02-19 氷の贖罪
レイトのはなった魔法は、一撃で暴走精霊の身体を吹き飛ばすほどのものだったが、そこで戦いが終わるという事はなかった。
「なんて再生速度だ……」
「レイト、来るわよ。避けなさい!」
レイトが立っていた場所に極大の氷の柱が生えてくる。
それを身軽に躱していきながら、レイトは攻撃に転じるための機を狙っている。
「アドルート団長、とりあえず離れてください!」
「了解した!全員この氷の外まで下がれ!」
「グレイシア、防げそう?」
「少し厳しいですね」
「仕方ないか……当たらないようにしないとな」
レイトが、さらに精霊を呼び出す。
「フレア!ボルト!ノア!30%に抑えて、合わせてくれ」
「まかせて!」
「了解した」
「はい、わかりました」
「「「「《地を焼く業火、空を裂く稲妻、天を衝く激震よ、万象一切を破壊せよ》ハザキ・レラジエ!!」」」」
それは魔力の塊だったかもしれないし、巨大な火の玉だったかもしれない。
とにかく、レイトの放った魔法によって、目の前の風景が一瞬で破壊しつくされた。
爆心地と呼んでいたそこは、既に極大のクレーターができており、修錬室や屋敷のあった面影すら消失していた。
「なんという、威力だ」
茫然とその現場を眺めるアドルートが思わずそう漏らす。
「だが、これならさすがにアレも消滅しただろう」
そう期待を込めて、皆がクレーターを覗き込もうとする。
「離れて!まだ、生きてる!」
レイトの声が飛ぶ。
それとほぼ同時に地の底から氷の礫が噴き出す。
「ダメね、地脈にアクセスしているせいでどれだけ壊してもすぐ再生するわ」
「その接続を断ち切れば殺せるということか?」
トウキがレイトとルナの会話に割り込む。
「そうね」
「その手立てはありますが、それをすると、僕は少しの間動けなくなるので……」
「それこそ、オレの出番というわけだ」
トウキが、落ちていた剣を拾う。
どうやら父の持ち物らしい。その体をもはや塵になってしまったのか跡形もないが、魔力で鍛えられたこの剣だけは残っていた。
「……わかりました。グレイシア、トウキさんに最大限の加護を」
「お任せください」
「では、負の魔力を一瞬地脈にぶつけます。トウキさんは奴の首か心臓を狙ってください」
「わかった」
レイトが集中を始める。
周りの空気の質が明らかに変わり、レイトの周りだけ魔力も何もない空間が生まれる。
「行きます!」
負の魔力を纏った状態のレイトがクレーターに飛び込む。
トウキもそれに続く。
「ルナ、あの足元でいいの?」
「ええ、そこよ」
「あれは……?」
氷の怪物にしか見えないそれの足元に横たわる二つの氷塊。
それはまるで柩のように、2人の少女を閉じ込めていた。
「トウカ!レイカ!」
「なるほど、あの子たちを中継して地脈からエネルギーを吸いあげていたのね……」
「トウキさん、僕が断ったらすぐ攻撃してください。おそらく、貴方の全力にグレイシアの全力を上乗せすれば、あれにも攻撃は通ります!」
「礼を言うぞ、弟よ。そして、気高き氷精霊よ」
トウキの全身が白く輝き始める。
「ルナ、サポートよろしく」
「任せなさい」
レイトが先に暴走精霊の元へとたどり着き、ルナの攻撃によってよろめいた隙にその地点へ拳を振り下ろす。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、接続が切れたその隙に、トウキの剣はその体を3つに引き裂いた。
「やったか!?」
「力が、溢れる!?」
集まっていた魔力が、その型の崩壊によって一気に破裂しようとしている。
「ルナ、どうにかなる?」
「異様に純度の高い氷の魔力に変換されてしまっているから、私には難しい。ごめんね」
「なるほど、元は氷精霊だったわけだからか……それじゃあ、僕の兄妹を頼む」
「……ええ」
ルナが魔法で立ち上がれずにいるトウキと氷の柩に入った生死不明の二人を引き上げる。
「グレイシア、悪いけど。もう一度だけ無理に付き合ってくれる?」
「ええ、お任せを、私の主様」
一方、引き上げられたトウキは、クレーターの上からそれを見ていた。
「……アイツは何をしようとしているのですか?」
「多分だけど、あの魔力を無理やりどこかに封印するか、地脈に叩き返そうとしているんじゃないかしら……私が手伝えないから、成功率は高くないけれど……」
「レイト……」
今にもはじけそうでどんどん膨張していく魔力の塊の前で、レイトは考えていた。
「グレイシア、この魔力の塊を喰らう事はできますか?」
「やったことはないけれど、できないことはないはずです……でも、私もあなたもどうなるかわかりませんよ?」
「グレイシアがいいならその方向で行こうと思う」
「私は構いません」
「それじゃあ行こうか」
グレイシアに続いて呪文を紡ぐ。
それが終わるころには、魔力の塊は限界まで膨張していた。