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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 7章:影の国
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影の国にて

 痛みを知っている。

 俺はこの痛みを知っている。


 身動きできない、拘束されたまま。

 その記憶は確かに残っている。思い出せないだけで。




 ――でも『俺』は知らない。痛みなんて、覚えていない。

 ――だって、『俺』と俺は違うだろ? 俺、じゃなくてお前と言うべきか?


 ――痛みが辛いなら、『俺』に頼ればいい。

 ――この声はお前に聞こえることはないだろうが、『俺』だって退屈なんだよ。


 ――『俺』縛る枷も今じゃこの有様だ。お前の代わりにだってもうなれるんだぜ。





 知らない。

 知らない誰かの言葉が聞こえる。

 聞こえない。

 もう、聞くのも疲れたよ。





 なぜだか、暗闇の奥で誰かがにやりと笑みを浮かべた。そんな気がした。













「さて……覚悟は出来ましたか?」

「ああ、とっくに」


 二人の協会員は大陸の闇、影の国ウンブラの国境付近で真剣な表情を浮かべていた。

 赤髪のポニーテールの女と黒の短髪の男。二人は仲間であるにも関わらず物理的な距離があった。

「できれば殺す、なんてことにはなってほしくないんだけど」

「僕が呼ばれた時点で殺す前提でしょう」

 困ったように呟く女とは対照的に呆れたように返す男。二人の目の色は髪の色を交換したように黒と赤。

「お前一人に任せないってことは殺さなくて済むなら殺さないで連れ帰るってことだろ。僕がやることやってるあいだに先走って殺すんじゃねーぞ」

「さあ? 僕は殺し専門なのでそのへんは貴方に任せますよ」

 味方同士のはずなのにまるで敵対でもしているかのような二人。身につけていたエンブレムを外すとその模様を見つめてため息をついた。


 エンブレムには協会諜報部の証である黒い翼の鳥。縁取りは下っ端中の下っ端である青色。そんな彼らが目指す場所それは――


「せいぜい。流れ弾に当たらないようにって警告しとくよ」

「では、僕は貴方がお得意のドジでうっかり死ぬことを願っておきますよ」


 目指すは大陸の闇、ウンブラの奴隷市場――。








「ああイライラするイライラするイライラするイライライライライライライライライライライライライラ苛々苛々イライラ苛々苛々苛々苛々イライライライラ」

「君、うるさい」


 奴隷市場の一際大きな建物の一室で二人の男女が何やら作業をこなしている。

 一人はまだ幼くも見える少女。美しいストレートな銀髪をツーサイドアップで結いており、金色に光る瞳も相まって気高さを感じさせた。しかし醸し出す雰囲気から見た目とは反して刺々しい殺気に満ちた荒々しい様子だ。

 もう一人は少年で物静かな空気を漂わせているがカラスのような黒い髪に少女よりもくすんだ金色の瞳を持ち暗い印象を与えた。

 少女は少年の言い方が気に障ったのか顔を歪め少年を怒鳴りつけた。


「エヴェン様のご命令だからしかたなくあんたみたいな雑魚とコンビ組んでやってんの! 調子に乗るな!」

「俺が支援しないとろくに魔法も撃てないくせに?」

「きいいいいいいい!! うるさいうるさいうるさい!! ドグサレの小僧が調子に乗ってぇぇぇぇぇぇ!!」

「君がうるさいよ」

 相手にするのも面倒、と言いたげに少年は報告書に目を通している。すると、何かが彼の目に止まったのかある部分をずっと見続けている。

 彼らの部下からの報告はコーピアである三人を拉致したことに関するものだ。



 ――狂鳥カルラを捕獲。その際に、そばにいた少年二人も拉致。過去の書類と照らし合わせたところ『フィアンマの生き残り』のケイト・フィアンマと『紅の槍士』アベル・クラインと思われる。

 彼らの扱いについてエヴェン様に処遇を問う、とのことだ。



「……あの魔法使いはいないんだ」

「は? 何ブツブツ言ってんのよ気持ち悪いわね。死んでよ」

「それより、下の商会の地下借りて捕らえてるやつ、フィアンマの生き残りらしいけど。エヴェン、興味持ってたし報告してみれば?」

 自分の上司にもあたる存在を呼び捨て、しかも重要な報告であるはずのことをどうでもいいとばかりに言う。

 あくまで提案。しかし少女はエヴェンの名を出すと即座に反応し飛び上がらんばかりに嬉しそうな声を上げた。

「フィアンマの生き残り! エヴェン様ならきっとほしがるわ! そんな大事なことなんで早く言わないのよ!」

「君が報告書に目を通さないからだろ……」

「さっそく持ち帰ってエヴェン様に献上しましょう!」

 今すぐにでも連れて帰りそうな様子の少女だが少年はそれに水を差すように言う。

「悪いけど、それより先にこっちの任務優先。エヴェンから至急で任されてる」

 書類に書かれた任務内容に目を通し少女は汚いものでも見たかのような反応を示す。しかしエヴェンとやらの存在は大きいのか舌打ちしながらもそれを受け入れた。

「わかったわよ……任務の報告のときにそのフィアンマのことも報告すればいいでしょ」

「そうだね。ところで、『アレ』どうする?」

 少年が示したのは部屋の隅の壁にもたれ掛かっている中性的な人物。意識を失っているのか反応はない。夕日色の髪が風で揺れ、整った顔が晒された。

「狂鳥の拉致では結構役に立ったみたいだけど」

「この任務には必要ないわよ。どうせ、術も解けるはずないし」

 二人は興味なさげに部屋をあとにする。


 目覚める気配のないその人物の身につけているエンブレムは協会の幹部を意味する金色の縁取りがされた黒い翼の鳥だった。



ちょっと遅くなりましたが新章になります。

新キャラっぽい何かがいますが敵側は個性強くするのがポリシーだったり。

協会についてもそのうち詳細が出ますのでお待ちいただけたらと思います。

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