Encounter in the rain Ⅱ
「よいしょっと。さーて、どうすっかなー」
とりあえず物置同然の客室のベットに寝かせたはいいがこの服装でのままでは結局風邪ひきそうだ。かといってうちは父と二人暮らしが長かったため女物の服などない。母親の服は父が処分したらしい。
自分の服で着れそうなもので我慢してもらうかと考えているととんでもない事態に気付いた。
どうやって着替えさせればいいんだ。
初対面の女の子の服を勝手に変えるなんて変態行為もいいところである。いや、もちろん初対面以外でも変態行為だが。
無難に隣のおばさんに頼むしかないか……。何を一人で悩んでるんだ。馬鹿じゃないか俺。
そう思い一度部屋から出ようとドアに手をかけたときベットのほうでもそもそと動くような音がした。
目を覚ましたのかと思い振り返る。
どこか焦点の合ってない目は綺麗な金色で思わず見とれてしまう。雨のせいでまだ濡れたままの髪はなぜか色気を感じさせた。
しばらくお互い動かない状態が続いた。いや、俺はなぜか動けなかった。
先に口を開いたのは少女のほうだった。
「……おはようございます?」
再び静寂。というか今は昼だ。雨が降っているとはいえおはようございますって……。
「あ、こんばんはですか? それともえーっとあれ?」
状況がよく分かってないのかしきりに首をかしげながらこっちを見てくる。
なぜか俺はいたたまれなくなった。なんで自分はこんなに動揺しているんだろう。
「あ、えーと……その……」
言葉を続けようにも濡れて肌が透けたワンピースに意識がいってしまい、明らかな挙動不審に陥り、逃げるように部屋から出た。
「き、着替えるもの渡すから! ちょ、ちょっと待っててくれ!」
言うだけ言って部屋から離れ自己嫌悪に陥る。俺は何を言ってるんだ。
あの子のことを頭に思い浮かべるだけで心臓がばくばくと不規則になる。
「……可愛い」
素直にそう思った。白い肌に鮮やかな金髪。月並みだがおとぎ話のお姫様を思い浮かべるような可憐さ。
みっともなくも目を奪われていることに今更ながら気づきしばらく動けなかった。
私は何だろう。
自分の手のひらを見つめてそう自問自答する。
わからない。私は何?
ただ、自分の手のひらが異常に気持ち悪く感じる。まるで何かで汚れているみたいに。
ふと、顔に手をやりなぞるように触れる、
私は、誰?
――思い出したら駄目。
どうして?
――思い出したらきっと……また、私は……
出会うはずではなかった二人。この出来事が運命を大きく変えることになろうとはまだ誰もわからなかった。