ご注文は"異常"でしょうか
読まなくても大丈夫シリーズです。
修行を早めに切り上げたミラ一行はナトゥーラの都会にいた。
「今日は修行頑張ったご褒美に好きなもの食べさせてあげる」
そう言ってミラはそこそこ賑わう町へとユリア、アベル、ルカをつれてくる。なお、ケイトたちは現在ミラの特別修行メニューで樹海を彷徨っている。
「ケイト君たちがいないですー」
若干不機嫌そうに言うユリアだが、落ち着いてはいる。あらかじめ離れることがわかっていれば取り乱さないことが判明した。そもそも帰ってくるし。
「あいつらがちゃんと帰って来れたらみんなでまたくればいいでしょ。あの3人はちょっと根本からして弱いから」
アベルはそもそも基本的にできあがっているし、ルカも正直6人の中で火力のある戦いができる。ユリアに至っては本当に謎だが、潜在能力はこの中でダントツかもしれない。
まあ、潜在能力に関してはケイトのこともあるのでひとくくりに語れないが。
ふと、ミラは立ち止まる。何かに見られているような感覚。いままで感じた視線とは違うものに思わず首を傾けた。
後ろを見ても何もおらず、隣にユリアがいて、斜め後ろにアベルとルカがいるだけだ。
「気のせいか――」
そう、思って前を向くと見覚えのある人物が立っていた。
「よぉ、お姫様」
「…………」
男を見てミラはしばし動きを止める。しかし、それもほんの一瞬で、気づいたときには男の喉元にナイフを突きつけていた。
「本物?」
元協会幹部、ジョン・スミス。諜報活動において彼に並ぶものはいないと言われた男。いい加減な黒髪とすべてを見透かすような赤い瞳。整っていると評される部類の顔は見ていて腹立たしい。
現在は協会から離反し、フリーの情報屋を営んでいる。
「相変わらずおっかねー女だな。正真正銘、ジョン・スミスだよ」
にやり、と意地の悪い笑みを浮かべたジョンに、ミラは爽やかな笑顔を返す。
と同時に、ジョンに手錠をかけた。
「ふぁっ!?」
「ジョンてめえええええええええええええええ!! 逃がさないわよ!!」
「ちょ、洒落にならない!! 外せこれ!!」
慌てふためくジョンと血走った目でジョンを押さえつけるミラ。傍から見れば危ない二人組だ。通行人がじろじろと二人を盗み見る。
「あんたねぇぇぇぇぇぇ!! どぉれだけ探したとおおおおおおお!!」
「わかったわかったから一度放せ!! 俺は街中で公開プレイに興じるほど歪んでねぇよ!!」
閑話休題。
ミラをどうにかなだめたジョンは弟子三人も一緒でいいから少し話を、と提案してきた。弟子たちはよくわかっていないようだったが頷いてついていくことに。
近くにあった軽食とスイーツの店。弟子たちにはなにか食べてもらおう。
大人数用の席に案内され、ジョン一人、こちら四人で向かい合う。
「ここの財布は誰持ち?」
「まあ、お前金持ちだしそっち、と言いたいけど俺は紳士的だから。俺が持つよ。遠慮しなくていい」
「よし、アベル、ユリア、ルカ。一切遠慮するな喰いつくせ。あいつの財布、根こそぎ搾り取るのよ。金にがめついあいつの金を搾り取れるの滅多にないんだから」
「任せろ」
「好きなだけ食べていいんですか!?」
「なににしようかなー」
「……まあ、多少は、な」
若干声が震えていた気がするがミラはそれを無視した。
三人がメニューを真剣な表情で見つめる横で、ミラはジョンを睨んだ。
「で、私のことが嫌いなジョンがいったい何? わざわざ出てきたってことは用事があるんでしょ?」
「ああ。なあ、情報を買う気はないか?」
ジョンの目が細められる。こういうときは大抵見極めているということだ。
「お前はアニムス復活の情報をどこまで知っている?」
「……エヴェンが死んでいないで指揮をとっていること。ジェシカがそちら側についていること。人工魔物を従えていること、くらいかしら」
「あ、すいません。僕『ミックスサンドウィッチ』と『焦がしフレンチトースト』と『生ハム盛り合わせ』と『シュリンプサラダ』と『焼きたてパン』で。飲み物は……ああ、紅茶……へー、セカンドフラッシュのがある? じゃあこの『ダージリンティー』で。とりあえず僕はこんな感じで」
「そのへんは概ね正しい。だがエヴェンだけが復活したわけではないかもしれない」
「なんですって……?」
ミラノ表情が確かに曇る。その様子を確認したジョンは薄く笑った。
いくつかの写真と思われる紙を取り出し、意味ありげにちらつかせる。
「私はー、『ボロネーゼ』と、『自家製ラザニア』と『ピザトースト』と、食後に『ベイクドチーズケーキ』のワンホー……あ、ワンホールありませんか? じゃあ、あるだけでお願いします。あと『オレンジシフォンケーキ生クリーム添え』と『ストロベリーババロア』と『キャラメルパンケーキ』と『ストロベリーパフェ』と……飲み物は『アップルジュース』で」
「この写真。気になるかい?」
「……いくら?」
判断に迷っているミラに対してジョンは微笑んだままだ。
「俺は『ショートケーキ』ワンホールと『ビターティラミス』と『厳選卵のプリン』と『濃厚カスタードエクレア』と『デザートシュークリーム』と『とろけるモンブラン』と『ブルベリームース』と『アップルパイ』と……お、『ザッハトルテ』いいな。これも。あとこの『カステラ』と最後の方に『ミルクジェラート』と『デカ盛り特性パフェデラックス』で。飲み物は『アイスココア』」
「うーん、吹っかけたいところだけどこれでいいよ」
写真の枚数は3枚。それに対して指を三本示してくるジョン。ミラは舌打ちしながらも3万ラロを財布から出してジョンの前に叩きつけた。
「毎度ありー。はい、これ」
そう言ってミラに写真をまとめて差し出す。ミラはそれをひったくるように乱暴に奪った。
「ええと……『ミックスサンドウィッチ』、『焦がしフレンチトースト』、『生ハム盛り合わせ』、『シュリンプサラダ』、『焼きたてパン』、『ダージリンティー』。『ボロネーゼ』、『自家製ラザニア』、『ピザトースト』、『ベイクドチーズケーキ』、『オレンジシフォンケーキ生クリーム添え』、『ストロベリーババロア』、『キャラメルパンケーキ』、『ストロベリーパフェ』、『アップルジュース』。『ショートケーキ』ワンホール、『ビターティラミス』、『厳選卵のプリン』、『濃厚カスタードエクレア』、『デザートシュークリーム』、『とろけるモンブラン』、『ブルベリームース』、『アップルパイ』、『ザッハトルテ』、『カステラ』、『ミルクジェラート』、『デカ盛り特性パフェデラックス』、『アイスココア』。以上でよろしいですか?」
店員のよく回る口にわずかにミラが感心しつつ、(多くね?)と不安になるジョンを気にも留めないルカたちはとても嬉しそうに返事をする。
「はい、“とりあえず”それで」
「はーい」
ジョンはだんだん横の会話の内容が気になってきたが聞こえないふりをした。3万が消えそうな不安だ。
「一枚目はやつらが封印されていた場所の現在の状態だ」
「……特に変わった様子は見られないわ」
「表向きはね。二枚目を見ればわかるよ」
ミラが二枚目に視線を移すと、中には何もない、空っぽの空間が。
「調べた結果、中身がどうもきな臭いと感じてな。まあ少し強引な手段だったがなんとか確認できた」
かつて、不死の化物がアニムスにいた。正確には不死の研究の結果、擬似的な不死能力を持つ人間だ。それらを千年前の戦争で殺しきれなかった協会は封印という手段を取った。
「中身を誰かが持ち出している。そして協会はこれを公表していない。とっくに気づいているはずだ」
「……なるほど、あいつらを復活させるとしたらアニムスくらいね」
すでに何品か料理が運ばれてきてそれぞれ三人が食べ進めている。ミラは見えないとでも言うように続けた。
「三枚目……これは……」
「ほとんど写っていない。ように見えるだろ? よく見てみろ。右端のほうを」
目を凝らすと確かにブレてはいるが人影が見える。これは――
「お前のストーカーさんだよ」
「……!? なん、で……! そんなはず――」
「エヴェンが生きていたんだ。そいつが生きててもおかしくないだろ」
震える指で強く写真を掴む。ミラは明らかに青ざめていた。
「すいませーん、『カルボナーラ』追加おねがいしまーす」
「あ、僕も『ツナマヨサンドウィッチ』と『オニオンスープ追加』で」
「俺も『マカロンセット』追加」
ジョンは机に両肘をついて口元を隠す。
「お前もわかっているんだろ? あいつらが死んだのはこいつのせいだって」
ミラは息を飲んだ。かつて、親友たちが無残にも魔法によって殺されたことを。世間一般には謎の死ということになっている。しかし、調査の結果“カイルの魔法による死”ということが明らかになっている。そして、ミラはカイルとルイスが刺し違える瞬間を確かに見たのだ。
それでも、ミラはカイルを信じていた。
「あいつを信じるっていうなら、こっちの可能性信じるよな?」
「……そうね。カイルはあんなことしないはずだもん。こいつが……あの時みたいに――!」
「ルカ君、アベル君。この特大ミートパイ三人で食べませんか?」
「いいよ。こっちのキルシュトルテまるまる一つもどうかな?」
「俺は構わないぞ。ああ、ミルフィーユも追加するか」
(……そろそろ自重しろよこいつら)
自分が出すといった以上、もう後には引けないので引きつった顔をどうにか隠すしかできないジョンであった。
「で、四枚目と五枚目。これはお前も見たことあるんだろ? ジェシカを含む、新しいアニムス幹部のやつら」
四枚目にはジェシカとオークション会場にもいた少年。五枚目には採掘場で鉢合わせたアグニとクァイ。
「まあこいつらの経歴は特にめぼしい点がないな。逆にそれが胡散臭いが。ジェシカは知ってのとおり。クァイって青髪はアクア家の元当主候補で、出奔。能力はわかりきってると思うが水魔法の使い手だな。アグニってやつはフィアンマ家で子供を産んだことのある女の子みたいだ。そのせいか、炎適正の影響が母体を通して出てきたらしい。炎属性ではあるがおもに格闘術で戦うスタイルだな」
「アグニってやつはまあ普通のやつっぽいわね。で、こいつは?」
少年、ルーストを指差してミラは言う。
「すいませーん、こっち『甘口カレー』と『ハンバーガーセット』ください」
「僕も『ブラウニー』と『ピーチゼリー』ください」
「俺は『フォンダンショコラ』と『デザートフレンチ・チョコレートソース掛け』で」
「そいつはルースト。出自不明。能力も不明」
「……あんたが調べて出てこなかったの?」
稀代の情報屋であるジョンが探っても出てこない。相当大物なのだろうか。
「わかったことと言えば、孤児だったということくらいだな」
「……そう。ま、でも魔法使いなのはわかってるしどうとでもなるわね」
「お前魔法使い相手にするの苦手なくせに」
「苦手っていっても同等の強さを持つ相手の話よ」
一通り確認したところで、今度はミラがにっこりと微笑む。
「で、せっかくだからほかの情報買いたいのだけど」
「はっ。お前に売る情報はないよ。今回の件は昔のよしみ――あいつらのためだからだ」
ジョンはミラのことは嫌いだが、ミラの仲間たちとは良好な関係を築いていた。そして、ミラが嫌いではあっても、彼らのことを想うミラにも、その点では優しさを見せる。今回の件がそれだ。
譲る気はないとでもいうようにふんぞり返ったジョンは鼻で笑う。
「金積まれたってお前にはこれ以上売らねぇ」
「ここに現金20万ラロがあるわ。必要なら上乗せする」
「なんの情報が欲しい?」
「変わり身早っ!?」
金にがめつい情報屋、ジョン・スミス。嫌いなものはミラ・エルヴィス。それを帳消しにするほど大事なものが金である。
「あ、なんかもういちいち注文するの面倒になってきた……。俺メニューのここからここ全部追加で。にんじん入ってるのはにんじん抜きで」
「じゃあ私も……」
「僕も……」
「お前らちょっと黙っててくれね!?」
「ジョンうるせぇ!」
気が散るどころの騒ぎではない。
一度落ち着いてミラが携帯水晶の連絡先と調査内容をメモした紙を交換し、ジョンに告げる。ジョンは会計を済ませ、「子供は嫌いだ……」とつぶやいていた。
「金額はいくらでも出すわ。だから、ここに書いておいたこと全部調べておいて」
「べ、別にお前の為じゃないんだからな!」
「あんたの場合本当にそうだから反応に困るわ」
頭のてっぺんからつま先までがめつい男である。それに、ジョンがミラを好きにならない決定的な理由がある。なので、流行りのツンデレではなく本当にミラの為ではない。
「それにしても、あんたのとこにも私を見かけたら捕まえろってウェルスから言われてるんじゃないの?」
元とはいえ、一応かつての幹部だったジョン。ウェルスと決定的な亀裂により協会と決別している。
「俺はお前よりもウェルスが嫌いだからな。あいつの命令を聞く義理はない」
そう吐き捨てるジョンの瞳には確かな怒りがあった。ジョンは二度と忘れないだろう。恋人をウェルスの決断のせいで喪った事実を。
「じゃ、よろしくね」
「ああ。……お前の弟子は容赦ないな」
結局すっからかんになった財布をひっくり返すジョンの様子にミラは笑いをこらえる。ジョンをいびれるチャンスは滅多にないからだ。
「ああ、そうだ。もしユースティティアに行くつもりなら協会に行くのはやめておけ。あそこ、今お前専用の罠で大変なことになってるから。監獄はまだマシかもしれない」
「監獄がマシってウェルスどれだけ本気出してるのよ……。監獄ねー。今のところ行きたくないけど、必要になったら行くわ。どっちにしろ、一度ウェルスとクラウィスには会わないといけないし」
「ま、追い詰められても近寄らないことだな。泊まれる場所がなくて、とかでも野宿で我慢するとか」
「さすがにそこまで追い詰めないでしょ」
まさかこれが予言だったとは誰が予想できただろう。後にやっぱり来なきゃよかった……と後悔することになるのだが、今のミラはまだ知らないことであった。
「またね、ジョン」
「ああ、次会うときに金用意しておけ」
ある意味二人なりの親しみをこめた挨拶。少し離れたところで待つ弟子三人のもとへ向かうミラの背中にジョンは聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。
「本当は、お前が死ねば一番いいのにな。今も、昔も」
その言葉がミラに聞こえたのかどうかはわからない。
シリアスなのかギャグなのか作者もわかっていないこの話。ジョンは過去編メインのキャラクターなので本編で出番は少ないです。あとケイトたちはユリアたちが色々食べてる時に樹海で死にかけてますが無事戻ってこれました。




