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姉妹ばかり出すのは不公平だからね?

 開始の合図と全く同時のタイミングでツルギが動く。


「先手必勝っ!」


 自らの身長と同程度の長剣を遠心力を使って、思い切り振る。対して、エリーは相手の攻撃をじっと見つめ、後コンマ一秒でも遅ければ切断されるのではないか、というかなりきわどい躱し方をしていた。

 長剣の遠心力を用いた斬戟は重く、深い。その一撃はエリーだけではなく、その奥にあった木々までも両断するほどのものだった。メキメキと音をたてて倒れる木を見て、シエルは教師が来ないか少し不安に思っていると、ルクスリアが。


「大丈夫ですよ。専門ではないとはいえ、音を遮断する結界を張っておきました。こちらからの音は聞こえませんが、結界の外からの音は聞こえるようにも調整してあります」


 少し自慢げに喋っているルクスリアが面白くて、シエルはその頭を撫でたかったのだが、身長が足りない。うにゅぅ…とうなりながら、頭を撫でようと躍起になっていると。


「……あの、シエルさん?」

「むむ……な、なに……?」


 ルクスリアは何かまずい事でもしたのかを思い、聞いてみるが、どちらかというとそうではないような気がした。敢えて、今の状況を言葉にするなら、大人の頭を撫でようとして背伸びしているが、届かない子供を見ているような、そんな感覚だった。


「えっと、こう……ですか?」


 なんとなくこうする事がいいような、そんな気がしてルクスリアは体をかがめて、シエルの手が届く位置に頭を下げると、


「ふふ……ん♪」


 満足げにルクスリアの頭を撫でていた。だからと言って、二人の戦いの審判を怠っているわけではない。


「逃げ回ってばかりじゃ勝てないぜ?」


 ツルギの挑発的な言葉にも乗らず、エリーは紙一重の所で躱し続ける。それをし続けることなど、歴戦の戦士でさえも難しいと言われているが、エリーはまるで息をするかのように、自然で無駄のない動きで長剣の重い一撃を風のように躱し、時にはいなして対応していた。

 辺り一帯の地形が変わってしまうのではないかと思えてきた頃、ようやくエリーが受け以外の動きを見せる。


「ようやく、剣を抜いてくれるのか?」

「……見えれば、の話よ」


 エリーはそれだけ言うと、剣の柄に手をかける。そこにはシエルの眼で無くても感じられるほど膨大な魔力が込められていた。


 『騎士剣セイバー・閃風』


 エリーの放つ技は、抜刀術の中でも居合に近いものだ。その剣閃を捉えるどころか、躱すことでさえ容易ではない。そんな一撃に魔力を込めたのだ、もちろん掠っただけでも怪我だけでは済まない。

 だが、ツルギは音速を超えるその一閃を躱す。

 エリーの一閃は、結界の中のすべての木々を切った。だが、その速く、鋭い一閃は斬った跡をぴたりと貼り付けていて、ずり落ちるという事はなかった。

 ブリッジの状態から跳ね起きると、ツルギは剣を拾いあげその反動を利用して斬りかかろうとした瞬間。


「うるっっっっっっさい!!!!!!!」


 突然、そんな声と共に落雷が二人の間に落ちる。

 そして、その中心点には。


「人が気持ちよく寝てる時に下でドンパチするのはどういう了見なの!?」


 ビシッ、と二人を指差すのは銀髪の少女だった。ただ、身長はずいぶんと低く、この学校にある中等部の生徒だろう。


「えっと……誰?」


 エリーはあっけにとられた後、思わず素で返す。今までの張りつめたような空気を纏っていたのがまるで嘘のようだった。

 それだけインパクトのある登場の仕方だったとはいえ、エリーが困った声をあげることは珍しい。


「私のこと、知らないの?」


 まるで知っているのが当たり前、といった口ぶりだったが年下相手に何かいうのも大人げない。エリーは、


「悪いわね…まだ入学してそんなに経っていないから教えて貰えないかしら?」


 と冷静に対応する。すると、少女は仕方ない、といった表情で、


「私の名前はフレイ・エストレーラよ。……学内新聞見てるなら知ってるはずなんだけどな……?」


 小声で出た本音に納得しながら、その名前を聞いてどこかで聞いたような名前のような気がする。と、頭の中で思っていた。

 ツルギの方はといえば、まだ開いた口が塞がらないようでぽかんと二人のやり取りを見ていた。


「って、私ものんびり見てる場合じゃないですっ、結界がさっきの落雷で壊れて周りにこの惨状が……」


 ルクスリアが一人焦っていると、背後から突然気配を感じて振り返る。

 そこには、眠そうに瞳をこすりながらも本を決して離さないシオンの姿があった。


「ん…また、やったの?ふれい」


 どうやら、二人は互いの事をしているようで、フレイはシオンのほうへと駆け寄っていく。


「今日は私じゃないー!あの二人が勝手にやってただけよ!私は木の上でおにぃを待ちながら寝てただけなんだから」


 フレイの言葉を聞いたうえで、シオンは辺りを見回してひとつため息をつくと。


「戻すの、大変なのは変わらないか……」


 そう言って、あの時と同じように袖から種をばら撒くと、同じように一言言葉を発するだけで新たな巨木が生えてくる。

 元生えていた木々は養分を吸い取られたのか、一瞬で枯れ落ちて同じ場所に全く同じ新たな木が生え揃った。しかも、シオンの魔力のおかげで前の木々よりも生命力に満ちていた。


「……二人とも、戦う事に何か言うわけじゃないけど、周りの物を壊す事はやめて。めんどくさいから」


 混り気のなく自分がめんどくさいという本心を言った後、またどこかへ歩いていく。フレイはというと手持無沙汰な子供のようにそのへんを歩きまわっていた。

 言っていた通り、おそらく兄を待っているのだろう。シエルは二人の戦いが一旦打ち切られた事もあり、興味本位でフレイに話しかける。


「暇なんでしょ?」

「……暇じゃないように、見える?」


 フレイは若干不機嫌気味にシエルに返す。シエルはやっぱり、といった表情を見せた後楽しそうに。


「それじゃ、私と遊ばない?」

「あなたと? ……まあ、面白そうではあるけど」


 フレイは少しだけ興味を示してシエルの方向に振り向く。


「それじゃあ、やるのは鬼ごっこでどう?」

「は?そんなのやるの?」


 フレイは呆れたようにシエルに返すが、シエルはフレイの能力も知った上で言っていた。だから、シエルは。


「何? 私に負けるのが怖いの?」


 いかにも挑発しています、といった口調で言ったがフレイはそれに見事に乗っかる。

 フレイの手はぷるぷると震えていて、今にも叫びだしそうだったが、そこをぐっと堪える同年代が見たら思わず後ずさってしまうような笑みを浮かべて。


「いいよ……やってあげる!!」


 こうして、うやむやになってしまった戦いはさらに別の方向へと曲がり、原型などとうにどこかへと消えてしまっていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ツルギは中断になった戦いを続けようとはせず、大人しく寮へと戻っていった。その際にエリーに、


 『あのままやってたら、多分負けてた』


 そう言い残して、去っていった。エリーはそれを聞いてふっと軽く笑ってから、シエルの元へと歩いて言ったのだが──


「なんか、はじめてるわね……」


 エリーはシエルのフリーダム加減を楽しみながら、その様子をルクスリアと共に見守っていた。

 なぜだか、二人が一緒にいるときにシエルの様子を見ていると、両親になったような気分に錯覚してしまう。


「シエルさんの好きにやらせてあげましょう。もしもの時は、私達が何とかすればいいだけですよ」

「それもそうね」


 二人で軽く笑い合って、シエルとフレイの鬼ごっこを見守る。

 シエルはポケットから小さなコインを取り出すと、


「これが地面に落ちた瞬間スタートね。鬼はフレイちゃんでいい?」

「構わないわよ。私が貴女をタッチすれば勝ちってことでいいのかしら?」


 フレイもさっきの仕返しとばかりに挑戦的な口調で言う。シエルは楽しそうに頷くと、コインを指で弾き空へと打ち上げる。

 落ちてくるまでは一秒にも満たないだろうが、その短い時間に二人は魔力を高めて体制を整える。そして、重力に逆らわずコインが枯葉の絨毯の上に落ちた。

 瞬間、二人の姿が目の前から消える。一瞬遅れて、ドンという音が聞こえて衝撃波とともに地面が捲れあがる。それがフレイが動いたことによるものだと気づくのにさすがの二人も一瞬ほど考えてしまった。

 フレイの姿は数百メートルほど離れた場所に見えたが、シエルの姿はどこにも見当たらなかった。エリーの記憶が正しければ、瞬間移動などは使えなかった筈なのだが、それならばどこへ消えたのかと考えていると。耳元でささやくような声が聞こえた。


「えーちゃんえーちゃん」

「しぃ?」


 声は聞こえるが、その姿は何処にも見えない。色々と魔法の知識がある分、どんな魔法かと考えていると。


「そうだよ~。光を屈折させて擬似的に透明になってるの♪」


 そういうと、くい、とエリーの手が引っ張られる感覚の後、シエルの柔らかい感触が伝わってくる。

 その感触が何処のものかと冷静に考えていると、


「ちょっ……えーちゃん、そんなに……揉んじゃ……っ」


 そのセリフで脊髄反射のように手を離してしまう。まさか、とは思ってはいたが本当にシエルの胸だとは思っていなかった。


 (わ、わたし……しぃの──)


 思考がオーバーヒートし、顔が真っ赤に染まる。シエルがどんな表情をしているのかが少し気になったが、姿をかくしている以上見る事ができなくて、エリーが残念に思っていると。


「そこかぁ!」


 文字通りの疾風迅雷。雷光をまとったフレイが音速を超えてエリーめがけて走ってくる。さすがにあの速度の突撃を食らってしまってはただでは済まないので、上手い具合にぶつかる瞬間にいなそうとした瞬間、まったく速度を落とさず九十度向きを変えて疾走する。


「おにぃー!!!」


 そう言った先にいたのは同じく銀髪の青年、気だるそうなイメージを周りに振りまいている。ただの人間にしか思えないのだが、あんな速度で走ってこられては普通なら、というかエリーやルクスリアのような別種族でさえただでは済まないはずなのだが。


「ああ……ごめん、待たせたね。それじゃ、帰ろうか」


 急減速なども無しに飛びついたフレイを青年はふわりと抱きとめる。先ほどの速度がまるで嘘のように消え去り、飛びつくときには幼い少女のそれと何ら変わりないほどまでに普通になっていた。

 フレイは青年の後ろに回っておぶさる様な形になると、シエルに向かって。


「次は、ちゃんとやろーね! 姿なんか消さないでさ!」


 シエルはビクッと体を震わせた。エリーでさえシエルに言われるまで気付かなかったことをフレイは気付いていたということにエリーは驚きを隠せなかった。


「気付かれてたんだ~……」


 少し残念そうなシエルの横顔を見つめながらエリーはどうやって見つけたのかを一人黙々と考えていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 改めて部屋に戻った二人は疲れていたのでそのままベッドにダイブしようかとも思ったが、冷静になりバスタブに湯を張りにエリーはのろのろと立ち上がった。

 エリーがいなくなるとルリはシエルの背中に抱きついて、


「お嬢様ー♪ 今日一緒にお風呂に入りませんか?」

「えーちゃんが怒らない……?」


 シエルは上に乗っているルリに気だるそうに話しかける。ルリは楽しそうな声で、


「大丈夫ですよっ♪ 私の言うとおりにしてもらえれば入れますから」


 何故シエルが指示を聞く側なのか疑問ではあったが、思考能力が落ちていたため生返事でそれに答えていた。

 エリーが浴室から出てくると、もちろん目の前に見えたのはシエルの上に乗っかっているルリの姿だった。もちろんすぐさまエリーに引き剥がされルリは口を尖らせながらエリーに反抗していた。部屋の中で暴れれば寮長からのきつい指導と大量の反省文が待っている。

 ルリはそれを受けてからは寮内では決して暴れなくなった。今までまともに言う事を聞いていたのは、シエルだけだったのだが、二人目の言う事を聞かせられる人物として、エリー達の界隈ではかなり力のある人物としてひっそりと崇められていたりしている。


「ったく……私がいないとすぐにしぃに引っ付くんだから」


 エリーは子供に言い聞かせるようにルリに文句を言っている。ルリも負けじとエリーに色々と悪口を言っているが、傍から見ているシエルにとってはいつもの光景だ。ルクスリアやシルフィードだって二日三日に一度はこの状況を見ていた。

 それは、もはやこの部屋のいつもの光景とも言えるものに変わっていた。シエルは夕飯を買いに行こうとルクスリアと部屋を出ようとすると。


「あ、私カレーがいいです!! カレー!!」


 と、ルリが叫んできた。二人は羽交い絞めにされ、そのまま拷問コースにまでもっていかれかねないルリに苦笑しながら出て行った。


「ついて来なくても良かったのに……」


 シエルはルクスリアにそう言うと、ルクスリアはくすっと笑って。


「ついて行かなかったら、また余計なものを買ってくるんでしょう?」


 そう言って、ルクスリアはシエルの顔にぺちぺちと何かを叩きつける。それは、魔力の通る紙で書いてある雑誌だった。

 もちろん、多少高級な素材で作られているため、要求ポイントも多少は高めだった。ルクスリアは三人のポイントの会計係を任されていた。そのため、シエルが一人で夕飯を買いに行ったときたまにポイントの消費が多いことも知っていたのだ。


「あんまり散在しちゃだめですよ? いくらポイントがたくさん貰えても、それを大量に消費する事に慣れちゃだめですからねー」


 ルクスリアはなだめる様にシエルに言うと、むぅと口を尖らせていた。


 そんな事もありながら、夕飯を買って部屋に戻ってみると──


「ふぁ……や、やめて……くだ、さいぃ……っ」

「何でよ? そんなことばっかりするんだし。やってほしいんじゃないの?」

「ち、ちひゃい、ます……それに、あばれたらぁ……」


 呂律の回らないルリの必死の言葉をエリーは涼しそうな顔で、


「いま、暴れてないわよ? だから──ふふ♪」


 すっかりスイッチが入ってしまったエリーに捕まっているルリにシエルとルクスリアは黙祷を捧げて部屋の扉をそっと閉じようとする。

 その直前、ルクスリアは必死で助けを求めているルリの目を見たが、助けて欲しい本人であるシエルにはもちろん見えるはずもなく、微妙な表情でシエルは扉を閉めてしまった。悲壮感にルリの顔が彩られたが、エリーはそんなことお構いなしに。


「まだまだ、終わらないわよ?」


 その後、ルリの嬌声は消灯間際まで続いたとか。

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