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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 6章:汐風が運ぶ出会い
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バトルマニアと占い師




 親しげに話しかけてきたのは全く見覚えのない男。しかし怪しくはない。なんとなく顔を見て危険があるタイプではないとわかる。

 ところどころ跳ねた金髪に翠の瞳。この髪と目の色に容姿は間違いなくモテるタイプの顔だ。この大陸では金髪碧眼に近いものは綺麗どころとして親しまれているはずだ。赤縁のメガネをかけているせいかどことなく知的にも見えて魅力的に感じるだろう。年齢はぱっと見た限りでは十代後半くらいだろうか。この手のタイプは年齢と見た目が一致しないことが多いから判断しづらい。旅衣装なのか軽装だが道具などが入るポーチなどを引っさげベルトには短剣が数本ある。しかしメインウェポンではないだろうから緊急用と思う。そのことからかなりの修羅場をくぐっていると感じた。

「んな畏まらなくてもいいよ。とりあえずお前と同年代ってことで」

「とりあえずって……」

 一気に同年代説が怪しく感じられる。

 すると彼は手を差し出してくる。一瞬何かと思ってすぐに握手だとわかり慌てて手を出した。

「俺カルラ。よろしくな。えっと名前――」

「俺はケイト。えっと、よろしく」

 初めてまともな同年代かもしれないの男と会話。ルカやアベルは初対面がまともじゃなかったせいかすごく新鮮だ。

 カルラは眉を一瞬だけ動かしたがきっと気のせいだ。

「ケイトはコーピアに何しに?」

「マレからコーピア経由してヒモトの予定だ。俺たちの師匠が目指してる場所で」

「へー。俺は一応護衛みたいなもんかな」

「護衛?」

「そ。すごい人のおも――じゃなくて護衛」

 一瞬お守りって言いかけたけど一体何者なんだろう。見たところカルラはここに誰か連れているわけでもなく一人だ。護衛対象と離れてもいいのか?

「護衛する必要もねーくらい強い人なのに俺任されちゃってさ。名ばかりのお飾り護衛ってやつ。今頃船内で優雅によろしくやってるんだろうなあの人」

 愚痴をこぼす様子から退屈、という気持ちがありありと現れている。呆れているのかわずかにため息が溢れているようだった。

「……気のせいか」

「何が?」

「ああ……いや、言ったら多分怒ると思うから言わないでおく」

 思わせぶりな発言をされると余計に気になるというのがわからないのか。

「気になるよ。そんな怒らないって」

「ああ……じゃあ言うけど。俺強い奴と戦うのが好きなんだ」

 見た目からしてインテリ寄りだと思っていたがバトルマニアだったのか。メガネをかけているからって頭がいいとは限らないし単に目が悪いだけかもしれない。

「んでさ、お前の後ろ姿見て『あ、なんかいい感じ』って思って声かけたんだ。手合わせに持ち込もうと思って」

「お、おう」

「でも多分お前相当弱いだろ」

 なるほど、確かに怒りたい。けど怒らないと言ったからには抑えろ自分。

 カルラは悪いとは一切思っていないのか笑顔を浮かべながら続ける。

「なんで強いとか勘違いしちまったんだろーなー。正直ケイトが十人いても勝てるわ俺」

「その自信はどこから湧いてくるんだよ……」

 初対面で散々弱い扱いされ自信満々に自分は強い宣言をされている。ぶん殴りたい。正直ここまでイラついたのは久しぶりだ。

「だって俺強いし?」

 意味ありげな視線は揺るぎない自信と誇らしげな表情はなぜか納得してしまいそうになるほどの説得力があった。しかし、認めるのはシャクなのでつい反論をしてしまう。

「じ、実際やってみねーとわかんないぞ?」

「へー? じゃあ軽い手合わせする? 暴れると危ないしホント軽いので」

 武器を出すことはせず互いに距離をとって戦闘態勢に入る。一応広いしほかの乗客はほとんどいないので大丈夫だろう。

 自分だって少しは強くなっているはずだ。旅立ったときと比べて、だが。そう思って訓練用の木剣を出す。しかしカルラは武器すら出そうとしない。

 互いに構える。合図はなくどちらがどう動くかで決まる。

「そっちからこねーの?」

「……カルラお前……手抜いてるな」

「おっ、わかる? まあさすがにそれくらいわからないと一人前には程遠いよな」

 あきらかに馬鹿にしている。このままでは埒があかないと判断し右側から木剣を切り込もうと飛び込む。

 しかし紙一重でよけられそのまま流れるように足払いをかけてくる。足払いは想定はしていたため体を咄嗟に曲げて逆に相手のバランスを崩してやるとまえめのりになって倒れそうになる。その隙に木剣を叩き込もうとしたが――


「甘いっ!」


 カルラは倒れこむことすら利用し受身をとって上になった足を使って攻撃してきた。

 楽しそうなカルラの声は完全に遊んでいる。蹴りで木剣は弾かれ手から離れてしまい、それを確認したカルラはまるで曲芸師のように身軽な動きで正しい姿勢に戻ると俺の額に軽くつついてきた。

「っ……!?」

「力量を見極めることも強くなる一歩だぞ? ガンバレ」

 得意げに笑うカルラを見て確信する。こいつは半分どころかほとんど実力を出していない。

「おっと……あの人もそろそろいいかな。んじゃ俺一回もどるからまた会えたらなー」

 結局負けたことの悔しさをどうすることもできず去っていくカルラを見送ったのだった。











「あら、カルラ。やけに楽しそうじゃない」

 ミルクティー色の髪を肩のあたりまで伸ばしている美女はタロットカードを片手に部屋に戻ってきたカルラを出迎える。銀色の瞳は妖しく輝いており戻ってきたカルラを見つめた。

「いいことでもあったのかしら?」

「ええ、まあ。弱いけど面白そうなやつと軽い手合わせしたんですけどね」

「カルラに勝てる一般人や冒険者なんているの? 私だって自信ないっていうのに。それなのに戦って楽しい?」

 苦笑しながらタロットを仕舞う。仕草の一つ一つが美しくそして目を惹くが――

「あなたのおもりよりは楽しいですよ」

 バトルマニアのカルラには美女の美しさなど微塵も響かない。すると美女はもう一度苦笑した。

「私は護衛いらないって言ったんだけどね。悪かったわね」

「いいえ。さっきの出会いもそのうちいい方向に行くと信じてますから」

「あらそう。出会いといえば……どうも船に昔馴染みがいるっぽいのよねぇ」

「あなたの昔馴染みというと――」


 髪を揺らし一枚の写真を取り出して彼女は呟いた。


「クランアミーユリーダ、ミラちゃん……かな」


 かつての仲間の揃った集合写真。今は全員生存しているわけではない。

 だけど、ミラにとっては仲間が全て死んだようなものなのだ。

 ミラの幼馴染であるルイス、そしてカイル。更には特別仲の良かったあの三人も――


「ミラちゃんはそろそろ、吹っ切って欲しいんだけどね」


 かつての英雄の一人占い師、モリアは悲しそうに写真を見つめる。

 もう二度と戻らない彼女の幸せを悼みながら。


ちょっと長くなってしまいました。

亀更新で申し訳ありません。

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