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記憶が戻るキャラの9割方は重要キャラだよねって

 シエルとエリーはルリの魔力の反応があったという場所へと向かうが、なぜか木々の守りが厚い。

 まるで、選ばれていないものが入ろうとする事を拒んでいるような、そんな感じがした。


 「すっごい木が……いたた……枝痛い……」


 シエルが枝にとにかく引っかかり、服は破れ、白い柔肌には複数の傷がつき、赤い線がつぅと引かれる。それは、場所が違えば暴漢に襲われている薄幸の少女にも見えた。

 エリーはシエルの通り道に少しでも枝が少なくなるように、最低限だけ枝を折って進んでいるのだが、どれだけ折っても枝は伸びてくる。折った端から再生している、というわけではないようだがそれでも異常なまでに枝葉が伸びる速度が速い。


 「むぅ……焼き払ってやろうかしら……?」


 エリーはイライラを募らせて、そう本音を漏らす。シエルはその言葉を聞いて苦笑しながら、鈍い痛みに耐えて進む。なぜだか、分からないがこの森はシエルが気に入らないのか、執拗に攻撃してくる。

 そのおかげで、エリーの感情をじわじわと逆撫でしているのだが、もちろん森がそんなことを気づくわけがない。


 「いたた……ふぁっ……!?」


 シエルが妙な声を上げる。エリーがとっさに後ろを振り向くと。


 「やぁ……べとべと……」


 白く粘つくものに絡めとられたシエルの姿があった。エリーはこの状態のシエルを自らの頭の中に保存して、助けようとして糸のような物を見つめていると、真上に気配を感じて反射的にバックステップを取る。

 数瞬前にエリーがいた場所に何かの液体がばしゃりと落ちてきた。それが、シエルの傷口に掛かってしまう。


 「ひ……ぁ……っ!?」


 シエルの身体がびくりと震える。かくんと力が抜けて、糸のような物に支えられているシエルの顔は赤く染まり、苦しそうに息をしていた。

 それは、まるで何かの薬を盛られたような、そんな感じだった。


 「しぃ、だいじょう──」


 大丈夫? と言い切る前に、問題の張本人が下りてきた。それは、蜘蛛型の魔物だったが、異常なまでに大きく、四対の足ではなく六対、十二本の足となっていた。ぎちぎちと歯を鳴らす蜘蛛に背筋を凍らせたが、今怯えていればそれこそ、見せられないような事態になってしまう。


 「やぁ……来ないでぇ……」

 「待ってて、すぐに助ける!」


 剣を抜き、刹那の内に蜘蛛の目の前にまで迫り、白刃の下に切り捨てる。

 あまりの手ごたえのなさにエリーは一瞬、何かあるのではないかと思ったのだが、何事もなく死骸が転がった。

 エリーが糸を切ろうとして、シエルに近づくと。


 「えー、ちゃん……んぅ、くるしい……っ」

 「し、しぃ……?」


 エリーがそっと顔に手を触れると、苦しそうに身をよじる。


 「ひぅ……んっ、やさしく……っ……ぁ、そこ……だ、めぇ」

 「しぃ、ちょっとだけ、我慢して」


 エリーがそっと糸を切ろうとする。だが、そんな中にも少しだけシエルへの加虐心が芽生えてしまい、破れた制服から覗く小さな谷間に沿って指を這わせる。


 「ひぁ……っ!? あっ、んぅっ……くぅ……んっ!」

 「大丈夫? しぃ、苦しそう……♪」


 シエルに見えることはないが、エリーの表情はとても愉しそうに笑っていた。対するシエルは嬌声を上げないように、唇を噛んで必死に耐えていた。


 「もうちょっと……我慢しててね」


 慎重にシエルに絡まった糸を剣で切ると、ぐらりと身体が倒れ掛かってくる。

 エリーがそっと抱きとめてやると、まだ効果が残っているのか小さく声を漏らす。


 「は……ぁ、ありがと……えーちゃん」

 「どういたしまして」


 シエルの体を支えて、ルリの反応があったという場所に、もう一度向かおうとした時。

 後ろに気配を感じた。振り向いたときにはすでに遅く、もう一匹のあの蜘蛛が目の前にいた。躱そうとしたがもう遅く、エリーもろとも糸の餌食となる。

 巨木に貼り付けられた後に、あの時に躱した液体が飛んでくる。少しかかるだけで、あれだけの反応を示した物が、その数十倍以上の量もかかればどうなるか分からない。

 シエルにあの液体が少しでもかからないように、エリーが体を捻ってシエルを守ろうとした刹那。



 「黒羽流『涼風』っ!」



 聞き覚えのあるような、ないような声が響き、蜘蛛の頭上に強烈な踵落しが炸裂する。あまりにもその一撃が重かったのか、枯葉と土煙が舞い上がり、蜘蛛の下の地面がひび割れる音がした。

 土煙と枯葉のカーテンが収まり、見覚えのある、というか探していた姿が見つかる。


 「るぅ……?」

 「そうですよ、お嬢様っ」


 山に来たときと、今とで随分と雰囲気が全くといっていいほど違う。今のルリの雰囲気は内気とは正反対の性格になっていた。


 「……ほんとうに?」

 「本当ですっ!」


 ルリは漫画で見そうなほどのぷんぷんといった表現が似合う怒り方をしている。


 「そんな事より早くこの糸を切らなきゃ……この糸があいつらを呼んでるから」

 「あいつら、ってあの蜘蛛のこと?」

 「はい。あいつら『フォレトスパイダー』は糸に特殊なフェロモンをつけているんです。だから、さっき倒した後にもう一体出てきたんです。倒して時はいなかったですよね?」


 ルリの質問にシエルとエリーはこくりと頷く。

 説明をしながら、瑠璃は手馴れた手つきで糸を切り裂いていく。しかし、ルリがなぜここまで性格が変わったのかは聞いていない。


 「それで、どうしてるぅはそんなに性格が変わっちゃったの?」

 「あ~……変わったっていうか……戻った、っていうほうが正しいです。それと、お嬢様たちが探してるお姫様が私です」


 いきなりのカミングアウトだった。もちろんいきなり言われて反応できるわけがなく、妙な声を二人が同時に出す。


 「え? え、ええ?」

 「はぁ? じゃあ、何? 今まで必死に探してたのって無駄だったわけ?」

 「あ、えっと、そうじゃなくて、私の記憶無くなってたんです」


 そういった後に、自らの言葉が不適当だったのか訂正して、


 「記憶が無くなってた、じゃなくて別の器に移していた……っていうのが正しい、かな?」

 「移してた?」


 シエルがそれに聞き返す。ルリはそれにこくりと頷いて、


 「はい。これがその移してた器です」


 ふわりとルリの体から白い結晶が抜け出てくる。それは、不思議な感じを滲み出していてシエルがそれに触れると、暖かいような不思議な感情が湧き上がってきた。


 「器……?どっちかっていうと、結晶みたいな……」


 シエルは誰に言うわけでもなくそう呟くと、ルリがその言葉を拾って。


 「その表現のほうが多分、近いと思う。これの本当の名前は記憶の結晶って言うくらいですから」


 ルリは戻った記憶から、その結晶の名前を言う。確かに、結晶らしい見た目だしそういう名前なのだろう。


 「結晶って誰にでも使えるものなの?」


 シエルはとりあえず気になることを聞いてみることにした。ルリは首を横に振り


 「いえ、この結晶を使えるのは獣神族ヴァルカリアだけです」


 ルリの口からなにやら聞きなれない言葉が出てくる。


 「獣神族?」

 「はい。通常の六種族……今では五種族ですけど、その中の人類種ヒューマニア以外の四種族には極稀に姿が同じで能力が同種族と比べ物にならないほど高い上位族エクステンダーといういわゆる特異個体が生まれることがあるんです。で、獣人族ワーウルフの上位族が獣神族というわけです」


 随分と駆け足な説明だったが、ルリの説明とは思えないほどはっきりとしていてそれでいて、きちんと要点以外にも詳しい説明を交えていて、本当に同じ人物とは思えないほど饒舌な説明だった。

 その説明をシエルは聞き終えてから頭の中で整理した後、苦笑交じりの声で。


 「……るぅ、本当に別人みたいになったね…」

 「あはは……でも、前の私も今の私もどっちも私ですよ。ただ、記憶を移す以前の性格がこんな風だったんです」


 ダメですか……? と、悲しそうな声で聞いてくるルリにシエルはそんなこと無いよ!と全力で答える。

 だが、目が見えていないシエルにはルリのにやりと笑った表情が見えなかった。やはり、ルリは以前よりも随分とお転婆な性格になっているようだった。


 「……わかってるよ? るぅが声だけ変えてるの」

 「え!?」


 シエルはルリの体に抱きつき、動きを封じる。ばたばたと体を動かしても微動だにしない。うあ~と声を上げて逃げようとしているルリにふっと息を吹きかける。


 「ふぁっ……あぅ、お、じょうさま……っ」

 「逃げちゃだ~め」


 ルリのメイド服の中にそっと手を入れる。それは、まるで目が見えているかのようだった。ごそごそと胸元をまさぐって、ルリの反応を楽しんでいた。

 喘ぎ声を上げて身を捩るが、動きの取れないルリはされるがままになっていた。


 「きゃぅ……ん、ぁ……ぅ」

 「そろそろやめてあげたら……?」

 「う~ん、どうしようかな?」


 シエルは意地悪く、困ったような反応を返す。エリーは「やめてあげなさい」と苦笑しながらシエルに返す。


 「えーちゃんが、そういうなら止めてあげる~」

 「あ……ぅ……ひどい、です……」


 ルリがくたくたの体で文句を言っているが、シエルは聞く耳を持っていない。先ほどの仕返しなのかもしれないと考えると、シエルもなかなかに性格が悪かった。


 「とりあえず、戻るわよ……ルクスリアさんにルリの事伝えないとだし……」



◇◆◇◆◇◆◇



 集落跡に戻ってきた三人はルクスリアの姿を探す。この付近の魔物はすべて駆逐されたのか、シエルの広範囲探索でも引っかかることはなかった。


 「ルクスリアさーん」

 「何でしょうっ──!?」


 ルクスリアの反応が一変する。それもそうだろう、探していた人物が目の前にいれば、誰だって驚く。


 「ひ、姫様!?一体どこで何を!?」

 「えっと……捕まってた……」

 「はぁ!?捕まってたってどういう事ですか!?」

 「そ、そのままの意味……です」


 ルリが意気消沈して、ルクスリアの質問に答える。質問のたびに、ルリの顔色が悪くなっていっているのが、エリーとしては少しつぼにはまったらしい。

 声を殺して笑っているエリーにシエルも苦笑していたが、


「やめてあげなよ……るぅがかわいそう……ふふっ……だよ?」


 耐え切れなくなったのか、声を出して笑っている。ルリもそれに気づいたのか、不機嫌そうな声でルクスリアの質問に答え、そしてさらに怒られるという悪循環をしていた。

 散々質問攻めにされ、満身創痍になったルリと頭を抱えるルクスリアがシエルの元に来て。


 「えっと……シエルさん、今の状況は理解できました。我らが姫を救ってくださり本当にありがとうございます。今、姫はシエルさんの奴隷になっているんですね……でしたら、私を連れて行って下さいませんか?」

 「ん、いいよ」


 随分と軽い承諾だったが、ルクスリアは自分の周りに魔方陣のようなものを描く。

 そして、エリーにはよくわからない唄のようなものを歌っている。シエルにはそれが分かるのか、それに呼応するように唄う。


 「……ふぅ、よろしくお願いします。シエルさん」

 「よろしくね~」



◇◆◇◆◇◆◇



 「思い出したんですけど、私は天狼シリウスがベースになった獣神族です」

 「ベース?」


 シエルが単語に反応して、ルリに聞き返す。


 「えっと、ベースっていうのは私たち獣神族と獣人族ワーウルフが生まれたときに決まる……えっと、先天的に決まる能力っていうんですかね……?」


 なんとなくだが、言っていることは分かった。ベースというのは生まれつき持った能力のことなのだろう。


 「つまり、ベースがガゼルとかなら足が速い。猫とかなら跳躍力が高いって事?」

 「そうそう!さすがですお嬢様!」


 なんだか、言い方が癇に障る。記憶が元に戻ってからなんだか調子付いているようなそんな感じがする。シエルはそろりとルリのメイド服に手を伸ばす。


 「もう分かってますよ?そう簡単に同じ手は食いません♪」

 「──じゃあ、これなら?」


 ルリの体の自由が利かなくなる。何事かと思ったら、ルクスリアが魔法でルリの行動を封じていたのだ。


 「あ……るくす……ふぁっ」

 「何ですか? ご主人様の命令を聞いてこその奴隷でしょう?」


 なぜだか、ルクスリアの表情が生き生きしているような気がする。実はそういう性格なのかと密かにシエル考えてしまった。

 だとしたら、自分との相性がいいのかもしれないと思った。


 「そうだよ……?るぅちゃん、ちゃんと私のお願い聞かなきゃ……ね?」


 シエルはそっともう一度メイド服に手を伸ばす。体の自由が利かないルリのメイド服のリボンをするすると解いていき、ボタンを外そうと手を──


 「はい、終わり」


 エリーに伸ばした手を弾かれ、シエルは不機嫌そうな表情を作る。


 「なんで~?言うことを聞かない娘はお仕置き何だよ~?」

 「ルリの顔、見て」


 エリーに言われて、シエルがルリの顔を見ると。


 「ぁ……嫌……お仕置き、やだぁ……」


 恐怖の色一色に染まっていた。それは、奴隷としてシエルたちに買われる前にされていた事なのか、ルリ本人にしか分からないだろう。

 さすがのシエルも折れかかっている心をいたぶる様な趣味はない。


 「あ……ごめんね、るぅ……言うこと聞いてくれたら、何もしないよ」

 「ほん、と……?」


 その表情は、記憶が戻る前のルリそのものだった。確かに本人の言っていた、今までの自分も同じというのは真実なのだろう。だがそれが、こんな形で分かってしまうのは少し残念ではあった。


 「大丈夫だよ。それに……私は、るぅの味方だから」


 シエルは怯えさせないように穏やかな口調で、ルリに話しかけると。涙のたまった大きな瞳がシエルの瞳を見つめる。

 シエルも、同じようにその瞳を見つめる。


 「うそ……じゃ、ない?」

 「嘘じゃない。約束するよ」


 シエルが優しく抱きとめてやる。この感情に裏表はない。


 「……お、じょう…さま」

 「これで、いいんですかね?」


 ルクスリアがエリーに苦笑しながら聞いている。


 「いいんじゃないですか? 喧嘩されるよりはよっぽどいいと思いますよ、私は」


 エリーはそう言って抱きしめあっている二人を羨ましそうに見つめていた。

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