彼と彼女の心中
救助されたミラとケイトの様子をシルヴィアとアベルはどこか遠くで眺めていた。
「……よかった」
「…………」
アベルは何も言わずミラと、ケイトにしがみついているユリアを見つめる。
「お前、本当によかったと思ってるわけ?」
「当たり前じゃない」
「じゃあなんであっち行かないんだ」
アベルの問いにシルヴィアは答えない。詰まっているわけでもなく、ただ言う気がないという意思表示をするように淡く微笑んだ。
「今は休戦中なだけだから」
「あっそ」
「あんたこそこんなとこで様子みてるだけ?」
すると今度はアベルが無言に陥る。しかしアベルは悩んで答えを自分の中から探そうとしているように見える。しばらくして答えを手にしたのか目を細めてミラを見た。
「あの人死んだら俺解放されるのか、って思ったけど、あの人のこと俺割と嫌いじゃないんだよな」
「へー、年上好き?」
「ちげーよ。あの人は俺の知ってる人に似てるから」
「ふーん……」
「あとユリアもその人に似てる」
その言葉にシルヴィアはわずかにまゆを寄せるがアベルはそれに気づかない。
ミラとユリアを遠目から見ていたアベルはふとケイトに視線をやるがすぐにそらしてしまった。
「俺はあいつみたいに幸せにな人生送ってないしあいつが羨ましくてうざいと思ったこともある。でも今わかんねーんだよ。ミラさんの弟子に強制的にされたけど悪い気はしないし」
――けれど過去の悪夢は逃がしてくれないから。
彼らと自分の生い立ちは違うものがありすぎて近くにいるだけでその幸福さに嫉妬してしまう。妬ましく、羨んでしまう。
生きるためには強くならなければいけなかった。望んでいたことはそんなことではなかったのに。
だからこそ、弱いままでいれたケイトが妬ましかったのだろう。
「俺があいつらと一緒にいていいのか、って悩むこともある。ヴィオと会ったせいで自分のことを思い出した」
「……私はあんたがなにしてきたかは知らないけど」
呆れたようにため息を吐きながら自分より少し高い位置にあるアベルの目を見て少し照れくさそうにシルヴィアは言う。
「後悔しないようにてきとーな人生歩んどけばいいんじゃない? 私はケイトの傍にいていつか両想いになる野望をひめてるから。……まあユリアがちょっと怖いけど」
「お前は気楽そうでいいな」
「ありがとう」
「褒めてねーよ馬鹿女」
互いに頭を小突くと頃合だと判断したのか二人はケイトたちの元へとゆっくり近づいていった。
消えることのない悪夢を背に感じながら。
ここでまさかの二人の会話です。
ついでにアベルの視点はいろいろな意味で貴重です。アベルも重要なポジションですので過去とか早めに出したいなぁとは思ってます。そしてそろそろ協会と監獄の二大勢力が出始める予定です。人物が多くなるので人物紹介等を作ろうかと考えております。