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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
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監獄死闘開幕



 近くに来るとはっきりわかるその建物の不気味さ。監獄は暗い色で塗装された壁と飾り立てないデザインで、協会に比べて華はない。あまり人は出入りしていないようだが、わずかに冒険者も訪れているようだ。

「賞金首とかの引渡しや情報提供ね」

 ミラさんがそう耳元で囁いて教えてくれる。

 暗い印象とは対照的に綺麗に整備された内部。受付は制服をまとった男性数人。あまり公共スペースはないのかソファの数も少なかった。関係者以外立ち入り禁止と書かれた先はおそらく囚人収監先か監獄官の仕事をするスペースだろう。

 ミラさんが意を決したように受付の男性に話しかけようとした瞬間、奥から現れた人物がミラさんに声をかけた。

「お待ちしておりました」

 濃い青の髪は見方によっては黒にも見える。瞳が黒だからだろうか。すらっとしたスタイルに凛とした表情。クールなタイプの人だとわかる。

「お初にお目にかかります。ミラ・エルヴィス様。私は監獄の副獄長を務めているサヨ・カナデと申します。以後お見知りおきを」

 サヨ、と名乗った人物を見て「ヒモト人……?」とミラさんが呟く。

 ヒモト人は基本は黒目黒髪だ。しかし名前や顔立ちからしてヒモト人といった感じなのに見た目が一致しないから困惑しているようだった。どちらかというと俺のほうがヒモト人っぽい。もちろん、俺みたいなのも含めて黒目黒髪が全てヒモト人ではないが。

 サヨさんはミラさんの呟きを無視し「こちらへ」と案内しようとする。少しためらった様子を見せたミラさんだったが、すぐに表情を引き締めた。

「弟子たちもいるんだけど。弟子たちは空いてる宿舎に入れてくれないのかしら」

「まずお弟子さん方に待機していただくお部屋にご案内します。別件がありますので」

 そう言って監獄内を少し進み、三階のとある部屋に通された。

 少し広めの休憩室だろうか。あまり余計なものは置いていない。ソファと机。それに椅子があり、そこに誘導される。

「お茶をお持ちしますのでお弟子さん方はここでお待ちください。ミラ様、それではこちらに――」

「わかってるわよ。――あんたたち、やばいと思ったら遠慮しなくていいから。最悪逃げなさい」

 小声で、そんな不吉な言葉を残してミラさんはサヨさんに連れられてどこかへ行ってしまった。

「ミラさん緊張してたな。というかあいつらも緊張しすぎだろ」

「そうですね……」

 ユリアがルカとサラを見る。

 全身から汗がダラダラと流れ、真っ青になりながら震える二人。いくら監獄が恐ろしい施設だからって、そこまで怯えるのだろうか。罪人以外にはさすがに手出ししないだろう。

「さ、サラ……僕もうダメかもしれない……」

「やめてルカ。諦めないで。大丈夫よ」

 何を言ってるのかよくわからないが本人たちが深刻そうなので触れないでおこう。

 アベルも少し居心地が悪そうにそわそわしている。落ち着かないんだろうか。

 シルヴィアとユリアくらいだろう、落ち着いているのは。


「お茶お持ちしましたー」


 軽い調子で監獄の制服を身にまとった女性が入ってくる。監獄に女性は少ないと聞いていたのだが、お茶くみの人は女性、しかもまだ若い。

 ぴくりとシルヴィアが反応し、女性を見て目を細める。

「どうぞどうぞー。まだあちらも終わりそうにありませんしー、ゆっくりとー」

「……毒仕込んでおいて?」

 シルヴィアが険しい表情で監獄官の女性を見つめる。しかし、女性はニコニコと笑顔のままだ。

「なんのことでしょうかー」

「とぼけないで。そのお茶、遅効性の毒入ってるくせに」

 シルヴィアが机に置かれたお茶をなぎ払って女性を睨んだ。

「何が目的」

「……やだなぁ。そんな顔で睨まないでくださいよ」

 笑顔のまま、目だけ笑っていない。ゆらりと、後ろに下がる。


「そんな顔見ると……刺したくなっちゃうでしょー!!」


 一瞬でクロークから槍を出してシルヴィア向けて槍を繰り出す。

 シルヴィアもそれを防ぐために槍で受け流し、反撃のために空いた手でナイフを突き刺そうとする。しかし、女性もそれを読んで即座に回避に移り、俺たちから距離をとった。

「んー、毒って言っても麻痺毒だしー、ちゃんとあとで治してやるのに。無理やりのほうがお好み?」

 楽しそうに槍を回す女性は俺たち全員を眺めて口の端を上げる。

「先輩! よろしくお願いしますよ!」

 槍の切っ先はアベルへと向かい、アベルの槍と交錯する。

 その刹那、アベルの視界がぐらつく。

「なん――」

 唐突に、姿を現した男はアベルの胸ぐらをつかんでおり、混乱したアベルをそのまま持ち上げ壁に投げつけた。

 勢いよく壁にぶつかったアベルはむせ返る。次に男は詠唱中のルカとサラに迫り、ルカに膝蹴りを見舞った。咄嗟にルカはチャクラムで蹴りを防いだが衝撃で体がよろめき詠唱が中断される。サラの魔法は男に向けられたがその魔法が発動する瞬間にすでに距離を取って、監獄官の女性と並んでため息をついていた。

「はー……だりぃ……マジでだりぃ……。なんで俺らがこんなことしてるわけ。エリュー、俺もルーみたいにばっくれていいか?」

「だめっすよーナツキ先輩! ぶっちゃけ、俺だけじゃ六人きびしーし。ほらほら、有給とボーナスもあるんですし」

「だな……。ていうかお前、呼ぶの早すぎ。俺奇襲用にクリアベールって魔法かけてもらったのに攻撃に入ったらすぐ解けたじゃねーか」

「クリアベールはおとなしくしてれば透明化が持続するんですよー。んまあ、奇襲効果あったみたいだしいいじゃないっすかー」

 投げられたアベルはとても調子がいいとは言えない様子で壁にもたれかかっている。元々不調気味だったが悪化しているように見えた。

 ルカとサラはもう魔法の準備はしているがまだ撃ってはいない。様子を見ているのだろう。ユリアはなぜか無表情で武器すら出していない。しかし目には警戒の色はあるようで戦闘態勢には入っていた。シルヴィアは別の隠れているやつがいないか確認している。

「で、なんでこんなことを?」

 やたらのんきそうな監獄官二人に質問を投げかけると同時に二人を観察する。

 女性の方は銀髪で藍色の瞳。やけににこにこしているが不気味さすらにじみ出ている。小柄だから槍が大きく見えてしまう。監獄官の制服の規定は知らないがスカート短くないだろうか。

 男の方はオレンジ色の髪と気だるげな金色の瞳を持っており、何を考えているのか読めない。規定がわからなくてもはっきりこの人は着崩していると断言できるほど乱れた服装だ。

「はっきり言ってしまえばお前たちを全員引っ捕えて人質にする」

「そゆことー。いやー、こっち来てくれてよかったよかった。街でミラさん待機するとかだったら街中で捕物する羽目になってたし」

 はっはっはーと楽しそうに笑う女性。槍をくるんと回してこちらに向けてくる。

 こっちにとっては何もよくない。いや、宿屋とかで監獄の強権発動されたら抵抗もろくにできないしまだマシなんだろうか。

「てなわけでぇ、大人しく投降してくれるとすっごーい仕事が楽なんだけど」

「逃げられると思うなよ? 二人相手ならどうにかなるとでも?」

 ルカの視線が窓へと向かう。窓から逃げるという手もあるがその隙はあるだろうか。この部屋の出入り口はあの二人が塞いでいるに等しい。


「答えは――」

 ルカが苛立った声で手をかざし


「ひとつしかねぇだろ……!」

 アベルが苦しそうに立ち上がり


「誰が従うか!!」

 俺の、俺たちの拒絶の言葉と意思に、女性はにやりと笑みを浮かべ、男は深い深い溜息を吐いた。



地の文で名前が呼ばれないキャラはあんまり覚えなくてもいい脇役のつもりなんですが濃い。監獄は漏れなく濃い……。

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