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謎の男との邂逅と、真夜中の校舎での出来事

 服の見た目を改め、再び大通りに戻るとなにやら普段とは違う喧騒に包まれていた。例えるならば何か事件でも起きたかのような雰囲気だった。


「何かあったのかな……?」


 少し不安になったシエルがエリーの服の袖を引っ張りながら聞いてくる。安心させるように頭を撫で、


「大丈夫、その辺のごろつき位ならルリ達でも何とかできるわ。それに、もしも危険な奴なら私と霊姫達が全力でしぃを守るから、ね?」


 そう言って、シエルを自らの背中の後ろに誘導する。ただ、不思議なのは不自然な喧騒に包まれているのに、行き交う人々は何一つとして気にしていないということだ。騒ぎの声の中心は、この大通りを真っ直ぐ進んだところにある中央広場あたりだと思うのだが、そちら側から来る人々はやはり何も聞こえず、見えていないかのようにそれに無関心だ。それがあまりにも不自然で、不気味に思えたエリーは思わず声をかける。


「あ、あの……」

「どうかなされましたか?」


 それなりに身なりのいい女性が、エリーの呼びかけに答え足を止める。


「向こうで……中央広場で何か行われているんですか?」


 それを聞いた途端、女性の表情がすっと冷め、突き放すような口調で一言だけ言った。


「それは貴女が気にすることではありませんよ。あと、もしも中央広場を通ることになってもあなた達は『あれ』について口出しをしてはいけませんよ」


 それでは御機嫌よう。と女性は逆方向へと人の波に馴染みながら歩いていった。置いてきぼりのような状況になったシエルたちは顔を見合わせてから、


「……行ってみる?」


 シエルは不安半分、期待半分、といった風に聞いてくる。エリーとしてはあまり厄介事には関わりたくは無いのだが、シエルの頼みを無下にしたくもない。


「私はどっちでもいいけど……しぃ、ただでさえ厄介事に巻き込まれやすいんだから、気をつけてよ?」

「わかってるよー」


 半分呆れ気味にシエルが答えるが、実際厄介事に巻き込まれる確率が不思議と高いのは事実だ。だからこそ、エリーは一抹の不安を感じざるを得なかった。

 ルリ達は特に意見を言うわけでもなく、二人に従うといった意思を示していて否定派のいない状況の今、シエルの興味によってエリー達も中央広場へと赴くことになった。


「何があるのかな……?」

「……少なくとも、良い予感はしないわね。広場の方からは私の感覚で、なんだけどいやな予感しかしないわ」

「そう、ですね……私も何だかぴりぴりするっていうか、張り詰めてるっていうか、そんな感じの雰囲気がします……」

「うむ、嫌な気配が非常に濃いのう……正直に話すならば、妾はあまり行きたくないのじゃが……まあ、引き止める大きな理由もないし、妾の主や犬っ娘、それにあの霊姫とやらもいるのじゃし、街中で起こる程度の事ならば苦労もしないじゃろうて」


 クオンの至極全うなその言葉を聴いて、エリー達も半分諦め気味ではあるが、中央広場へと向かっていく。普段ならば人通りがもっとも多い場所の一つの筈なのに、まるで新月の夜の丑三つ時かと思えるほどに人の気配が全くといっていいほどしなかった。

 そして、広場の方から聞こえてくるのは二つの声、一つは謎の呻き声、男女どちらのものかはまだ判別しにくいが声の低さから考えると恐らくは男性のものだと思える。もう一つは女性が何かを叫んでいるようだったが、それが何かまでは聞き取れなかった。

 シエルが焦燥感に駆られてか、急ぎ足で広場のほうへと向かう。すると、やはり広場のほうで何かが起こっているらしく、声がどんどんと大きく、はっきりと聞こえるようになってきていた。


「……て……れ! やめてくれ! 頼む!」


 女性の張り詰めた、悲痛な叫び声が聞こえる。それに呼応するように鈍い音と、男の呻き声が聞こえる。


「誰か……助けてくれ……」


 中央広場の石畳に項垂れている女性にシエルは走り寄って、彼女に何が起こっているのかを聞く。


「何があったの?」

「私の、大切な人が、あいつに……」


 震えた指先で女性が伸ばした指先の先には、謎の仮面をつけた少年と思しき存在と、同じくずいぶんと厳しい仮面をつけ、棍棒を持った男、そして棍棒を持った男の前で這い蹲っているもう一人の男の姿があった。その異様な雰囲気は、確かに人を集めるのではなく、寄せ付けない類のものだった。


「なんだい? 君達」


 仮面をつけた少年はシエル達の存在に気づいたのか、不機嫌そうに話しかけてくる。まだ声も変わっていないであろうその幼い声の中に、得体の知れない恐怖感を感じながら、シエルはそれに飲まれない為に口を開く。


「あなた達が、ここで何かをしてるって、聞いたから来たの。そうしたら、こんな事になっていたの」

「ふぅん……で、君達はここに這い蹲ってる奴でも助けたいのかい? 見たところ向こうの学園の生徒に思えるけど」


 その言葉に、シエル達の思考が一瞬硬直する。彼女達はまだ魔法を解いていない。要は見た目だけならば、普通の少女と大差ないはずなのだ。それなのに、仮面の少年は見た目を変えている筈の服を見破ってきた。姿や、服などの外見を別のものとして認識させる魔法を見破る方法は二つある。

 一つは、純粋に魔法を解くこと。そしてもう一つは、術をかけたものよりも魔力が高く『そもそも別のものとして認識すらしていない』つまりは、そもそもその対象を欺くことが出来ないか、その二択なのだ。

 仮面の少年は後者、つまりシエルよりも魔力が高いということになる。魔法使いの魔力というのは、直結してステータスになりえる。魔力が高ければ高いほど、長く魔法を使いながら戦うことも出来れば、瞬間的に強力な魔法を使い敵を殲滅することも出来る。故に、軍に入っている魔法使いなどは特例が無い限りは魔力の高いものが多い。


「助けたら……いけないの?」


 シエルは間違いなく格上である相手に、気丈に振舞う。弱みを一瞬でも握られてしまえば、そのまま飲まれてしまうと確信しているからだ。覚えたくは無かったが、小さい頃からの彼女なりの防衛策だった。


「……ふふっ、面白いことを言うね。どう考えても、今の状況から見たら僕は悪役だろう? なのに、なぜ君はそんな事を聞くんだい? ……もしかして、僕に怯えてでもいるのかい?」


 仮面の少年はシエルを試すように問いかける。


「怯えて、なんて……いませんっ」


 シエルの瞳に見える仮面の少年は、あまりにも膨大な魔力を持っているためなのか、彼の体の全体像があまりにもくっきりと見えていた。それこそ顔の輪郭、少年の楽しそうに歪んだ口元、そしてこちらに見せないように何かを持っている左手、と。

 シエルの瞳は、物質や、人の持つ魔力が高ければ高いほどはっきりとその眼に映すことが出来る。だからこそ、ただの本や石などは見えないし、逆に人がどこにいるか位はわかるのだ。


「……そうかい?まあ、いいや。君達と何かするつもりは無いしね。あ、それともう一つ────」


 仮面の少年が何かを言おうとした瞬間、シエルの後ろにいたエリーの首元に何者かにナイフが突きつけられ、三人と距離を離される。虚を付かれたシエル達と、まるで演劇でも見ているかのように、次に何か起こるのかを待っている仮面の少年。


「お前ら、そこを動くなよ?」


 エリーの後ろから聞こえた声は、近くにいた女性のものだった。どういう事なのか、と思考していると心を読んだかのように少年は言いかけていた言葉を続ける。


「────君達の助けようとしてた人たちは詐欺師だよって言おうとしたんだけどね。もう遅いか」


 少年は肩をすくめて、その状況を静観し続ける。


「……そう、あなた達詐欺師だったのね」

「そうだな、だから馬鹿なあんた達を利用してどうにかこの場を切り抜けようと思ったんだけどね。まあ、期待はしてなかったさ」


 詐欺師の女はそう吐き捨てる。それを聞いたエリーはため息を一つつき、まるで駄々をこねる子供に理解させるかのようにゆっくりと、こう言った。


「相手の力量もわからない人間が詐欺なんかやってるとかお笑いよ?」


 瞬間、相手に足払いをかけバランスを崩す。そのまま流れるように護身用に懐に忍ばせていた短刀を抜き放つと、そのまま馬乗りになって逆に女の喉元に短刀を突きつける。


「貴女、悪運は強いみたいね。私じゃなくてしぃを狙ってたら、私は貴女に対して容赦できなかったかもしれないから」


 そういうエリーの表情に一切の笑みは無く、ただただ無感情に女の事を見下していた。

 少年は、まるで演劇の山場を見た後の子供のようにぱちぱちと拍手をしながらその状況を見て楽しんでいた。


「いやあ、すごいすごい……なんていうのは失礼だね。君達ならそれくらい造作も無いだろうさ、そうだろう?エリー・フレイナイト、そしてシエル・アークルーンさん」

「ど、どうして私達の名前を……!?」

「どうしてって言われてもね、今年のあの学園の一年生は個性的な人が沢山いるからね。調べたら君達の名前も乗っていたし、ついでに覚えておこうってね」


 肩をすくめながら少年はそう言って噴水の縁の部分から腰を上げて、ぴょんと立ち上がる。


「さて……とりあえず、そこの詐欺師さんをこちらに渡してもらって良いかな?」

「……こいつらは私達が騎士隊の詰め所に連れて行くわ。貴方達は信用できない」


 エリーは睡眠魔法を詠唱し、女を眠らせる。魔法へ抵抗するにはある程度の魔法知識が無ければ出来ないが、詐欺師にまで身を落としているような人間が抵抗知識など持っている訳も無く、ばたばたと苦し紛れにもがいていた手足も数秒と経たないうちにぱたりと地面に落ち、規則正しい寝息が聞こえるだけとなった。


「信用できない、か……そうだね、その通りだ。むしろそれが当然なんだよ。君は人を信じすぎなんだよシエルさん、もう少し人を疑ってかかるべきだ。いつか後悔しないようにね。今日のところはここの詐欺師二人は君達に処遇を預けるよ。男のほうは完全に伸びてるからしばらくは起きないはずだよ、不安なら魔法をかけておくといい」


 じゃあ、また会うことがあるのならどこかで、と言い残して少年と大男は学園とは反対方向に歩いていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 その後は、例の詐欺師二人をシルフィードとルクスリアに担いでもらいながら、騎士の詰め所に向かい二人を騎士に引き渡してきた。その際、色々と事情を聞かれたが、あの少年の事も結局わからず仕舞いだった為に、二人があまり質問に答えることも出来なかった。

 手続きが終わったのは夜遅く、もう半刻としないうちに日付が変わるくらいの時刻だった。学園の生徒ということもあってか、詰め所の騎士が一人学園まで付き添ってくれた。消灯時刻までに帰れなかった理由を付き添い騎士と共に説明すると、想像以上にスムーズに寮の部屋に戻ってくることが出来た。

 深夜の寮内は、生徒が授業に出ているために静かな平日の昼の寮とはまるで意味の違う少しの不気味さを孕んだ静けさを放っていた。


「夜のここの廊下って広いし暗いし……何か出てきそうだよね、お化けとか」

「そ、そんなこと言わないでくださいよ!? 変に意識しちゃうじゃないですか!?」


 ルリがびくっと垂れた犬耳がぴんと一瞬だけでも立ってしまうほど驚きながら、面白半分で言ったシエルの言葉に文句を言うと、シエルはここまで本気でルリが怖がると思ってなかったため、ほんの少しの驚きを込めて、


「あはは……ごめんごめん、でもルリがそんなに怖がるなんて思ってなかったからさ?」


 そう言った時、ずるずると、何かが廊下の先から這いずってくるような音が聞こえた。ルリがびくん、と再び犬耳を立たせてシエルに抱きついてくる。エリーや霊姫達もまだ臨戦態勢ではないとはいえ、廊下の先から現れる何かに対してかなり警戒している。


「……シエル?」


 暗闇の向こう側から聞こえてきたのは、しばらくと聞いていなかったが聞き覚えのある声だった。


「その声……シオンなの?」


 シエルが暗闇の向こうに問いかけると、触手の様な蔦をまるで足のようにうねうねと動かしてこちらに向かってくる謎の生き物の上にシオンはちょこんと座っていた。今年十六になるシエルは同い年の少女の身長と比べるとやや低めではあったが、それでも決して小さいと言われるような身長ではなかった。そんなシエルの身長の倍はありそうな巨体の謎の植物が四人の目の前で止まるとシオンがぴょんと宙に身を投げ出す。すると、謎の植物は足として使っていた触手をクッションにしてシオンを受け止め、何事も無いかのようにシオンはシエルの目の前に立った。


「……こんな夜中に何してるの?」

「それはこっちも言いたいんだけどね……私たちはちょっと厄介事に巻き込まれて、色々話を聞かれてたからこんな時間になっちゃったんだけど……シオンは何でこんな時間にその……えっと、なんていうんだろ、そのよく分からないのに乗ってたの……?」


 シエルなりに必死で言葉を選んで、聞く。見た目でいうなればマリモに触手のようなものが無数についていてうねうねと動いていると言ったところだ。正直な話、不気味というほかはない。それでも、なんとか言葉を選ぼうとしたのは偏に彼女の優しさだろう。


「……そうなんだ、この子は私のペット。名前はボールスっていうの一応植物なんだよ?」


 そう言ってボールスと呼ばれた謎の植物を撫でる。すると、意思があるのかうねうねと触手が嬉しそうに動いていた。自分の倍ほどもある触手を持った植物を撫でる少女を夜中に見てしまったら、下手をしたら何か悪い夢だとまともな人間なら思うのではないだろうかと思いながら、シオンがボールスと呼んだ植物を撫でる様子を見ていると、シオンがこちらを向いて、


「……この子に乗ってみる?」


 そう聞いてきた。正直な気持ちで答えるならば、四人ともが遠慮しておくと答えるだろう。だが、そう言ってしまうのも何だか気が引けると思い、四人で少しの間思案していると、


「……嫌なら、いいよ?」


 少し悲しそうな声でシオンが聞いてくる。それにシエルが条件反射的に、


「い、嫌じゃないよ!?乗せてくれるかな……?」


 そう答えてしまった。だが、シオンはそれを聞いてぱあっと嬉しそうな表情に変わり、声も悲しそうなものから少し興奮した様子で、


「……! なら、乗せてあげるね……!」


 そう言って、シオンはボールスにこつんと額を当てると小さな声で何かをつぶやいた。すると、シエルの目の前にボールスの触手が、まるでダンスを踊るときに差し出される手のようにすっと出される。

 恐らくそれに掴まれということなのだろう。シエルは恐る恐る触手に手を伸ばすと、予想外のふかふかとした感触に驚きながら、小さな体が持ち上げられ巨体の上にちょこんと乗せられる。普段見る視点とは全く違うものに、おぉ……とシエルが感心の声を上げていると、ルリがみみをピコピコと動かして何かを察知した。


「足音……? でも────」

「不自然、じゃな」


 ルリが言葉を言い終える前に、クオンが言葉を繋いだ。ルリもそれに頷いて同意する。あの三人には聞こえていないのだろう。二人の耳に聞こえる足音は普通の人間の足音では考えられない異質なものだった。どういう事かというと、不規則に足音が聞こえるのだ。ただ単純に一歩一歩止まって足を伸ばしているのではない、かと言ってジャンプしているような強い足音が聞こえるわけでもない。普通に歩いているだけの足音なのに、歩いている歩幅が普通の人間では考えられないような幅で伸び縮みしている。ただ、少なくともこちらに向かってきていることは確かだった。


「お嬢様っ、誰かがこちらに向かってきてます……!」

「え、そうなの?じゃあ、早めに部屋に戻った方が……?」


 そう言って、シエルが降りようとしたその背後から


「もう遅いかなー?」


 そう不意に声がした。突然のそれに驚いたシエルは足を滑らせて、ボールスの上から宙に体が躍る。


「しぃっ!?」


 エリーが咄嗟にシエルを抱きとめようと駆け出すが、瞬間、シエルの体がふわりと浮きゆっくりと床に着地した。シエル自身も、シルフィードも困惑していて二人が魔法を使ったわけでは無いようだった。ならば誰が? と、思っているとボールスの上に乗っている謎の人物が窓から差し込む月光によってその正体を現した。


「お、驚かせちゃってごめんね……? 悪気はなかったんだけど……」

「セッカ、さん……?」


 そう、あの時シエルに声をかけたのは学園長であるセッカだったのだ。流石に、自ら声をかけて生徒に怪我をさせてしまった何て知れたら、信用失墜なんてものではない。さらに言えば、セッカ達が無理を言って学園に呼んだのだ。どちらにしても、怪我をさせてはならない生徒の一人だ。無論、怪我など無いのが一番なのだが。


「……セッカ……? もしもしぃが落ちてたら、私……許さなかったよ?」


 エリーが殺意をむき出しにしてセッカを睨み付ける。セッカも、自らの失態を理解しているようで、珍しくしゅん、と項垂れている。


「わ、分かってる、分かってるよ……結果としては無事だったんだし、今回は不問にしてよ……」


 その姿を見て、一体どちらの立場が上だと周りの人間は思うのだろうか、


「……それも、そうね。でも、次は無いから」

「は、はい……」


 エリーの本気の敵意むき出しの視線に申し訳なさそうに項垂れているセッカを見ながら、ルリとクオンの二人は小さな声で、


「……学園長さんだったよね?」

「……そのはずじゃが……」

「威厳皆無だけど……大丈夫なのかな?」

「妾に聞かれても困るのじゃが……」

「そこの二人、聞こえてるからねー!?」


 二人がぼそぼそと話しているその会話を耳聡く聞いていたセッカが、若干涙目でそう言ってくる。いたたまれなくなったシエルは苦笑しながら、


「えーちゃんもそこまでにしておいてあげてよ……悪気は無かったと思うしさ……?」


 シエルのその言葉にジト目を向けたままではあるが、エリーはふっとセッカから離れ、シエルの腕をぎゅっと掴む。


「……しぃに免じて今日はこの辺で許してあげる。でも、次は本当に無いから」

「わ、わかってるわよ……今回は完全に私のミスだから、反省もしてる……っていうか、貴女達は早く部屋に戻って寝なさい!? 今考えたらこんな時間に外を出歩いてるのは規則違反なんですからね!?」

「……ばれた?」


 セッカの我に返ったようなその言葉に、シオンが少し焦った様な声音になる。シエル達はというと、あー……と気まずそうな表情をして四人で顔を見合わせている。


「わ、私たちには理由もちゃんとあるから、大丈夫……ですよね?」

「そうね、でも……そこで逃げようとしてるシオンさん?」


 こっそりとボールスの背に乗って戻ろうとしていたシオンの背中がびくっと跳ねる。


「貴女はたあっぷり、お話しましょうねー?」


 笑顔のはずなのに、妙にねっとりとしたその声音に歳相応の小さな悲鳴を上げながら、セッカの魔法によって無理やり引き摺り下ろされる。


「貴女達は早く部屋に戻って休むこと、いいわね? しばらくしたら休みも終わるんだから」


 四人はそれからすぐに部屋に戻ったが、とある部屋の生徒が真夜中に一つだけ着いた補習室の明かりとそこから見える謎の丸い影に怯えていたとかいないとか。

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