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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 6章:汐風が運ぶ出会い
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路地裏の襲撃

 港について協会支部で海賊を引き渡した俺は信じられない光景を目の当たりにしてしまった。

「……嘘だろ」

「えー? マジだってばー。それとも証拠の手帳見るか?」


 協会アマデウス本部・戦闘部幹部代理カルラ・バベッジ。手帳の肩書きと写真を見せつけられて言葉を失うほどの衝撃だった。強いのはわかるがこれが……こんなのが……。


「これが大陸の中心の協会本部の幹部……こんなのが……」

「声に出てるぞー聞こえてるぞー」

 信じたくない。というか生年月日とか色々な個人情報があるが逆算するとカルラの年齢は23歳ということになる。何が同じくらいの歳だよ何が。

「いい年してるくせに……」

「いやぁ、俺若く見られちゃうからさ~。むしろ実年齢言うと疑われるし」

「言動のせいじゃないかな……」

「なんだよ。俺の言動がガキっぽいとでも言うのか?」

 まさにその通りなんだけどあえて黙っておこう。なんだか腹が立つ。


 現在、休憩のために宿を一度利用している。モリアさんがミラさんを介抱してくれるようで残りのルカ、シルヴィアの船酔い二人もそこで休んでいる。一方、アベルはなんとか回復したのかユリアとサラとともに買い出しに行っている。

 俺とカルラは海賊引渡しに関する協会支部での手続きをしていたのだがカルラを見るなり協会員が揃って頭を下げるのだ。その光景に絶句しカルラはそれを楽しむように寄ってくる協会員と何やら話し込んだりしてようやく支部から出られるようになった。しかし、帰る時も手の空いた協会員総出で礼をして見送り体制をとられ、関係ない俺からしたら関わりたくない一心なのにカルラは協会員にわざわざ俺のことを言うものだから無関係ですと言えなかった。


「はぁ……ミラさん大丈夫かな」

「ミラさん、ね。ケイトってミラさんのこと好きなのか?」

「は? 嫌いではないけど。師匠だし」

「だって男女の師弟とかこう、怪しい何かがありそうじゃん?」

 お前は何を言っているんだ、と言いかけてやめた。ミラさんと俺に限ってそれはない。

 俺も何か買おうかな。資金は船に乗る前にミラさんが小遣いとして結構な金額をくれたので皆それでジュエルとか買ってるんだろう。

「なんか買うのかー?」

「どうしようかと思って。カルラは先に宿戻れば?」

「どーせ暇だし付き合うよ。あーでも女子と一緒が良かったな」

「帰れよ」

 さすが噂で聞いていた通りというかコーピアの港は人で賑わっており、店も豊富で見たことないようなものがたくさん並んでいる。


 そういえば、俺はこういう光景が見たくて旅に憧れたんだっけ。


 小さな頃読み込んだアミーユ伝説の多くの物語。見たこともない動物、魔物、街の建物、新しい発見。そして、出会いと別れ。

 忘れていたのかもしれない。俺は今、憧れた夢の中にいるってことを。

 それなのに、どうしてこんなにワクワクしないんだろう。まるで『自分の中にいる何か』がそれを否定するかのように俺の感情が沈んでいく。カルラが首をかしげながらこちらを見てくる。今カルラの目にはきっと呆然と立ち尽くしている俺が映っているのだろう。

 俺は、どうしてしまったんだ。

「どーした?」

「いや……なんでも、ない」

「お前も体調悪いならとっとと宿行って寝てろよ」

 ごく自然に会話に混じってきたのはアベル。当然のように隣にいたので思わず変な驚き方をしてしまった。

「い、いつからいたんだよ!?」

「十五秒くらい前。お前がぼーっとしてるあたり」

「ああそう……。むしろアベルのほうが寝てた方がいいんじゃないか?」

 よく見るとアベルが紙袋を抱えていることに気づきそちらへ視線をやる。するとアベルはその視線から隠すように紙袋を背後へと移動させた。

 こいつ、何買ったんだ。

「俺は今は平気だ。次船乗ったらどうなるかは保証できないけどな……」

「寝てろって」

 そのやりとりを見ながらカルラは笑いをこらえるように口元に手をやる。ふと、カルラが視線を向けたのはすぐ近くの横道。

 カルラの表情が凍りつき動けないままでいる様子を不審に思い俺たちもそっちを見る。

 フードを目深に被った人物がこちらを見て微笑んでいるのが見える。髪の色が辛うじて夕日色だと分かったが男か女かは判断できない。

 フードの人物は背を向け路地裏へと消えていく。カルラはようやく現状を把握したのかぴたりと止まっていた体がまるで放たれた矢のように飛んだ。

「セイヤ――!?」

 カルラは謎の人影を追うのか人通りの少ない路地裏へと向かう。アベルのほうを見るとため息を疲れたがどうやらアベルも追うことに反対はしなかった。

 遅めに走り出したから間に合わないかと思ったがそれほど遠くない距離でカルラを見つける。立ち止まってあちこち視線を向ける様子から見失ったのだろうと察せられた。

「急にどうしたんだよ」

「行方不明の……知り合いが、いた気がして……」

 カルラの表情はいつになく真剣だった。狭い路地裏に隠れられるような場所はないだろうと思うがもしかしたらと思い後ろを振り向き――


「なっ――」


 視界に映ったのはさっきのとは違う黒いフードをかぶった知らない男。そして、未だ万全ではない体調のアベルを攻撃する別の黒フードが見えたかと思うとそれを最後に俺は意識を失った。








「ケイト!?」

 正体不明の黒装束集団に囲まれているのはケイトとアベル。二人とも気を失っているようでなすすべがない。

「ちっ――」

 双剣を出し応戦しようとした瞬間、襲いかかってきた相手の顔を見て動きを止めてしまった。

 沈んでいく夕日色の髪に磨かれた宝石のような瑠璃色の瞳。そして、邪悪に釣り上がる口の端。


「なっ!? セイヤお前――」


 一瞬の隙をついてカルラは攻撃を受けてしまいそのまま気絶してしまう。

 意識を失った三人を抱えて黒装束の者たちはどこか別の場所へと転移したのであった。









「あら……?」

 未だ目覚めないミラを介抱するモリアは異変を感じ取ったのか窓の外を見つめる。

 胸騒ぎの理由がよほど気になったのか水晶玉を出して魔力を込める。占いというより遠見の力だがおおよその原理は同じとのことだ。

 その魔力と異変に呼応するように、水晶玉にゆっくりと色がついていく映る。モリアが息を飲み水晶玉に映った光景がはっきり見えてくると感じたその瞬間と同時にミラはゆっくりと目を覚ました。



だいぶ短いですがこれで6章は終了です。

次章から少し変化がある、と思います。

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