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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 7章:影の国
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定位置






「逃げるわよぉぉぉぉぉ!!」

 ケイトは意識を失い、ユリアはブツブツとその場にへたりこんで何か言っている。その状況を打ち破るようにミラは叫んだ。

 落ち着いてきたからか、外から組織の人間たちが集まってくる。ケイトとユリアに触れたモリアの腕を掴み、ミラはルカたち弟子の四人の腕をそれぞれ繋げる。

「カルラ! 私に掴まりなさい!」

 モリアがセイヤを肩に担ぎながら、モニカを抱えるカリマの腕を掴んでモリアに手を伸ばす。


 大人数の転移により、空間の乱れが多少発生したが、彼らが知ることではない。







「……怒涛の流れでしたね」

 転移先で、そろそろ乱暴な転移になれつつあるルカが少し息を乱しながら言う。

 シルヴィアはちょっと酔ったらしく、離れたところでうつむいている。


 転移先は町から離れた森の中。大人数だったせいか、長距離移動はできなかったらしい。


 意識を失ったケイトと、それをぼんやり見つめるボロボロのユリア。

 重傷のモニカと、頭を撃ち抜いたはずなのに頭に傷は負っていないセイヤ。

 ルカとサラは自分たちで直したからかそこまで重傷ではない。よく考えると、ルーストは手を抜いていたのかもしれない。少なくとも致命傷は負っていないのだから。

 カルラは無傷でアベルシルヴィアもかすり傷程度。ミラとモリアも同様だ。カリマもほぼ怪我はしていないものの披露が色濃く見える。


 こうして全体で見ると怪我人は多くなかった。


「……ぅ……っ……ここは……?」

 先に目を覚ましたのは意識を失っていたセイヤだ。

 目にはしっかり光があり、正気らしい。モニカとカリマは二人揃って声を荒らげてセイヤに詰め寄った。

「セイヤさん僕がわかりますか!? しっかり自分がわかりますか!? というか今までの記憶ありますか!?」

「ご自分がしたことわかってますか!? 貴方任務中に行方不明になっていたんですよ!!」

 怒っているわけではないが迫力あるふたりの様子にあっけにとられているセイヤ。モニカは大声を出して傷が痛むのか苦しそうにしている。

 モニカがセイヤに撃ったのは魔力で作ったいわゆる解呪効果のある弾丸で、肉体にダメージはないが、うまく当てないと効果を発揮しない、とても使いづらいものだ。どんな精神系の魔法でも無効化できるが当てても成功率は40パーセントだったりする。今回はうまく作用したようでしっかりと意識を保っているセイヤを見て二人は安堵した。念のため、あとでしっかり専門家に看てもらうべきだが。

「……ああ、ちょっと思い出してきた。なるほど。俺、操られてたんだ」

「その時の記憶は?」

 喋るのも辛そうなモニカに代わってカリマが問いかける。

「直前のは、ね。あと、操られてる時の記憶もほんの少しだけ。といっても有益な情報は皆無だ」

「そう、ですか……」

 少しばかり残念そうにするカリマだが、すぐに表情を切り替える。

「無事に取り戻せてよかったですよ」

「迷惑かけたな……あとモニカ、お疲れ」

 動けないモニカの頭をぽんぽんとすると、モニカは動く腕で顔を覆う。

「本当ですよ! ったく……もう……! 心配、したんですよ……!」

 嗚咽混じりの声にセイヤは苦笑する。そして、ミラを見て瞬時に気持ちを切り替えた。


「ミラ・エルヴィス様。此度のご協力、感謝します。私どもにお付き合いいただいて申し訳ありませんでした」

「……交換条件に色々情報はもらってるし別にいいわ。それよりも……セイヤ、だっけ? 私の言いたいことわかる?」

「諜報部はしばらくの間、ミラ様とお弟子さんの監視、追跡を打ち切らさせていただきます」

 セイヤの発言にモニカとカリマがぎょっとする。それとはまた別の意味でルカとアベルが複雑そうな表情を浮かべていた。

「せ、セイヤさん――」

「いい。アルレも想定内のはずだ。それに、一度打ち切ったところで必要となればすぐ見つけられる。僕がそれっぽいこと言えば一度打ち切られるがそのうちすぐ再開されるよ」

 ミラは元々諜報部の監視に気付いていた。しかし、モニカとカリマ程度ではこの監視を外すための権力も発言権もない。セイヤは副部長とはいえ幹部だ。つまりこれを狙っての協力だったというわけだ。

「あくまで監視を打ち切る理由は私がミラ様個人に恩義があるからであって、協会の総意ではないことをお忘れなきよう」

「わかってる。鬱陶しいのよ……。だいたい撒いてもすぐ見つけるんだからつけなくたっていいじゃない」

 ミラはふと、セイヤの全身を上から下までじっくり見つめる。

 夕日色の髪に瑠璃色の瞳。中性的な外見だけでなく、声も男女どっちつかず。更には身長と体型がとても判別しづらい。背はそこまで高くないが体がどちらかというと男っぽく見えて、顔の骨格が女寄りだ。また、一人称も今のところ統一されていない。あえて隠すためにバラつかせているのか。そして年齢が読めない。幹部なのだから少なくとも十代後半ではあるはずだが。


「……あんた、性別どっち?」


 心底不思議そうに聞くミラにセイヤは口に指を当てて蠱惑的に言った。


Très(トップ)secret(シークレット)です」


 わずかに混じった古アルクス語で秘密、と強調されてますます気になってくる。というか答える気はさらさらないようだ。









 目を覚ますと心配そうなユリアの顔が映る。空はまだ明るいが、少しづつ沈んでいく時間だと思われる。

 俺と目があったことでユリアが感極まったように俺の手を握る。こちらの様子に気付いたミラさんとサラが近寄ってきた。

「……起きたわね? ケイト、私がわかる?」

「……ミラさん……ごめんなさい……迷惑かけたみたいで」

 おそらく助けてくれたのだろう。ユリアも心配そうだったし、助ける時に何かあったのかもしれない。

 ミラさんは別の意味で安心したように息を吐いてサラに魔法をかけるように頼んでいる。サラは医療魔法というより披露回復系の魔法をかけてくれているようだ。確かに外傷はないしというか魔法なくても平……気……――


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 突然の大声に全員がびくっと反応して振り返る。しかしそれすら気にならないほど全身が痛い。

「ど、どうしたの……け、ケイト」

「体中が痛い。主に関節が痛い」

 うずくまるようにしている俺にルカが寄ってきて痛み止めの魔法をかけてくれる。多少緩和されたがまだ痛い。なんでこんな痛いんだ。


「……魔力負荷の弊害かな」


 モリアさんがぼそっと何か言っていたがよく意味がわからない。ミラさんも難しそうな顔をして――ん?



 ――あの女、余計なことしやがって。



 ――あと少しで、完全に始まったのに。



 ずきり、と頭が痛む。幻聴のようなものまで聞こえた。









「……あのー……どちら様?」

 少し落ち着いてきたあたりで、カルラの傍にいた三人に目を向ける。

 なぜか大怪我の赤毛のポニーテールの人。黒髪の冷たい雰囲気の人。夕日色の中性的な人。誰だ。

 声をかけると赤毛の人がびくりとして目を逸らされた。なんだろう、覚えがある気がするんだが記憶にはない。会ったことも……ないはずなんだけど。

「……」

 黒髪の人はなぜか胡散臭いものを見るような目でこちらを睨んでいる。なぜだ……。

 夕日色の髪の人はこちらをじーっとみてくる。悪意は感じないのだが、なんだか落ち着かない。


「……モニカ、あれにやられたの?」

「えっと、はい……」

「……正確にはあれとは違う気もしますがあれにやられてましたね」


 なんかヒソヒソ話してて聞こえないが俺のことを言ってる気がする。

「えーと……なんか、ごめんなさい?」

 とりあえず謝罪が出てしまったら、赤毛の人にすごく睨まれた。だからなんでだ。

「僕はお前みたいなの嫌いなんだよ!」

 会ってすぐに嫌われてしまったんだけど。

 後で、赤毛の人がモニカさん。黒髪の人がカリマさん。夕日色のがセイヤさんだとカルラに教えられたのだが「お前本当にわからないの?」とよくわからない質問に「なんのことだよ」と返したらすごくがっかりされた。


 俺いない間に何が起こってるんだ。




 結局、よくわからないまま、カルラとその三人は協会本部に戻ると言って別れることになった。

 カルラはモリアさんに何か色々伝えたかと思うと、俺の方を見てにやりと笑った。

「次会うときには期待しているぜ」

 何を。

 四人はそのまま転移ジュエルで協会へと転移したので本当に何がなんだかわからないまま終わった。

 一方、ミラさんはモリアさんによだれが垂れんばかりに詰め寄られていた。

「さあさあさあさあ! ミラ! カース! 情報!」

「あーはいはい。住所ここで……」

 なにやらメモのようなものを渡している。大人の闇取引を見てしまった心境だ。

「うふふふふふふふふふふふふふ」

 モリアさんが怖いので近寄るのやめておこう。

 すると、ユリアが俺の袖を掴んで不安そうに見つめてくる。なんだか、怖い夢を見て親にすがりつく子供みたいだ。

「ケイト君……私の名前はなんですか?」

 なんで今日、よくわからないことばっかり言われるんだろう。

「はぁ? ユリアはユリアだろ」

 といっても、俺がつけた名前だけど。それ以外は知らない。

 そしたらユリアは安心したように微笑んだ。

「はい……! 私はユリアです!」





あともう少しで1部の7章終わりです。

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