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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
88/116

監獄官の合流



 6対2。圧倒的有利な条件であるにも関わらず、俺たちは押しきれない。

「このやろっ!!」

「――っ!!」

 俺とアベルの斬撃をどちらも紙一重で避けたかと思うと男はグローブがあるとは言え武器を掴んで壁に叩きつける。咄嗟に受身を取ったものの、一歩及ばない気分で、アベルがわかりやすく舌打ちしている。男にルカの魔法が向けられるがその魔法も予期していたのか回避してみせた。

 一方、ユリアとシルヴィア、サラは女性の方にどちらかといえば防戦を繰り広げている。

 ユリアはなんの意図があるのか武器を出さないし、シルヴィアは槍であるが動きが全然違う。元々弓使いのシルヴィアにとって槍よりも距離をとりたいのであろう。しかし、その距離を取ろうとしても絶え間ない突きが襲ってくる。

 サラは攻撃を避けつつ詠唱し、なんとか雷属性の攻撃をしているが、まるで子供の遊戯みたいに雷ごと弾いている。

「さすがに三人はきっついっすねー!」

「そうだな」

 本当にそう思っているのかわからないほど軽く言う二人は一度距離をとって肩を回したりしている。ルカは窓を壊そうとこっそり魔法を発動させているがなぜかうまく破壊できないらしい。

「……結界か」

「いつの間に?」

「わからない。けど……かなり強いね」

 ルカとサラが外に一瞬視線を向けながら呟く。

 突破できる気がしない。

「……とりあえず、もうなんとなくわかりました」

 突然、ユリアが呑気な声で武器を出し、無表情で続けた。


「動きはもうだいたい見切りました」


「えっ」

「は?」


 監獄官二人の抜けた声。一瞬にして場が張り詰めた。

 ははは、ユリアはさすがだなぁ。当然みたいな口ぶりで見切ったとか言ってやがる。

 ……え?


 ユリアは目にも止まらないスピードで女性に近づき肩を狙ってレイピアを突き刺そうとし――

「っ!?」

 それはどちらの声だったか。ユリアの攻撃はほんの数センチずれて、代わりに女性に魔力が顕現する。先程まで使っていなかったであろう技を発動するために。

「――必突、サルビア!!」

 魔力を帯びた槍が見えうる限り明らかにおかしな軌道でユリアに向けられる。必中技と呼ばれるそれは回避できない攻撃。

 のはずだったが……

「遅いですよ」

 その攻撃すら読んでいたのか、レイピアを握っている手とは別の手には短剣が。




 ――修業中に、ミラさんに教わったことを思い出す。

『必中技を使われたら避けようとしても軌道がデタラメになってでも追いかけてくるから。避けるんじゃなくて相手の攻撃自体を無理やり受け止めつつ逸らしなさい。技の終了条件にもよるけど、一度接触さえすれば効果はないから』

『その逸らすための動きができたら苦労しないと思うんですが……』

『まー、ケイトは難しいでしょうね。この手の必中技は魔物でも使ってくるのいるし、気をつけるに越したことはないわ。相手をするなら結界が張れるルカか……あとはユリアかしら。ユリアの反応速度、この中で圧倒的だし』

『はい! 頑張ります!』

『うまくやればカウンターにもなるからね。覚えておきなさい』




 槍のデタラメな軌道を捉え、ユリアは短剣でその槍を受け止める。女性は短剣で軌道を妨害されたことに気づくと目を見開いてどうにか体勢を立て直そうとする。

 短剣は槍の軌道を無理やり逸らし、そのまま女性の目へと――

「バカが!!」

 女性の体が吹き飛ばされ、ユリアの短剣を持った手が誰かに掴まれる。微動だにしないユリアの腕。一瞬、顔を伏せたユリアがなんだか舌打ちしたように聞こえたが多分気のせいだろう。というか気のせいであってくれ。

「エリュー。油断して目玉持ってかれたいのか?」

「ありがとーございますよ、先輩。いやー、今ちょっと焦りました」

 吹き飛ばされた女性は当然受身を取っていたのか無傷。

 その隙にルカとサラの魔法が女性に向けられるがそれすらもよけられてしまう。

 ユリアは男を振り払い、レイピアを向けるが、男は気にした様子もなく女性の近くにまで寄って距離を取る。

「はー……」

 男はうんざりしたようにため息をつきながら髪をかきあげる。

「んー? 先輩お疲れ気味っすかー? 歳? 若いのにそんなじゃダメですってー」

「いや、もう面倒だから使っちまうかと思って」

「んあー、なるほど。んじゃあ使っちまいましょーかね」

 二人が懐からジュエルのようなものを取り出し、コイントスをするかのように空中に放る。


「いくよー!! 『拷問執行』!!」

「短期決着だ。『捕縛執行』」


 ジュエルがそれぞれ槍、拳によって砕かれ、強風が吹き荒れる。

「はぁ!?」

 ルカが素っ頓狂な声をあげるとともにわずかに焦りながら詠唱をする。

「『制止抑止阻止せよ。我が敵を封じる闇の枷、顕現せよ』!! ドゥンケルハイト・ケッテ!!」

 ルカの魔法で黒い鎖のようなものが二人の動きを止めようとする。しかし、まるできいていないように鎖は打ち砕かれ、男が俺の胸ぐらをつかんだ。

「っ――」

 そのまま最初にアベルにしたように壁に叩きつけるが、全身に衝撃が襲いかかる。圧迫された内部が軋み、声をあげることすらままならない。

「……ん? 思ったより手応えないな。通常状態よりも低い……?」

 怪訝そうに呟く男。確かに威力の割にはダメージは低いかもしれない。

 ピシッ――不快な音がどこからか聞こえる。

 ほとんど無意識のうちにクロークにしまっていたいつの間にか持っていた指輪のペンダントを取り出すと、石の部分にヒビが入っていた。加護効果があると言っていたし、もしかしたらこれのおかげでダメージが低かったのかもしれない。

 すると、その指輪を見た瞬間、男の顔色が変わった。


「おい、それなんでお前が――」


 無表情に近い苛立ちが浮かんだ瞳。そのまま胸ぐらをつかんで視線を合わせられるとうまく動かないながらも抵抗してみせる。まったく効いていないのが悔しい。

「それは俺が――」


「ケイト君にひどいことしないでください!!」


 指輪に気を取られていたのか、男はユリアが迫っていることに気付かなかったらしく、ユリアの蹴りをもろに喰らい、そのままレイピアでメッタ刺しにされた。

「ぐあっ!」

「邪魔です!!」

 まだレイピアが刺さったままの体を蹴って引き抜き、レイピアを払って血を飛ばした。

 男は蹴りの威力が強かったのか、激突して、壁を破壊してしまった。

「――っ!! いっ――」

「ナツキ先輩!」

 アベルと応戦していた女性が慌てて男に駆け寄る。

「ケイト君!」

 ユリアも似たようにこちらに駆け寄ってくる。ちょっと向こうの監獄官に申し訳ない気持ちになるが死んでいないことを願う。ある意味自分のせいであんな目に遭ってるんだし。

 女性の方がなぜか若干期待しながら壁を壊した隣の部屋との境界で倒れている男に問いかける。

「先輩大丈夫ですか? 腕とか取れてません? 取れてたら写真撮らせてください」

「かはっ……ア、バラ逝った……」

「ちっ……なーんだアバラ程度か。つまんね」

「てめぇ……」

「アバラ折れたくらいで弱るとはそれでも男か!」

「俺は一般人だからな……!!」

 会話するのも苦しいのか男は息絶え絶えになりながら女性に言う。

「俺、無理……リタイアするわ……」

「あー、ハルー! ハルどこー! 応急処置―」

「あいつ、今外だろ……」

「じゃあ、先輩そのままで」

「ふざけんな」

 ……毎回思うけど俺たちの敵ってなんで仲間割れに近い漫才するんだろう。

「はー。さすがに俺一人じゃ6人は厳しいしなぁ」

 女性が後ろ髪をかきあげながらため息を吐く。

「しゃーない。コーダせんぱーい。アルせんぱーい」

 誰へと向けた呼び声だろうか。どうにか起き上がってみせると、ぞくりと血の気が引く。


「ったくよぉ。これだから下っ端は」

「最初から俺たちがやっていればよかったな」

 いつの間にか部屋には二人の男がいた。どちらも監獄官の制服。

「じゃじゃじゃーん。さーて、痛い目見たい奴はどいつかな?」

 金髪金目の男は楽しそうに銃を揺らす。そんな軽薄な様子の男にも関わらず、俺の脳内は警鐘を鳴らしていた。

 ――油断したらやばい。

 黒髪黒目の方の男は口数は少なく気を抜いたら即やられる。そんな雰囲気だ。どっちにしろさっきの二人と比べて格段にどちらも強敵なのは間違いない。

「アル、どうする?」

「全員ここで潰す」

 アルと呼ばれた男はトンファーを取り出し、冷たい目でこちらを見据えた。



監獄官はぽこぽこ増える

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