聞こえることのない苛立ち
失った記憶。
『船なんて初めてだもんなー。カイル大丈夫か?』
『む、無理……』
『カイルってマジ体弱いしすぐ死にかけるね』
遠い昔の記憶。
『何よ!? 海賊の襲撃とかついてなさすぎ!』
『とりあえず一般人の人たちを守らないと――』
『うるさい……』
海の上での仲間との記憶。
『うるさい……揺らすな……気持ち悪いんだよ――『唸れ轟き、墜ちろ雷。我が前に在る障害を裁け』……くたばれ、シュトラーフェ・ブリッツ!!』
『か、カイルー!?』
『何やってんのよー!?』
『あっ、海賊船が……』
『あーあ……ミラ、どうしたの? 大丈夫――』
そこで意識が現実に引き戻される。
船内の一室、八人部屋のうちの一つのベッドにいつの間にか寝ていたようだった。
ミラは辺りを見回す。ベッドにはアベル、シルヴィア、そしてルカが瀕死の状態で寝ていた。恐らく船酔いが相当ひどいのだろう。
青ざめたルカの顔を覗き込む。こうして見るとやはり似ている。それこそ今は見えない瞳の色も同じだし髪は多少の差はあれど茶髪には変わりない。ルカは暗めの茶髪でカイルは赤みがかっていた。
――だからどうしたというのだ。
代わりになんてなるはずがない。ましてやルカとカイルは何も関係ない。
そのはずなのに。
「独りは寂しいよ……みんな」
今は亡き仲間を想う。
浮かぶのは幸せだったころの記憶。
ルカの顔をこれ以上見ているとまた自分がおかしくなりそうだと判断したのか、ミラは風に当たるために部屋から出た。
「ルカは……カイルじゃない……わかってる」
自分に言い聞かせるように。現実を確かめながら。
その頃、レストランでケイトたちは食事をしていた。だが――
「ケイト君……どうかしました?」
「別に」
「明らかに不機嫌にしか見えないけど……何かあった?」
カルラに負けて悔しいのと自分が強くなれないことへの苛立ち。それが俺の中で確実に沸き起こっている感情だった。
ちなみにメニューはユリアがシーフードパスタでサラがカレー、そして俺はハンバーグだ。船酔い三人は今は寝ているのでこの場にはいない。夕食時より少し早めだからか人はそんなにいない。注文した料理をトレーで受け取り好きな席で食べれるようになっている。
「一等客のほうだともっとすごいらしいよー」
「この船おっきいですね。私たちは二等客なんですか?」
「まあ一等客なんて予約済に決まって――」
「おーそっちも飯か」
トレーを持ったカルラがなぜか俺を見つけて近寄ってくる。さっきのことを思い出すとなんかムカムカしてきた。
次は絶対に一本とってやる。
「なんだよそんな顔して。負けたの根に持ってんのかー?」
「護衛はいいのかよ」
「一等客のほうでパトロンだかなんかと一緒だってさ。俺居心地悪いしこっちのほうが合ってる」
俺と同じくハンバーグを選んだようでトレーには出来たてのものが乗っている。しかし俺より多い。パン三つって……。
空いていた俺らの席にちゃっかり座るとサラとユリアをまじまじと見て楽しそうな笑みを浮かべた。
「にしてもケイトのツレ可愛いなー。あ、俺カルラ。よろしくなー。ちなみに彼女募集中」
「は、はあ」
「……ケイト、何この人」
「……ただのバトルマニアでついさっき知り合った自称俺とそう変わらない年だってさ」
本当にその通りでそれ以上もそれ以下もない。そのはずなのになんでこいつこんなに溶け込んでいるんだろう。
「つーかケイトの師匠ってやつは? この娘らじゃねーだろ?」
「よくわからないけど今部屋かな。あの三人はともかくミラさん本当にどうしたんだろ」
船酔いではないらしいので単純に調子が悪いのだとは思うがやはり心配だ。
「ふーん……手合わせしたかったんだけどな」
「本当にバトルマニアなんだな」
ここまでくるといっそ感心する。ミラさんに勝てるとは思えないが……まあミラさんのことだし軽く相手くらいならするかもしれない。
寝込んでいる三人に関しては昼前には港につくので最悪今夜何も食べなくても死にはしないだろう。ただ港についてすぐあの三人が次の船に乗って無事でいられるのか……。
そんなことを考えているとカルラが何やら呟く。
「………………マとか期待…………な……」
「え、何か言ったか?」
小さすぎてなんて言ったか聞き取れない。ユリアとサラも聞こえなかったようで首を傾げる。
「……ああ、ごめん。つい声に出ちまった。気にしないでくれ」
「そう言われると余計気にな――」
すると、まるで俺の言葉を船が大きく揺れ、轟音が響いた。
ミラたち過去の冒険は今のところサイトだけの連載ですがなろうでも連載できたらなーくらいには思ってます。過去編は進みが遅いです。そして過去編を書くたびに本編に出てくる彼らと過去編の彼らの差に作者が戸惑うという謎の現象が……。カースとかミラはだいぶ性格口調が変化してます。




