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ダンジョン探索、始まります!

 ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、カーテンからは朝日が射し込んでくる。


 「ん……おはよ、朝だよ……えーちゃん」


 シエルが眠そうに目をこすりながら、エリーを揺り起こす。小さく唸った後、エリーもまたシエルと同じように目をこすって、挨拶を交わす。


 「今日は、早いのね、しぃ……」

 「当たり前じゃん……今日は、遠足……じゃなかった、依頼でダンジョンにいくんだからっ♪」


 少しだけ本音が見えたシエルはぺろっと舌を出して、可愛らしく間違いを訂正する。エリーは、表情に出さずとも、シエルのその表情ですっかり眠気がどこかへと飛んでしまっていた。

 エリーはルリを叩き起こして、準備をさせる。寝ぼけ眼で用意していて、持って行くものを間違えないのだろうか、とシエルが内心で心配していると。霊姫たちも目覚めたようで軽く挨拶を交わすと、各々の武器の手入れをしているようだった。その様子を見て、シエルが気付く。


 「あれ? シルフィって武器使ってたっけ?」

 「ん? うん、基本的には魔法が戦闘でメインで使うけど、効かない相手もいるからね、そのためにも武器は手入れしておかないと……一応、ダンジョンに潜るんだしさ?」

 「効かない敵って……そんな危ない相手はいないと思うんだけどな……?」

 「え…?いないの? ミスリルゴーレムとか、リフレクトスライムとか」


 今、シルフィードが言った魔物の名前は、どちらも相当強力な魔物であり、少なくともこれから行くダンジョンでは間違いなく、出ることは無い相手だろう。仮に出てきてしまえば、一部の探索者を除いて、一目散に逃げ出す相手だろう。それに、今回ギルドが指定してきたのは初心者でも踏破が可能なギルドが管理しているダンジョンだ。それほどの強敵が出てくることも無い。

 だから、霊姫たちが意気込むほど強い相手もいない、というわけなのだが──


 「万全の準備で挑まないと、ですね……!」

 「私も、怪我したらすぐに治してあげるからね~!」

 「どんな相手でも、私達が何とかしてあげるよっ!」


 三人はすっかりやる気になっていて、そんなに強い敵が出るダンジョンでもない、と言える雰囲気がだんだん無くなっていってしまった。まあ、言ってみればそこまで強い敵が出ないと分かってくれるだろう、と思いながら軽い朝食を済ませに食堂へと向かった。


 今日、ダンジョンに行くことを知っていたのか、食堂の責任者、通称姐様におまけとしてサンドイッチを作ってもらい、朝食をほとんど人のいない大食堂で取っていた。


 「そっか、皆……家に帰ったのかな?」

 「どうかしら……帰ってる生徒もいるだろうけど、課題のために早くから出て行ってたりとか、徹夜してたりとか、あるかもよ?」

 「あーかもしれませんねー、まあ、私には関係──」

 「無いと思ってるの?」


 ルリが関係ないといい終える前に、エリーが一枚の紙をルリの前に滑らせる。それにルリが目を通すと面白いくらい露骨に顔色が変わる。

 内容は大方予想がつくが、課題の内容が書かれているのだろう。何が書かれていたかまでは分からずとも、露骨に動揺しているのがシエルにも分かった。


 「お、多いですよ!? 何ですかこの量!? どう考えてもお嬢様の倍はありますよ!」

 「だって、あんた言うほど成績よくないでしょ?」

 「えっ!? ま、まあ……そうですけど……それが、この量と関係あるんですか…?」

 「ええ、成績の上から一割は課題の免除があるの、だからあんたのが普通の課題量よ?」

 「そ、そうなんですか……じゃあ、これが普通の課題の量、なんですね……」


 すっかり憔悴気味のルリを見て、シエルが苦笑しながら頭をなでてから、


 「そんなに落ち込まないで……? 出来るとこなら手伝ってあげるから……」

 「ほ、ほんとですかっ!?」


 突然、元気になったルリに少し困惑しつつも、笑って朝食を食べ終えると、食器を返して自室の荷物をまとめると、いざ出発という気負いで扉を開けると──


 「君達も今日、出発かい!?」


 テンションの高い金髪がこちらに話しかけてくる。名前も長ったらしく、すっかり忘れていたため無視してやろうかとも考えた三人だったが、それは不味いと良心が働きかけてきたので、挨拶だけは済まそうと、笑顔の仮面を貼り付けて、応対を済ます。


 「え、ええ……そうよ、あんたも?」

 「ああ、そうさ!僕の実力をあの生意気なやつらに見せ付けてやる!」


 そういうとずんずんと廊下を歩いていった。正直、これ以上話し込まれると、面倒くさいなと思っていたので、三人的にもすごく助かった。困った相手が行ってくれたことにより、改めてシエル達は気合を入れなおして正門へと向かった。



 「移動用の足はこっちで用意しておいたわ」


 正門前には馬車とゲッカが待っていた。ダンジョンまでの移動手段を整えてくれていたゲッカに、ルリはきゃっきゃと楽しそうに声を上げた後に馬車に乗り込む。

 内装もずいぶんと豪華なようで、ルリが楽しそうに手招きしている。エリーはため息を、シエルは苦笑をして馬車に乗り込む。確かに、ルリが興奮するのもわかるくらいには豪勢な内装だった。おそらくは貴族用の馬車を無理矢理用意したのだろう。見渡す限りすべてにかなりの額がかかってそうな内装になっていた、金色の装飾のつけられた座席、豪奢な作りのランプ、どれか一つでも売れば質素な生活を送っている人々なら数年、いや数十年は過ごせそうなほどの値はつきそうなものがごろごろと転がっていた。


 「ずいぶんと豪勢ね……こんなのに乗っていくの……?」

 「別にいいんじゃないですか?」

 「私はそもそも見えないから関係ないしね~」


 ルリは隙を見て何かをくすねる様なそんな雰囲気をかもし出していた。


 「……」

 「な、なんですかぁ……?」

 「いえ、なんでも?」


 エリーがジト目でルリを見ていると苦笑して気まずそうに目をそらす。そんな事をしていると、ごとごとと揺れ始め、馬車の窓の外の風景が動き出していた。手紙では、馬車を使って約半日位の距離のところにあると、書かれていた。

 半日間も何かすることがあるのだろうか、と考えていると突然がたん、と馬車が揺れる。何事かと扉を開け、外を見ると馬がなにやら穴に引っかかっているようだった。


 「あ、穴……? 整備された道に、なんで……?」


 シエルが不思議そうに見ていると、弾かれたように、シルフィード達がシエルを中心に、守るような陣形を取る。何事かとルリとシエルが困惑しているとルクスリアが霊体のまま、


 「森の中から、いくつかの気配がこっちにやってきます。恐らくその集団がこの穴を掘ったのでしょう」


 多少は頭の回る下級の魔物か、それとも野盗か、それは相対したときにわかるだろう。数十秒もしないうちに、ばたばたと足音が聞こえてくる。

 見えたのは野盗と思しき人間の集団だった。全員が口元を隠し、ダガーのようなものを持ってこちらに走り寄ってくる。


 「はっはー! まさか、本当にやってくるとはな!」

 「半信半疑でしたが、来て正解だったようですね、お頭!」

 「ああ、上玉のガキが二人、奴隷だがそれなりに身なりの整っているやつもいるし、かなり金を持ってると見て、間違いないな」


 勝手に話を進めている野盗二人に、エリーが呆れ果ててため息を一つつくと近くに置いておいた剣を取って構えると、舐めきった表情で聞いてきた。


 「おいおい嬢ちゃん、まさかこの人数差で戦うつもりかい?そっちが三人なのに対してこっちは四倍以上だ、それに一人は戦うことだって難しそうじゃねえか」

 「だから、なに?抵抗せずに捕まって売られろって言うの?」


 敵意むき出しのその言葉にリーダーと思しき男が肩をすくめて、


 「何か勘違いしているようだが、俺たちは見境無く捕まえた人間を奴隷商に売りさばこうって考えはしてねぇ。それなりに金を持っていそうな服装なら、親元を脅迫して金を搾り取ったほうが売っちまうよりも金を取れる場合があるしな」


 つまりは、自分たちは捕まった後は脅迫のだしに使われるということなのだろう。野盗たちは身なりで判断しているからか、幸い二人の家の事情は知らないようだ。もちろん、三人に捕まる気など毛頭ないのだが。

 聞かされたところで、もちろん捕まる気ないの三人は魔法の詠唱を始める。野盗たちはそれを見て、馬鹿にするような笑い声を上げた後、ダガーを硬く握りエリーに向かってくる。脅かしてやれば詠唱を中断するとでも思ったのだろう。だが、その考えは甘かった。

 エリーの眼前に迫ったダガーは霊体のルクスリアの槍によって弾かれた。何が起こったのか理解のできていない野盗を置いて魔法を放つ。


 「ショックバレット!」

 「ぐあっ!?」


 野盗が怯んだ隙を見て、杖で手を叩きつけダガーを地面に落とす。すかさず、ルクスリアとシルフィードが実体化して、残りの野盗を一瞬で制圧する。

 何が起きたのかまったく理解できていない野盗たちは縛られていく自分の体を見ながら、悪態をついていた。


 「ちくしょう……どこから沸いて出やがった……」

 「教える義理があるのかしら?」


 ちっ、と一つ舌打ちをして、おとなしく縛られていた。野盗たちの目から見ても、ルクスリアとシルフィードの二人は只者ではないとわかったのか、逃げようと考えるものはいなかったのだろう。リーダーらしき男の前に立ってエリーは表情を変えずに問う。


 「で、あんたらを雇った依頼主は?」

 「俺らが口を割るメリットは何一つねぇよなぁ?」

 「命の保障はしてあげるわよ?」

 「はっ、こちとら元から死ぬ覚悟はできてるんだ。殺すならさっさと殺せ」

 「覚悟だけは一人前ね、じゃあ、死んでもらえるかしら?」


 エリーが剣を首筋に突きつけて、そう宣言する。魔法を詠唱し始め、本気で殺しかねない雰囲気のエリーをシエルが急いで止めに入る。


 「ちょ、ちょっと待って!? 殺しちゃだめだよ!?」

 「……分かってるわよ」


 シエルに言われるまでもなかったのか、エリーは剣をくるっと一回転させて野盗の頭に剣の腹たたき付けると、悶絶して、ばたばたと動いていた。エリーはふん、と一瞥すると。


 「いこ、しぃ」

 「うん、えーちゃん」


 ほら、あんたもとルリを引きずって馬車へと引き込む。ルクスリア達も同じように馬車に乗り込むと、それを馬に伝え、本来の目的地へと向かわせた。

 縛られたままの野盗は馬車が見えなくなることを見計らってから、一斉に縄を切るなり、外すなりして脱出する。そのまま一斉に何を思ったのか服を脱ぎ去る。下はもちろん、裸ではなかったが、服は見慣れない服だった。


 「しかし、学長さんに頼まれていたとはいえ、良いんですか?あんなことして…」


 今までのしゃべり方とは打って変わり丁寧目の口調に変わる。リーダーらしき男もすっかり雰囲気が代わり、どこかの騎士団を思わせるような、気迫と威圧感のある声を出し、


 「どんなことであれ、我々の所に直々に依頼しに来たのだ。無下に断るわけにもいかないだろう。それに、あの方が実力は保障する、と直に言っていたのだ。ならば心配など無用だろう?」


 そう言ったその姿はまさしく騎士団長とも言える姿で、意見した男ははい…と言う事しか出来なかった。


 「我々の仕事は以上だ! 街に帰り次第、解散とし次の以来まで、各自自由とする!」


 そう、号令をかけると、はい!!と近くの森まで響きそうなほど大きな声で返事をし、揃った足取りで街の方へと帰っていった。


 「えーちゃん、もうすぐかなー?」


 再び馬車に揺られながら目的地に向かうシエルがそんな事を聞く。さすがに飽きてしまったのか、手持ち無沙汰に自分の魔力を使って遊び始めていた。


 「そうね、あと10分くらいかしら、もうちょっとだけ、待ってて? 私もずっと馬車の中は飽きてきたし……」


 そう言っていると、馬が嘶き立ち止まる。窓の外を覗き見ると、そこには目的のダンジョンがあった。ルリがいち早く降りて、外の空気を大きく吸い込んでいた。後から二人も降りて、ダンジョンを見据える。見た目は下が埋まったような形の塔だった。下層がどれほどあるかはわからないが、依頼内容は最深部の魔物を倒して、その素材を手に入れることだ。

 とにかく行ってみないと始まらない、と考えた二人はダンジョンの前まで歩いて近づく。すると、近くの小屋から兵士らしき人間が近づいてくる。


 「君達、ここはギルド管轄のダンジョンだ。何か、証明書はあるかい?」


 随分と砕けた口調で三人に話しかける。男が好きではないエリーは警戒しながら、どんな相手にも警戒心のないシエルはにこっと微笑んで。


 「これでいいかな?」


 そう言って、シエルは依頼書を取り出す。兵士はそれを読んだ後、それを返して横に退く。


 「確かに、ギルド炎の剣聖(フランベルジュ)のものだ。うん、通っていいよ。気をつけてね、直々の依頼状、ということは実力は確かなんだろうけど、油断は禁物だよどんな勝負にも絶対はない、って昔の軍師が言ってたからね」

 「ご忠告どうもしぃ、いこ?」


 シエルはうんっ、と返事をすると兵士に優雅に一礼して、


 「ありがとう、頑張ってくるね♪」

 「は、はいっ! 健闘をお祈りしておりますっ!」


 兜越しからでもわかる上ずった声に、シエルはくすりと笑い、エリーは若干引き気味の視線を、ルリはニヤニヤと笑いながら、持ち場に戻っていく兵士を見送っていた。

 重い音と共にダンジョンの扉が開くと、中から生暖かい風と、不気味な気配が出迎えた。


 「行くよ、えーちゃんっ」

 「ええ、行きましょ。しぃ」


 二人で通じ合ったように笑っていると、ルリがいじけた口調で、


 「ちょっとー……私はないんですかー?」

 「あんたは別にいいのよ」


 エリーのそんな言葉にシエルはくすくすと笑って、ルリの手を引っ張って。


 「ルリはこれから、一緒にいるんだからあせる必要はないんだよ?」


 そう言われ、引っ張られながらダンジョンの中へ入っていった。

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