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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
89/116

分散






 それは本当に突然だった。

 ルカが同時に魔法を使い、部屋の床にヒビをいれてみせたのだ。

 床がヒビ割れ、俺とシルヴィア、そしてサラとアベルが驚愕に目を見開く。

 動けたのはユリアとアベル、そして行動に移したルカ本人。先ほどの女性と怪我した男は範囲外だったので影響を受けず、俺は素っ頓狂な声をあげる。

 そして、俺、サラ、シルヴィアはひび割れた床から見事に階下へと落ちた。

「ちょっ――」

「逃げろ! こいつらは僕らがどうにかするから」

 ルカの切迫した声が徐々に遠くなっていくのを感じた。






 落ちた三人を目ざとく追いかけようとアルと呼ばれた男が動こうとするが、コーダがそれを手で制し、にやにやと意地の悪い笑顔を浮かべた。

「あれぇ?人数減らして不利になったんじゃね?」

「そうでもないよ」

 ルカが不愉快そうに二人の監獄官を睨む。

 アベルはなぜか息苦しそうにしていたが、槍を構えて舌打ちする。

「逆に、ルカにとっちゃあいつらいるほうが邪魔なんだよ」

「その言い方は誤解を招くからやめてほしいけど実際、狭い空間にあの三人いると下手に魔法使えないしね」

 完全に三人を足でまとい扱いしている節があったが、コーダはそれを聞いてぷっと吹き出した。

「いやぁ、わかるわそれ。俺もアルも協調性ある戦いするわけでもないからな」

「お前と一緒にするな」

 心底うざったそうにアルが吐き捨てると怪我して動けない監獄官とそれをそばで見守っている女性監獄官に声をかける。

「おい、エリュー! お前はこいつらの引き続き相手してろ。ナツキ。お前は援軍がもうすぐくるからそいつらに運んでもらえ」

「俺の優先度は最低レベルですかそうですか……」

 少しふてくされたように言う男。女性の方は相変わらず楽しそうに目を輝かせた。

「はいっす! せっかく執行モードになったことですし、全力でやりますよー」


 執行モード。ある程度務めた監獄官が実行できるいわゆる強化状態。特殊な効力を秘めたジュエルを砕き、解放ワードを発することによって通常状態より強くなれる。具体的にはかかっている身体強化の向上、魔力の一時的な増加、戦闘における全能力の上昇と、その時のみ使えるある特別な技を扱う権利。元々は罪人を捕えるために一部の監獄官に与えられた力だったのだが、量産体制が整って以来、ほとんどの監獄官が所持している。

 なお、使った反動というべきか、副作用のようなものもある。


「コーダ先輩とアル先輩は執行モード使わないんですかー」

 女性が呑気そうに問いかける。すると、二人はそれぞれ違った反応を見せた。

「んー、反動がめんどうだし、使うとしてももう少し後かな。俺は」

「今使う必要性を感じない」

 会話の隙を見てルカは階下の様子を探る。三人とも姿が見えず、ここから離れることはできたようだが、なぜか更に下へ続く穴があいており、誰か落ちたのではないかと心配になる。

(あー、逃がしたの下策だったかな)

 そんなことを考えつつ魔法を3つほど構築していくルカ。

(……あちらの二人の動きが読めない。危険だと感じるのは金髪の方ですが、黒髪の方は放っておくと後で面倒な予感がします)

 ユリアはどちらかというと相手の動きを見てから攻撃に入るタイプだ。そのため、手の内を見せない彼らに対し、若干の恐怖はある。

「じゃ、俺女もらうわー。お前ら男よろしくー」

「……それぞれ分断する気か?」

「え、俺個人戦の方が好きだし。ていうか監獄官に団体得意なやつの方がすくねぇだろ」

「……ったく、まあいい。俺は魔法使い相手にする」

「じゃあ俺槍のやつですねー!」

 金髪の男、コーダがユリアを。

 黒髪の男、アルがルカを。

 先程まで戦っていた槍使いの女、エリューがアベルを。

 それぞれ狙いを定めた獣のように、彼らは嗤う。


「その前に――」


 ユリアが誰よりも速く、コーダの喉元を狙って突き刺す。ルカも動きを一瞬視認できなかったほどだ。しかし、気づかないうちに至近距離に迫ったユリアに驚くこともなく、コーダは屈託のない笑みを浮かべて言った。

「お前、わりと自分に自信あるだろ」

 コーダの手には何もない。何もない手でレイピアを見もせず止めてみせた。

「っ!」

「多少自信があることはいいことだが、敵地ど真ん中ではまだまだガキだな!」

 掴んだレイピアを伝ってユリアの腕を掴むと同時にコーダとユリアの姿がそこから消え失せる。

「ユリア!」

 ルカは接近を阻止しようと氷の壁を出現させる。もちろん、これでは扉に近づけないが先ほどユリアが男を吹き飛ばした際に空けた隣の部屋に通じる穴がある。そこからルカは隣の部屋へと移る。途中、倒れている男を少し踏んだが気にも留めず氷の壁で怯んだ残りの二人が来る前に、予め無言詠唱で発動ストックしておいた魔法をすぐにでも撃てるように構えていると、氷の壁を砕いて飛び込んできたアルに氷の刃を連続で放った。

 しかし、アルはまずトンファーで最初の数発を弾き、足を狙った刃の一つを靴の裏で止めて弾き返す。恐らく魔力強化により、靴の硬度などを上げたのだろう。あえてルカを狙って弾き返した刃をルカは大きく体を動かすこともなく避ける。アルは、第三発目の刃を避けようともせず、一度トンファーを仕舞ってルカの懐に飛び込んできた。

 残りの刃を紙一重で避けきってルカの頭を狙ってトンファーを打ち込む。が、ルカはそれを接近戦状態に変化させたチャクラムで受け止め、わずかに引きつった表情で言った。

「靴で弾き返すとかどこの曲芸師ですか」

「たいしたことをしているつもりはないが?」

 言い終えてすぐにぶつかり合っていたトンファーが徐々に腐食していくのに気づいたアルが後ろに下がろうと跳ぶが、着地を狙って足元に仕掛けたトラップが作動し、鋭い鉄のトゲがアルの足に突き刺さった。

「……」

 しかし、無言でそれを引き抜いてアルはため息をつく。

「強い方三人のうちの一人でこれか……」

「何が言いたい」

 アベルと女監獄官はすでにいなくなっており、移動したとみられる。

(ああ、なんで別のとこいっちゃうかなぁ、アベル)

 自分のことを棚に上げて叱咤するルカ。このあたりがまだ子供とも言える。

 階下の様子はわからない。どうにか無事に逃げ切るかしてくれていることを願うが……


(やっぱり、下策だったかなぁ)


 不安しかなかった。


次回から視点がころころ変わります注意。

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