04-25 高嶺に届く手
「あああああ!?もうヤバい!全身凍ったし!」
「デューク、だいじょぶ?」
「大丈夫じゃねええええ!?――あ?」
まさに顔まで覆い尽くそうという氷は口元に達すると同時に砕け散った。
「さすがに幼なじみを殺したりしないよな、はははは……」
砕けた氷を払って立ち上がると、巻きついていた鎖もゆっくりと解けて消えていく。
そして、床を見ると。
『次は最後までやるからね』とレイトの字で床に刻まれていた。
その字がゆっくりと消えていくのを見ながら、デュークは呟く。
「余計なこと言ったら親父死ぬんじゃないかな……」
「?」
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「ライナさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、です」
「何で敬語なんですか?」
ライナを抱えて屋根の上を飛び移る様に走るレイト。
レイトが踏んだ場所は一時的に帯電し、時には火花を散らしている。
「ボルト、なんだかいつもより強化の出力が強い気がするけど」
『主がクラモールと接しているせいか、いつもより活性化されているようだ』
「まあ、このぐらいなら問題ないか」
強く踏み込むと王城の門の前へ降り立つ。
「!?――何者だ……レイト様ですか」
「ごめん、ちょっとソアさんに急ぎの用があるんだ。通って大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「ライナさん、今日はソアさんは?」
「この時間なら宰相閣下と打ち合わせを」
「ナイスタイミングだね」
「まさか飛び込む気!?」
「大丈夫、負けないよ」
「そういう問題では――!?」
門を潜ると、力を込めて跳躍。屋根を伝いながら上の階へと昇り、指をぱちりと鳴らす。
すると、岩の壁が変形し、ゲートが出来上がった。
「ありがと、ノア」
『うん』
眼前には呆然とする王太子と宰相――養父、師団長――ソア、それに義兄が座っている。
「……レイト、何の真似だ」
「速めにご報告をと思って、父さん――ライナ・クラモール嬢を妻として迎えたいと思います」
「……なるほど。ソアの居場所がわかる時間に突っ込んできたというわけか……ライナ嬢はイサクの嫁でもよかったのだが……」
「ははは、宰相閣下。さすがに、弟にベタ惚れしてる人を嫁にはとれないよ」
「だろうな」
「うむ、この婚約、次期王であるオレが認可しようか」
「そうしていただけると心強いです、王太子殿下」
「それでは―――おい、ソア。かたまってないで何とか言ったらどうだ。お前の娘の縁談だぞ」
「はっ!?――夢かと思いまして。まさかうちの娘が選ばれる日が来るとは」
「ちょっとお父様、それどういう意味かしら?」
「どういういみでもないさ。ははは……」
「それで、レイトとの結婚は認めれてくれるのよね?悲願だものね?」
「うむ……しかし、魔術師として何の試練もなく娘をくれてやるのは……」
「いいですよ、試練の一つや二つ」
「ほんとうか?ならば――」
「ならば?」
「お父様、さっきデュークが秒殺されたって情報をあげるわ。よく考えてこの先の言葉を紡ぐことね」
「馬鹿者。そのような腕の持主ならば、是非とも相対したい。一体どんな魔術が出てくるのやら……」
「わかりました。訓練場でいいですね?先に行ってます」
「お父様、あとで後悔しても知らないから」
レイトが部屋を出ていくのに続いてライナも部屋を出る。
「おい、ソア。戦うのは別にいいのだが」
「殺さないように、か?」
「殺されないように気を付けろよ。あれは、結構加減が下手だからな、うっかり死なぬようにな」
「過大評価……じゃないみたいだな」
「上位精霊1体でもお前の身に余ると思うのだが」
「そこは経験だよ、グリム」
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「まさかこんな大事になるとは」
訓練場の周囲は観覧希望者で埋まり、そのなかには王の姿もある。
あちらこちらでどっちが勝つかという賭けが行われているようだ。
「準備はいいか、レイト」
「ええ、いつでも。でも1つ言っておきたいことが」
「なんだ?」
「僕は今回一度しか魔法を使いません。その予定です」
「よかろう」
「可能な限り派手な魔法で潰して差し上げます、魔術師師団長」
「試合開始!」
グリムの声と共に、ソアが単発の魔法をばら撒く。
レイトは避けるそぶりも見せずに、詠唱を始める。
「《我が血と集う聖霊の力を借り、世界を統べる意志へと命ず。我が敵は炎。我が敵は風。我が敵は雷。我が敵は光。我、求めるはそのすべてを灼き尽くす冷たき光――」
「父さん、オレ、レイトが詠唱しているところを見るの初めてなんだけど」
「ああ、不味いな」
「あー、親父やっぱり死ぬかも」
「お、デューク生きてたのか」
「あの呪文程じゃないけど酷いの喰らったよ。正直死んだと思った、というか温情が無ければ死んでた」
「ははは」
「イサクさん、笑い事じゃないっす」
ソアのばら撒いた魔法は全て見えない力に弾かれる。
「――天は砕かれ、その青は闇へと転ずる。砕かれた天は刃となりて我が敵を討つ。砕かられた天は盾となって我が敵を弾く――」
「くっ、やはり無理か――だが向こうから攻撃は!!!!?」
「――天より降り注ぐ蒼銀の麗光よ、我が身に力を与えよ。我が友人に力を与えよ。我が敵に罰を与えよ。聖なるを滅ぼし、魔を滅する麗光は――」
ソアの足元から突然火柱が上がり、鋼鉄の槍が飛来し、猛吹雪が襲い、蒼い雷が落ちる。
「精霊か!?」
「ご名答!」
笑みを浮かべる精霊たちに囲まれ、一瞬で防戦に持ち込まれたソアが必死で転げまわり攻撃を避ける。
「――月姫のもたらす祝福である。呪いである。この祝福は我が身を守り、我が友を護り、我が敵を討つ。降り注げよ、蒼銀の麗光。その静かなる怒りを以って、我らの勝利を決定づけよ――」
「その詠唱だけは止めなければ!」
「――降り注げよ、蒼銀の麗光。陽の時を砕き、我は告げる。我が心は闇、我が意志は氷、我が盾は雷、我が剣は炎、我が鎧は大地なり、レイト・ラガファヴァナ・N=ルナフォードの名に置いて命ずる、世界よ、我が敵を穿て――月姫蒼麗閃」
詠唱を終えた瞬間、天より一筋の青い光がレイトに降り注いだ。
それと同時に、真っ青な朝の空が広がっていた天上が砕け散り、光の欠片をソアへと降らしながら闇色に染まってゆく。
太陽が姿を隠し、月がその蒼銀の光を見せ始めた時、ソアの身へと極太の光の束が降り注いだ。
その一撃は訓練場の地面を焦がし、融かし、凍てつかせる。
誰もがソアの生存を絶望的と考えたが、収束した光線の中から、土の棺桶のようなものが現れ、割れ、中から気を失ったソアが出てきたところで皆胸をなでおろした。
「僕の勝ちでいいですよね?」
全員が頷いたのは言うまでもない。




