喧嘩と出会いは運次第
森に潜む町、ガウン。
つい最近できた町らしく様々な所から人が集まって成立しているらしい。
しかし、実際は無法者の溜まり場で治安はよいとは言えず取り締まるはずの警察でさえ無秩序と評判らしい。
「っていうのがアタシの聞いた噂」
「……よくそんなところにこようと思いましたね」
町に入った途端ものすごく視線を感じたがそういうことだったのか。
見渡すと九割は悪人面でいかにも盗賊とかって感じがする。しかも、エレナさんとユリアは見た目のせいで余計注目を浴びてる気がする。
「そういえば警察って俺の町にはいなかったんですけどそこんとこどうなんですか?」
「ああ、昔は警察は大きな組織だったんだけど監獄と協会ができたあと廃れちゃってね。今では自称警察みたいな自警団組織って感じかな。ケイトのところは平和だったし小さい所だったから問題起きてもみんなで対処してたでしょ?」
言われてみれば起こる犯罪なんて万引きとか空き巣程度だった気がする。やっぱり自分は平凡だったんだなぁと実感させられる。
ちなみに監獄と協会とかこの大陸を代表する巨大組織で監獄はある特殊な条件を満たした人間を収容するところで「悪い子は監獄逝きだ」と大人たちが子供たちに言うくらい恐ろしい場所だと言われている。基本は死刑か終身刑を宣告された者が収容されるらしいが一部例外があると聞いた。
協会とは監獄と並ぶ組織だがここは犯罪を裁くだけではなく旅人やクラン支援及び民間人補助組織として有名だ。民間人から依頼を請け負い、その依頼を旅人等に手配するなどの手助けをしている。医療や魔法などの研究もされており様々な人間から信頼を得ている。
どこに行っても支部が大抵あるらしく(俺の住んでいる町にはなかった)そこで依頼などを受けて資金を得る旅人がほとんどだそうだ。
今向かっているのもその支部なのだが無駄に人が多くなかなか辿りつかない。
「うーん、このままじゃ遅くなっちゃうな……。ケイト、先に宿に戻っててくれる? アタシとユリアは支部行ってくるから」
「え、いいですけどどうして?」
「治安悪いんだから宿荒される可能性が高いでしょ。とりあえず誰かいればなんとかなるの」
思うようにいかないのにイラついているのか荒っぽく答える。
機嫌を損ねるのは本意じゃないので大人しく従っとこう。
「じゃあ、戻ってますけどあんまり遅くならないでくださいね」
「ケイト君こそ気をつけてくださいねー」
「そうそう、変なのに絡まれないようにね」
来た道を戻り宿へと向かう。自分をじっと見つめる奴がいることにも気づかず。
「えーっとこの角を曲がった辺りだったような……」
「――んだとクソガキ!」
突如響いた声に周りの人間は反応しその発生源に視線を向ける。
怒鳴り声と思われるものは濃い青色の制服のようなものを着た男たちが発したもののようだった。年齢はまちまちだが制服をきた男たちは六人おり、一人の少年囲んでいた。
少年は自分と同じくらいの年だと思われたが雰囲気や目つきのせいで大人びて見える。服装は俺のように旅装というよりハンターに近いような気がする。露出が多いわけではない、むしろ露出を抑えてあるうえに素肌を極力晒さないようにしているように見える。。それなのにハンターという印象を受けたのは身に纏う鋭い雰囲気と身のこなしのせいだと思った。
鮮やかな赤い髪と瞳は炎ではなく血を連想してしまった。
「だから、いい加減身に覚えのないことで引き止めるな鬱陶しい。俺は仕事があるんだよ」
少年は男たちを睨みながら吐き捨てるとそのままどこかへ行こうとした。が、男たちはそれを許さず少年を取り押さえようとする。
「身に覚えがないとは言わせねぇぞ! お前が吐いた数々の暴言忘れたとは思えねぇな! それに俺らの仲間が一人、二時間ほど前に瀕死の重傷で発見された。間違いなくお前の仕業だ!」
一方的に怒鳴り散らす男は制服を着た男らのリーダー格にあたるのだろう。顔を真っ赤にし興奮している様子を見ると少年がかわいそうにすらなってくる。
「二時間前くらいだと俺は近くの森へ行っててつい今戻ってきたばっかりなんだが――と言ってもてめぇらみたいな頭の腐った警察を騙る小悪党にはわからねぇよな」
少年の挑発的な言動についに警察(らしいが確かにそうは見えない)がついに切れた。
「いっぺん、ブチ込まれないとわからねぇみたいだな……」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
少年の言動がまずいとはいえさすがに理不尽ではないかと思い間に割って入る。
「こいつが違うって言ってるんだから信じてやれよ。それに証拠とかもないのに逮捕はだめだろ!?」
「何だ? ガキがでしゃばるなよ」
「ガキだと!? 俺からしてみたらあんたらみたいな奴らが一番ガキっぽいけどな!」
ガキと言われて思わずムキになってしまったのだろうか。勢いでとんでもないことを言ってしまった。すると少年のほうが盛大なため息をつく。
「お前なんだよ? 俺、見ず知らずの奴に庇われるような人間じゃねーんだけど」
「見ず知らずだろうがなんだろうが無実の罪で逮捕されるのを黙って見過ごすほど俺は性根腐ってねぇ!」
すると少年は俺と数人の警察に足払いをかけ転ばせるとその場から逃走しようとした。
全速力で何も言わずに走り去ろうとする少年を俺も全力で追いかけ肩を掴む。
「ちょっと待てよ。身に覚えがないなら事情聴取とかするなりしてやれよ! そんなんだから疑われるんだろ!」
「余計なお世話だチビ! 離せ! 俺はまだ仕事しなきゃいけないんだよ!」
「チビ!? 確かに少し背は低いって言われるけどそこまで小さくねぇよ! そもそもかばってやったのに俺まで転ばしたんだよ! さすがにひでぇよ!」
「チビにチビって言って何が悪い! 俺と十センチ差くらいあるだろ! それなら充分チビじゃねぇか!ていうかてめぇが割って入って来なければ俺は楽に逃げれたし面倒にもならなかったんだよ、このド素人が!」
売り言葉に買い言葉だった。無理やり引き止める俺と引き離そうとする名前も知らないムカツク奴。助けようとした自分がアホらしい。
そんなことを考えていた瞬間、俺は急に体の力が抜けその場に崩れ落ちる。そして頭に鈍痛を感じながら意識を失った。
天国の母さん、そして親父。どうやら俺は十五歳にして牢屋に入ってしまったようです。
「なんでだぁぁぁぁ!!」
トンネルを抜けると雪国だとか聞いたことあるけど、今俺は目が覚めるとカビ臭くて真っ暗な汚い牢屋にいた。ご丁寧に無駄に立派な鉄格子。
「俺何も捕まるようなことしてないって! ちょっと!」
「無駄だ無駄。ここの警察は汚職にまみれたクズしかいないからな。そもそもこの町で一番の悪党は警察だっててめぇは知らねぇのか? 囚人を痛めつけて遊ぶような奴らだぞ」
全ての元凶である少年は気だるげに壁に寄りかかっている。というかなんで同じ牢屋なんだよ。
看守がいるわけでもなく水の滴る音と俺たちの声だけが響いていて不気味なくらい静かだ。
「さっき町に着いたばかりで知ってるわけねぇだろ! ていうかなんでそんな呑気なんだよ!」
「どーせ、今脱獄するのは無理だからな。見回りに来たときでも狙って出るしかないだろ。武器も出せねぇし」
「武器出せない? そういえば俺は宿に武器置いてきちまったな」
最初に荷物を置いたときに大丈夫だろうと思って置いてきてしまった。持ってくればよかったと少し後悔。
「まあどの道、武器は没収されてただろうがな。俺は出そうと思えば出せるが……。術っぽいのが邪魔して出せねぇんだよ」
「…………悪い、何言ってるかさっぱりわかんねぇ」
まず出す出さないの意味がわからない。
そういえばエレナさんって武器持ってたっけ。なんかいつの間にか持ってること多いけど。そういえばあの人、たまにいつの間にか持ってるってこと多いな。
「お前、冒険者なんだろ? まあ新参なのはなんとなくわかるけどまさか異空間倉庫も知らないのか?」
「ま、まじっくくろーく?」
聞いた事もない。冒険者には当たり前なのか。常識なのか。
やっぱり自分は一般人だったんだなと少し切なくなる。
少年は哀れむような目で俺を嘲笑う。
「何にも知らないっていうレベルじゃないな……。ただの馬鹿か。実際弱そうだしチビだし」
「だからチビって言うな! 正直ここまでチビチビ連呼されたの子供のとき以来だよ!」
故郷だとあんまり小さいって言われることなかったんだけどな……。いや、自分でも小さいとは思ってたけど。
「じゃあ雑魚でいいな。それで雑魚、お前……」
「お前は人のことを何だと思ってんだぁぁぁぁ!!」
さすがにむかついたので思わず奴の胸倉を掴みあげる。特に動じた様子もなく見下してくるのに余計腹が立つ。
「うるさい……ていうか雑魚に雑魚って言って何が悪い。弱くて貧弱で使えない雑魚雑魚雑魚雑魚!!」
「うっせぇ! さすがに弱いのは認めるけど雑魚まで言う必要ねぇだろ! お前だって……えーっと……」
何とか罵倒し返してみようと試みたが見た目に特に馬鹿にできる要素がない。つまるところイケメンと分類されるやつだろう。自分とそんなに歳が変わらないはずなのにここまで差がつくものなのか。世の中ってひどい。
「とにかく、だ。俺はここから早く出たいんだ。だけど今この状態では無理だ。わかるか?」
俺の手を振り払いその場に座り込む。いかにも面倒くさそうな表情だ。
「仕事が立て込んでるんだ。全く、まあたいした付き合いもないから無視してもいいけど後々評判下がったら困るしな」
「…………本当に悪い。何言ってんのかマジでわからねぇ」
ああ、そうだよ。どうせ俺は無知で馬鹿だよ。だいたい俺とたいして歳の差なさそうなのに仕事だの評判だのよくわからない奴だ。
そういえば冒険者の中には依頼やら仕事を請け負いながら根なし草の生活を送る奴がいると聞いたけどもしかしてこいつもそうなんだろうか。それだとしたら納得がいく。
「そういやお前、名前は? 俺はケイト」
「…………お前、男だよな?」
「うるせーよ!! わかってるんだからいちいち指摘するなよ!」
女性名で悪かったな。気にしてるんだよ。
「女男かよ……キモイ」
「あれか、拳と拳の語り合いしたほうがいいタイプか? ちょっとツラ貸せよ」
そろそろ真剣にこいつを殴りたくなってきた。
すると誰かが歩く音が聞こえてきた。音からしてこちらに近づいてきているような感じだった。奴もそれに気がついているのか警戒しているようだ。
ランプの光が近づいてくる。警察が囚人を痛めつけて遊ぶなんて聞いた後だと思わず恐怖がこみ上げてくる。
しかし――
「あ、いたいた。ケイト、なんでこんなことになってんのさ。心配したんだよー」
「……エレナさん?」
ものすごく当然のようにランプを掲げながら立っている。微塵も心配していないような声で話すあたり、だいたい事情がわかってるのだろう。
「いやー、旅立ってすぐに牢屋行きなんてすごい人生経験だね。まあ、ユリアも心配してるし、この町からとっととおさらばしたいし」
「あれ、協会支部ですることあったんじゃないんですか?」
「それがさー、協会支部なかったんだよね。正確に言うと協会支部を騙った裏仕事を請け負うバーって感じ」
騙るって……天下の協会を騙るなんて馬鹿としか思えない。
「まあ、そういうのは多いよ。協会ってだけで普通の人間は寄り付くし」
「そういうもんなんですか……」
「それはさておき、早く出るよ……ってもう一人いるけど」
同じ牢にいる奴の存在に気づいたエレナさん。正直こいつは無視していいと思うんですが。
「もしかして、うちのケイトのせいで巻き込まれた? それならごめんね、一緒に出る?」
「…………」
重い無言。俺からしてみればものすごい刺々しい空気を放出しているように見えるのにエレナさんは大人の余裕、といった表情で言葉を続ける。
「なーに? 『得体の知れない冒険者と一緒にいるとフリーの人間としての評判が落ちる』とでも言いたいの?」
お互いの空間に吹雪が発生しそうな睨み合い。正直エレナさんの言ってる意味がわからなかったがとりあえず流すことにしよう。
「はっ、まあ雑魚のツレなだけあって見事に貧相な胸して――」
余談だが一瞬で起こったできごとは本当に見えないのか、と思っていたのだが見えないものなんだなと今知った。
「貧相なむ」と言った辺りで鉄格子がはずれるような音がして言い終える前に鉄格子と一緒に奴――と勢いで俺がなぜか一緒に牢屋の壁に吹っ飛んだ。
何が起こったかというと、エレナさんが鉄格子を蹴り飛ばしはずし、そのはずれた鉄格子が奴と俺を壁まで吹っ飛ばした……ということなんだろうか。
というかエレナさん、何の躊躇いもなく俺も吹っ飛ばしたよな。
「アハハハハ、何か言ったかなクソガキ? 人を見た目で判断するのはよくないんじゃないかなぁ?」
目が笑ってない。真面目に怖い。正直、エレナさんが胸のこと気にしているのはわかっていたがここまでだとは思わなかった。
奴も少し哀れなくらいにびびってる。無理もないけど。
「言うことは?」
「ごめ、んなさ、い」
「はい、よろしい。まあ鉄格子吹っ飛ばしちゃったしさっさとずらかるよ。あ、そういえばあんた名前は?」
僅かに沈黙したあと虫の鳴くような声で呟いた。
「アベル……アベル・クライン」