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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 5章:呪術師の道しるべ
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鎚を翳して



「絶対に駄目! あんたが人に頼むほどの材料があの子たちの手に負えるはず――」

「それデモ、ミラちゃんは小生を手伝わなケレバ、自由を失うヨ?」

「くっ……でも――」

 拳を握り締め思案する。

「私はあの子達を利用するために弟子にしたわけじゃ――」

「フィアンマ、それに瓜二つの魔法使い、エルフェリアの娘」

 淡々と言われた三つの単語はどれも今のミラには重い言葉だ。

「六人中三人がコレほどの曰く付きダモノ。偶然、ナンテ言い訳はしないヨネェ?」

「そ、れは……」

「フィアンマの子はまあサテ置いて……エルフェリアはチョットネェ……それにあの魔法使い、何。できすぎでショ」

「ルカは――」

「彼はカイルじゃないよ」

 きっぱりと断言する。その声音にはどこか怒りのようなものすら浮かんでいた。

「カース、あんた……怒ってる――?」










「怒ってるの?」

「は? 何で」

 ヴィオの疑問に反射のように答えたが何で怒ってると思われたのかわからない。

 エレナさん――いや、ミラさんのことにしても怒るというよりどこか納得できないというだけだ。

「なんかねー、負の感情が結構出てる。呪術師だからそういうことに敏感なの」

「エセ呪術師のくせに」

 アベルがからかうように呟くと、ヴィオは耳ざとく反応した。

「うるさい、紅雷! そ、そうだ、思い出した! 例のもの返して!」

「あぁ? ……なんだ?」

「ハンマー!! 私がもらうはずだったハンマーセット!!」

「……………………あー……あ」

 何か思い出しそうなアベルがクロークから一つのケースを取り出した。

 アンティーク調のケースで、金具などに丁寧な模様が刻まれているもので、高価そうだった。

 それをヴィオは奪い取るように掴み、開いて中身を確認した。

「揃ってる……さすが一級武具……!」

「……しょぼくね?」

 俺たちも興味を惹かれ、中身を横からのぞき込むとそこには小ぶりのハンマーが四つ、綺麗に揃った状態で並んでいた。繊細な装飾が施されており、手乗りサイズということもあってどちらかというとインテリアのようだ。

「これを手に入れるために危ない橋も渡ったってのに紅雷に盗られて……何度悔しさで涙を流したことか」

「何度か使ったけどしょぼいぞこれ」

 そういえば何度かアベルがらしくないハンマーを使っているときがあったことを思い出す。

「どーせ素人が普通に使った程度でしょうが。これは一級武具認定されてる魔武器シリーズで一つ一つに特殊能力が備わっているのよ。行方知れずで報酬にこれ貰えるって知ったから頑張ったのに……」

「お前がちゃんと確認しなかったからだろ……久しぶりに大金もらえると思ったのにこんなもの渡された俺の身にもなれ」

 二人にしかわからない会話が繰り広げられている中、ルカとサラがハンマーを凝視して、今にも触れそうなほどだった。

「やばい、やばいこれ……巨匠ゲルマ・マルクスの最高傑作と謳われた戦鎚シリーズじゃない……」

「武器マニアだけじゃなくて魔具マニアも垂涎の鎚……オークションにでもかければ億はいくレベル……」

 サラが金色のハンマーに触れた瞬間、バチッと拒絶するような衝撃が走り、サラは咄嗟に手を離した。

 その音で、口論していたヴィオとアベルが振り返り、ハンマーに視線を向けた。

「え、今の何。紅雷、何か保存系の魔法でもかけてる?」

「かけるどころか基本放置してる」

 ヴィオもハンマーの一つ、銀色のものを取ろうと触れる。しかし、サラのときと同じように弾かれてしまった。同じように、ルカも手を延ばすがやはり触れても拒絶されてしまう。

「――伝聞通りなら、ゲルマの武器には人格が宿っていて、認めた相手じゃない限り使わせないって……」

 ルカの呟きにアベルは目を丸くする。当たり前のように手を伸ばし、白いハンマーに触れて軽く振る。すると手のひらサイズからアベルの身長よりやや低いくらいの大きさへと変わった。

 それから、数度振るごとに大きさをまちまちに変え、最初の大きさに戻した。

 その様子を見ていたヴィオは頭を抱えるようにしていじけだしてしまう。それに続いて、ルカとサラも何やらショックを受けていた。

「何で……何で紅雷を使い手と認めてるのよ……あんまりだよ……」

「アベルが悪いとは言わないけど何で……何でなのよ」

「一度でいいから地鎚リームスを使ってみたかった……」

 落ち込んでいる三人を無視し、アベルは白いハンマーを振って眉をひそめる。

「とか言ってるけど、こいつ、特にすごい効果とかねーし……」

「何言ってるのー!? それは破邪鎚ボヌム! 呪いや魔法の効果を打ち消す能力があって浄化をもたらすの! それに、意識しないと能力発動しないに決まってるじゃない! 宝の持ち腐れだー!」

「んなこと言ったって、俺は別にこれいらねぇけどあんときの金と交換じゃなきゃ割に合わねぇし。お前その金あるのか?」

「……………………うえーん!」

 不機嫌そうに銅色のハンマーを振るアベルとすがりつくヴィオを見てユリアとシルヴィアはこっそり耳打ちしながら会話している。

「アベル君とヴィオちゃんて仲良しですね」

「そう? アベルが一方的にいじめてる感じ」

「でもシルヴィアちゃんとアベル君もあんな感じですよ?」

「そもそも私とあいつも仲良しじゃないし……ていうか今までのアレが仲良しに見えたんだ」

 完全に武器談義にも女子会話にも混ざれず一人の俺。少し寂しく感じるがどっちにもついていけないから仕方ない。考える必要がなくなると、ミラさんのことを思い出す。

 裏切られたとか、怒るとか、そんな大層なことは思っていない。ミラさんなりに理由あってのことだろうし何より、それでも信じてしまうのはきっと、あの日出会った強い瞳を忘れられないからだ。


『ケイトは、アタシを信じるの?』


 今は――


 その時、乱暴に扉が開かれたかと思うと神妙な面持ちのミラさんが入ってきて何か言おうと口を開いたがなぜか口を閉ざしてしまう。

 後からカースさんも入ってきてにやにやと意地の悪い表情でミラさんの肩に馴れ馴れしく手を回す。

「ほら、ちゃーんと言ワナきゃ駄目ダヨ、ミラちゃん?」

 指で肩をなぞるその様子がどこかいやらしい。

「……っ、カースから依頼としてある鉱石を採りに行くことになった……」

「モー、ちゃんと要点伝エなきゃダメでショ?」

「うるっせぇ、脳天ぶった斬るぞ変態」

「辛辣……でもソンナミラちゃんも好きダヨ」


 話が無意味に長くなったので要約するとカースさんからの頼みでミラさんはどうやらある場所へ呪術に必要なものを採りにいくことになったそうだ。

 が、何故か俺たちもついていかなきゃいけないそうで……。


「まあ、ソンナ難しいことじゃナイよ。チョーット気になるコトがあってネ」

「……で、そのあるところってどこですか」

「ここマレの隣国コーピア、雪華の洞窟」

 そう言って取り出したジュエルは空間転移のジュエルで俺ですらわかる魔力を感じた。人数分余裕で転移できるだろう。

 雪華の洞窟とはまるで雪の結晶のような鉱石が採掘できると有名な洞窟で許可がなければ立ち入ることはできない場所だ。許可証を得るにはそれなりの信頼や実績のある企業やハンターにしか発行されない。それなのに、カースさんは当然の如く許可証を所持している。

「サテ、ヴィオは留守番――」

「私も行きます! 私だけおいてけぼりなんてずるいです!」

 あからさまにカースさんは不機嫌なオーラは発するがヴィオは引く気は一切ないようだ。カースさんもそれを察してかため息をついた。


 



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