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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 7章:影の国
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奪い合い






 裏組は困惑していた。

 間に合わなかったことはもはやどうしようもない。しかし、なぜあちこちで火柱が発生しているのか。

「な、なんだこれ!? そっちはどうなっている!?」

『何者かの妨害――にしてはおかしいですね。というかこれまさか……』

 焦りがにじみ出るカリマの声は雑音とともにぷつりと途切れ、通話不可になってしまった。

「何が起こってるんだよ……」

 モニカが若干素を出しているがそれにすら気づかない。カルラは面白そうに目を細める。

「精霊かー。まさか手出しするとは思わなかったけど」

 精霊――。

「精霊が自発的にこれだけの炎を操って妨害してるっていうの? ありえないわ! 精霊はよほどのことがない限り人間には不干渉でしょう!」

 シルヴィアの否定意見に、ミラは眉を寄せながら言う。

「いや、精霊が自発的に動くことはあるにはある。ただ……自発的に動くことがあまりにも珍しいから」

「精霊に愛された者が危機的状況に陥ると……ってのは聞いたことありますけど……」

 モニカがそう言うとミラは頷く。

「炎の精霊たちがケイトを守ろうとしてるってところかしら。どうせこれでオークションはめちゃくちゃだし、混乱に乗じてケイト奪還するわよ」








≪ケイトを守りなさい! 使えない人間どもに任せておけないわ!≫

 大精霊と思われる強い精霊が指示を出す。精霊たちがあちこちを焼き崩していき、混乱の中、客席で微動だにしない人影がちらほらと。


「この様子なら平気かな」

 顔を隠した青年は焦る様子もなく会場から出ていこうとする。

「さすがに、俺一人じゃケイト君奪えんし、ここは撤退しとくのが吉かね。まあミラ様に任せるとしますか」

 青年は一人つぶやくとその場から消えた。






 同じく、様子を伺って入札準備をしていたルーストとジェシカ。ジェシカはわなわなと震え、炎の精霊による干渉を眺めていた。

「どぉいうことよぉ……!」

「炎の精霊による過干渉なんてすごいねー。よっぽど愛されてるんだ」

「なにのんきにしてるのよ! このチャンスにあの小僧奪うわよ!!」

「はいはい……」





 そして、表組のモリアたち。火柱を避けて前方中央に囚われているケイトのもとへと向かう。

「精霊たちやりすぎよ! こんなことしたらペナルティが――」

「モリアさんあれ!」

 大精霊と思われる炎の精霊がケイトに触れようとして、掻き消える。

≪あと、少しなのに――≫

 精霊はケイトに届くことなく消え去り、火柱も徐々に消えていった。

「やっぱりペナルティを受けたわね」

 精霊が人間との契約もなしに過干渉すると精霊界の掟により存在拘束され、精霊にはあっという間だが人間にとっては馬鹿みたいな長い間、意思が剥奪される。つまり、自発的な行動が禁じられ、精霊としての仕事のみしかできなくなる。

 それだけの覚悟で精霊はケイトを守ろうとした。

「ユリア待って!!」

 先走ったユリアがケイトのところへ駆ける、が――

「邪魔よ! そこの小娘ぇ!」

 メイスを振りかぶった少女がユリアへと攻撃しながら現れ、咄嗟にユリアはそれをかわす。怪我はないが、少女の殺気に、ユリアはどこか覚えがあるかのように眉をしかめる。

「誰、ですか……」

「誰かなんてどうでもいいわ! 邪魔するなら貴様も殺す!! あいつを呼べ!!」

「はいはい」

 少女の後ろに降り立った少年は魔法陣を空中で展開し、そこから『ある人間』を喚びだした。

 夕日色の髪、男か女か見ただけでは判別しづらい中性的な容姿。虚ろな瞳はユリアを見つけると双剣を取り出してユリアを攻撃した。

 ユリアはレイピアを出すが、斬撃を片方流しきれず、僅かにかすり傷ができる。

 一度距離をとったユリアは忌々しげに操り人形となっている人物を睨み、その後ろでケイトを檻から引きずり出そうとしている少女と少年を視界に移す。

「ケイト君を返して!!」

 操り人形に目もくれず、少女に襲いかかろうとするが、なんらかの命令による影響で、操り人形は躊躇いなく間に割って入り、攻撃を受け返す。

「サラ!」

「ええ、ルカ!」

 ルカのチャクラム、サラの斧が操り人形の視界に映る。それらを驚異と判断したのか、現在の主である少女と少年を守ろうと咄嗟に動くが、ユリアに隙を見せることになり、恐ろしいまでに冷酷なユリアの瞳は操り人形の急所を捉えた。


「ちょっと待ったああああああ!!」


 ユリアはその声で反応し、ほんのわずかだが動きを止め、ルカとサラの攻撃を防いだ操り人形はユリアからも距離をとり、全員間合いから外れる。

 叫び声の主はモニカ。その表情は少女と少年に向けられており、忌々しいものを見るような、そんな目だ。

「セイヤさんを返せ……!」

 セイヤ、と操り人形を見てモニカは言う。彼が、諜報部の副部長――。

「雑魚が……調子に乗って出てきやがって……」

 少女はそんなモニカをゴミでも見るかのような淡々とした目で睨み返す。少年は檻にいたケイトを担ごうとして、何者かの妨害を受け、ケイトを手放した。

 後方からの矢による攻撃。魔力矢は確実に少年の後頭部と心臓を狙っている。

「なによこれ! どうなってるの!」

 矢はシルヴィアのもので、隣で呆然としていたミラは少女の名を呼んだ。

「な、なんで……ジェシカ……」

 追いついたモリアも、少女、ジェシカを見て言葉を失う。

 その姿は二人にとっては見覚えはないが、はっきりとかつての面影があるのはわかる。

「ジェシ――」

「気安く私の名を呼ぶなっ!! ずっと、ずっと私を騙していたクズどもが!!」

 激昂するジェシカは視認できるほどの魔力を滾らせ、魔法を展開する。


「『瞬け、この世界を見据える星々よ。我が命に従い、その煌きで邪悪を退けよ』――消えろ、ミラぁ!! シャイニングスターフレア!」


 直感で危険だと察した英雄二人は詠唱が完了する前に、ミラはシルヴィアとアベルを掴み、モリアはルカとサラを抱き寄せる。モリアはユリアにも手を伸ばすが届かず、詠唱が成立し、星の炎はその場にいるものを焼き尽くそうと顕現する。

 魔法が収まり、破壊された舞台で、カルラは平然とし、ユリアは咄嗟に結界を張ったようだが、かなりのダメージを受けている。少年はジェシカのそばにいたからか無傷で、ケイトとセイヤはジェシカの操作の影響かこちらも無傷。

 モリアはルカとサラを守りながら結界を張っていたが、魔法がおさまると同時に砕け、疲労の色を見せた。

「モリアさん!?」

「だい、じょうぶ……さすがに、ジェシカの魔法を防ぎきるのはむずかしいわね」

 ミラも同様で、こちらは魔法ではなくジュエルを使った結界だったが、やはり耐え切れず、壊れてしまう。


 ジェシカの魔法。星魔法という属性魔法とは違う分類に属する特殊魔法。使えるものは限られており、そのためか資料も少ない、とされている魔法ばかりで、星魔法もその一つだ。


 直撃ではないにしろ、魔法を受けたユリアは立っているのがやっとな重症だ。それをカルラが片手で支えながらジェシカを見て笑う。

「へぇ、いいなそれ。噂に聞いてた星魔法を実際に見るのは初めてだ」

「狂鳥……!」

 ほぼ無傷のカルラにジェシカは怒りを覚える。使える限りの大魔法を使ったにも関わらず、そんな馬鹿な。

「あ、俺? なんで無傷かっていうと結界ジュエルを五重に強度を――」

「カルラちょっと下がって」

 ミラがカルラの肩を掴んで後ろへと追いやる。ユリアは悔しそうにジェシカを睨んでいたが、ミラの姿を見たからか、力が抜けたかのように気を失った。

「ジェシカ。私を殺したいんでしょう。相手になるわ」

「そうよ! お前だけを殺すために私は今まで――」

 カルラは少し不満そうだったが、しょうがないとばかりに、ユリアを壁に寄りかからせて、セイヤと向き直る。

 セイヤはカルラを見ても何も反応せずただ、構えるだけだ。

「せっかく強そうなのと戦えそうだったのになぁ。まあいい、セイヤ。お前の目、覚ましてやっからかかってこい」

 そこに、シルヴィアとアベル、そしてモニカが近づいてくる。

「セイヤさん……」

「モニカ、セイヤは恐らく殺す気でくる。お前は危ないから――」

「わかってます。それでも、諜報員としてけじめがあります。邪魔にはならないようにしますので、共闘の許可をお願いします」

 モニカの頑として譲りそうにない表情に、カルラは何を思ったか「しょうがないか」とだけ言い、カルラの『本気の武器』であるダブルセイバーを取り出し、分解して双剣の形にしてみせた。

「アベル。あとシルヴィア? 悪いけど邪魔はしないでくれよな」

「私たちはあいつの後ろにいるケイトが目的よ」

「まあ、あっちの手伝いでもいいが、魔法使いの戦いに下手に割り込むと危険だしな」

 あっち、と顎で示したのはルカとサラ、そして少年ルースト。既に戦っている彼らは魔法を駆使しており、今から割り込むと確かに危険だと思われた。

「さて……セイヤ、さっさと正気に戻れよな」



しばらく視点が転々とする予定です。

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