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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 7章:影の国
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魔法の蹂躙




 一方、ルカとサラはルーストとの戦闘で惜しみなく魔法を連発していた。

 ルーストは特にルカを集中的に狙ってくるため、ルカは主に防御がメインだが、隙を見ては攻撃し、チャクラムで動きを制限しようとする。

 そんな中、ルーストは吐き捨てるように言った。

「その程度かよ」

「は?」

「あの人のお気に入りのくせにその程度かよルカ・ファルキ!!」

 無詠唱で風の刃を飛ばしてくるルーストはどこか怒っているようだ。

「ちょっと待て、なんで僕の名前――」

「お前の意見なんてどうでもいいんだよ!!」

 意見ですらない疑問を切って捨てられ、ルカは困惑する。

 向こうは知っているのに自分は知らない。

 無詠唱で魔法を連発できる魔法使いに一方的に自分が知られていることなんてあるのだろうかという新しい疑問が脳裏をよぎったが、正直それどころじゃないのが本音だ。

 無詠唱は詠唱ありと比べて安定性に欠けるとされているが、相手が直前までどんな魔法を発動するかわかりづらくするほか、余計なタイムロスもないし、発動溜めも可能だ。ただ、それらを全て実行しようとするととんでもない負担がかかる。だから普通の魔法使いはそれなりの不便さはあっても詠唱をきちんと行うのが大半だ。


 だが、無詠唱をノーリスクで行えるならば話は別。


 ルーストはその点、きちんと無詠唱を使いこなしている。無詠唱による時間差攻撃や二種類同時発動など、上級魔法使いが行うような芸当をやってのける。

(このままだと危険かな……)

 ルカは悩んでいた。ここで出してしまってもいいのかを。

 一瞬、サラに視線を向ける。サラは正直、ルースト相手は厳しいだろう。実力差が違いすぎる。ルカももちろんルーストより格下に位置しているが、サラよりは渡り合えている。

 サラの負担を減らすことを考えるならば――。

(出し渋ってる場合じゃないか――)

 考える間にも息をつく暇もない攻撃が繰り出され、ルカは舌打ちを漏らす。

「サラ、ちょっと下がって」

 サラの返答を聞く前にルカは魔法を『4つ』同時に展開する。

「なんで僕に厳しいかは知らないけど、さすがにやられっぱなしは悔しいからねっ!」

 まず最初に大地魔法でルーストのいる足元に鉄製の刺を出現させる。ルーストはそれを避けた、と思ったその次の瞬間、ルカが二つ目の魔法を避けた先に発動させる。設置型の雷属性罠魔法により、ルーストの動きが僅かに止まる。

「チッ――」

「まだだ!」

 次いで水魔法が発動し、ルーストが全身ずぶ濡れになるがその程度だ。しかし、ルーストは何が来るのか予想できたのか別の魔法を即座に発動させようと構える。しかし、ルカはあらかじめ用意しておいた魔法をルーストよりも早く発動した。


「くらえ、『ブルータル・ドンナー』!!」

 高威力の雷魔法がルーストに直撃し、一瞬、完全に動きが止まったかと思うとそのまま崩れ落ちた。

 その様子を下がって見ていたサラは目を丸くしてルカに言う。

「こんなに、成長してたんだ……」

「その、これはまた後で説明する……だから怒らないで」

「怒らないよ。ただ、アタシはルカのこと全然わかってないんだなぁって」

 悲しそうに言ったサラにルカは何か言いたげだったが言葉を飲み込む。

 倒したルーストを一瞬見るがこれといって不自然なところはない。が、強烈な違和感がぬぐいきれず、ルーストに触れようと近づき――


 ルーストの体がどろりと溶けた。


「なっ――」

 咄嗟にルカは結界を張ろうとするが一歩遅く、ドロドロしたものがルカに襲い掛かり、左腕を覆い尽くす。

「くっ――!?」

「ふん……やっぱり弱いな」

 溶けて消えたと思われたルーストはサラの背後に音もなく現れ、咄嗟に動いたサラの魔法は無力化される。バランスを崩したサラに追い打ちのように無属性の魔力刃を放ち、切り刻んだ。

「サラ!!」

 左腕から肩へと侵食してくるそれは熱を帯びていて、呼吸するたびに焼けつくような痛みを与えてくる。

 ルカ、もちろんサラもその魔法を知らない。

「弱い、遅い、脆い。なぜ俺に勝てると思った?」

 無傷のルーストは膝をつくルカを見下しながら、感情が見えない瞳で睨む。傷を負ったサラは浅い呼吸を繰り返している。震える手で体を支えようとするが、うまく力が入らず、崩れてしまう。

「……こんなレベルであの人の弟子なんて、恥さらしだ」

「あの、人……?」

 侵食をどうにかしようと魔法でそれを切り離そうとする、がそれ自体が意思を持っているかのように腕から離れようとはしない。

「ミラさんの弟子の何が――」

「そっちじゃない!! 本当にお前は――!」

 怒りでルーストは声を荒げると同時に、ルカの腕のものを肥大化させ、ルカ自身を飲み込もうとする。

 しかし、寸でのところでルカの足元に発動した青い魔法陣の影響でドロドロしたそれはルカの腕から溶けて消えるように消滅した。

 魔法陣の主はルカでもルーストでもなく――サラ。

「っはぁ……イチかバチかだったけど……」

 ルカは魔法陣の正体に気づく。汚染されたものを浄化する『ヴァイス』だ。浄化魔法としては初歩中の初歩だが、使い手はあまりいない。ルーストの魔法は汚染効果のあるものだったらしく、それが効いたということだろう。

 ルーストはつまらなそうにサラを見下す。

「……なるほど、程度の低いやつの傍には程度の低い魔女しかいないわけだ」

 全て言い終える前にルーストは上級魔法を展開した。

「この程度なら、生かしておく価値もない」

 そう言い切って、無属性の光線でルカを狙った。しかし、ルカも魔法が読めたのか、サラに結界を張りつつ、自分は回避してルーストに直接斬りかかった。

「その武器も、あの人の真似事のくせに」

 ルーストはルカのチャクラムを同じくチャクラムで受けた。ふたりが使っているチャクラムは形状こそ違えど、近接用に変化するチャクラムで、握り手部分がある。ルーストはその握り手部分に自分の右手にもっていたチャクラムで斬りかかる。ルカも同じようにルーストの持ち手部分に斬りかかるが、ルカの斬撃は外れ、ルーストの攻撃はほんのかすり傷程度だがルカの中指を斬った。

「まさか……師匠のことか……? でもなんで――」

 ルカの言葉にルーストは憎々しげに表情を歪ませる。

「あの人を師匠と呼ぶな! お前にふさわしくない! あの人の弟子は俺だけだ!」


 サラは若干置いてけぼり感を拭いきれずに、自分の傷を治す。師匠って、なんのことだろう。というか誰だ。

 完全に私怨の戦いになりつつある魔法使い同士の戦いであった。

 








 一方、ジェシカとミラ&モリア。



「千年前、貴様らはルーヴィを殺した!! 私を騙して囲おうとしていた!! 許すものか!! 英雄どもなんて全員偽善者だ!!」

「お願いジェシカ話を――」

「黙れ黙れ黙れ!! 私のルーヴィを返してよぉ!! 何が英雄だ!! 嘘つきのクズのくせに!!」

 ジェシカの魔法は先ほどよりも抑え気味の範囲と威力だが、驚異には変わりない。

 苛烈すぎるその魔法をしのぎながら、ミラはジェシカに攻撃することを躊躇っている。

 かつて、ジェシカと過ごした記憶がミラを躊躇わせた。



『ねえ、ミラおねえちゃん』

『なぁに?』

『どうしてルーヴィはむかえにきてくれないの? ジェシカのこときらいになったの?』

『……違うわ。ルーヴィはジェシカのこと大好きよ。でもね、ルーヴィはとっても遠いところに行ってるの。今のジェシカには会えないわ』

『なんで?』

『ジェシカが大きくなったら教えてあげる』

『おおきく? そしたらルーヴィにもあえる?』

『……』

『ジェシカ、たのしみ! ミラおねえちゃんもいっしょにあいにいこう?』

『……そう、ね』



 こうなってしまったのは自分のせいだ。ミラにはその責任がある。しかし、ジェシカを止めるには少なくとも彼女の動きを止めなくてはならない。

「ミラちゃん! 何を迷ってるのよ!」

「っ!」

 モリアの声で少し離れかけていた意識が戻る。

 映るのはジェシカの、殺意に満ちた瞳。

 躊躇ったら、ダメだ。


 決意をかため、手加減の長剣ではなく大剣を出した瞬間――


 何かが、目覚めようとしていた。





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