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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
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捕縛執行



 監獄の医務室。数人ボロボロになった監獄官が並び、そこにハルが現れた。

「ただいまですー。治療手伝えってことできたんですけど」

 並ぶ監獄官の中でルーシーだけがベッドに左手に手錠され、ベッドと繋がれている。非常に不機嫌そうでハルは話しかける勇気がなかった。

「あのクソ先輩め……覚えてろよ……あの女もいつか刺す……刺してやる……」

 殺気が恐ろしい。

 するとその近くでベッドに寝かされていたナツキがハルに気づき、痛みをこらえながらもハルに言った。

「おい、ハル……俺に痛み止めの魔法使え」

「は? 先輩アバラ逝ってるんでしょう? 安静にしといたほうがいいですよ。骨折治すのは時間かかりますし」

「それでも一発ぶっ飛ばさねぇと気がすまねぇ……!」

 気迫に押され気味なハルだが、今のナツキを下手に治すと本当に動きかねないことを心配し、控えめに言う。

「きちんと休んだほうがいいですよ。というか痛みを消すだけで治せは――」

「やれ」

 有無を言わせない声の低さにひっ、とハルが後ずさる。

「執行モード切れる前に早くしろ」

「あ、あとでどうなっても知りませんからね! ナツキ先輩!」











 エリューはアベルを抱えながら監獄5階のある部屋に息絶え絶えながらもたどり着く。

 なぜ息切れかというと、アベルとの戦闘で魔力の大半を使い果たしたので、アベルを引きずって5階まで運ぶということすら重労働になっていた。

 魔力による身体強化の恩恵も執行モードのプラス効果も使い果たした今、執行モードの副作用による疲労や気だるさ、血を流したことによる若干の貧血がエリューにのしかかる。

「ぜぇ……ぜぇ……つ、疲れた……誰か呼べばよかった……」

 捕獲した弟子を入れる檻がある部屋へと入る。そこには既にルカ、サラ、シルヴィアが一つの檻に入れられていた。

「あれ……俺、思ったよりも遅かったのか……運ぶのに時間かけすぎた……」

「ちょっとー! 出しなさいよ!」

 檻の中でシルヴィアがエリューに向かって叫ぶ。しかしエリューは「はいはい」と軽く流すだけで聞き入れず、壁にかけてある鍵を取り、指でくるくる回しながら檻に近づいた。

 檻の中では魔力が使えないのかサラがボロボロのルカを治療できず、布で止血だけしていた。そんなルカはどこか不貞腐れているようで、エリューを見ても何も言わない。

 が、アベルを見て僅かに眉を動かした。

「さてさてちゃっちゃと入れて――」

 気絶したアベルを持ち上げようと床に手を伸ばそうとして、掴まれた。

「……えっ」

「入るのはお前だ」

 エリューの体は宙に浮き、混乱したまま檻に叩きつけられ、そのまま気を失ってしまった。


「アベル、気絶した振り下手だよ」

「うるせぇ、あれにバレてなかったからいいだろ」

 ルカたちを檻から出して、代わりにエリューを檻に入れて鍵をかけておく。ルカは檻から出たあと簡単にだが治療魔法で回復させ、魔力回復促進の飴を口に突っ込んでおく。

「途中まではマジで気絶してたんだけどな」

「つまり負けてはいたんだ。自分より格下に?」

「お前なんでそこさっきからつつくんだよ」

 若干いじるような口調にアベルも反応に困る。なんだかルカの機嫌が悪い。

「そんなことより、早く逃げ――」

 シルヴィアが全員を急かすように言った瞬間、ルカとサラが弾かれたように顔を上げた。

「結界が――」

「壊れた――!」

 ルカは部屋から駆け出すと同時に、廊下の一番近くにあった窓を開け放つ。

 自然に開いた窓。外は監獄の内庭だろうか。塀は離れたところにあるため届きそうにはないが庭に降りるくらいはできそうだった。

「シルヴィア、アベル。二人共受身とれるくらい元気残ってる?」

「当然でしょ!」

「余裕」

 5階なので結構な高さがある。窓から4人は飛び、それぞれ受身を取ろうと――


「っ!? サラ!」


 突如、乾いた破裂音が響き、サラの体を打ち抜いた。

「まずは一人―っと」

 サラがぐったりとその場に落ちる。落下の衝撃はなんとか抑えたものの、魔力弾によってか動きが明らかに鈍くなっている。

「動くなよ」

 そこにいたのはコーダ一人。どこか据わった目でルカたちを睨む。

「アルが眠ってるから誰の仕業かと思ったが……お前らじゃなさそうだな」

 そう言って倒れ伏すサラに銃口を向ける。

「投降するなら武器を捨てて伏せろ。その気がないなら……わかるな?」

 浮かれた表情を微塵も見せないその様子にシルヴィアはぞっとする。しかし、それとは対照的にルカは殺気を隠しきれていない。

「ルカ、お前――」

「サラに手を出すな」

 アベルも言葉を失うほどの低い声。コーダはそれを聞いても表情ひとつ動かさない。サラは脂汗をにじませてルカを見る。しかし、魔力弾の影響か言葉を発することができないようだ。

「手を出して欲しくないならそれなりの行動をしてみるんだな。ひれ伏せ、って言ってるんだよ」

 高圧的な発言にルカは舌打ちするが、武器を捨てようとはしない。ここで捨てたら間違いなく逆戻りだということは誰にだってわかることだからだ。

「……武器を、捨てないってことはそういうことでいいんだな?」

 確認するわけでもなく、自分に言い聞かせるようにコーダは呟く。

 次の瞬間、サラに魔力弾が撃ち込まれる。

「がぁっ……!」

 動けないサラはその場でのたうち回ることしかできない。ルカにはそれがなんなのかわかった。

 懺悔の銃痕。撃たれた者はしばらくの間苦痛を味わう拷問用の銃術だ。出血はしないものの、痛みだけが継続し、撃たれたところには効果が切れるまで銃痕のような印が残る。

「あ、ああああああああっ!!」

 苦しみの声をあげるサラ。その刹那、アベルがコーダに接近する。しかし、コーダは視線すらアベルに向けることなくアベルの一撃を“素手”で受け止めた。

「俺はこういうの趣味じゃないんだが」

 そう言って瞬時にアベルの背後に立って、反射的に振り返ろうとしたアベルを撃ち抜く。魔力の発光からして同じ懺悔の銃痕。

 一瞬、撃たれた直後はこらえようとしたようだが、アベルも耐え切れずそのまま地面に崩れ落ち、痛みをこらえるように呻く。

「あと二人……」

 まるで事務作業を淡々とこなすような声音。コーダはゆらりとルカのほうを向く。ルカは移動してサラを抱えながらコーダを睨む。

「荷物抱えたままで俺から逃げられるとでも――」

「――“ハルト(止まれ)”!!」

 ルカの魔法は一瞬敵の動きを止める簡易的な停止魔法。肉体の動きを一時的に止めるため、拘束力はほんのわずか。恩恵といえば詠唱が短い、もしくは熟練者ならなくても効果を十二分に発揮できるという点だろう。

「その程度で――」

 言ってからコーダはある見落としに気づく。しかし止められた一瞬で視線を動かすこともできない。

 元々近距離ではなく、遠距離中距離で真価を発揮する弓使いの存在を。

 そして、その動けない一瞬が、その相手にとってどれだけの隙かということを。

 停止魔法が切れる寸前、コーダを撃ち抜いたシルヴィアの魔力矢は腹部を貫通し、コーダの体を傾けた。

「ちっ……俺も、鈍ったな……人の、こと、言えねぇ……」

 腹部から血が流れ、コーダは意識を失う。死んではいないものの、しばらく動けないだろう。

「シルヴィア、よく僕の停止魔法に反応してくれたね」

「そりゃ撃つタイミング見計らってたもの。私のことあんまり気にしてなかったから、十分魔力込められたしね」

 マークされていないシルヴィアだが、本来は場所さえよければユリアに匹敵する実力の持ち主だ。屋内や人工物の多い場所では種族的な効力が発揮できず、本職ではない槍で戦っている。近距離での弓はタイマンで勝つのがとても難しい。だからこそ、今のようにルカが足止めをすると高威力で相手を撃つことができるのだ。停止していなければ、避けられてそのまま反撃されていただろう。

「シルヴィア、アベル抱えられる?」

「仕方ないわね……頑張るけど、二人共治せないの?」

「……僕じゃ治せそうにないからこんなに機嫌悪いんだよ」

 うつむきながら舌打ちするルカを見てアベルの肩を支えたシルヴィアはため息をつく。サラが傷つけられたとはいえ、分の悪い勝負をするなんてルカらしくはない。

 なにかあったのだろう、と推測はするが触れはしない。


 自分たちはミラの共通の弟子であって、それ以上でもそれ以下でもない関係だ。

 本当ならお互いの傷に踏み込む理由なんてない。


「さて、逃げられる? 壁越えて逃げる?」

「したいけど二人抱えたままでできる? 悠長に浮遊なんてしてると見つかるだろうし」

「どこかに裏口とか……正門はまず間違いなくアウトだし」

「壁は……壊してみるのもいいけど監獄官に位置がバレるね」

 時折、サラとアベルは苦痛で呻く。それを聞いてルカもシルヴィアも不機嫌そうに眉をしかめる。監獄官の気配に気を遣いながら内庭を歩く。裏口らしきものが見え、更に注意深く罠がないかルカが魔法で探知する。

 すると、その前に何か破壊音のようなものが聞こえてくることに気づき、ルカとシルヴィアは身構える。すると、すぐそばの壁が壊れて監獄内部から監獄官が一人立ちふさがった。

 出現のインパクトもさることながら、その人物は、最初にユリアにやられていた青年であることにルカは気づき、動けていることに驚愕する。

「見っけ」

 それだけ言うと目にも止まらぬ早さでルカに迫る。咄嗟に、先ほどと同じように停止魔法を発動させようとするが、魔法が完成する前に腹部に鈍痛が走る。

「がっ――」

 腹部を殴られ、そのまま服を掴んで青年はルカとサラを引き離し、ルカを瓦礫の中に叩きつけた。

 その間、シルヴィアはなりふり構っていられないと判断したのか、アベルをすぐさま手放し槍で青年に攻撃する。しかし、ルカを叩きつけた直後、青年はシルヴィアの槍を掴んで動きを止め、そのままシルヴィアを横薙ぎに蹴り飛ばした。

 シルヴィアは声を上げる間もなく地面に倒れ、意識を失う。ルカは、傷口が開いたのと、頭部から血を流しているためかだいぶ意識が朦朧としている。

 今のままでは魔法は使用できないだろう。

 しかし、意識があると判断した青年は、ルカを踏みつけトドメを刺し、溜息を吐いた。

「……本命がいねぇ」

 自分に手傷を負わせた人物がいないことに苛立ち、そして痛みを一時的に消していることから壁に手をついて呟いた。

「……さすがに、これ以上動くとまずい、か」


 しばらく再起不能であろうルカ。意識のないシルヴィア。懺悔の銃痕でしばらく無力のアベルとサラ。それらが回収されたのはナツキを追ってきたハルが惨状を目の当たりにして応援を呼んでからのことである。






ナツキはブーストかかってるかつ実質ルカとシルヴィアだけ相手なので強く見えるだけでコーダやアルよりも弱いです。それでもまあ結構強いので微妙なライン。ルカとシルヴィアみたいな遠距離タイプはナツキに弱い。コーダはシルヴィアを甘く見てなければ勝ってた。

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