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広がる世界

 「エリー!そこの薪、私のとこに持ってきて~!」


 とある静かな農村に元気の良い少女の声が響き渡る。

 その少女は、物静かな雰囲気とは裏腹に、ショートカットの金の髪を揺らしている。

 エリーと呼ばれた少女は、両手にいっぱいの薪を持って少女の元へと向かう。


「シエル、私は貴女の使用人じゃないんだけど……」


 その少女の瞳は透き通るような琥珀色の目をしていて、髪も美しい銀の色をしている。ただ、一点ほかの人間と違うのは、凝視しなければ見えないくらい薄いが、背中には薄い羽が生えていた。

 彼女は、数百年前に絶滅してしまったはずの『高位妖精アークエルフ』の一族の末裔なのだ。『高位妖精』の一族は、人間や他の種族の使うことのできないような魔法を使う事が出来たのだ。

 そのせいで、他の種族からは、蔑み忌み嫌われていた。


「あはは……ごめんごめん。でも魔力の少ないものって見えにくいから……」


 シエルが静かに目を開くと、その眼の中は濁った金色に満たされ、視力を失っていた。彼女の目は、生まれた時からそうなっていた。しかし、代わりに『魔眼』となって、存在している魔力を映像として捉える事が出来るのだ。

 そのおかげで、彼女は目が見えずとも暮らしていけている。


「それは、分かってるけど……でも自然の物だって少しは魔力を持っているんだから見る事くらい出来るんじゃないの?」


 エリーの追求に、シエルはえ、え~と……と、口ごもった後、


「で、でも!魔力が弱いとうまく見えないんだもん!」

「うまく見えないってことは、見えなくはないって事よね?」


 シエルは目が見えないため、表情まではわからないが、少なくともあまり良い感じの表情をしていない事だけは理解できた。


「え?えーと……エリーさん……?」

「ていっ!」


 エリーの何かを投げつける動作が見えて、直感に任せてシエルは真剣白刃取りを試みるが、いつまでたっても額に来るはずの衝撃はやって来ない。その直後、代わりにシエルを襲ったのは、軽いデコピンだった。


「はぅぅ……ひ、ひどいよ……」

「全く…私が、シエルにそんな事するわけないでしょ…」


 エリーがため息を一つついて、両手に持っていた薪をシエルに渡す。


「ありがと~やっぱり、エリーは優しいね♪」


 シエルが、くすっと、笑顔を見せる。その笑顔は、まるで天使の微笑みを彷彿とさせるような笑顔だった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 そろそろ時間だぞ!という声が、村のほうから聞こえてくる。

 二人は呼んだ人に聞こえるようにできるだけ大きい声で、返答すると。


「そういえば、今日だったねエリー、楽しみじゃない?初めての学校!しかも帝国首都のエリート校だよ!」


 二人は山奥の、お世辞にも賑わっているとは言えない辺境の農村出身であるにも関わらず、その特異な能力を買われて『クラニア帝国』の首都にあるごく一部のエリート貴族や、お嬢様。もしくは、大陸でも名の聞いたことのあるような指折りの実力者しか入れない本当の意味での、超がつくほどの、エリート校に入れることが決まったのである。


「私としては、問題しか無さそうなんだけどね……」


 エリーの呟きはテンションの高いシエルには届いていないようで、エリーの受難は恐らくここからが本番なのだろう。


「はぁ……ま、できるだけ何事も無いことを祈りましょうか」



 帝国からの迎えの馬車に揺られること数時間で、休憩の場所にたどり着く。


「うぅ~おしり痛い……」


 シエルは伸びをしながら、まだ少しひりひりと痛む臀部をさする。


「大丈夫、シエル?まだ帝国まで三分の一も進んでないわよ?」

「よくあんなグラグラ揺れる馬車に乗ってられるよね、エリーは」


 エリーは、少し苦笑いしながらちょっとした種明かしをする。


「実は、少しだけ風魔法で体を浮かせていたのよ。いくら優秀って言われる帝国産の馬車だって、私たちの村からの獣道で揺れないなんて無理があると思ったからね」

「そ、そんなのズルいよ~何で、私に教えてくれないの~?」

「いや、シエルなら私の使ってる魔法くらい見れば分かるかな~って思ったから……」


 そんな事無いもん!と擬音語で表すなら、ぷんぷんと言ったところがぴったり当てはまるような、怒り方をしているシエルをごめんごめん、と宥めている二人の様子を見ていた御者の少女が。


「やはり、貴女達はすごいですね二人ともが魔法を使えるなんて」


 エリーが後ろを振り向くと、黒髪の少女がいた。

 歳はエリーたちよりも少し上、17、8歳といったところか、特徴的な赤と青のオッドアイがエリーとシエルの事を見ていた。


「え、ええと……貴女は誰ですか……?」

「ああ、ごめんなさい。ここまで運転してきたヒイナ・セッカよ。ついでに言うなら、貴女達の通う学園の理事長も務めてるわ」


 その自己紹介に、二人は。


「え!?り、理事長さん何ですか!?わ、私何も知らないで……」


 エリーが焦りながら、次の言葉を考えていたので、セッカは。


「ふふ、大丈夫よ。私も何も言っていなかったし。それに、今日は学校の説明をすることが目的だしね。運転は妹に任せましょうか」


 そう言うと、空に向かって「ゲッカ~!」と、大声で叫ぶと。

 空に竜の姿が現れる。そのあと、竜の背中から、セッカに似た少女が下りてくる。

 唯一違う部分は、オッドアイがセッカとその少女では、左右反転していたというところだ。


「ゲッカ~後の運転頼んでいい?私、二人に説明しなきゃいけないから」

「姉さん……私、疲れたんだけど……一番早いアリアに頼んでも、姉さんの加速した馬車に追いつけないってどういうことよ……これ以上私達に働かせたら過労死するわよ……」

「え、ええと……り、理事長さん……そちらの方は……?」


 状況の読めないシエルは、どう対応すればいいのか迷っていた。

 そんな中、シエルはフリーダムに、


「あ、ねえエリー?帝国のご飯って美味しいのかな?」

「シエル……相変わらず貴女は自由ね……わからないけど、多分良いものが多いから、美味しいとは思うわよ……ちゃんと作ればね」


 エリーがため息をつくと、セッカは楽しそうに笑って。


「ふふ、本当にあなた達は仲がいいですね。 ……でも、学校ではそんな人ばかりではないので本当に注意してくださいね。特にシエルさん、私は差別的な言い方は好きではありませんが……魔眼持ちの人はいまだに帝国でも、差別は無くなってません。特に、学校などでは親の影響で、何も知らない子供が差別していますから……」


 ゲッカの悲しそうな告白に、シエルは笑って答える。


「大丈夫ですよ。私は……そういう事には慣れてますから…今更嫌われたって、どうって事ありません──それに、私にはエリーがいるから!」


 そうは言うが、シエルの声は少しだけ──本人が気付けないほどにほんの少しだけ震えていた。


「……困ったことがあれば私に相談してください。出来る限りの事は協力させてもらいますから」

「そうだよ。私も魔眼持ちの人は何人も見てるから……辛いことはたくさんあると思うけど私たちにできる事なら協力させてもらうわ」

「ありがとうございます……でも、大丈夫ですよ。シエルは私が守りますから!」


 エリーの言葉にシエルは「エリー……」と泣きそうな声で見つめている。


「大丈夫よ。私がそれなりに強いのは、シエルがよく知ってるでしょ?」

「それはそうだけど……いざという時ってあるじゃん……」

「その時はシエルと一緒にどうにかするだけよ♪」


 エリーの楽しそうな笑顔は、シエルの目が見えなくとも、シエルには伝わった。



「まぁ、色々ありましたが、そろそろ出発しないと今日中に帝国に着かないので一気に飛ばしますよ。 ……ゲッカが」

「あ、やっぱり私が運転するんだ……」

「だって、結局学園の事は何も喋れなかったし?」


 セッカが頬に人差し指を当てて、かわいくポーズを決めると。ゲッカは呆れた様子で、ため息を一つついて。


「分かったわよ……その代わりちゃんと学園の事話しといてよね。姉さんよりも運転うまくないから、二人に怪我されても困るのよ。というわけで、できるだけ早く話すこと」

「はいは~い♪」


 セッカは嬉しそうに、対照的にゲッカはあまり嬉しそうではなかったが。


「全く……何で、私が姉さんに指示しなければいけないんですか……」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 再び走りだした馬車の中で、セッカ、シエル、エリーの三人は。


「流石にゲッカに言われちゃったし、ここからは真面目に説明していこうと思うわ」


 二人は「じゃあ、最初からやれよ…」と思ったが、言ったところでどうにもならないので、その言葉を喉の奥へと仕舞い込んだ。

 セッカも先ほどとは違い、真面目オーラを出しながら説明を始める。


「まずは、貴女達の行く学院『フィオーレ学院』はごく一部のエリート貴族や、魔法に長けた人たちが学ぶような超エリート学校です。だからこそ、貴女達は気を付けてほしいの、特に貴族の子たちは身分に異常なまでの反応を示すから」


 先ほどとは別人のような説明に、シエルは戸惑っていたが、エリーは真面目に聞いている。

 こういう人ほど真面目な時にやることは的確なのだ。


「あとは、学院内はポイント制を取っているの。入学時には千ポイントを全員に配布しているの。ポイントは学院内でのすべての施設で利用できるわ。それと、このポイントは帝国の銀貨とも交換出来るのレートは基本、一ポイントで銀貨十枚と交換できるわ。でも、使用の用途を学内で提出しないと交換してもらえないから注意して。そして、月の初めに生徒達には百ポイントずつ配っているわ。あとは試験で好成績を収めた子には特別支給がある、って事くらいかな? それと、生徒同士での合意の上でのポイントを賭けた決闘って言うのもあるわ。 ……だけど、あまりお勧めは出来ないし、貴女達に力があると言っても、入学したてで騒ぎ、というよりも変な波風を立てないほうが貴女達の為だとは思うから、しないに越したことはないわ」


 話を聞いているうちに、エリーは少し危機感を覚える。


「……シエル、帝国の通貨の交換レート覚えてる?」

「大丈夫だよ!えっと……銅貨が百枚で銀貨一枚でしょ……銀貨千枚で金貨一枚でしょ……金貨千枚で白金貨一枚……あと何だっけ?」


 意外にも覚えていたシエルに少し驚きながら、エリーは残りの答えを教える。


「あとは白金貨百枚で虹金貨一枚だけど……そんな単位のお金基本使わないから覚えていなくてもいいかな」


 窓の外を見てみると、既に日は落ちて、暗くなっていた。その風景の奥、遠くにだがボンヤリと光が見える。

 エリーがシエルにその様子を教えている事をセッカは微笑みながら。


「あの遠くの光が帝国よ。なんだかんだで結構ゲッカも運転上手いじゃない」


 ゲッカが妹の意外な一面に驚いている頃、運転席では。



「へくちっ……ぅぅ、風邪でもひいたかな?リーフェ、運転大丈夫?」


 二つある運転席の椅子の運転『する』ほうの椅子に座っている、亜麻色の髪をした少女にゲッカは尋ねる。


「大丈夫だよマスター、これくらいいつもやってる魔物退治よりよっぽど楽だから」

「それなら良いけど……無理しないでね?」


 すると、リーフェは笑って答える。


「大丈夫だよ~!それに、マスターが私たちを心配しないわけないでしょ? 案外心配性なんだからさっ」

「ふふ、それもそうね……」


 気付かない間に低空飛行で走っている馬車を引いていたのは、翠緑色の竜と、真紅の竜だった。



「帝国に着きましたよ、三人とも話はできましたか?」


 ゲッカの声が聞こえ、扉が開く。

 次に聞こえたのは、夜だというのに昼となんら変わらないような喧噪だった。


「ふぇぇ~す、すごい……これが帝国の中央都市アルドラ……」


 シエルはきょろきょろとあたりを見回して、よく言えば新しいものを見ていた。悪く言えば田舎者という雰囲気を出していた。


「さて、お二人は学院の寮でも同じ部屋ということにしてありますが、問題ないですよね?」

「はい。ありがとうございます」


 エリーがぺこりと頭を下げる。セッカはいえいえ、と嬉しそうだった。


「生活に必要最低限必要なものはすでに部屋に用意されているから、安心してください。ただし、食品だけは別ですよ」

「分かりました。必要になればここで調達しろということですね」


 エリーが答え、セッカも正解、と言わんばかりのサムズアップを返す。


「それと、部屋のクローゼットには貴女達二人の制服が入ってるから、サイズが合ってるかどうか確認してね。私は、今から仕事があるから案内はゲッカに頼むわね」

「はいはい、姉さんもあんまり根を詰めすぎないでよ?また倒れられても困るし」


 終始困り気味のゲッカを、セッカは楽しそうに。


「お姉ちゃんの心配してくれるなんて優しい妹ね。お姉ちゃん頑張るからね~」


 そう言うと、セッカの姿が一瞬で消えた。シエルとエリーには今何が起こったのか分かったようで。


「今の転移魔法?」

「そうよ。あそこまで予備動作なく魔法が使えるのって、多分この国だと姉さん以外にいないんじゃないかしら?」


 ゲッカの素直な賞賛をセッカの知らないところでする。もしいるところでしたならば、妹好きのセッカの事だ、何をされるかたまったものではない。


「それじゃあ、行きましょうか」


 ゲッカは二人を後ろに連れて、歩き出した。



 しばらくして、エリーの目に映ったのは、大量の街灯が灯った広場だった。

 そこには、あらゆる店が揃っているようで。


「うわぁ……すごい……こんなにいっぱい……」


 エリーだって年頃の少女だ。これだけのものを一度に見せられて、興奮しないはずがない。周りを見渡していると、一部の場所だけ、広場の中でも空気が違った。

 その場所では──


「どうだい!この屈強な奴隷、普段なら金貨二十枚のところを今日は金貨十枚だ!」


 なんと、奴隷の取引が行われていた。

 年齢や性別は様々で、女性、男性、少年から少女まで小さな馬車に窮屈に詰められていた。二人の居た小さな世界ではありえないそれにどう反応したらいいのかわからない感情が渦巻く。

 そんな中、シエルの視線の先にいたのは、小さな犬耳を垂らした獣人族ワーウルフの少女だった。歳は十歳くらいだろうか、着ているものは服とはとても呼べず、布きれに近いものだった。だが、シエルには何故か、あの少女の事がきになって仕方がなかった。


「……ねぇ、エリー?そこにいる女の子、私たちとおんなじ気がする……」

「シエル……あなたが言った女の子、奴隷の子よ……残念だけど、私たちが買えるわけないわ……」


 そう言って、立ち去ろうとした時。


 ──私の声を、聞いて──


「今の……さっきの子が、使ったの……?」


 聞こえたのは声、ではなく、厳密には魔法の一つで、その魔法を知っている相手だけに秘密裏に言葉を伝える魔法だ。

 その魔法は、使える人間が少なく、有効性が見当たらないとされたために忘れ去られた魔法の一つだったのだが──


「ねぇ、エリー……やっぱり、あの子私たちと──」

「全く……分かったわよ。ちょっと待ってて」


 エリーは奴隷商の男の元へ行き。


「ねぇ、おじさん。そこの獣人の子はどれくらいするの?」


 男はエリーのような少女が聞いてくる事も気にせず。


「そこの獣人か……金貨四十枚と言いたいところだが……お嬢ちゃんがかわいいから、特別に金貨二十枚で売らせてもらおうかな」


 そう言われ、エリーの表情が曇る。

 高いことは予想していたが、まさか金貨二十枚と言われるとは思わなかった。

 そもそも金貨が二、三枚あれば普通の家庭ならば贅沢をしなければ一年間は暮らしていけるほどの金額だ。

 二十枚。それがどれほどの大金か、少なくとも今の自分には稼げない金額だった。

 諦めよう。そうシエルに言いに行こうとすると、服を引っ張られる。


「シエル……残念だけど、あの子を買うことは──」


「できるよ」


 シエルの口から出た一言にエリーは目を丸くする。


「な…!?そんな事できるわけ──」

「ポイント、最初に千ポイントもらえるでしょ?金貨換算で十枚分。私とエリーのポイントで金貨二十枚ぶんになる」


 シエルの一言に驚いたという感情を通り越して呆れてしまった。


「そんなことしたら、私達一月飲まず食わずで生活することになるじゃない!いくらなんでも無茶ってレベルじゃないわよ!」


 エリーの至極まともな反論を聞いても、シエルは下りる気はないようで。

 さらに驚きの一言を放つ。


「それもどうにかできるよ。私たちだからこそ、だけどね」

「そんな事、できるわけ──っ!」


 エリーはシエルの言わんとしている答えにたどり着く。

 自分だから、つまり平民の編入生だからこそ可能で、かつ二千ポイントを消費しても、一月生活できる恐らく唯一の方法に。


「自分たちの地位を利用して決闘に勝つ…ってこと?」


 エリーの答えを聞いて、シエルは嬉しそうに微笑んで。


「ふふ、正解♪」


 確かに自分たちは平民、しかも山奥の村から来た言うなれば田舎者だ。

 貴族ならば蔑んだり、見下した態度をとることもあるかも知れない。

 だからこそ、とれる策だった。

 シエルとエリーが魔法が使えることを学院の人間が知るわけがない。

 だからこそ、その慢心を逆手にとれる。


「全く…シエルってばこういう時にすごいこと考えつくんだから………いいわ、その話乗ってあげる」

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