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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 4章:偉人たちの躍動
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閑話:それぞれの静動


「うっ……ぐっ……」

「うーん、熱下がんないナー。それに意識も全然戻らないし大丈夫かなこの子」

 呻く『ケイト』を心配、というより訝しむように様子を見る彼女は額に手をやり熱が下がっていないことを確認するとため息をついた。

「腹部の傷は……大丈夫。だいぶ衰弱してたし体力つけたいんだけど……起きないナー」

 無理に目覚めさせようとしたことは数度あるのだが目を覚ますことは一度もなかった。

 外はぽつぽつと雨が降っており気分も暗くなる。この先のことすら、不安になるような、そんな薄暗さ。




 その頃、別の場所でもまた小さな出来事があった。

 海の国マレ。漁業や水産に関わることが盛んだが年々人口が減少気味である。

 そんな国のガウデレという小さな町にとある師弟が住んでいた。

「ししょー。私、ちょっとしばらくお仕事してきますねー!」

 元気よく身支度を整えながら別の部屋で作業をしているであろう人に少女は声をかけた。

 少女はまだ十代前半といったところ。特徴的な紫色の髪を短く揃えており瞳も髪同様紫色。正直人目を惹く容姿だがどことなく漂う妖しい雰囲気は近寄り難さがあった。

 少女の声を聞いた『師匠』は面倒そうに部屋から出てくる。

 ボサボサになっている鈍色の髪は中途半端な長さで適当にまとめてある。

 しかし、彼にはそれよりも目立つものがある。

「ししょー、その仮面、いつまで付けてるんですか?」

「アー……しばらくカナ」

 やや片言混じりの喋り方はどこか胡散臭い。右半分を覆うような白い仮面は胡散臭さを更に助長させておりもはや目を合わせたくないくらいである。しかし少女は気にせず言葉を続ける。

「似合いませんよー。というか私しばらく帰れないと思うので面倒とかって理由で家事を放置しないでくださいね」

「……掃除とか面倒ダシ食事も摂らなくても死ナナイヨ、絶対」

「駄目ですー。ちゃんと三食摂って健康的に!」

 一見和やかな二人の会話は一瞬にして恐ろしい内容へと変化することがある。それも日常的に。

「今回ノ仕事は? 呪具作成? 呪殺の依頼? 呪詛返しは面倒ダカラやめといたほうがイイヨ」

「うーん、私呪具作成苦手なんですよね……今回は暗殺です!」

「……君ニうまくデキルとはあまり思えないケド。呪術式の練習したほうがイイんじゃない?」

 日常で当たり前のようにこのような不穏か言葉が交わされているのである。

 二人は所謂『呪術師』と呼ばれる者で意外と裏表問わず求められる職業である。圧倒的に裏の仕事が多いが。

「ソレに解呪トカ呪療トカモ苦手だろう? 呪殺方面ばっかり上達しても――」

「わ、私急ぎますので! で、では!」

 逃げるように少女は家から飛び出し残された師匠は複雑そうに嘆息した。

「……別に真似して呪術師にならなくてもいいのに……全く」

 片言ではなく流暢に呟く彼の声は当たり前だが少女には届かなかった。




「ふぅ、ししょーの小言に付き合ってたら日が暮れちゃう。さーて、依頼内容の確認、と」

 どこからともなく折り畳まれた紙を取り出すと書かれている内容に目を通した。

「『フィアンマ家の生き残りを抹殺』……うーん、写真と現在地は貰ってるけどすぐに殺れるかな」




 ――どことも知れぬ場所。

 アニムスの幹部は個性的であり自己主張が強い。もちろん自覚はない。

 ブロルは自分の上司である人にやや遠慮しがちに声をかけた。

「あの、しばらくは動かなくていいって……」

「ん? ああ、『あっち』も色々動き出したみたいだし様子見。あと上からしばらくは動くなって言われたのさ」

「上って……俺あの人嫌いなんですよね。心酔してるあいつらの気が知れない……」

 自分の仲間でもある存在を思い出しブロルは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

 それを見た上司である男は思わず苦笑する。

「まあ、アニムスにいる時点で狂気の沙汰だからな。お前も」

「……あなたも、でしょ?」

 ある意味皮肉とも言える会話。そんな中、音を立てて部屋に入ってきた者がいた。

「おい! なんだよ待機って!! 俺だって暴れたいっつーのに。てかなんでブロルばっか外出てんだよ!」

「お前は考えなしに動くからな。それに待機は僕の決めたことじゃないし」

 呆れたように男が言うと乱入者は苛立ちを隠そうともせず近くにあった置物を蹴り飛ばした。

 その乱暴な挙動が悪いというのに――とブロルは思わずに入られなかった。




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