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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 5章:呪術師の道しるべ
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流水と劫火

 


 大陸一の領土を持つ国、コーピア。マレやアマデウスなどとも隣接し、豊かな土壌と過ごしやすい気候を有する。職人や研究者なども多く、技術的に発展した国とも呼ばれ『科学・機械』が最も注目されている。また、農業酪農も主要産業の一角を担っている。

 そんな国の北東に位置する洞窟。そこが今回の目的地だ。

 入口で許可証を示すと大所帯にもかかわらずあっさり洞窟内に入ることができた。

「カースさん……すごい人なんだな」

「師匠は超すごいんだよ! こんなの序の口序の口」

 自分のことではないのになぜか胸を張るヴィオはアベルに「うるせぇ」と言われてまたもや口論に発展する。もう仲がいいんじゃないかと思ってしまうほどに。

「こんなに大所帯にシタのは実ハ、雪華の結晶を得るためには潜在属性が氷か水、マタは炎じゃないとできナイんだ……」

「なぜそんなにピンポイントの属性……?」

 サラの質問にカースは苦笑しながら答える。

「一時期、無許可採掘事件が大量に起きたセイで採掘できる数が少なくナッテいるんダ。この世か……大陸は洞窟から全てを採り尽くさナイ限り、新しく鉱石が生成されるカラこうやって必要最低限だけシカ採掘できないヨウニなってるのサ。チナミに、この三属性は採掘担当のやつらの潜在属性デ、ほかの属性のやつには触れナイようニ魔法がかかってル」

 サラはとても興味深そうに聞きながら洞窟内を見渡す。その様子にルカが苦言を呈した。

「サラ、足元に気をつけてね。そんなあっちこっち見てたら転ぶよ?」

 過保護と言えるほどの言葉に思わず俺は苦笑してしまう。相変わらずルカはサラに対してやけに甘い。

 そんなやりとりを見ていたのか、カースさんはルカに視線を向ける。しかし、それはまるで憎い者を見るような冷たい眼差しだった。

「…………」

「な、何ですか?」

 未だ睨むようにルカに視線を向けるカースさん。居心地が悪そうにルカが尋ねるとカースさんは僅かに声を荒げて言った。

「ったく……はまだ囚われてるのか……」

 やけに流暢な喋り方になったかと思うと憂うようにミラさんを見た。

「……彼は本当に何? どこで見つけたのあんなの」

「……偶然の成り行きよ」

「へぇ? 偶然? 成り行き? こんな偶然があってたまるか。いつまでも引きずるなよ! こんなことしてもあいつは――」

 その瞬間、声をかき消すように洞窟内で爆発が起きた。

 土煙で視界が閉ざされ目や口に砂利が入り込む。そんな中、俺たちだけではない誰かの存在を感じ取ることができた。最初、入口にいた警備の人に魔物がたまに出現すると言っていたがほとんどありえないので気を貼る必要はないと言われた。まさか、先程カースさんが言っていた無許可採掘者だろうか。だとしたら手ごわそうだ――



「おいィ! なんで爆発してやがんだァ!」

「知りませんよこの脳筋ダルマ! 文句言う暇があったら死ぬか何とかするかしなさい!」



 ……出てきたのは喧嘩している男二人組だった。しかも全身泥まみれで全体的に締りがない。

 多分、その気の抜ける様子に肩を落としたのは俺だけじゃないようだ。

「……ここハ立ち入り禁止区域ダヨ?」

 いつの間にか元の口調に戻ったカースさんが呆れながら言う。すると、男たちが俺ら一行の存在に今気づいたと言わんばかりに振り返った。

 片方は赤髪の男でいかにも荒くれ者といった雰囲気を醸し出している。体つきからも接近戦を得意とする戦士だろうと思う。もう一人は青髪の優男的な印象で知的で品がある顔立ちだった。赤髪の男とは違い、キッチリとした礼服を着てておりとても戦闘をこなすようには見えない。

「おや、先客ですか。立ち入り禁止なのは百も承知ですよ。入れないから強硬手段に出たまでです」

 青髪の男が淡々とカースさんに向かって言葉を向ける。

「フーン、まあ君たち二人ハ仲間ってコトデいいのカナ?」

「こんな脳筋ダルマと同じにしないでください。同類と思われるだけで吐き気、発熱、目眩、頭痛、腹痛がするというのに仲間と思われたならばそれこそ死んでしまいます。あと、貴方がたに名乗る必要なんて――」

「俺はアニムスのアグニ! かったるい調査よりもこういうバトルのほうが俺は性に合ってるぜ! とりま殺ろうぜ!」

「…………お前はどこまで愚劣で馬鹿で阿呆で能無しで役に立たないやつなんですかアグニ!!」

「だァーもー、うっせェ! ていうか『ぐれつ』ってどういう意味だ?」

「…………嗚呼、エヴェン様。何故私をこの脳筋ダルマと行動させるのですか。このままでは私はストレスでおかしくなってしまいそうです……」

 まるで出来の悪い三文芝居のようなやりとりに全員言葉を失う。なんだろ、この……言い表せない残念感。

「――売れない芸人?」

 ルカがぽつりと呟くと横でシルヴィアとヴィオが吹き出した。アベルとサラは胡散臭そうな目で二人組を見ている。

「誰が芸人ですか! このクァイをあんな愚劣極まりない存在と勘違いするだなんて――!」

「……お前さりげなく名乗ってるからな?」

「…………ああああああああ!! 私としたことがああああ!!」

 ミラさんとカースさんが呆れるというかもはや気にも留めていない様子で洞窟内を見渡していた。いまだ続く二人組、アグニとクァイの漫才、もとい喧嘩を無視して先に進むべきか、一応倒すべきなのか。

「……アグニ、さん……? クァイ、さん……」

「ユリア?」

 頭痛がするのか頭を抑えながら二人組を見つめるユリア。先程から何も言わないので不自然だとは思ってはいたが明らかに様子がおかしい。

「……あの人、たち……私は、知ってる……?」

 うわ言のように何かをつぶやくユリア。すると、その様子に気づいたのか、クァイと名乗る男がこちらを見て怪訝そうに目を細めた。

「ん……? あの金髪……それにあの黒髪の小僧はフィアンマですか。どうりで覚えのある胸糞悪い炎の気……」

「え、何で俺のファミリーネーム……」

「ちょうどいいでしょう。エヴェン様に私の実力を再度お伝えすることにしましょう。フィアンマの生き残りの首で」

 物騒なことを宣ったかと思うとクァイはワイングラスのようなものを掲げた。

「おっ、珍しく好戦的だな青もやし」

「黙りなさい脳筋ダルマ。手出ししないように。フィアンマの首は必ず私がとります」

「……っ!? アクア一族!?」

「ヘェ、あのアクア一族のハグレ者が、アニムスか……」

 突如、ミラさんとカースさんが顔色を変え、二人して武器を構えた。ミラさんは長剣、カースさんは名称不明な鋭利な刃物を数本を手にし警戒するように言った。

「みんな。そいつは魔六家(まりくけ)の水のアクア族の奴よ。気抜いたら死ぬわ」

「マア、末端とはいえ、ドウセあのガチガチの守秘一族のハグレ者なら才能ナシと言われて出奔、トカだろうネ」

 さりげなくカースさんが煽るようなことを言う。魔六家、という単語には覚えがあったがいまいちぴんとこない。しかし、ルカとサラには伝わったようだ。

「あ、アクア族――!? でも魔六家ならこんな他人とつるむなんて……」

「勝手にアクアアクアと言ってますが私はもうあの一族から抜けた人間です。魔六家魔六家と……あんなイカれた一族、こっちから願い下げです」

 言いながら、グラスを傾けるとそこから水が溢れまるで生きているように蠢いた。

「おい、魔六家って何だよ」

「魔六家は炎・水・雷・氷・風・大地の属性を冠する六つの一族の総称でその属性の魔法しか使えない代わりに絶大な力を誇る一族のことさ。アクア家は水の一族。それにフィアンマは炎の一族で魔六家中最強とまで謳われたけど――」

 アベルの問いにルカが早口で説明する。焦りがにじみ出ており、相当のことだと実感する。

 水が俺に向かって襲いかかろうとする中、すぐさま後方へと身を飛ばすとルカの魔法でが水を凍らせた。それをシルヴィアとサラが砕く。

「……外野が邪魔ですね。雑魚も数がいると面倒、と」

「お前がいいってんなら黒髪チビ以外殺ってやろうか?」

「まあ、癪ですがお願いします。どうせ全員、口封じしなければいけませんし」

 グラスを構え直したクァイは冷たい表情を浮かべた。



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