、私達の求めている情報──土の霊姫の居場所を」


 エリーのその言葉を、まるで待っていたかのように詩人は頷く。


「ああ、教えてあげるよ。僕の用事もそこにある事だしね」

「……? どういう事?」

「彼女はこの街から西に進んだ砂漠にある古代図書館にその身を置いているんだ。僕はその中にあるとある本が必要なのさ」

「本当に、そこに土の霊姫はいるんでしょうね?」


 語彙を強めて問いただすエリーを、軽く受け流すように詩人は答える。


「それは行けば真実か嘘がわかるはずさ。まあ、嘘なんて付いていないのだけどね」

「……なるほどね、いいわ。交換条件、成立ね。で!取ってきて欲しい本って何よ」


 飄々とした態度とはいえ、今まで嘘らしい嘘を付いていない詩人を今回は信用してそのまま話を進めた。


「交換条件でお願いする本は目立つ本だからね、すぐに見つかると思うよ。題名は七人の霊姫さ」

「七人の霊姫……?」


 本の題名を聞いて、彼女は少しだけ違和感を覚えた。聞いた話だと霊姫は各属性に一人ずつの合計六人の筈だ。それが、この世界の霊姫の話なのであれば、七人目、という存在しないはずのものがいる、という事になる。無論、ただのおとぎ話というオチが無いわけでは無いが。


「そんなに深く考える事はないよ。兎に角、君達は僕にその本を届けてくれたらいい」

「ええ、了解したわ」


 エリーはそれを了承すると、詩人もホッとしたような表情をする。


「君が受けてくれて良かったよ。それじゃあ、今日はこの辺で……と、言いたい所だけど、最後に一つだけ。吸血姫さん、いいかい?」


 詩人はクオンに呼び掛ける。


「何じゃ? 妾はお主と会うのは初めてじゃが、何か言いたいことでもあるのか?」

「そういうわけじゃないさ。お近づきの印にこれをってね」


 そう言って取り出したのは小瓶に入った青い薬だった。


「これは君の魔力の潜在能力を使えるようにする薬、君がさらに力を望むなら飲めばいい。ただ、当然代償も付く」

「代償じゃと?」


 小瓶を左右に振って楽しそうな詩人は言葉を続ける。


「ああ、君は吸血姫だろう? この薬の代償は君達の存在に働きかけて、代償で種族としての能力を奪うのさ」

「は……?」


 その意味が理解出来なかったクオンは素っ頓狂な声をあげる。


「あー……まあ、理解しにくいと思うから、恐らくだけど君がこれを飲んだ時の副作用も言っておこうか。君達吸血姫の能力は『夜』という概念に対しての身体強化だと思う。だから、その辺かもしくは吸血衝動……その辺が奪われるんだろうと思うよ、僕はね」

「詰まるところは、その種族の特徴を代償に力を与えるのじゃな?」

「まあ、その通りだね。その薬を飲むかどうかは君の自由だ。ついでにもう一つ薬をあげるよ。こっちは体内の魔力の巡りを良くするものだ。副作用もないから安心して飲んでいいよ」


 そう言って、今度は小瓶に入った血のような真紅の色の薬を渡した。


「……妾としては初対面の人間を信じるのはどうかとは思うが、主様が見知っているのなら……」

「私も一回しか会ってないわよ?」


 エリーの間髪を入れない一言に、クオンは本当に信用していいのか一瞬不安になったがエリーは信用していない人物にはとことん冷たく当たる性格な事を知っているため、素直に受け取っておくことにした。


「さて……僕も別の仕事があるからね。君たちが僕の求めているものを手に入れた頃にまた顔を出すよ」


 そういうと、ギターをまたマジックバッグにしまい込んで、扉から外へと出て行った。


「前にあった時もそうだったけれど、本当に掴み所がないわね……」

「確かに、何を考えているのかよくわからない相手ではあったのう……」

「ただ、悪意のあるような相手では無いのよね……だからこそ、余計に分からないのだけれど」


 エリーが苦笑しながらそう呟く。確かに、クオンも他人の悪意は何となくではあるが、感じ取ることができるのだが、あの詩人からは欠片ほどにも感じられなかった。それどころか、自分たちにはそうすべきであると言われているかのような義務感の影を感じる場面すらあった。


「まあ、奴が何を考えているにせよ。妾たちにはメリットがあるのじゃからありがたく享受しておくのがいいのじゃろう」

「それもそうね。……さて、クオン?」


 会話を区切り、二人きりとなった部屋でエリーは笑顔でクオンの名前を呼ぶ。


「な、なんじゃ、主様?」

「貴女、勝手に別行動したこと、ただで済むと思っていたのかしら?」


 冷や汗を滝のようにかいているクオンに対して、すわった目でにっこりと笑顔を保つエリー。それは死刑宣告にも等しいものだった。


「罰として……って言いたい所だけど夜明けも近いし、今日は寝ましょう。明日はやる事が間違いなく増えるだろうしね」

「そう、じゃな。それがいいのじゃ」

「別にお仕置きがないわけじゃないからね?」


 その一言に、クオンはうぐ……っと言葉を詰まらせる。それを見たエリーはマイペースにベッドにダイブし、しばらくするとすぐに寝息を立てて眠ってしまっていた。


「まったく……主様は自由じゃな……」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 そんな経緯を経て、現在に至る。まだ眠気の残るクオンが欠伸をしながら階段を降りようとしてると、シエルがふりふりと階段から降りてくるクオンに手を振って場所を教える。


「主様たち待たせたの」

「別にそんなに待ってないよー気にしないでっ。それに約束の時間まではまだ時間があるしねー」


 クオンが一足遅れて席に着くと、タイミングを計ったように料理が運ばれてくる。ぺこりとシエルが会釈して、料理が机に並ぶと各々のタイミングで食べ始めた。


「んー……♪ こういう所の料理は味付けとかが違って新鮮だねー」

「そうですねー乾燥した地方では刺激のある調理法が多いのかな……?」


 シエルとルリは食事をしながらそんなことを話していた。エリーはというと、食事をしながらも周囲を警戒し、敵意のある者が近くにいないか探っていた。


「んむ……そんなに気を張ってたら疲れちゃうよ?」

「ふふ、大丈夫よしぃ。こういうの慣れてるしね」

「無理しないでね……?」


 シエルの不安そうな声に、エリーは分かってるわとほほ笑んで返す。

 幸いにも、エリーが危惧していたような事は起きず、談笑をしながら皿の上に盛られていた料理を残さず食べられる程度には穏やかな朝食になった。


「ん、それじゃあ時間も余裕があるうちに出ましょうか」


 エリーのそれに三人も同意して席を立ち、料金を払った後に外に出る。


 集合場所は、サバラの町の中心部にある大噴水。そこで昨日約束をした人物と落ち合う。とは言ったものの、集合時間まではまだある。付近で色々と街中を探索しても問題ないだろう。


「んー……まだ時間もあるし、ちょっと町の中を歩こっか」

「……! はいっ!」

「私たちも適当に歩きましょう、貴女もそれがお望みでしょう?」

「うむ!」


 ルリとクオンは嬉しそうに返事をすると、各々の背中に付いていった。


「……シルフィード、エリミア、貴女達も気づいていますよね?」

「ん? ああ……この町の周辺からずっと見張られてるような感じがしてるあれ?」

「余りにも大きい範囲だし、魔力の質も人間のそれじゃないから何かとは思っていたけど……」


 四人が街中を探索しに行った後、霊姫達は同じ場所に留まって話をしていた。


「あれは私が思うに、セラが使用している大規模魔法だと思っています」

「ん? つまりセラはこの町にいるって事?」

「いえ、そうとは言い切れないですが、少なくとも近くにいることは間違いないとは思います」


 ルクスリアが街に入ってから感じていた違和感を、このタイミングで話した。シエル達が気付いているかどうかは定かではないが、町の周囲数百メートル辺りから、巨大な魔力の結界に覆われているような感覚があった。もちろん、それが即シエル達に危害を与えるようなものであったなら、即座に報告を入れていたが、少なくともこの巨大結界が結界内に存在している者に害を与えるようなものではない為、報告は入れずにルクスリアが独自で調べていたのだが……


「それともう一つ、昨日であった東方の衣装をしていた彼女を覚えていますよね?」

「あー……どこかで見覚えあると思ったら東方の装束かー……」


 シルフィードがルクスリアに言われて、引っかかっていた問題が解決したような表情を見せる。

 昨日、彼女と初めて出会った時の服装は、東の地方の一部地域でみられる『着物』というタイプの服だった。


「貴女は話を自然にそらしに行くのを止めてもらえませんか……? 話を戻して、あの着物を着た女性ですが、恐らくなんですけれど──私たちが見えていました」


 その一言に二人は、ごくりと息をのんだ。


「本気で言ってる?」

「ええ、本気ですよ。あの女性と一瞬だけ視線が合いました。気のせいかとも思いましたが、はっきりこちらを見ていたように思えましたし」

「注意しないといけない事が一つ増えたってことでいいのよね、ということは」


 エリミアの言葉に頷いて、噴水広場でふよふよと霊体のまま浮いていた彼女たちは、新たな問題が浮き上がったことにより、彼女たちの苦労は絶えることはないのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 街中を散策して、時間を潰した四人は、ちょうどいい頃合いの時間帯に再び噴水広場に戻ってくると、そこには昨日見た服装の女性が噴水近くのベンチに座って待っていた。


「あ! おーいっ!」

「あ、皆さん来てくれたんですね!」


 手を振るシエルを見て、着物の少女はぱあっと明るい笑顔を咲かせながらこちらに歩み寄ってきた。


「もちろんっ、助けてもらったお礼も言えていなかったし……」

「あはは……お礼なんて良いですよ。ああいうのは徹底的に懲らしめてやる必要がありますから、それに人助けは出来るならしようっていうのが私のポリシーですから」


 嬉しそうに着物の少女はそう言って、


「ここで話しても構わないですけれど……落ち着けるところに行きませんか? 静かな場所であればゆっくりと話もできると思いますし」

「うん、私は構わないよ。えーちゃん達もいいよね?」


 エリー達も、シエルの言葉に首肯して別の場所に移動することにした。


「それじゃあ行きましょうっ、穴場の静かな喫茶店があるんですよっ」


 砂漠の町に吸血姫と獣人族(ワーウルフ)、妖精と魔眼の少女たちはこの地の伝説を紐解き、西の砂漠に向かうのだろう。

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