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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 4章:偉人たちの躍動
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記憶の欠落



「どういうことなの……」

「いやだから川で釣りしてたら引っかかって世話してたんだって」

 『ケイト』を一度外へ出しシャオリーとエレナ、そしてユリアたちで現状確認会議をしていた。

「ケイト……悪運が強いというか」

「ここまできたらホント感心ものね……」

 ルカとサラは軽口を叩く。しかしそれはある恐怖からの逃避だった。

 ユリアの先程から一言も発さないにもかかわらず感情が手に取るように分かるこの恐怖は尋常じゃない寒気を四人にもたらした。ちなみにシャオリーとエレナはそれを気づかないふりをしている。

「まあ見つかってよかったわ。でもシャオリー、アレどういうこと?」

「うーん、初めて目を覚ました時からあんな感じ。自分が誰かもわからない――所謂『記憶喪失』ってヤツ」

 その言葉にユリアはぴくりと反応を示し次いで絶望したような表情になった。

「名前は適当につけたんだけど、本名とあんま変わらないんだネ。よく働くし真面目だし気に入ってたんだヨー」

「まあわかるけどね……とりあえず生きててちゃんと見つかったし一安心かしら……。あれ、よく考えたらなんでケイト女装してるのよ、わけわからないんだけど」

 シャオリーを除く全員の疑問を口にするとまるで当然のようにシャオリーは胸を張って言った。

「だってあの方が可愛いから!」

「あんたは昔っからそうよね!! 知ってたけどいたいけな少年に女装刷り込むのやめてあげて!」

 切実すぎる心の叫びにサラは心の底から同情した。だがしかし、密かに似合うと思ってしまったので何も言えなかった。

 一方で先程から完全に無言のユリアにシルヴィアは目を向ける。今にも人を殺しかねない目をしている、もちろん例えだが。

「だって似合うんだもん! ヒモト特有の黒目黒髪に童顔未発達体型――なんで女の子じゃないのかと四時間くらい泣いたもん」

「あんた本当に筋金入りの馬鹿よね。うん、昔から知ってた」

「まあ女装を嫌がるのも可愛かったからよしとして……にしてもひどい! まだメイド服堪能したかったヨ! 下手したらそのへんの女の子より可愛いもん! せっかく黒髪のカツラ買ってきたのに……」

 エレナの言うとおりこの人馬鹿なんだろうな、と魔法使い二人は思わず思ってしまった。

 すると、今まで黙っていたシルヴィアが恐る恐る口を挟んだ。

「それで……ケイトをどうします? その……記憶喪失をどうこうするのって……」

「ああ、そのことなんだけど、ワタシが色々ツテを使って調べた結果『強いショック、もしくは何かの副作用による一時的な記憶の欠落』ってことみたいだヨ」

「強いショックはわかるとして……副作用?」

「あー、例えば何らかの魔法とかの効果、封印とか攻撃的じゃない魔法がかかっているときに起こる副作用が極稀にあるらしくて……まあ、セレスの受け売りなんだけド」

「……待って、セレスここに来たの?」

「うん、二日前までここにいたよ」

 エレナは心底安堵したように息を吐く。

 時間の経過をまとめるとケイトが行方不明になったのは二週間前でシルヴィアの故郷パタラ村を出立したのは十日前。その間ケイトはシャオリーの世話になり、エレナ一行はアウルムを目指していた間にエレナ、シャオリーの知人であるジョンは数日前に仕事に向かい二日前までセレスなる人物が者シャオリーの元を訪れていた。という怒涛の二週間だったわけだ。

 どうやらエレナの様子からしてセレスなる人はあまり会いたくない人物のようだ。

「……アベル、ルカ、サラ、シルヴィア。ケイトと話してきて。アタシはシャオリーと大事な話があるから」

「まったく……エレナさんも早くケイトと話してくださいよ。あなたのほうが付き合い長いんだから」

 ルカが呆れながら部屋から出ていくとアベルとシルヴィアもそれに続いて出ていく。サラはユリアを待っているのか心配そうな表情でユリアを見つめていた。

 その様子を見たエレナは淡々とした声音でユリアに言葉を投げかけた。


「ユリア、一つだけ師匠からアドバイスよ。決めるのはケイトで誰も悪くないし責められないのよ」


 その言葉はユリアに深く突き刺さった。




 二人が出ていったのを見届けほかに気配がないことを確認すると露骨に気を抜いた体勢になりシャオリーに問いかけた。

「で、セレスが来た理由――どうせ私関連でしょ?」

「ミラちゃん露骨にキャラ変えるよね……師匠の威厳ってヤツ?」

 シャオリーが呆れ顔で指摘するが無言を貫くと観念したようにため息をついて語り始めた。

「うん、ミラちゃん見つけたら捕獲してこっちに送れって――ウェルスからの伝言をわざわざ伝えに来たノ」

「やっぱあいつか!! わかってたけどさぁ……まあ捕獲しないでありがと」

「ワタシはミラちゃん派だもの~。ウェルスは嫌いじゃないけどネー」

 そう言いながら何やら薬品のようなものを隠しているように見えたが多分気のせいだと思いたい。元々シャオリー含めて旧友たちは気まぐれなのでウェルスの言うことをろくに聞かないのは分かっていたがやはり気まぐれ気質とは恐ろしいものでどうなるかわからない。

「ま、そもそもミラちゃんに勝てる自信ないし、ワタシ。のんびり畑仕事して料理してだらだら引きこもって可愛い子を堪能するだけで十分ヨ」

「最後の項目は明らかに危ないんだけど」

「ケイトもいいけどユリアって子がドストライクなんだよネー! 空気読んでナデナデしたり抱きついたりしないだけ偉いでしょ!」

「それは人として普通だから」

 私の言葉を無視しシャオリーは情熱を込めて美少女について語り始める。やっぱりただの馬鹿だと再認識されられた。しかし、実力に関しては恐ろしいほどの能力を秘めているためなんとも馬鹿の一言で片付けられないのが悔しい。

「美少女だか微少女だか知らないけどとりあえずケイトのことをどうするか……」

「えっ?」

「えっ?」

「ワタシにくれるんじゃないの?」

「――どうしたらその結論にいきつくのかな?」

 後に、シャオリーは言った。「あの時のミラちゃんの顔は恐ろしくて直視できなかったヨ~」と半泣き状態で私に語った。





「ユリア……」

「……ごめんなさい、サラちゃん。面倒ですよね、私……」

「大丈夫よ。整理がつかないことはあるから。それより――」

 サラが何か言いかけた瞬間、どんっと何かが叩きつけられるような音がケイトがいるであろう場所から聞こえてくる。

尋常じゃない音量に二人は驚き急いで現場に向かった。

「何があったの――」

 サラが部屋の扉を勢いよく開けるとぶっ倒れているケイトとハンマーを持ったアベルを止めようとしているシルヴィアが二人の視界に映った。

 女装はやめたのか普通の格好になっているケイトはどうやら気絶しているようでぴくりとも動かない。

「一般人をぶん殴るなんてどういう神経してんのよ!! 今のケイトだと本当に死んじゃうかもしれないでしょうが!!」

「死んだらそれまでだ」

 やけにあっさりとハンマーを降ろし手のひらサイズまで縮めてクロークへとしまう。するとルカが小さく呟いた。

「強いショックが原因なら同じようにショックを与えれば戻るかもって言ったら……」

「本当に殴ったと……ルカ、どうして止めないの」

 責めるようなサラの声音を聞こえないとばかりに無視しルカはアベルに声をかける。

「不意打ちで大振り脳天直撃……見事と言いたいけど相手がねぇ……」

「そうよ! ケイト息してる!? とりあえず出血とかはない――」


「――『そよ風に癒やしの息吹を』……ソワン・ブリーズ」


 やけに冷静なユリアが小声で詠唱をすると風がケイトを包み込みそれと同時にケイトが起き上がった。状況を把握できていないのかあたりを見回しながら首を傾げている。

「あれ……? 俺掃除してたはずなのに……」

 床に落ちている箒からして掃除をしていたのは明らかだ。しかし、やはりというかケイトの挙動言動は五人に強烈な違和感を与えた。

「あ、あのみなさん、シャオリーさんとお話してたはずじゃ……俺に何か用ですか?」

「……やっぱ誰だよこいつってくらいキャラが」

「違うね……仕方ないと言えば仕方ないんだろうけど」

 アベルとシルヴィアが感心しているようにも取れる様子でケイトを見る。そうすると怯えたようにケイトはみをすくませた。

「あ、あのっ……何か気に障ることしました?」

「えっと……僕らは別に気にしてないけど約一名の精神がちょっとまずいかも……。とりあえずどういうことか説明するから」

 できる限りユリアのほうを見ないようにルカはケイト話し続けた。どうして記憶喪失になったのか、自分たちとの関係やさっきまでのこと。時折不思議そうにしながらも一通り話すことはできた。

「つまり……俺はケイトで、みなさんの仲間で、記憶を戻すために殴られたと」

「戻んなかったけどね」

 六人で床に座りながら会話をしている光景は割とシュールでルカ曰く約一名が尋常じゃないくらい情緒不安定だった。

 しかしそれを表に出してるわけではなく表面は至って冷静そうに無言だ。

「エレナさんも多分だけど記憶を戻すことを考えてるだろうし……」

「あ、あの」

 サラの言葉を遮ったケイトは何故かサラを見て怯えたように一度言葉を濁した。しかし意を決したかのように早口で言った。

「俺は、その…………記憶を戻したいとは思ってないので」




「はぁ? ケイトがそう言ってるの?」

「うん、セレスに治療法の話されたとき記憶が戻らないままがいいって」

 シャオリーは嘘をつくようなやつじゃないことは知っているがにわかに信じがたい。記憶がないとはいえケイトはケイトのままで卑屈な性格でもない。遠慮しているということもありえるが自分自身に関わることでそんな遠慮をするだろうか。

「あー、あとケイト、やっけに女の人を避けるんだよネー。ワタシにはそんなことないけど」

「避ける……?」

 この話が本当だとしたらおかしなことだ。元々ケイトは男女分け隔てなく接する性格だし人を避けるというのもしっくりこない。

 空白の時間にケイトに何かが起こったのかあるいは何かあったことを思い出したくないがためにそうしているのか。

 どちらにせよケイトをどうこうするのは難しそうだ。

「……まあ時間はあるし……いや、あんまりないのかしら?」

「そうだネー。なーんかちょろちょろしてるのがいるみたいだし……ワタシ締めよう(殺そう)か?」

「様子見。あっちが何もしてきてないのに手出したら危ないもの。ただでさえ使い物にならないのがケイトを含めて二人居るんだから」

「二人?」

「あの子よあの子」

 ケイトのことに一喜一憂する、彼女は今何を思うのだろう。




この章は短めを心がけております

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