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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 7章:影の国
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オークション炎上





 熱い、体の痛みと熱が思考を麻痺させる。


 ――だから、俺様の声を聞けって。


 知らない。聞きたくない。俺はお前なんて知らないんだ。


 ――俺様を否定するなよ。俺様を否定するってことはお前……いや、俺自身を否定しているんだから。


 わからない。いみがわからない。


 ――……俺様は、味方だって言ったら?。


 信じられるわけがない。知らない存在になにを頼れっていうんだ。


 ――頑固だな、ほんと。強くなりたくないのか?


 強く……?


 ――俺を解き放て。余計なしがらみは捨てろ。「俺」強くなれる。

 ――あいつを守りたいんじゃないのか?



 ――力の形態なんてさしたる問題じゃない。


 ――理想を語るなら力をつけろ。





「っ!」

 曖昧な意識がはっきりと押し上げられ、腹部の鈍痛がじわじわと蝕んでいく。ひと呼吸置く前にまた腹部を蹴り上げられてむせ返った。

 血が混じった咳。鉄臭さが鼻について不快感を示すように表情をこわばらせた。

 なぜ奴隷商人たちがこういった暴力を振るうかはわからない。予想では薬を使って心を折ろうとしていたがあまり効果が無かったので暴力で屈服させようとしているのだと思っている。

「くそったれが……」

 気を紛らわす悪態も許されないのか仰向けの状態の俺の右肩を思い切り踏みつけてくる男は楽しそうだ。

「あれだけ薬投与してもまだ元気とはな」

 胸ぐらをつかんで体を起こしてくる男を見る気も起きず目を閉じる。そのまま壁にまで投げつけられて背中に激痛が走った。

「ぐっ……」




 俺はこの痛みを知っている。


 それはいつのことだっただろうか。



 ――俺様を頼ればいい。



 俺は、何を忘れている……?





 いつくるかわからない助けを待ち続けるケイトの中にある何かが、ゆっくりと壊れようとしていた。






 オークション当日。

 ある程度回復したカルラとアベルだが、アベルのほうはまだ本調子ではないようで、具合が悪そうだ。とりあえず、裏から突入組とオークション参加者として表から入り込む組で別れることになり、ミラ、アベル、シルヴィア、カルラ、そしてモニカが裏組に。表からはサラ、ルカ、ユリア、モリアといった具合で、カリマはサポートに徹するのでどこかに隠れているとのことだ。特にユリアは裏組になりたがっていたがどうにかおさえつけて表組になってもらった。若干、情緒不安定なのが心配だがなんとかなるだろう。

 それよりも、アベルは不調なのだから表組にいけばいいものを……。

「裏がいい」

 こう主張し続け、説得も聞き入れず、半ば無理やりの参加だ。

 モリアがいる限り、表組は心配いらないだろう。ミラはルカたちにあるものを渡した。

「これ、一応オークションで使える金。最悪ケイト買うことになったら使って」

 あっさり渡された金額はサラとルカの意識が吹っ飛びそうな桁でモリアが横から「大丈夫? 少なくない?」などと茶化していた。さすが英雄、所持金の桁も違う。

「色んな特許とか諸々で何もしなくても金がね……。あと遺産とか兄さんたちの……ごにょごにょ……。まあ、そんなわけで使わないのにやたら貯まるから、気にしないで」

 さらっと言ってのけたミラに対し、ユリアを除いた弟子四人が遠くを見るような目でミラを見つめた。

 この人基準にしたら価値観壊れそう。というか今まで節約してたのはなんだろうとルカは思う。

「質素倹約が一番よ」

「そのお金持ってる人に言われても……」

 会場に入る前に表組と裏組で別れ、ルカはユリアの方にちらりと視線を向けるがあまり万全ではなさそうだ。

「ユリア、大丈夫?」

 見かねたサラが声をかけるが、ユリアは力なく微笑むだけだ。

 モリアは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだようでユリアに向ける疑惑の目をルカやサラ悟られる前に逸らした。









「うっわ……人多すぎ」

 軽蔑が含まれた声はサラのもの。中には顔を隠している客もいるようだ。オークション会場のホールは寂れた劇場を改装したもので今にも演劇を始めるのかという雰囲気だがそんな優しいものではないのはわかっていた。

 人ごみではぐれないようにルカとサラは手をつなぎ、モリアは不安定なユリアの腕を掴む。

「こら、しっかりしなさい」

「あ、はい……」

 ユリアはやはりどこか虚ろな様子だ。

 オークションの形式は席に設置されたボタンで入札額を提示する方法らしく、ルカたちの座った席も金額入力のためのボタンがあった。

「もしも入札する羽目になったらどうします?」

「うーん、私がやってもいいけれど。でも一応有名人だし、私」

 言いたいことはなんとなくわかったのでとりあえずルカが顔を隠して入札する方向でまとまった。裏組がうまくやってくれればそんなことにはならないのだが。

 客から聞こえてくる話題は基本的にフィアンマの少年、つまりケイトのことばかり。それだけ貴重なのだろう。

 ルカは小声でモリアに尋ねる。

「モリアさん。ケイトの価値ってどれくらいになるんですか」

「そうねー。フィアンマは滅んだと思われてたし、その生き残りとなれば数倍の値がついても好事家どもは買うでしょうね。元々、魔六家の子供は手に入れづらいとされていたから、様々な要素が絡み合ってかなりの額になるかも。普通の子供がだいたい5000ラロ程度だとして、そうね、最低予想200万ラロかしら」

「ちょっと飛びすぎじゃないですかね……」

 思わずそう突っ込んでしまう普通とケイトの差。どういう計算だ。

「最低の話よ? 下手したら億いっちゃうかもしれないわ」

「僕らの兄弟弟子の価値高すぎでしょう」

 身近にいた仲間が億の価値とか言われても現実味がない。

「……魔六家も動くはずだし、もし入札が行われたら大変なことになりそうね。ミラちゃんしっかりやってくれるかしら」

 言ってからモリアはあることに気づきしまったと頭を抱える。

「そういえばミラちゃん、若干方向音痴じゃない……」











 裏組が内部に侵入して20分が経過した。


「……」

「……」

 アベルとシルヴィアは崩れ落ちる二人――ミラとモニカの背中を見ながら呆れた表情を浮かべる。カルラはため息をつきながらモニカに言った。

「で、いつから迷ってた?」

「……ははは」

「モニカ……あのさ……」

「申し訳ございません違うんです内部が事前調査と全然違って――ん? てことはあのバカリマのせいかああああああああああああああ!!」

 小声で叫びながらキレるという器用なことをしたかと思うと、即座に携帯サイズの連絡水晶を取り出し通話を試みるモニカ。


『はい、なんですか』

「内部全然違うじゃねーかどういうことだよ』

『ああ、やはり違いましたか』

「やはりっつったか? お前わかってたな?」

『恐らく侵入者対策の幻惑効果ですね。確証はなかったので調査続行してました』

「いけしゃあしゃあとよく言えたなお前」

『とりあえず今いる場所で三時の方向を向いてそのまままっすぐ歩いてください』

 誘導するかのように言うカリマ。その場全員に聞こえるように音を広げたモニカは示された方向をまじまじと見て聞き返す。

「ふっつーに壁なんだけど」

『歩いてみてください』

 やや疑いつつモニカは言われたとおり進んでみる。すると、壁がぐにゃりと歪み、壁を通り抜けることができた。

『一応内部の人間として潜り込んでいるので僕は迷いません。なので僕の指示で動いてください。にしても……幻惑効果あるといっても普通の人間ならそこまで長時間迷いませんよ』

「……最初から言え」

『正直、あなたが方向音痴だということを忘れていました。あとミラさんも方向音痴だそうですね。カルラさんがいるから大丈夫だろうと思ってました』

「僕、この仕事終わったらお前殺すわ」

『フラグありがとうございます。そちらが死んでください』




 と、しばらく内輪揉めを聞かされたアベルはなんとも言えない表情で首を振る。シルヴィアも同様でミラに言った。

「あの人たち信用していいんですか?」

「ちょっと自信ないわ」

「まー、ミラさん。モニカはちょっと抜けてますが悪い奴じゃないんですよ」

 カルラがフォローをいれる。そういえば先輩後輩の関係だったか。

「というか、ア――諜報部長がおかしいんですよ。協会でも下っ端のモニカとカリマに任せるような案件じゃないっしょ、これ。諜報部副部長の奪還も含めて」

「そうね。いったい何を考えているのやら……」



 なお、諜報部長の真意とは単純な人手不足で下っ端のモニカたちしか動かせるのがいなかったというのが真実なのだが、ミラにそんなことがわかるはずもなく、カルラはカルラでまさかそこまで人手不足じゃないだろうという楽観があったので、二人がこの事実を知るのはまだ先のことである。







 場所は戻って表組のいる客席。

 20分が経過した今、そろそろ裏組がケイトを見つけ出したのではないかと淡い期待を抱いていた。

「特にアナウンスはないですね。運営がケイトがいなくなったことを隠しているのかそれとも……」

「まだ合流できていないかね」

 モリアはあまり楽観的な考えではないようで次々と落札されていく亜人奴隷を見つめながら呟く。

 既にオークションは始まっていて、ケイトの前座として亜人の少女たちが商品になっていた。

 価値としてはそこそこらしく、30万ラロで落札されていた。

「ミラちゃんってば何してるのよ……」

 モリアが危惧した通り、メインの準備が始まり、前方に出てきた檻には見覚えのある姿があった。

「ケイ――っ」

 立ち上がろうとするユリアを抑え、口を塞いだサラ。ユリアほどではないが、ルカとサラも動揺している。

「間に合わなかったのね、裏組……」



『さあ、今回の目玉! アウローラ国の名誉貴族、魔六家フィアンマの生き残りです! 年齢は15歳ほど。お客様次第でいかようにもできるでしょう!』



 支配人のアナウンスに会場は盛り上がる。顔を隠した者たちが入札準備をしているのが多く見えた。

「ルカ、入札準備」

 飲まれかけていたルカにモリアが冷静な声で指示を出す。

 慌てて入札金額を入力したその瞬間――


≪いい加減にしなさいよ人間!!≫


 誰かの叫び声とともに会場のいたるところから火柱が発生した。






大変お待たせしました。長く開けてしまって申し訳ありません。

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