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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 4章:偉人たちの躍動
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幼き呪術師




 とりあえず少女を捕獲して家に戻るとなんとも言えない空気だった。

 だいぶ大騒ぎになっていたようでシャオリーさんやエレナさんがため息をついていた。

「しょぼい結界……にしては破るのに時間かかったと思ったら勝手に解決してるし」

「ははは……まあ成長したんじゃない? にしてもあの結界――」

「あのー、シャオリーさん……」

 恐る恐る声を掛けるとシャオリーさんは俺と後ろにいる少女を見て目を輝かせた。

「わぁー可愛い子。どったノ?」

「命狙われたので捕まえました。……シャオリーさん、ひっつかないでください」

「……なんかケイトが冷たい……」

「冷たいもなにも、ここ数日のことで心当たりがないとは言わせませんよ」

 素っ気なく返すと心底不思議そうにシャオリーさんは俺を見てまさか、とでも言いたげな目をした。

「え、えー? な、なんのことかナー?」

「俺が居候なのことをいいことに女装させたりメイド服着せたり散々恥ずかしい格好させておいて……」

 その瞬間、周りのシャオリーを見る目が変わった。軽蔑するような、貶すような視線。

 いたたまれなくなったシャオリーは無言を貫き通し冷や汗をかいていたがエレナさんは仕方ないと言いたげに嘆息した。

「ま、シャオリーの悪行は置いておくとして……。問題はこっちか」

 縛り上げた少女を見てエレナさんは眉をしかめる。

「呪術師か……」

「世も末だネー、こんな小さな子が」

 冷たく言い放つエレナさんと呑気に言うシャオリーさんの温度差がやけに気になったが俺はそれより重要なことを聞かなければならない。

「何が目的だか知らないけど呪術師風情が直接暗殺仕事なんてどういうワケ?」

「あー、エレナさん、実はこいつ――」

「うるさいよ!紅雷!! 余計なこと言わないでよね!! ていうかアレ返しなさいよ!!」

 アベルの言葉を遮るように少女が怒鳴り声を上げる。そのせいでアベルの表情が険しくなった。

「黙れよ雑魚呪術師の分際で! 俺はお前から金を返してもらわねーとアレも返せねーよ」

 微妙に喧嘩のようなものが勃発しそうだが年齢的に見るとアベルがすごく大人げなく見えてしまう。いや多分実際に大人げないんだと思うが。

 二人で完全に喧嘩が始まってしまい話が進まない。というか知り合いにしても言い争えるほどの仲って微妙なような気がする。

 その喧嘩の様子にシルヴィアは目を細めた。どこかイライラしているように感じるが心当たりがさっぱりない。

「随分と仲が良さそうね」

「みたいだなー。本人曰くそんなんじゃない、って」

「ふーん……ってあれ? ケイト記憶……」

 シルヴィアが本気で驚いたような顔を浮かべるとルカとサラも一緒に首を傾げていた。そういえばまだユリアとアベル以外に説明してなかった。

「あ、記憶戻ったんだった」

 思わずぽろっと本音をこぼしてしまい逆に嘘っぽい言い方になった。やはりというか疑うような視線が注がれる。

 すると、シャオリーさんが「えっ!?」と大げさなまでに声を上げた。

「嘘っ、嘘だよネ!? なんで記憶戻っちゃったノ~! 純粋なケイトを返してー!」

「純粋じゃなくて悪かったですね」

「あ、いや、今のはそういう意味じゃなくて……あっ、ケイトここに残って一緒に住んでくれるよネ!? ケイトがいないとワタシ生きてけないノ!」

「残るわけないでしょうが!! だいたいシャオリーさん、やろうと思えばできるのに面倒だからしないだけじゃないですか。もう甘やかしませんよ!!」

 言い争っていると呆れたエレナさんがはいはい、と言いながら二つの喧嘩を止める。

「はいはい、わかったから話進めよう。で、何でケイトを狙った?」

「守秘義務があるから言えるわけないでしょーが!」

「うん、わかった」

 少女も驚くほどあっさり納得したかと思うと腕を開いて武器を二つ、出現させた。右手に斧、左手にメイス。

「切り落とされるか潰されるか素直に話すか、好きなのを選んで。アタシは今、子供の相手をまともにできるほど心と時間の余裕がないの」

 その笑顔は誰もが見蕩れるほどの美しさ。が、同時に恐怖の塊でしかない。

 やはりというか少女はエレナさんの本気度を感じ取ったのかガタガタを震えていた。さっきまでの威勢の良さはどこへいったのか。

「……依頼が名指しできたので適当に済まそうと受けただけで別にそのケイト本人に恨みとかはないです……依頼人はわかりません。前金だけ大量に払って一緒に写真とか現在位置とかの情報も手紙に入ってて……絶対に成功させろって……最初は無視しようと思ったんですけど成功したら更にお金がもらえるから……」

 ぼそぼそととぎれとぎれになりながらも話すとエレナさんは眉根を寄せた。

「暗殺仕事を受けるってどういう神経してんのよ……」

「あー、エレナさん。さっき言おうと思ってたんだけどこれ、裏の人間だから、俺と同じ」

 その一言に場が一斉に凍りついた。というか理解したくないことだった。

「は……? 裏のって……いや確かに呪術師ならありえるけどこの歳で?」

「俺みたいに通り名がある程度には有名」

 俺みたいに、というのが何か引っかかった言い方でルカたちも首を傾げていたがエレナさんは納得したのか話を進めた。

「まあ……よく考えたら名指しで来るならねぇ……とにかく裏の人間なら牢獄系に突き出すわけにもいかないし保護者とかいるなら引渡しかしら」

 牢獄とは大陸共通の犯罪取締組織の通称で昔は警察とも呼ばれてたらしいがいつの間にか完全にそうではなくなったという。牢獄の上位互換として監獄が存在し、重罪人はそこで一生を過ごすという。牢獄ならまだ救いはあるかもしれないがどのみち何もしてない一般人が全力で関わりたくないものの一つに数えられているためどちらも恐ろしいとしか言えない。

「とりあえず名前と住んでるとこ教えて?」

「個人情報はさすがに教えないっ! 師匠に怒られる!!」

「……ねえ、知り合いが言ってたんだけどさ、目隠ししながら水をね――」

「ヴィオです!! 住んでるのはマレのガウデレってところです!! 師匠と一緒に住んでます!!」

 力強く言うとエレナさんは満足そうに頷いた。

「ヴィオね。とりあえずその師匠ってのは裏仕事を知ってるのかしら? 知ってたとしてもちゃんと保護者としての責任を一言物申さないといけないわね」

「し、師匠に会うんですか……?」

 困ったような顔になると助けを求めるようにアベルのほうを見た。アベルは気づかないフリをしているのか視線をそらしている。

 まるで悪いことをして親にバレそうになっている子供のようなそんな顔でヴィオはうつむきぽつりと呟いた。

「師匠に会ったら下手すれば死んじゃいますよ」

 エレナさんは軽く流すように返事をする。

「死にはしないわよ。そりゃあ腕に覚えがあるならそういう危険はありそうだけど」

「そうじゃない……師匠は、だって私の師匠は――」

 言うべきか悩んでいるのか息を飲みこみ目を伏せる。そして次の瞬間、声を張って宣言した。


「私の師匠はあの天才呪術師カースなんだもの!! 英雄とは認められないけど千年前、アミーユに協力したあのカース様だよ!!」







 錆び付いた歯車に油をさすように、物語に次々と変化が起こる。

 呪術師の到来はその一つにすぎない。そう、格闘家も、占い師も、協会も、監獄も、あの悪夢の集団も。


 全てが集結するのはまだ少し先――。




よ、ようやくここまできました……。次回からは新章ですよー!

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