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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
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折檻執行





 冷たく静かな空間が広がっている。しかし、なにかある、とはっきりわかるだけ存在感。時折、二手に分かれた道で左に行こうとしたのに右に引きずられるような感覚に陥ったりと不思議なことが数度あったが特に誰かの妨害がはいることなく進んでいた。

 ユリアと並んで進む。二人で並んで歩いても通路は余裕が有り、そこそこ広い。

 底知れない闇が自分を誘うように体が動く。


 この先に、何か――。

 刹那、避けなければという直感が働き、体を傾けると今まで自分の頭があった場所に向かって短剣が飛び、近くの壁に突き刺さった。

「止まりなさい」

 涼しげだがわずかに焦りが浮かんだ声。

 投擲用の短剣をもう一本手にしてこちらを睨んだ監獄官――監獄副獄長のサヨさんは警告の言葉を続けた。

「どうしてここがわかったかは知らないけれど、これ以上の侵入は許さないわ」

 まるで、その先に大事なものがあると言わんばかりに言うと逆に行きたくなると言うが、この人相手だと素直に従ってしまいそうになる迫力がある。

 先ほどの黒髪の監獄官より更に強いであろうこの副獄長相手に勝てるとは思えない。ユリアもどこか表情が引きつっている。

 しかし、大人しく投降したところで嫌な予感しかしない。

「……どうする、ユリア」

「どうやっても駄目なら、最後まで頑張ってみませんか?」

 ユリアがどんどん脳筋というか好戦的になっていくけど大丈夫かな……。

「ま、一理あるけど」

「――子供が調子に乗るものじゃないわ」

 サヨさんの姿が消えたかと思うと俺とユリアの間に現れ、短剣と刀で二人相手に同時に斬りかかる。ユリアも俺もとっさの防御で剣による弾きを行ったがサヨさんは弾かれた短剣と刀を手放し、俺に回し蹴りで攻撃してくる。その武器のない無防備なサヨさんにユリアが手に持つレイピアとは別のレイピアをクロークから空中に出現させサヨさんの動きを封じ、通路の奥へと進んだ。

 サヨさんははっとして、レイピアを叩き落とし、ユリアを追う。この反応からして、奥にあるものは相当重要なものだとわかる。

 しかし、俺を無視してでも止めようとすることからかなり焦っていると思われた。扉で封鎖されていれば焦らずとも通れないのに。

 もしかしたら、ここに入るのに俺たちが最初制限がかからなかったこともあってこの地下エリアへの侵入は想定外なのと、監獄官以外の出入り禁止がかかっていないのかもしれない。

 背を向けたサヨさんに後ろから斬りかかるが軽く弾かれる。別に倒すことが目的じゃない。ユリアのための時間を稼げればそれでいい。そのはずが全く気を引けていない。隙だらけのはずの背中に一撃も当てることができない。


 ユリアがたどり着いた小部屋には白く光る宝石。こぶし大ほどで圧倒的力を感じた。

「これが――」

「下がれ」

 サヨさんが追いついてユリアの胸ぐらを掴み、ユリアの体ごと壁に押し付けた。

 手に出現させた手錠は魔力封じの効果のある代物。

 ユリアにそれをかけさせる前に俺がサヨさんに斬りかかり、手錠をはじき飛ばそうと腕を狙ったが、読まれたらしく斬りかかったタイミングを狙って手錠の輪の部分で剣先を捉え手錠を引っ張って俺のバランスを崩そうとしてきた。 剣から手を離してサヨさんから距離を取るついでに宝石に近づくがサヨさんはユリアを床に叩きつけると同時に俺の足に蹴りを入れて動きを止めた。

「この悪ガキが……!」

 サヨさんが立ち上がって手にした手錠をユリアの手首にはめようとする。俺とユリアの実力を見てどちらが危険かを考えた上でのことだろう。

 だが、今は俺の方が咄嗟に動ける。

 サヨさんも遅まきながら気づいたのか振り返って宝石を守るように俺と向き合う。しかし、こちらのほうが動きが早かった。

 予め魔力を込めておいた秘密兵器。それは魔力強化によるダメージ倍加エンチャント付きの短剣。

 サヨさんはそれを左に避けようとするが、一瞬動きを止めた。このまま避ければ背後の宝石に短剣が当たってしまう。

 その僅かな迷いがもたらしたものは、サヨの右もみあげをざっくり切り落とし、そのまま勢いよく宝石まで飛んだ短剣が驚異の威力で命中し、音を立てて宝石が砕け散った。


 それと共に、警戒音ともいうべきアラームが鳴り響く。


「……やってくれたわね……」

 髪が切れたことを気にも留めず、携帯水晶を取り出して淡々と言葉を紡ぐ。

「全監獄官に通達。監獄の基本結界の核が破壊されたわ。直ちに現在の業務を中断し、囚人が脱獄しないよう確認を急ぎなさい」

 据わった目でこちらを見つめるサヨさんはいつの間にか両手に先程まで使っていた刀よりも短い、どちらかというと短剣に近いサイズのもの、短刀を手にしていた。チラリと、足元と天井を見つめたかと思うとため息をつく。

「こんな子供に……本気なんて、出したくなかったのだけれど……あれを壊されてしまった以上仕方ないわね」

 言って、空中に小さなジュエルを投げたかと思うとそれを短刀で『砕いて』みせた。


「――『折檻執行』」


 強風が吹き荒れると同時にサヨさんの姿は掻き消え気づいたら俺たち二人の背後に立っていた。

 振り返ろうとして――体が動かないことに気づく。

「喜びなさい。せっかく私が執行モードまで使ってあげたのだから」

 必死に体を動かそうとしても微動だにしない自分。ユリアも同様で苛立ったようにサヨに言った。

「なにを、したんですか――!」

「あら、手の内を明かすほど私は落ちぶれていないわよ」

 わずかに首が動いて後ろが見える。

 そこには床に刺さった二本の短刀。いや、床ではなく、『影』に刺さっていた。

「出し惜しみしたことが私の最大の敗因かしら。さて、このまま連行してもいいのだけれど……」

 何もない手に先ほどまで使っていた刀を出現させ、ユリアの足の影に向かって刀を突き刺した。

 それと同時に、ユリアの足はなにかに貫かれたかのように血が噴き出し、ユリアも痛みで目を見開いた。

「なっ――くっ……!」

「少しは痛い目見てもらわないと、釣り合いが取れないのよ。あの結界の核はね、あなたたちのためだけに張った結界とは違う、監獄の基本結界よ」

 そう吐き捨てて俺の顔のすぐ近くで何かを切り捨てるような動きをすると同時に忌々しげに舌打ちする。

「あの女……よくも私の目の黒いうちにこんな真似を……」

 その表情は憎悪、嫌悪、とにかくあらゆる悪感情を詰め込んだような、複雑な表情。

「女囚のくせに……できないから面倒なのよ……今夜にでも内臓引きずり出してやる」

 それと同時に 刀が虚空を切る。

 一拍遅れてその一閃は俺たちの影を切り裂き、背中が裂けた。

「――あああああっ!!」

 ユリアの絶叫が耳にこびりつく。俺は声を上げるまもなく意識が飛びかけた。

「いっ、てぇ……!!」

「……ああ、もう一人出てこられても困るわね」

 刀の柄で強く殴打され、今度こそ本当に意識を失った。











「あらあら……せっかく脱獄できるかと思ったのに、あの女も目ざといわね……」

 女は暗闇の中微笑する。

 結界の核までケイトたちを誘導してみせたはいいがどうもうまくいかない。

 サヨがケイトの目の前で何かを切って捨てたような動きをしたのは、ようやく繋げた女とケイトの間にあった細い糸。これが切られた以上、再び繋ぐにはまた時間がかかる。

「まだあの子じゃ無理、か。仕方ない、もう少し様子を見ましょう」


 どうせ、もうあの子は私から逃げられない。


 女は狭い独房の中で嗤う。


 いずれ訪れる、その日を思いながら。



クラウィス>>>超えられない壁>サヨ>コーダ>アル>>ナツキ>>エリュー>ルー、ハル。

どうでもいいですけどこの世界、バレンタインとかはあるのにクリスマスは存在しません。

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