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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 5章:呪術師の道しるべ
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師匠と弟子の対話





「ケイト君!! ミラさん!!」

 洞窟に取り残されたケイトとミラの名をユリアが必死に呼ぶが返事はない。崩壊した洞窟で生き埋めになったかもしれない二人を助けようにも不用意に動けば押しつぶしてしまうかもしれない。

「っ……ヴィオ! カースさん治せる?」

「た、多分……でも少し解呪に時間かかりそう」

 ルカとヴィオが意識を失ったカースの横で解呪の様子を見ている。徐々に紋様も消えていくが完全に消えるまでには時間がかかる。それほどまでに深く根付いているのだ。

「僕らが下手に動けば二人が危ない。カースさんならなんとかできるはずだ」

「で、でも――」

 泣きそうなユリアをサラは無言で引き止める。冷静になれ、と言い聞かせるような目にユリアは悔しそうに頷いた。それを見ていたシルヴィアが焦りを隠そうともせずカースと崩れた洞窟を見た。

 どうやら管理者たちが洞窟の異変に気づいたようでルカは彼らに対し説明をしに行っている。


 ――私は何もできないの?


 シルヴィアは自分の無力さを痛感する。ただ、成り行きで仲間になった自分だから馴染めていないのもあるが彼らと比べて何もできないのを嫌というほど味わっている。

 そんな場違いな考えをしているとシルヴィアにアベルが囁いた。

「アホなこと考えてるんだったら手伝えよ馬鹿。管理人どもと崩れないように瓦礫をなんとかするぞ」

「わ、私……」

「ぐだぐだ考えないでできることやりゃいいんだよ馬鹿、馬鹿女」

 額を軽く小突いてきたアベルはいつもと口調は変わらないのにシルヴィアはどこか優しく感じた。













「……う……あ、れ」

 息苦しくて暗い場所で目を覚ましたかと思うとなぜか僅かに温かい。恐る恐る顔を顔を動かすと何とも言えない表情で俺を庇っているミラさんがいた。

「ミラさん……何がどうなって……」

「ケイトが落盤に巻き込まれそうになったから助けようとして一緒に巻き込まれた、ってとこね」

 不自然な空間ができていることに首をかしげつつもほとんど動けないためあまり意味はない。

「とっさに身を守ろうとしたけど潰されない空洞で精一杯ね……」

 魔力による防御の応用で瓦礫を防ぎ生き埋めにならないように人が入れるだけの空間を作る。そんな芸当を咄嗟にやってのけたこの人はやっぱり自分とは違う存在なのだろう。

「……いつまでそうやってふてくされてんのよ」

「ふてくされてなんか……」

「私がミラだって名乗らなかったのがそんなに不満?」

 半ば逆ギレ気味の口調に俺は思わず苛立ちが増してくる。なんで俺が怒られてんだよ。

「不満に決まってるじゃないですか。なーにが『ただの冒険者』ですよ。多くの子供と冒険者の憧れである英雄だなんて――」

「その見方をされるのが嫌だったのよ」

 悲しげな声が聞こえてきて俺はミラさんの顔をもう一度見る。ミラさんが泣きそうになっているのを初めて見たのもあるが一つ気になることがあった。

 ――この人は強いけどとても弱い人なのかもしれない。

 強くて誰よりも気高くてその反面誰よりも寂しがりな一人の女性。


 アミーユ伝説の深い深い続きの物語を知っている人間ならわかる。けれど多くの人間はその物語を知らない。知ろうとしない。


 だって、輝かしい未来を守り抜いた英雄たちは――


「私はね、ケイトやユリアにまで背負わせたくなかったのよ」

「……俺は別に」

「私の自己満足だから。だって、ケイトも知ってるでしょ」

 アミーユの伝説を、物語の最後を。

「……エスタンテ著、アミーユ冒険記番外編其の四、ですね」

「よく知ってるじゃん。そう、あれが私たちの旅を一番よく再現してる物語。血塗れ姫は一人残され仲間五人は消え去った」


 戦いの後、六人は数年の間は平和な時を過ごした。しかし、ミラ・エルヴィスを除く英雄五人は何者かの策略により無惨な死を迎えた。

 三人は魔法による惨殺死体。二人は死体が見つからないほどの衝撃で消し飛んだとされている。

 それが真実だとしたら、ミラさんは仲間の死を背負ってずっと生きてきたのだろう。


「元々、あんたを弟子にするってのはディダスとキリアの頼みだもの。二度と弟子を取らないって決めたのに」

「父さんと……母さん?」

 物心つく前に死んだ母親の名を聞き複雑な気持ちになる。どんな人だったかはよく知らないがミラさんとの関係ふがいったいどんなものなのか。全く想像できない。

「ディダスが早死するなんて思ってもみなかったから……キリアは長くないとはわかってはいたけど」

「それと、どう関係が?」

「『ケイトを守って欲しい。それか、ケイトを貴方の手で強くして欲しい』ってキリアが死ぬ前に私に頼んだの。でも私なんかと一緒にいたらそれこそ危ないのに、って言ったんだけどね」

 覚えていないはずなのに母なら言いそうだと不思議と思ってしまう。自分が愛されいていたことをわかっていることは幸せなことだと。

「母さんはなんて?」

「『ミラのそばにいなくてもただでさえ危険なんだからいたほうがマシ』って……病気のくせにやけに元気な声で言うのよ……」

「そう、ですか」

 ミラさんへ不信感を抱いていた自分が馬鹿らしい。確かに隠し事はしていたけれどミラさんが悪いわけではなかった。教えてもらえなかったのは俺が弱いままの子供だからだ。

「俺は、色んな人に守られてばっかで……誰かを守ることなんかできなくて……弱いままで情けない子供ですね」

「弱いことを恥じることはないわ。弱いなら弱いなりの戦い方ってのもある。それにまあ、子供って言ってもケイトはまーだマシなほうよ」

 苦笑しながら俺の頭を撫でるミラさんはどこか母親のような笑みを浮かべる。写真で見た母と比べて似ていないはずなのにどこか似ているのはなぜだろうか。

 そして頭を撫でるのは子供扱いのなにものでもない。

「ちょ、狭いのに撫でるのやめてください」

「はぁ、なんかようやくちゃんとケイトと話せたわ。正直、カースの用事終わったら協会に預けてお別れしようかと思ってたんだよね」

「な、なんで協会に……」

「それは――」

 その瞬間、今まで光指すことなかった空間にようやく一筋の光が溢れてきたことに気づき顔を上げた。

 徐々に岩が浮いていくその光景にミラさんは少しだけ嬉しそうに叫んだ。

「じゅーぶん元気になったじゃない、カース!」


「元気にハなったケド、弟子トいちゃイチャしてるノは見たくナイかなァ」


 やや汗を流したカースさんは浮かせた落盤の瓦礫を器用に魔法でどかしてミラさんに手を伸ばす。

「ミラちゃんヤッパ年下スキ?」

「違うよ馬鹿」

 からかっている様な遊んでいるような互いの声に安心すると同時にユリアが駆け寄ってくるのが見えた。少し後ろにサラやルカたちも見える。


 弱くて駄目な俺だけど、きっと、成長できる。今は一人じゃないから。

 そしてミラさんも、独りじゃないから。




更新久しぶりすぎて口調が少し不安だったり……申し訳ありません。(土下座)

呪術師のお話もう少し続きます。あとミラは決してショタk……年下好きではないです子供好きなだけです!

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