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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
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不戦:ユリアVSアル




 ケイトを抱えながら歩くユリアの足は遅い。だからこそ周囲を警戒し、細心の注意を払っていた。

 このまま外に出ることは不可能だと判断したユリアは結界の核を壊すことを考えていたが、問題はその核がどこにあるかがわからない。巧妙に隠された核があるとしたら建物の中心部。もしくは最上階ということも考えられるが今からそこへ向かうことに、ユリアは躊躇する。ケイトを抱えたままでは恐らく無理だ。

(……最悪、人質でもとりますか)

 とても子供とは思えない発想をケイトが聞いたらどう思うだろうか。

 しかし、不気味なほど人の気配はない。先ほどまではまばらに人の気配があったのだが蜘蛛の子散らすように消えてしまった。

 考えられるのはどこかに退避したか、別の場所で潜んでいるか。

 ふと、廊下の奥から気配がし、ユリアは息を飲んだ。

 気配を消してこっそり近づく必要もないと言いたげにまっすぐこちらに迫ってくる。

(やるしかありませんか……)

 覚悟を決めてケイトを壁に寄りかからせて戦闘態勢に入る。まともに使えるレイピアの残数はまだ8本ある。魔力はまだ余裕があるが体力が少し危険だ。長引くと不利になりかねない。

「……どうやら、決めたみたいだな?」

 武器をまだ出していない黒髪の監獄官、アル。目を細めてユリア、と壁にもたれかかるケイトを見る。

「2対1になると思ってたんだがな。まあいい」

 手にトンファーを出現させだらりとした様子にユリアは舐められていると思い、一瞬眉根を寄せるが慢心している相手なら隙を突きやすい。今はとやかく言っていられない状況なのだから。

 無言の睨み合いが3秒ほど。先に動いたのはユリアで出し惜しみはせず技と魔法を発動させる。

 レイピアの連続突きによる移動不能の状態異常を与えるスラストームブを繰り出すが攻撃の直前に瞬間移動したかのようにユリアの前から掻き消え背後に回る。しかし、ユリアもそれがわかっていたのかアルが後ろから攻撃しようと振りかぶる瞬間に風の斬撃魔法を発動させる。一撃だけ肩口を掠めたが、それ以外はトンファーを硬化させて防ぎ、トンファーを回転させて長い部分をユリアの喉元に向けて突く。それを回避しようとのけぞったユリアに、回し蹴りで体勢を崩させ、ぐらついたユリアの腹部に魔力強化による硬化トンファーの突きを直撃させた。

「かっ……あぐ……っ」

 もろにくらったユリアはわずかにだが血を吐き力なく腕を垂らす。それを確認したアルはそのまま突き放して倒れたユリアを抱えようと手を伸ばす。

「――っ!?」

 背後から何者かの攻撃――。

 咄嗟にトンファーでガードしたが気配に気づけなかったことにアルは驚きを隠せなかった。あまり重いとは言えない一撃だが、食らっていれば多少の怪我は負っていた。

「いつの間に……っ」


「さっきの間だよ!」


 満身創痍のケイトがそこにいた。





 気づいたらユリアと監獄官が戦っていて一瞬混乱したけどユリアが劣勢だったので加勢すべきだと判断した。しかし普通に攻撃しても気配察知ですぐ気取られる。

 元が少なくてもまだ魔力はだいぶ残っている。修業中、成功率は低かったものの使える部類の技を使う。

 気配遮断ランク4。ランク10まであるので低いほうだと思うだろうが7が普通の人間の限界だ。気配察知でも感知されず近づくことができるというものだが俺の場合数秒しか持たない。正直仮とはいえランク4習得できたことにミラさんが驚いたくらいだったので難しい部類の技術だ。普通に気配を消すのとは違い、魔力を消費する技の部類なため穴も多いがこういった奇襲に使うのには悪くなかったりする。

 のだが――


「――っ!?」

 背後から剣でひと振り、しようとした瞬間気づかれた。

 トンファーでガードされ、トンファーの異常な硬さに愕然とすると同時に最終手段であった気配遮断奇襲が失敗して半分やけくそ気味だった。目を丸くして驚いていることから俺からの攻撃は想定外だったのだろう。気づかれたけどな!

「いつの間に……っ」

「さっきの間だよ!」

 ぶっちゃけ奇襲失敗後のプランを全く考えていなかったため競り合いを弾いて睨み合うと今更ながらに冷や汗が止まらない。

 やばいよこれ、さっきのキチ監獄官より強い人だよ。魔力感知力低い俺でもわかるもん、魔力量の多さ。

 というかユリアがやられていたことから俺勝てないの、わかりきってたことじゃん。

「……気配遮断か。ま、運がなかったな。その手の技は慣れている」

「ですよねー……」

 ふと、相手の視界に映らないところでユリアが静かに起き上がるのを目にする。

 ユリアは目にも止まらぬ速さで監獄官に襲いかかるがトンファーで軽くいなされてしまう。隙ができたとこちらからも斬りかかるが、ユリアへの注意も忘れずもう片方のトンファーで俺の剣を弾き、トンファーを回転させて手首へ攻撃してきた。

 剣を落とすのが目的だとわかり、即座に距離を取ると、なぜか俺の背後に監獄官がいた。

「お前らじゃ俺には勝てないよ」

 まずい、と思うその瞬間、ユリアがレイピアではなく短剣を投げて俺の背後にいた監獄官を牽制する。注意が逸れたその一瞬、俺は監獄感から離れ、ユリアのそばまで移動した。

「ユリア、体大丈夫か」

「まだ平気です。骨は折れてませんし、内蔵のダメージは応急処置ですが治しました」

 それ大丈夫って言わない。

 正直、俺は怪我を負った割にはまだ動けるし、恐らくユリアの治療済みなんだろうがこのままずっと続くと厳しいものがある。

「逃げ……は無理そうだな」

 こちらを睨んでいる監獄官の速さは確認済みだ。おそらく逃げ切れない。


「なにか――」


『おいで』


 時が止まったかの様な錯覚。この場にいる誰でもない声が聞こえる。


『あの時、力を与えたでしょう?』


 知らない、声のはずなのに。


『ほら、手を出して。私の可愛い坊や』


 どうして、体が、声に従ってしまうんだ。


「……眠れ」

 手を伸ばして監獄官に向けて呟く。

 それは半ば俺の意思ではなく、しかし俺は無意識のうちにそれが何かわかっていた。

 キーンと甲高い音と共に監獄官が頭を押さえ出す。苦しんでいるというより、抵抗しようとしているようだった。

「なっ、ん……」

 やがて、膝から崩れ落ち、そのまま倒れ伏した監獄官。ユリアは不思議そうに監獄官を見るが、眠ってしまった監獄官を見て更に疑問符を浮かべていた。

「眠って……? 今の、ケイト君何かしたんですか?」

「した、のか……?」

 自分でもよくわかっていない。ユリアもわからないとなると俺たちでは解明できないだろう。

「まさか俺の秘められし力が目覚め――」

「違うと思います」

「だよな」

 知ってた。

 あまりにも真顔で即答されたもんだからちょっと悲しい。

 目を覚ますようすのない監獄官。どうやら普通に眠っているようだがあまり顔色はよくない。

 ふと、自分の手のひらを見ると既視感を覚えた。しかし、頭痛によってそれはかき消され、再び声が響いた。


『おいで』


 その声に従うかのように足は勝手に動き出す。

「ケイト君?」


「――――ンテ様」


「ケイト君!」


 甘く、吐き気を誘うその声にすがるように足はある場所へと向かう。

 誰もいない監獄の受付。更にその奥に見える部屋に扉はなく、受付で使う書類等が置かれていた。

 それらのものに一切興味はなく、ただ、奥の壁に触れる。


「ケイト君!!」


 ぐい、っと力強く腕が引かれはっとする。気づいたら先ほどとは違う場所にいて、なぜか壁に手をついている。

 腕を掴むユリアの目は不安げで、異常なほど強く掴んでいた。

「私がわかりますか……?」

「あ、ああ……」

 まだ心もとないのか手をしぶしぶ離すユリア。あんなに強く掴むほど俺はどうかしていたのか。手を伸ばした壁をなんとなく押してみるとガコッという何かの起動音がする。

 壁が動くと同時に地下へと続く階段が現れ、なんでこんなところに?という疑問を浮かべながら今の場所を確認する。

 受付の裏。人の多いところに普通気づかないような地下への入口。

 ……何もないとか逆にそれこそありえないだろう。

「……行ってみるか?」

 ユリアは無言で頷く。嫌な予感半分ともしかしたらという予感。

 しかし俺たちに逃げる道は残っておらず、どうにか結界を壊すことしか脱出の術はなかった。




これでもコーダ>アルなのでコーダは相当手抜いてます。アルは本気出す前にアボン。正直監獄ってダンジョンすっとばしてボス戦みたいなレベルなので負けても仕方ないし監獄官は情け容赦ない。

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