06-25 英雄の旅路
ガタガタと音と揺れを感じてレイトが目を覚ますと、そこはまだ馬車の中であった。
外からは光が漏れているのでどうやら太陽は昇っているようだが。
「結局どこまで行くんだ?」
『んー……でも懐かしい雰囲気はあるね?』
「懐かしい?」
正面に出現したフレアがそうつぶやいたので、レイトが聞き返す。
『うーん、故郷って感じがする』
「という事は、目的地は精霊の谷か……?」
あいにく、外を見て景色だけで自分がどこにいるかわかるほど土地勘はなく、仕方なしにレイトはもう一度寝直すことにした。
『ありゃ、また寝るの?退屈だよー』
「そう言われても僕もすることないからねぇ……」
『フレア、主の体力回復を邪魔してやるな』
『というかあんまり騒いだらリディアが起きるわよ』
『おっと、そうだった』
レイトの肩に寄りかかってリディがすやすやと眠っている。
思い返せばリディアと初めて出会ったのは精霊の谷を出てすぐにある小さいながらも非常に整った街――スモックヘッド。
そもそもその街はスフィア家の領地であった。恐らく滞在するとなるとそこの屋敷であろう。
少しずれていたリディアの毛布を掛けなおしてやり、レイトは眠りについた。
そして、レイトが再び目を覚ました時、外から喧噪の音と、食べ物の匂いが漂ってきた。
そして馬車が停まる。
「街かな?」
「おはよう、レイト」
「うん、おはよう。よく眠れた?」
「少しお尻が痛いですけど……」
「まあ、そうだよね。で、ここからどうするのかな?」
「とりあえず、目的地まではまだまだ掛かりますので、この街で一泊しましょう。さすがにベッドで寝たいです」
「うん、いいと思うよ。それで、どこまで移動してきたのかな?」
「ええ、夜の間に3つほど街を飛ばしましたから結構移動しましたわ。とりあえず追いつかれるようなことはないと思うのですけど」
「うーん、じゃあ、明日出て、また一泊、明後日ぐらいにはスモックヘッドに入れるかな?」
「そうですわねぇ……って、私レイトにスモックヘッドに行くって言いましたか!?」
「まだまだ離れてるのに気配って感じるもんなんだね」
「え?」
「いや、なんでもない。じゃあ、降りようか?」
「はい。ここで馬と御者を交替して……ああ、宿はもう手配してますからご安心を」
「うーん、それもいいけど、正直お腹空いたから何か食べ物がほしいかな?」
「宿に入ったらすぐ食事にしましょうか。私も限界ですし」
以外にもなれた様子で馬車を預け、御者と馬の手配をしたリディアはレイトを連れて宿の受付へと向かった。
こちらにはすでに話は通っているらしく、すぐに部屋の鍵を渡される。
部屋自体に浴室がついているようなかなり高い宿だった。
その後、リディアは部屋に食事を持ってきてもらうように頼み、レイトの手を引いて部屋に入った。
「ん?ちょっと待って」
「どうしましたか?」
「同室?」
「え?―――あっ……」
ここまで完璧だったのに、まさかのうっかりが発動した。
お互い腐っても貴族なので、こういったことはあまりよろしくないが、
『まあ、もう、レイトがおとなしく攫われた時点でその手の話題はもう手遅れなぐらい膨れ上がってると思うけれどね?』
「言われてみれば」
「ああ、どうしましょう。信じてもらえないかもしれないけど、本気でそんな目的じゃなかったんですよ?」
「うん、まあ、君とローレンスの性格を知ってるからそれはわかるけどさ」
「あ、でも、既成事実作ってレイトと婚約っていうのも?」
「それ、他の精霊派の貴族と変わんなくない?」
「あの方たちはただ精霊の力の恩恵にあずかりたいだけですから」
『リディアは違うの?』
「ええ、フレア様。私はレイト自体が好きですからね!――って何を言わせるんですか!?」
『いや、勝手に言ってたのリディアだけど……』
「まあ、もう、何でもいいや。一月も一緒に行動してたらもう婚約は確定だろうし」
「え、本当ですか?」
「ローレンスもそのつもりだと思うなぁ」
『問題があるとすれば、ディアナが暴走してローレンス及びそのあたりの貴族狩り尽してないかという心配ね?』
「ああ、それもあったね?」
「一月経っても帰らずに領地にいた方が幸せかもしれませんわね」
「あー、それは同感かなぁ」
部屋の戸がノックされ、食事が運ばれてくる。
昼食には少し早い時間だったが、朝食どころか昨晩から何も食べてないため、腹はもちろん空いている。
「一応、携行食は馬車に積んでたんですが、あれ美味しくないんですよねぇ」
「だね。まあ、とりあえず食べようか。これからどうするかは明日の馬車で話し合おう」
「そうですね。そして、私がディアナさんを相手にして生き残る方法も」
「それはちょっと難しいかなぁ」
「そんなご無体な!」




