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隠れ鬼ごっこ・前編


 基本、ミラさんが修行に付き合ってくれるときは暇なとき、機嫌がいいときだ。そして、もう一つ――。


「さて、今日はお待ちかね全員に修行をつけてあげる。そーね、題して『隠れ鬼ごっこ』!」

 俺たちをいじめたいときだ。


「隠れ鬼って……遊びのあれですよね?」

 一応わかりきっていることだが確認を取る。いまいちピンと来てないユリアとアベルは置いといてルカ、サラ、シルヴィアは隠れ鬼ごっこを知っているのか微妙そうな顔をしている。

「まあ……世間一般はそうね。これはわた……私が昔仲間とやったゲームをちょっといじくった修行よ。一番大きな違いは……そうね、鬼が一人じゃなくて逃げる方が一人。それと武器使用アリ、逃げるほうも鬼もトラップ仕掛けるのアリ」

 これだけ聞いたのにすでに嫌な予感しかしない。というか後半物騒極まりない。

「まあ簡単に言うと私があんたら全員から逃げる。あんたたちは私がつけてるこのペンダントを奪う。制限時間は三十分。逃げ切ったらアタシの勝ち。ペンダントをあんたたちが奪えたらあんたたちの勝ち」

 そういって大きめの飾りがついたペンダントを首にかけた。羽のような飾りで紐は革紐のようだ。

「まあ負け方は罰ゲームかしら……あー懐かしい……!」

「はーい、質問」

 ルカが怪訝そうな目でミラさんを見つめる。ミラさんが「何?」といった顔で応えた。

「罰ゲームを具体的に。というかミラさんが受けることになる罰ゲームは僕らで決めたいです」

 ミラさんは少し悩んだあと「まあ罰ゲームは決めてもいいよ」と言いまた悩み出した。

「罰ゲーム……昔は夕飯抜きとかデコピンとかおごりとか石抱きとか一日猫耳とかコスプレとかだったっけ……」

「すいません、あえて突っ込みますが後半ひどくなってません?」

 もはやゲームの罰ゲームじゃない。石抱きって確か拷問のやつだったはず。

 ミラさんはそんな俺の言葉を無視し何か閃いたのか悪人顔と表現しても差し支えない表情で言った。

「じゃああんたたちが負けた場合の罰ゲームは全員この素直飴を食べて本音だだ漏れ生活ね!」

『鬼かっ!?』

 俺とユリア以外の面々が叫ぶ。全員顔面蒼白である。

「素直飴? そんな恐ろしいものなのか?」

「素直飴は少し前に試験段階で開発されてた『思ったことをなんでも喋ってしまう飴』で研究員が勝手に持ち出して市場で売って大混乱になったんだよ……。本当に心で思ったことは全て口に出しちゃうから――好きな人もばれるし相手に対して思ってることも言っちゃうよ」

 恐ろしいというか普通にすげぇな。いや、でもそれは確かに困る。俺が普段考えてることといえば……料理とか身長とかミラさんへの愚痴とかこの辺だろう。確かにあんまり他人に聞かれて嬉しいものではない。むしろ最後は自分の首を絞める。

「ていうかなんでミラさんそれ持ってるの!? それ残らず回収されたはずじゃ――」

「まあ開発者に知り合いがいるというか……この話は終わりにしてそろそろ始めましょうか」

 ミラさんは紙切れを出し俺たち全員に一枚ずつ渡した。

「ここから徒歩で数分のところに森があるわね? 村の人に聞いたけど今じゃあそこに誰も近寄らないらしいからそこで隠れ鬼をするわ。開始は三十分後。始まるまで罠なりなんなり仕掛けなさい! も・ち・ろ・ん! 私も全力で仕掛けるから……くくくっ」

 今ならこの人悪人と言われても信じれる。というか悪人だろ。

 こうして、俺たちの本音死守をかけた戦い――隠れ鬼ごっこが始まろうとしていた。







「で、作戦だけど……あれ、ルカとシルヴィアどこいった?」

 森付近で作戦会議をしているといつの間にかルカとシルヴィアが消えていた。

 アベルが森のほうを槍で示し手入れを始めた。

「罠しかけてくるってさ。ルカの罠は未知数だからともかくあの馬鹿は森で狩り経験あるからそのへんは問題ないだろ。それよりもどうやってペンダント奪うんだよ、あの鬼から」

「普通に無理よねー。正面から六人で当たっても傷一つ付けらんないのにペンダント奪うなんて」

「隙を突くにしてもミラさんのことですから難しいですよね……弱点でもあればいいんですが」

「弱点ねぇ……そんなものあるわけ――」

 言いかけて俺は一つあることを思い出した。弱点、なのかわからないが昨日、この町にきたときのミラさんの様子だ。それと今まで気になっていたミラさんの普段の様子。

「あー、悪い、俺ちょっと忘れ物した。すぐ戻る」

「早くしろよ。そろそろ始まるんだからな」

 アベルは槍から目を離さずそれだけ言った。サラとユリアは軽く手を振ってくれた。

 確信はない。無意味なことかもしれないが何もしないよりマシだ。

 あるものを購入するため俺は町の市場へと走った。






 雲行きが怪しくなりはじめてきた頃、隠れ鬼ごっこの開幕を告げる鐘が森野入口で鳴った。

 既に全員森に入ったのか誰もいない。出遅れてしまったようだ。

「急ぐしかねぇか……」

 市場で購入した物をクロークにしまい森の中へ向かった。






 曇りのせいか森は薄暗く歩きづらい。この森は今までの森よりかなり高い木々ばかりで森というより森林のような気がする。というか多分高木林と呼ばれるもので間違いない。

 上から辺りを見回そうと木に登ろうとしたところで何か違和感を覚えた。次の瞬間足元が盛り上がり捕獲用ネットに包まれた俺は何とも間抜けな体勢で木にぶら下がった。

「ちょ!? 罠――」

「何やってんだ、のろま――!!」

 どこからかアベルの叫び声が聞こえる。数人の気配とともに見知ったやつらが姿を現した。

 俺が吊るされている枝にミラさん、少し離れた木の枝にアベル、そしてまた別のところにはルカとシルヴィアがいた。多分、ミラさんを追いかけていたのだろう。

「罠にかかった最初の馬鹿はケイト……まあ予想通りー。さーて、これからが本番」

 枝から飛び降りると面白そうに邪悪な笑みを浮かべて森の奥へと走り去っていった。そしてそれを追いかける三人。見事なまでに俺をスルーしようとしている。

「ちょっと待てよ! 助けろって!」

 アベルは無視を決め込みミラさんを追いかけた。シルヴィアは少し悩んだように俺を見たが何か行動する前にルカがチャクラムを投げた。

 網を切り裂きルカの手に戻ったチャクラム。それを確認してシルヴィアもミラさんを追いかける。

 俺は網から抜け出すとみんなの後を追う。魔力強化である程度早く走れるがミラさんは元々桁違いだ。

「チッ、見失った……」

「索敵魔法に引っかからない……とりあえずこの付近にいるはず」

 アベルは再び舌打ちをしシルヴィアを見た。

「おい、お前の仕掛けた罠はどんな罠だ?」

「主に捕獲、ネットと落とし穴程度」

「僕のは魔法罠。定位置に来たら発動するやつ」

「どちらにしてもミラさんをおびきよせないといけないのか……」

 すると、三人の視線が俺に集中する。なんだろう、この嫌な予感しかしない感じ。

 アベルは俺の肩を叩き哀れむような目で言った。

「お前ちょっとそのへんで森に響くくらい大声で『ミラさん超貧乳』って叫べ」

「死ねって言ったな? お前今遠まわしに死ねって言ったろ!!」

 ミラさんに向かって胸のことは自殺行為。それは身に染みてわかってるはずだ。

 ちなみにルカはなんとなく察しているがシルヴィアは意図がいまいち分かっていない。

「てかアベルが叫べよ! 俺は絶対嫌だからな!!」

「そうか、じゃあここにいる全員で公平にじゃんけんするか。負けたらいけに――囮な。ちなみに俺はグーを出す」

 心理戦とかめんどくさいやつだな!! ルカとシルヴィアもそれに乗るかのように宣言をする。

「あ、じゃあ僕はパー」

「うーん、私はチョキ」

「んじゃいくぞー。じゃーんけーん……」

「えっ、ちょ、まっ」

 これってどうすればいいんだ?え、え、みんなが素直に出せばあいこになるけど絶対誰か裏切るし……あーもうっ!

『ぽいっ!』

 結果、アベル、パー。ルカ、パー。シルヴィア、パー。

 俺、グーなので一人負け。

 みんな大嫌いだ。

「負けたんだからちゃんとやれよ」

「……ごめん、僕死にたくないから」

「その……ごめんケイト」

 今決めた。今日の晩飯、こいつらのだけ激辛にしてやる。

 とりあえず三人が隠れたのを確認し俺は地面を踏みしめ息を深く吸い込んだ。

 そして――



「ミラさん超貧乳ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」



 森に響くほどの叫び。正直言うだけで恥ずかしいのにこのあと訪れるであろう恐怖に耐えるのはきつい。

 あたりを見回す。特にミラさんらしき人影は見当たらない。


 しかし――


 ざわざわと揺れ動く木ノ葉。震える大地。そして目の前に怒りを纏ったミラさんが上空から現れた。

 目が逝ってる。比喩とかじゃなくマジで逝ってる。

 無言で立ち尽くすミラさんに不安を感じ声をかけようとした瞬間ミラさんが言葉を発した。

「………………………………刺殺か撲殺、絞殺好きなの選びなさい」


 俺はこのとき「あー俺の人生終わったな」と心の底から思った。







 ケイトが見事な死亡フラグを立てている頃、ユリアとサラは森の中で迷子になっていた。

「大変です……ミラさんも見つからないですし……」

「参ったわね……とりあえず適当に探すしかないんじゃない?」

 二人並んで歩いているとユリアがサラに聞いた。

「サラちゃんは……ほかの人に言いたくない本音とかあるんですか?」

「何でそんなこと聞くのよ……そりゃあ人並みにはあるわよ」

 視線を逸らしたサラを見てユリアは無邪気に手を叩き笑顔を浮かべた。

「ルカ君のことですか?」

 すると意外なことにサラは足を滑らせ豪快に転んだ。ユリアは慌てて手を差しのべる。

 服についた汚れを払いため息をつくとユリアを見た。

「ルカのことって……どういうこと」

「え、サラちゃんはルカ君のこと好きってシルヴィアちゃんが」

「あー……シルヴィアね……あとでしばく」

 ぼそりと物騒なことを言いユリアに向き合う。

「あのね、ルカとアタシは好きとか嫌いとかそういう単純な話じゃないの。割と……面倒なのよ」

「面倒、ですか?」

 サラは目を伏せた。まるで過去を遡るように。

「ユリアには難しいかもしれないけど……アタシとルカは共犯者、てところかな」


 許されない罪をともに背負った共犯者。そうサラは語った。

「ごめんね、ルカ……」




人には知られたくないことや弱点だってあるのです。この番外編は結構前にサイトで載せていたものです。

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