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修羅場と屍

コメディ番外編だと言ったな?あれは半分嘘だ




 やめといたほうがいいだろうか。

 手にした携帯通信水晶。それの連絡先は……

「……よし」

 ぎこちないながらもコード入力で目的の人物へと通話を試みる。しばらく待って何度かコール音が聞こえると向こうが応じたのか声が聞こえてきた。

『はいハイ、ミラちゃんドしたノー!』

 やたら楽しそうなカース。まだ彼女は向かっていないようだ。

 先日、ケイト救出の次の日に、ようやく携帯水晶を買ったとカースからメールが届き、通話コードをメモしておいた。まさかすぐに使うとは思っていなかったが。

「あ、あのさぁ……カース……その……」

『ン? ナニなに改まっちゃッテ。ハッ! マサカ小生のことが好きニ――』

「それはない。えっとね……」

 三拍くらい間を置いてから、言おう言おうと思っていたことを早口で言う。


「ごめん」

『は? ナニソレどういう――』



 通話の向こうでカースの背後から扉をたたく音とともに、最近聞いたばかりの声の主の叫びが聞こえてきた。

『かぁーあすぅーうううううううううううううううううううううう』

『はっ!? ちょ、まっ』

 ぷつん、と通話が途切れる。思えばあいつ、いいやつ……じゃないな、最低な奴だった。

 感傷に浸っているとカースから呼び出しコール。意外と早いなと思って出てみると、必死すぎるカースの声が。

『ねえちょっ――ああ邪魔!! ミラちゃん!? なんでバラしたの!? よくないよそういう嫌がらせ!!』

「ごめん……ごめんって」

 標準の喋り方をしていることから本気らしい。多分かつてないほどに。

 カースにまともに謝るの、久しぶりかもしれない。そう思うくらい今回の謝罪は心の底から出てくるものだった。扉を押さえつけているのだろうか。軋む音が聞こえてくる。

「そろそろ腹括りなよ……」

『誰が!! 死んでも嫌だね!!』

『ししょー? お客さんです? あれ、お話中だ』

『ヴィオ! 今すぐ転移ジュエル使っていいからこの家から逃げるんだ殺されるぞ!』

『へっ?』

『いいから――ってうわぁ!?』

 轟音とともに雑音がしばらく聞こえてくる。そしてそれを引き裂いたのはモリアのとっても幸せそうな声。

『カース! ああ! い、愛しのカース、ようやく会え――あら? ちょっとカース、なんで子供がいるのかしら? ん?』

『ヴィオ早く! モリアは出て行け!』

『カース! 私がいるのに浮気なの!! 年下派? そんなに幼い子がいいの? ミラちゃんといいその子といい!!』

『だからちが――』

『ししょーはそんなじゃありません! いきなり来てなんですかあなた!』

『そっちこそ何かしら。私はカースと愛を誓いあった仲なのだけれど』

『モリア! 根も葉もないこと言うな!!』



 どうしよう、ちょっと修羅場聴いてるの楽しくなってきた。



『そもそも僕はミラちゃん一筋だって最初から――』

『あらやだ、そんな恥ずかしいわカース。私と幼い頃から愛を誓っているだなんてわかりきったことを』

『今の言葉君の脳内でどういう変換が行われてるの!?』

『おばさんいい加減帰ってください!』

『おば、さん……?』

『それともおばあちゃんですか』

『……おばあ――!?』

『ヴィオ黙って! 本当に殺されるから!!』

『ふふ、ふふふ……生意気なお子様ね……そんな貧相な体でカースを誘惑しようだなんて千と二百年早いのよ!』

 さりげなく私のこと貶してないかモリア。

『ひ、貧相じゃないもん! 大きくなるもん! それに師匠は小さいほうが好きだもん! ミラさんとか――』

 次こいつらに会ったら殴ってやる。

『ふん! 男はなんだかんだで大きいほうが好きなのよ! そうよねカース。あらやだ、よく考えたらカースは私のだったら大きくても小さくても好みよね!』

『ちょ、まっ、息できな――』

『むきー! ししょーの首を絞める必要性がどこにあるっていうんですか!』

『愛のスキンシップを邪魔するんじゃないわよお子様!』

『ししょーからはーなーれーてー!』


 この現場、傍観者で直接見れたら楽しいだろうなぁ。


 そんなことを思いつつ、カースとの通話を打ち切り、そっと受信拒否にしておいた。


 今日もいい天気だ。


 さて、そろそろ修行メニューを終えた弟子たちの直接指導をしなければ。











 目の前に六人の死体――ではなくて疲労で意識が朦朧としている弟子たち。

「ミラ……さん……相変わらず殺す気ですね……」

「うーん、だいぶ抑えたつもりだったけど、もう少しレベル下げないとダメか」


 本日の修行内容。

 魔力を一切使わないでまず筋力トレーニング腕立て、腹筋、スクワット50回。それを朝と夜にやる。夜分はまたあとで。

 次に弱いけど数が多い敵を魔力を使わず武器だけで倒す。目標数は150匹。

 そして六人全員で全力を出してミラに一度でも攻撃を当てること。最初の10分はミラは避けるだけで、それを過ぎると攻撃も開始した。

 そして、六人全員、10分間の間に攻撃を当てられずボコボコにされてしまったのである。


「うーん、10分じゃなくて30分にすべき? いや、でも30分程度じゃ疲れないしな、私……。むしろケイトたちがバテそうだし」

「あの……ミラさんに当てることがハードル高すぎるんですが」

 息絶え絶えになりながらルカが口を挟む。まずミラが避けるとき、瞬間移動したかと思ったほどに早い。目で追うのはまだ無理だ。

「はあ、はあ……み、ミラさんが見えない……」

 悔しそうにユリアがレイピアの柄を握り締めてミラを睨む。負けず嫌いなところがあるユリアはどうやら今回のことが本気で悔しいようだ。

「み、ミラさん! もう一度お願いします!」

「だめ。今日はここまで。というか何度やっても今のままじゃユリアは私に勝てないわよ」

 言い負かされてぐぬぬと唸るユリア。本当に悔しそうだ。

「おーねーがーいーしーまーすー!」

「だめって言ってるでしょ。ヘロヘロじゃない」

「そこをなんとか!」

「だめ」

 ユリアとミラのそんな押し問答を聞きつつシルヴィアとサラが服のほこりを払いつつため息をついた。

「というか、アタシはユリアとアベル……あとルカの速さについてけないんだけど」

「私もー。ミラさんは当然だけどあの三人もかなり早いよね」

 ちなみにケイトもこの二人と完全に同意見である。ミラはもはや次元が違うがあの三人も中々に人間辞めてる早さだった。

 ユリアの頭を抑えながらミラは何か気になることでもあるのかボロボロで座り込んでいるルカを見つめる。

「……ねー、ルカって魔法を誰に教わった?」

「えっ……えっと、小さい頃は両親と……兄さんと姉さんです。でもここ最近は独学で――」

「本当に?」

 やけに強い声にルカは思わずたじろぐ。

「本当ですよ」

「なら、いいんだけど」

 興味が失せたとでも言うようにミラは何事もなかったかのように、クロークからなにやら本、というよりノートを取り出す。それにさっと視線を滑らせながらケイトたちに言った。

「とりあえず疲れて休むことも成長だし、今日はこの辺にしとくか。あ、夜の筋トレは忘れずに。特にケイト」




 疲れ果てた弟子たちが今夜の宿泊先に戻る中、ミラは一人、さきほどの戦闘訓練をしていたところに佇む。


「……ルカの魔法……確かにカイルと同じ魔法――」

 かつて、カイルが作り上げた魔法は公開されたものと、未公開のものがある。今のところルカが使っているものは公開したことのあるものだが、今回の修行で使っていた魔法はカイルの魔法ばかりだ。


「偶然? 偶然、カイルの作った魔法を使っているだけ?」


 風がいっそう強く吹き、ミラの髪がなびく。物憂げな瞳には寂しさが混じっていた。


「カイル……生きて、いるの? それとも――」


 もしかして、生まれ変わってしまっている?


 その時、私はどうすればいいんだろう。


 しまいこんでいた感情が溢れてしまいそうで、不安になる。


「カイル……どうして……。ユリィ、カズキ……ごめんね。レイ……ごめん、なさい……」


 返ってくるはずのない言葉を待つ。その慟哭は、誰にも聞こえない。


「ルイス……」


 会いたいよ。











 次の日の朝、ケイトとサラ、そしてシルヴィアが筋肉痛で朝から死にかけていたというのはまた別の話。






予定よりだいぶしんみりしてしまった……。そして多分またしんみりが入るかもしれない。コメディとはいったい……うごごごご

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