02-23 美しきは氷の華
レイカ・ノースウィンドは少し拗ねていた。
というのも、原因は最近の姉にある。
少し前に家が崩壊したお陰で、兄も姉も子供の頃のような柔らかい表情が戻った。しかし、姉・トウカはその度が過ぎた。
自分の兄であるレイトが現れたことによって、トウキが動揺するほどに甘くなっていた。
そして、正式に家を継いだあともそれは続いた。
「レイト、お昼ご飯にしましょう」
「兄様!お昼にしましょう!」
昼休みになると同時にトウカとディアナが教室に飛び込んでくる。
最初は驚いていたクラスメイトもすでに馴れたものだ。
「ディ、ディアナ!なんでそんなに早く走れるの!?」
「あら、遅かったですねローズさん」
「お前らなにやってんだよ」
「デューク、兄様は?」
「あれ?」
デュークが教室を見渡すにつられて、レイカもその影を探すがどこにも見当たらない。
「あの、レイトさんならさっき窓から飛び降りて行きましたけど……」
エリザが窓の方を指差しながら言う。
「まじかよ」
「さすがです、兄様」
「ディアナ、感心するとこじゃないと思いますよ?」
「お姉ちゃん、どうしてそこまでレイトさんに拘るの?」
思わず質問が口からこぼれる。
「それはね、弟だからよ」
「理由になってませんが」
レイカが呆然と呟く。
しかし、トウカの隣ではディアナが頷いている。
「わかります、その気持ち」
「解っちゃうんだ……」
「どっちも度しがたいブラコンってことだ……いででで!?」
「ん?何か言いましたか?デューク」
「謝るから!謝るから腕の関節外そうとするの止めろ!」
「それで、レイトはどこに?」
「そういえば、朝ライナさんがお昼に誘いに来てたような……」
「「「抜け駆けはさせません!」」」
ディアナ、トウカに続いてローズも廊下を駆けていく。
「というかローズもそっちかよ」
「デュークさんは追わないんですか?」
「いや、たぶんそこにいるだろ、レイト」
レイカの問い掛けに、デュークが誰もいない席を指差しながら答える。
「……さすが、我が友」
「魔力の気配ごと絶つなんてさすがだな」
空間がぼやけてレイトの姿が現れる。
「では、私が見たのは?」
「幻影だろ」
「いえ違いますよ。ちゃんと質量のあるゴーレムです」
「そこまで本気でするか!?」
「ディアナもトウカ姉も最近激しいから」
「夜の話か?」
デュークがエリザに殴られて床に沈む。
「流石にいっていいことと悪いことがありますよ」
「反省したか?デューク」
「ごめんなさい」
そんなやり取りを見ていたレイカがふふ、と笑う。
「あ、すいません。思わず」
「そんなの気にしなくていいのに」
「そそ、レイカ嬢なんか難しい顔でこっち見てたし、笑ってる方が可愛い可愛い」
「へ!?あの、冗談ですよね?」
「デュークさん、セクハラですか?」
「ちょ、エリザ。落ち着け、というかよく考えても見ろよ。兄貴があれで、姉貴もびじんで、もう一人兄貴がこれだぞ?美人にならない理由もないだろうに」
「言いたいことはわかりますけど……」
「というか、これって……」
「あ、あの、えっと……」
兄や姉と違い、レイカには幼少期のレイトとの記憶がない。
それは、両親がレイトとの接触を意図的に避けさせたせいであるが、兄や姉と同じように思い出があれば今こうしているときも、自然に楽しく普通に会話ができたのかもいれない。
「どうかしましたか?」
「え!?いや、あのえっと......なんでもないです」
「あんまり緊張しなくていいと思うぜ、気軽に”お兄ちゃん”って呼んでやってくれ」
「おい、デューク」
「え、あの......嫌じゃないですか?」
「というか、気恥ずかしいよね。クラスメイトにそんな風に呼ばれるのを」
「まあまあ、気にすんなよ。こいつも妹大好きのドシスコンだから、きっと喜んでるって」
「そ、そうなんですか?」
「あははは、殴るよデューク。エリザ、押さえて」
「ちょ、まって、謝るから。というか、尋常じゃない魔力が拳に乗ってる気がするんだが......」
「気のせい気のせい」
「微笑みながらこっち来るな!こえーよ!というか、エリザも離せって!」
暴れるデュークを威圧していると、教室の扉が勢いよく開く。
一瞬でレイトがドアと距離を取り、窓の際まで移動した。
「先生のお説教やっと終わったよ!」
「マキナ、もっと静かに入ってきなさい」
「あ、エリザ。それにみんなも待っててくれたの?」
「そういえば昼食まだでしたね」
「何もそこまで急いで逃げなくてもいいだろ、レイト」
「ああ、そういえばこれもまだだったね」
「ぴっ!?」
レイトがデュークの肩に手を置いた瞬間、デュークの身体中に電流が走りデュークが妙な悲鳴をあげる。
「今少し光りましたね」
「ご飯どうしよっか、今からいっても学食は混んでるだろうし」
「何か適当に買ってこようか?レイトさんたちもそれでいいですか?」
「「お願いします」」
「お、揃ったな」
「あ、デューク起きたんだ」
「お前、オレじゃなかったら死んでるぞ!?一瞬心臓止まったからな!?」
「無事でよかったよ」
「それじゃあ、適当に買ってくるね。マキナ行く?」
「行く!」
「あまり時間もないですし、軽くでいいですよ」
「私も、その、レイトさんと「お兄ちゃん」レイ「お兄ちゃん?」......お兄ちゃんと一緒で」
「エリザもデュークもあんまりからかわないようにね」
「嬉しいくせ......ぴっ!?」
「えっと、マキナいこっか」
「う、うん」
教室には床に沈んだデュークとレイトとレイカが残される。
「えっと、あの、お兄ちゃん」
「無理しなくていいですよ、ホントに」
「いえ、やっぱり、少しはちゃんとお話しできるようになりたいですし、あの」
「そっか、ありがとう」
「やったな、レイト。これでまた妹攻略成功だな」
「もう一回沈みたい?」
「……ごめんなさいでした」