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ダンジョンで無双ゲーってどうなの…?

 「ちょっと……さっきのうるっさいの説明しなさいよ……」


 かなり不機嫌なエリーが、クオンに半分どころか普通に怒った様子で問いただす。だが、クオンはとにかくついてくれば分かると言うだけで、何一つ説明をしない。そんな事も相まって、あと一分も歩けばエリーのイライラが頂点に達するというところでクオンが足を止める。

 そこにあったものは──


「下への……階段?」


 シエルがぽつりと呟いた、下層への階段。正にそのとおりだった。さらに、驚く事はもう一つあったのだ。


「うそ……今まで敵にも会ってないのよ…?」


 次に口を開いたのはエリーだった。そう、クオンが前を歩き、ここに辿り着くまでにただの一度も敵と遭遇していない。普通ならば到底ありえないような事だが、クオンのその表情は得意顔で、どうだ見たか!? と言った様子だった。


「これだけじゃ説明したとは言わせないわよ?」


 有無を言わせぬ迫力のエリー。クオンもきちんと話すつもりではあったのか、改めて真面目な表情で向き合うと。


「妾の能力は振動を操る事じゃ。それを応用して、この階はどの敵にも見つからずに行ける最短の道を導き出したのじゃ」

「振動を……操る……? そんなの──」

「聞いたことない、か?無理もなかろうて、そもそも妾はこの世界の住人でもないのだしの」


 どさくさ紛れに、とんでもない爆弾を投下していった事に気づいていないクオンが話を続けようとして、


「ちょおおおおっと待ちなさい? 別世界ってどういうことよ」

「どうもこうもない。文字通り違う世界の事じゃ、もちろん大陸を越えて云々、何て話でもないぞ?」


 というかそれを今聞くのか? と、少し不満気味な顔をされたが、流石に聞き流すことは出来なかった。


「じゃあ、あんたが別世界の吸血鬼だとして、どうやってこっちの世界にきたのよ」


 ある意味では、至極当然の質問ではあった。来た方法が分かれば、いずれは別世界への旅も可能になるのではないかとエリーは頭の端では思っていたが、あくまでもメインとなる質問はどうやって来たか、それだけであった。


「ん? 来た方法か? これを使ったのじゃ」


 そう言って陶磁器のようなきめ細やかな指にはめられていたのは対極の色をした黒い薔薇の形をした指輪だった。


「それが……世界を渡る道具なの?」

「なのじゃ。妾の母様達の友人から渡されたと言っておったぞ。聞いた話だとあの時一緒に行けなかったから今度は一緒に行く為にくれた、じゃとか」


 そんな大切な物を渡してもいいものかと思ったが、そこは価値観の違いというものだろう。あまり家庭の事情に首を突っ込むことは良いとは言えない。


「まあ、私の聞きたいことは聞けたから、とりあえずはさっさと任務を終わらせてここを出るわよ。その後に色々詳しく聞かせてもらおうじゃない……?」


 真っ黒い笑みを一瞬だけ浮かべたエリーに、シエルは苦笑しながら相槌を打って、下へと続く階段を降りる。

 この先は地下四階層、最下層は目と鼻の先だ。今度もクオンが同じように能力を使い、最短距離で階段へと向かおうとしたのだが──


「なんなのじゃ……全く、面倒じゃのう……」

「どうかしたの?」


 何やら様子のおかしいクオンにシエルが声をかけると、面倒事が起きたといわんばかりの表情を作り、


「妾の声で調べたのじゃが、どうやら最下層に降るにはどう足掻いても魔物の溜まり場を通るしかないようじゃ」


 魔物の溜まり場、別名をモンスターハウス、それは文字通り大量の魔物達が一つの部屋に所狭しと群がっていて、冒険者達を見つけた途端一斉に襲い掛かってくるのだ。そして詳しい理由は分からないが、モンスターハウスにいる魔物達は決まって同階層の同種の魔物よりも明らかに凶暴性、体力、敏捷性、といった身体能力が軒並み上がっている。ただ、部屋に溜まった瘴気が魔物を引き付け、その魔物達を強化した、というのが一般論としては定着しつつある。

 何にしても、モンスターハウスを避けては通れないとなると、少々では済まないレベルで厄介なことになる。乱戦になってしまうと魔法は使えても近接戦闘は空っきしのシエルが次の瞬間には、重傷を負わされているかもしれない。霊姫達がいようと数によってはシエルの守りも薄くなってしまう、という可能性だって考えられない訳ではない。

 だからこそ、あまり通りたくはないのだが……


「私なら上手いこと隠れながら魔法を撃つから大丈夫だよー」


 と、こちらの心配も知らないで気の抜けた声で言ってくれる。まあ、石橋を叩きすぎて壊す、なんて自体になっても笑えないので最大限に注意して且つ、速やかに部屋内の魔物を殲滅する。という事を頭に留めておいて、先へと歩を進めた。


「あの部屋の先が最下層への階段じゃ。覚悟は出来ておるな?」


 いつの間にかリーダーのようなまとめ役を努めているクオンには、もう何も突っ込まず、エリーはとにかくシエルが無事にここを抜けられる事を信じてクオンのその質問に頷く。

 ルリやシエルも同じように頷き、大部屋に踏み入れる。



 次の瞬間、ガコンと音がして天井から大量の魔物が雨の如く降り注いでくる。その数を数える事は今のシエル達には難しいかもしれないが、恐らく五十は下らないだろう。


「一気に殲滅するわよ!」


 真っ先にエリーが風のように駆け出し敵陣の中央に切り込む。それに追随するように変則的な軌道を描きながらルリと、実体化してまるで面白いゲームをするような表情でシルフィードの二人が戦闘を開始した。

 ギャアギャアとゴブリンやコボルト等の魔物の声が無く暇も与えず三人は的確に急所を狙い、絶命させていく。

 だが、魔物達もある程度の数になると満足に動けるのようになったのか、自らの獲物を握りしめエリー達へと襲いかかった。


「いくらあんたらが強くなってたって、私には勝てないのよっ!」


 ひゅかっという軽い音と共に、横一列にいた三体の魔物の首がずれ落ちる。達人顔負けの流れるような剣技に圧倒されながらも、逃げる事が出来ず魔物たちは哀れにもエリーの斬撃によって命を散らしていった。


「ご主人様には指一本触らせませんよ!」


 壁すらも足場として利用するルリは、勢いを利用し延髄に向かって強烈な回し蹴りを叩き込む。さらにその蹴った反動で空中をくるくると回りながら、自らの両手に装備している爪で魔物達を引き裂く。


「んー……やっぱり歯ごたえないなぁ……もっと強い奴いないの?」


 つまらなさそうな表情を浮かべていたのはシルフィードだった。出発前に磨いていた武器には指一本たりとも触れず、魔力で作り出した真空の刃で切り刻んでいた。

 シエルを守るルクスリア達も、あれほど圧倒的ならこちらに来ることはないだろうと思っていた、一瞬の意識の空隙を突いてコボルトがシエルの首を狙い手に持っていた鉈を振り下ろそうとして、


「だーめよー?私達のお姫様に酷いことしたら?」


 エリミアが人差し指をピッと上に振るとコボルトの真下から魔力を帯びた鋭い氷柱が作り出され、体を貫いた。そのままくるんと指を回転させるとその氷柱は粉々に砕け、無数の氷の刃となって身体の中からコボルトを引き裂く。そして、モンスターハウスだけでなく、この乱戦の音が聞こえてやってきたであろう魔物達に向かってその刃は飛び、まるで刃物で斬られたかの如く滑らかな切り口を作り出し、水蒸気へと還っていった。


「すみませんっ、私が気を抜いた隙に……」


 この場で無ければ土下座したかもしれないようなルクスリアの重々しい謝罪に、エリミアは少しだけ面倒そうではあったが朗らかに応える。


「気にしないでよー霊姫が完璧でいないといけないっていうルールはないんだからさーっ♪」

「そ、そうですね……それに、今は目の前の事の方が大切ですっ」


 そう、今は謝っている時間ではなく、シエルを魔物の手から守る時間だ。例え本人が大丈夫だと言っていて、回りの状況を見ることができる魔眼を持っていたとしても、やはり普通の目とは違って万が一の時に対応できないのではと考えている。

 それをありがた迷惑と言われようと、失うよりは数万倍もマシだ。

 モンスターハウスの中の魔物達も随分とスッキリして、数えられるほどの数になっていた。三人の獅子奮迅ともいえる活躍で魔物を倒していく姿は、端から見たら、冒険譚の主人公にすら見えたかもしれない。


「これで……最後っ!」


 最後の魔物の背後にエリーが回り込み、袈裟がけに斬り上げる。ずるりと綺麗な断面をエリー達に見せつけながら、モンスターハウス最後の魔物が倒された。


「お、終わりました……か……?」


 激しい動きを繰り返し肩で息をしているルリと、鼻歌交じりに残った敵がいないかと索敵を続けているシルフィード、エリーはひゅんひゅんと剣を左右に振り、少ないながらも刀身に付着した体液を飛ばしていた。


「案外大したことなかったわね。強いらしいんだけど……」


 そう言うと、マジックバッグから一枚の紙を取り出し、それを読みながら魔物の身につけていた武器やら謎のアクセサリーをマジックバッグに突っ込んでいく。


「お主は一体何をしておるのじゃ……?」


 クオンにはその行動の意味がわからず、首を傾げながら疑問を問いかける。すると、わりとクオンとは馬が合わないと思われていたエリーが素直にその問いかけに答える。


「魔物の素材とか、持ってた武器とか装飾品を取り扱ってる店に売るのよ。とは言っても、素材が売れるのはある程度強力な魔物になってから、低級のこいつらを倒して売ることが出来るのなんて持ってる剣と装飾品くらいだからね……ここにも書いてあるでしょう?」


 そう言ってクオンにエリーが見ていた紙を突きつける。そこには確かにゴブリン帽の装飾品やコボルトの鉄器具(種類問わず)などと書かれていた。その横には金額、読み進めていくと、下段に行けば行くほど強力な魔物の素材や戦利品になるようだった。


「うーむ……しかし、こいつらの装飾品なぞ売っても一つで銅貨数枚の価値じゃぞ? この手の店は状態も良くなければ買い取らないのじゃろ?」

「確かにそうね……でも、コボルトの鉄器具だけはちょっと特殊なの。あいつらは鉄と一緒に色々な鉱物もまとめてブチ込んで精錬してるらしいから、方法が特殊らしいのだけどその鉄器具を元の純粋な金属だけに分けることが可能らしいの。もちろん、その中には運が良ければ貴金属が入ってるときもあるから、たまーにその数倍の価値で売れることもあるのよ。それに鉄器具の売値は重さと含有している金属の貴重性で決まるから、実は鉄器具を集めたほうがお金稼ぎとしての効率はいいのよ?」


 そう言ってお小遣い稼ぎの豆知識を披露した後で、またコボルトの武器を根こそぎマジックバッグに詰め込んでいく。クオン達もそれを手伝って全て集めきると、改めて最下層へ続く階段への前に立つ。


「……この先に、ボスさんがいるんだよね?」


 シエルがクオンに聞くと、そうじゃなと肯定する。示しを合わせたようにこくん、と首肯すると扉を開き下への階段を降りる。階段の長さは少し長いくらい位に思えた。

 少しだけ上の階層の扉よりも豪華な感じはしたが、エリーはお構い無しでダイナミック開扉を行う。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 最下層にあったのは、RPGのボスにありそうなだだっ広い大部屋、中央に鎮座しているのは──


「でっかいゴーレム?」


 まだ動き出してはいなかったが全長でいうならば2.5mはあるように思える。しかし、まだ動くような気配はない。何か条件があるのだとは思うが、何なのかと不思議そうに遠目から見つめていると。


「動かないねー?」


 いつの間にかシエルがゴーレムの目の前まで近づいていた。危ない、と声をかけようとしたその時。

 ゴーレムの双眸に紅の光が宿る。刹那、岩石のような巨大な拳がその事に気づいていないシエル目掛けて振り下ろされた。


「シエルっ!」


 激しい衝撃音と共に砕けた床と土煙が舞い上がった。そんな一撃を生身のシエルが受けてしまえば凄惨な光景が生まれてしまうことは想像に難くない。

 だが、そんな未来を作らないために彼女達が守っているのだ。


「怪我はない……?」


 一瞬のうちに助け出し、相手の攻撃範囲外に逃げ伸びていたシルフィードはお姫様抱っこで助けたシエルに聞く。驚いた様子でこくこくと頷き、大丈夫なことを伝える。それに、シルフィードも安心したようでゆっくり下ろしたあと剣を鞘から引き抜くとぶぉんっとまるで暴風が吹き荒ぶような音を立てて刀身が空気に晒される。


「ふふ……覚悟、出来てるんでしょうね……?」


 怪しい笑みを浮かべて、ぴゅんっと剣を振り抜くと風の刃がゴーレムの腕を音もなく切り落とした。どずんっと鈍い音が響いたと思えば、次はもう片方の腕が切り落とされていた。

 何が起きているのか、ゴーレムはおろかシエル達ですらわからない内に、ゴーレムは数十等分に切り分けられて絶命してしまっていた。


「い、今の何……?」

「んー?私の力だよー?びっくりした?」


 あっけらかんとした表情で聞いてくるシルフィードに苦笑いを返しながら、シエルは依頼の為に必要な素材を回収しようと、再びゴーレムの体に近づいていった。

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