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貴族の人の話し方が癇に障るのは万国共通

 無事に……とは言えないが校外学習も終わり、学園に戻ってきたシエル達はその後は何事も無く、という訳にもいかず、学園長室に呼ばれていた。

 呼ばれた生徒で知っているのは自分を含めてエリー、シオンの三人だった。

 そう考えると、呼ばれた生徒は恐らくだが校外学習での実戦でゲッカの眼鏡にかなった生徒たちなのだろう。

 残りの知らない生徒たちは全員男子生徒と、 見事に半々に分かれていた。

 部屋で特に何もすることも無くルリを含めて四人で駄弁っていると、眠そうな表情のセッカが現れた。服装も随分とラフなもので、いつものようにスーツでびしっと決めているような感じではない。


 「えっと、急に呼び出しちゃってごめんね~」


 そう言った後、大きな欠伸と伸びをセットで行う。呼びつけておいて遅れた挙句何とも失礼な話だが、これでも学園長という事で黙って次の言葉を待つことにした。

 セッカは机の書類の海を引っかき回して、何かを探していた。


 「シエルちゃーん手伝ってー……?」


 唐突にシエルに振られて、どう返していいか困っていると、代わりにエリーが探しに行ってくれた。

 辺り一帯に書類やら関係ない紙が飛び散り、机の上に何もなくなった頃、ようやく目的の者が見つかったようで、


 「あ~うん、それそれ~ありがとね~」

 「次からこんな事しぃに頼まないで……その胸の塊、切り落とすから」


 そんな物騒な言葉がエリーの口から戻り際に聞こえ、冗談に聞こえなかったセッカは軽く冷や汗をかいていた。

 だが、そのおかげで頭も冷えたのか、服装はどうあれ表情はいつもの学園長モードのセッカになっていた。風魔法で書類を種類別にまとめると大きな机もすっきりとしてスペースもできた。

 ちょうど六人分あるその紙を全員に回すと、セッカが口を開く。


 「それじゃあ、今日皆を呼んだ理由を説明させてもらうね」


 そう言って、説明しようとした直後。


 「──特例でのギルドから回される依頼の受理可能手続きだろ?」


 黒髪の男子生徒がそう口を挟んできた。敵愾心むき出しのその目に見られてしまえば、大抵の生徒は怯えて逃げだすのではないかと思えるくらいのものだった。

 セッカは手間が省けたのかそれに頷く事で話を進める。


 「そうだね。私の独断に近い形だけど、ここにいる皆は十分に魔物と戦える技能を持っていると思うの」

 「まあ、それはそうだろうな! 何せ、この僕がいるのだから!!」


 この場の空気を壊し、かつ全員の心情を逆撫でするという荒業をやってのけたのはブロンドの長髪を自慢げになびかせる男子生徒だった。

 態度からするに、ほぼ間違いなく貴族の子供だろう。黒髪の生徒も、今のはカチンと来たのか手をごく僅かだが震わせているのが見える。


 「ん、どうした? 何も間違っていないだろう?」


 何もかもを間違えていることを誰も指摘できず、セッカが苦し紛れに進めようとすると。


 「……全部だ」


 今まで黙っていたもう一人の男子生徒が口を開く。こちらは、あの貴族の少年とは対照的に銀色の髪をしていたが、黒髪の少年同様目つきがやはり悪かった。


 「何がだ?」


 金髪はその言葉に食いつき、反論する。


 「全部が、だよ!!! お前程度じゃ近隣の魔物だって殺せねぇよ!!」


 銀髪は決壊したダムのように怒鳴る。金髪はその言葉がもちろん気に入らなかったようで、


 「な、何を言うか!! 君たちの方が僕よりも弱いのではないのかね!?」


 金髪がそう言い返すと、本を読んでいたシオンが鬱陶しげに口を開く。


 「……ランキング八位」

 「何が、八位なのだね?」


 金髪が何の事か分からないでいるが、恐らくは校内新聞の非公式ランキングの事だろう。

 少し前まではシエル達も知らなかったが、帰ってきた後にそれを見てみたのだが、内容的には普通のどこにでもある校内新聞と大して変わらなかった。

 シエルは読む事が出来ないので、エリーに内容をかいつまんで教えてもらっていたが、シエルにはなかなか面白そうに聞こえた。


 「もーう!! 喧嘩しないのー!!」


 セッカが言い争う前に静止しておく。だが、険悪な空気までは消えることは無い。


 「後で、覚えていたまえ……!!」


 金髪が銀髪を睨み付け、どうしようもない空気が部屋の中を包む。また一触即発の状態に戻ると──


 「……五月蠅い……っ!!!」


 シオンが静かにだが、確かに怒りの声を発する。

 突然のその声に、男三人が体を硬直させる。それだけの凄みが今の声にはあった。

 その殺気にルリでさえも一瞬体を凍りつかせたほどだ。とはいっても、その後すぐにシエルを守るように位置を若干調整していたが、


 「さ、最近のレディは随分と、お転婆なのだな……」


 金髪は完全に怯えていたが、無理やりにでも気丈に振舞おうとしていた。もちろん、そんな事はこの部屋にいる誰から見てもバレバレの事だったのだが、触れないでおいた。


 「結局、俺たちはどのランクから始めるんだ? ……っても、特例だし、良くてDランクってところか?」


 黒髪がゲッカに対して質問する。唯一まともな質問をしている良心となっている黒髪にはエリーが少し安心していた。

 ゲッカも同じ気持ちなのか、安堵したような表情を一瞬見せると、


 「そうだね、君の言う通り私の権限でDランクの依頼は受けられるようにするよ。ちなみに、Cランク以上を受けられるようになるには、二年生以上っていう条件があるからね。君たちがどれだけ実力があっても、今はまだ駄目だよ?」

 「なら、二年へと飛び級は可能なのか?」


 黒髪は随分と切羽詰ったような調子でゲッカに聞いている。何か事情がありそうだが、それはエリーにとってはシエルに関係ないので、さしたる問題ではなかった。


 「一応可能だけど……相当、実力と知識が伴ってないとダメだよ?」


 そう言って、一瞬だけこちらのほうを向いてきた。エリーは絶対零度にも似た視線を返すと、即座に元の黒髪のほうへと向き直る。

 黒髪のほうは、こちらを向いたことが気になったのか、


 「……あんたら、そういえば全然話してないよな?それに、実力もよく分からないんだが……いや、気分を悪くさせるつもりはないんだが、本当にあの時に竜を倒したのか?」


 気分を悪くさせるつもりはない、といいながらのその言い様にカチンときたが、エリーはシエルが近くにいるという理由でその怒りをぐっと堪える。


 「倒したにきまってるでしょ? 何、疑ってるの?」


 エリーの言葉の節々に棘を感じたが、黒髪は気にすることなく。


 「いや、気になってな……それなりに腕に自信はある方だったんだが、今回の学内新聞のランキングのトップ三人が女子……しかも、全員が編入生ともなれば気になるだろう?」


 黒髪のいう事も最もだった。いきなり編入生が非公式とはいえ、トップを独占するとなると嫌でも気になるだろう。

 ……ふと、シエル達は気づいた事があった。


 「あれ?全員って、シオンも別の所から来たの?」


 シエルは、思考と同時にそう言った。


 「うん、そこの威厳のなさそうな人に連れられて来たの」


 エリーが振り向くと、大きな胸を机にクッションのようにして突っ伏しているセッカの姿が見えた。

 眼が合うと、にっこりとエリーは微笑む。勿論、その裏側にあるのは般若の如き怒りの空気だが、それを全く感じさせないほどの慈愛に満ちた微笑みだった。

 そこについては、やはり歴戦の魔道師だからなのか直感的に察知して空気を引き締める。──そうでもしなければ、本気で先ほどの言葉が実行されかねないような気がしたからだ。


 「え、えっと……とりあえず……っていうか、かなり今更な感じもするけど、自己紹介をお願いしたい……かな、もちろん皆が、皆にだよ?」


 焦りの表情が目に見えて表情に出ていたが、その理由に気づけていた人間はこの部屋に何人いたのだろうか。黒髪は仕方なさそうにため息を一つつくと、腰かけていたソファから立ち上がって。


 「ま、自己紹介も必要だよな……俺の名前は、ユズリハ・ツルギだ。以後、世話になるかもしれないしな」


 短く告げて、また同じように腰掛ける。続いて銀髪も立ちあがって口を開く。


 「……トラヴィス・レスティールだ」


 これ以上、言う事は何もない。といった口調で言い放つと、堰に座るのではなく学園長室の扉を開ける。


 「え、ちょ、ちょっと?」

 「……別に、本題はもう聞いたんだ。手続きはそっちでやっておいてくれ」


 反論を許さないような口調で学園長であるゲッカにそう告げて退室した。

 最後にこの部屋で一番テンションが高く、かつ一番空気の読めていない金髪が立ち上がる。


 「僕の名前はルフティレード・ケーニヒスだ! 覚えておきたまえ諸君!! まぁ、君たちのような庶民にはもったいないような事だがな!!」


 セッカを除く全員が殴りかかりたくなるような衝動を抑え込んで、できるだけ無表情を保つ。

 そういう事にそれなりに体制のあるはずのシエルでさえも難しい表情をしていた。


 「……なんて、反応したらいいんだろうね?」

 「無視よ、無視。それが一番懸命だと思うわ」


 エリーが聞こえないようにシエルに耳打ちする。金髪は席にどかりと座ると、シエル達の自己紹介を催促してくる。言われるがままではあるが、自己紹介をした後は流れ解散に近い形でばらばらに部屋を出て行った。

 その後は、変わらないいつもの授業を受け、いつも通りの一日を終えた。



◇◆◇◆◇◆◇



 次の日、授業が終わり部屋に戻ろうと廊下に出ると見覚えのある顔がそこにあった。


 「おう。少し頼みたいことがあるんだが、いいか?」


 二人は顔を見合わせる。名前を聞いたはずなのだが、なぜか思い出せない。

 名前で呼ぼうとして何といえば良いのか困っていると、


 「ツルギだ。まあ、何て呼んでもいいぞ……変な名前以外ならな」

 「それじゃあ、黒いの。何のようなの?」


 その呼び方に、苦笑を交えつつもツルギは。


 「あ、ああ……まあ何でもいいとは言ったが……いいか、別に」

 「それで、結局何の用なの?」


 シエルはツルギが本来の目的から段々と外れていっているようなそんな気がして、さりげなくフォローを加える。


 「あ、ああ……用は昨日も言ったと思うが、俺と一度でいいから手合わせしてもらえないか?勿論、どっちでも構わないし都合が悪いなら無理に受けてくれなくてもいい」


 その言葉を聞いてエリーは断ろうとした。無理にする必要がないなら受ける必要はないし、今日はシエルと部屋の中で楽しもうとしていたのだが、


 「ん、いいよ~でも、私じゃなくてえーちゃんでもいいかな?」

 「問題ないぞ、どちらかと戦えることができるなら」


 エリーは少し不機嫌そうな表情になるが、シエルが耳打ちすると。


 「……分かったわよ。どうせ、あんたじゃ私には勝てないし」


 エリーはツルギに挑発的にそう言う。ついてきてくれと三人を誘導する。

 そうして着いたのは人気の少ない裏庭だった。こんな場所もあるのか、とシエルがあたりを見回していると。


 「始めるか?」


 ツルギは背中から長剣を抜き取る。エリーもそれに答えるように帯刀していた剣を抜く。

 二人の周りの空気が変わり始め、動きがあったその瞬間に今にも戦いが始まりそうになる前に、シエルが割り込む。


 「ちょっと待って! 審判とかいないと困るし、今呼ぶから待ってて!」


 そういうと、シエルは空中に向かって何か話していた。次の瞬間、光が弾けブロンドの髪の女性、ルクスリアが姿を現す。

 きらきらと輝く髪をなびかせて、派手に登場したルクスリアはもちろんのことだがツルギに訝しげな眼で見られる。


 「安心してください。私はシエルお嬢様の使い魔のようなものです。安心してください」


 霊姫に使い魔と言わせるのも随分なものだが、星霊と言ったところで信じてもらえるわけでもないし、一番信じられるであろう使い魔というのが確かに賢明な選択だった。

 ツルギもただの使い魔ではないことくらいは分かったが今のところはこれ以上言及せず、戦いの準備を整えていた。


 「それでは……準備はいいですか?」


 ルクスリアの言葉に二人は首を振る。それを見て、息をすっと吸うと。


 「始めっ!!」


 そう言って、戦いの火ぶたが切って落とされた。

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