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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 3章:亜人の婚約者
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落ちてしまった小鳥2



「ケイト君!! ケイト君――!!」

 目の前で落ちていく彼を助けられなかった。

 どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう!!

 敵はまだいる。無視して乗り切ろうにも危険すぎる。

 攻撃をかわしながらレイピアを突き刺すがまるで痛みを感じていないように反撃してくる。

「くっ……! いっそ全員――」


 全員――? 今、自分は何を考えたのだろう。


 得体の知れない恐怖が一気に襲ってくる。記憶の断片が浮かび上がって表に出ようとしているのがわかった。

「いやっ――!!」

 敵が迫っているこのにもかかわらずその場にへたりこんでしまう。敵の刃は容赦なく急所を狙って――

「ユリア!」

 自分を狙ってきた敵は力なくその場に倒れ込み他の敵も全てぐったりと倒れていた。

 一瞬のことなのか数分の間のできごとなのかすら判別できない。

 どうやら自分を助けてくれたのは彼らのようだった。

「ユリア大丈夫!? ケイトは? って怪我してるじゃない!」

「サラ落ち着いて。とりあえず大事には至ってないようだね」

 サラちゃんとルカ君は心配してくれているようだ。

 シルヴィアちゃんはケイト君が落ちた崖付近を睨んでいる。アベル君は私をじっと見ながら何か言おうとして言葉に詰まってるようだった。

「ケイトは……ケイトはどうしたの……?」

 シルヴィアちゃんの静かな問いかけに私はどう答えればいいのかわからなかった。

 助けられなかった。守れなかった。何もできなかった。

「ケイト君は……交戦中に、その崖から……っ!」

 役に立てなかったという事実を胸に刻みつけるように私は嗚咽交じりに言葉を吐き出した。



 俺はルカとサラ、それに馬鹿女と村から一旦離れるために森にいた。

 はぐれたユリアたちと合流しようとあちこち探し回っているとへたりこんでいるユリアの姿が見えた。

 敵に囲まれていたユリアを目にした瞬間何かが沸き上がるような感情があった。

 守ってやらないと――なぜこんなことを考えたのかはわからない。けれど考えよりも体が動いていた。

 敵をルカたちの援護もあって一通り倒すとユリアは今にも泣きそうな顔をしていた。

「ユリア大丈夫!? ケイトは? って怪我してるじゃない!」

 やけにユリアを心配するサラが言った通りあの馬鹿の姿が見えない。俺たちとはぐれたあとユリアともはぐれたとは考えづらい。

 すると馬鹿女――シルヴィアがある場所を睨みつけていた。

 崖の近くに血の痕。それは崖のほうへと伸びておりそのまま落下したと考えられた。

 もしかしたら落ちたのはあいつかもしれない。けれど今のユリアにそれを聞こうという気が起きなかった。

 しかし、シルヴィアはかすれた声で静かにユリアに問いかけた。

「ケイトは……ケイトはどうしたの……?」

 ユリアは目を見開き嗚咽でとぎれとぎれになりながらも言葉を搾り出した。

「ケイト君は……交戦中に、その崖から……っ!」

 サラは言葉を失いルカも驚きを露にしていた。そして奴は怒りか悲しみからかで体を震わせながら近くの木を殴りつけた。

「っ……! この高さから普通の人間が落ちたら……!! 何でもっと早くに――!!」

 間に合わなかったことを責めているのだろうが今更そんなことを考えても無意味だった。

 馬鹿の姿は少なくともこの付近にはないようだし川があることから流された可能性があるだろうが下流のほう、それどころか崖を降りることすら難しいだろう。

「ケイトの安否もだけど……エレナさんは戻ってこないかな……今頃村は――」

 その時、村のほうから轟音が響いたかと思うと煙が立ち上り炎上しているのが分かった。

「――っ! エレナさんの魔力……! 村に戻ってきてる!」

「ど、どうすれば……」

「あーもうっ! 村に戻る方とケイト探すほうで一回別れるわよ! 私は……村に戻るわ」

 ケイトの身をこの中で一番案じているであろうシルヴィアは苦渋の決断とでもいうように村の方へと走り出した。

「あっ! アタシも村に戻る! シルヴィア待って!!」

 サラもシルヴィアに続きルカは迷った末に村のほうへと向かった。

「アベル! ユリアを守りなよ!」

 去り際にルカはユリアのことを一瞥したかと思うと俺に何か投げつけて行った。

 ユリアはぼーっとしておりかなり不安定になっているようだ。一歩も動かないユリアにどう声をかければいいのか俺にはわからない。けれど一つわかること、それは――

「ここでぼけっとしてるだけだとあの馬鹿も見つかんねーぞ。ほら、行くぞ」

 手を差しのべるとぎこちない動きで手を握り締めてくるユリアは少しだけ生気を取り戻したようだった。


 きっとこいつの原動力はあの馬鹿意外ありえないのだろうと思うと何かが軋むような苛立ちを感じた。





 村に轟音が響き渡り、近くのものが燃え上がったせいで煙が立ち込めた。

「っつー……手加減でこれかよ……やっぱバケモンだよあんたら」

 ブロルは額から血が流れており相当傷を負っているようだった。

 対するエレナもブロルに比べれば軽いがそれなりの怪我のようだ。

「バケモンね……聞き飽きたわ……それに、お前の上司とやらの方が十分バケモンだけど」

「確かにー……ま、『本気の』あんたが未知数だから順位つけらんないよ~。あ~いってぇ……やることやったし帰ろうかなー」

 場違いなほど呑気にのたまうブロルにエレナは怒りを通り越して呆れすら感じていた。

「アニムスもぬるくなったわね……そもそも、私がお前を逃すとでも?」

 再び緊迫した空気に包まれる。エレナは前髪をかきあげると血が混じった唾を吐き捨てた。

 剣を構えるエレナに対し全くやる気の感じられないブロルは何やら小さい指くらいの笛を吹き出した。すると森に向かった数人の部下たちが戻ってきてブロルの後ろに構えた。

「じゃあ俺たちのやることは終わったから。また会えるといいな、お姫さん~」

 心底楽しそうにエレナに向かって言葉を投げかけると軽く手を振って部下ごとかき消えた。

 静まり返ったその場に思わず座り込んだエレナは深いため息をついた。

「あ~!! もうほんっとめんどくさい……解除なしの本気でこれかぁ……」

 自分の手のひらを見つめ悔しそうに歯噛みすると森の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「エレナさん! 大丈夫ですか!?」

 軽傷とはいえ傷を負っているエレナを見るのが初めてなサラにとっては大事のようで過剰なまでに心配している。

「エレナさん、敵は……」

「逃げた、じゃないか……撤退したわ。あー久しぶりの怪我だわ……」

 シルヴィアは村のあちこちを見て回っているようで焦りが見て取れる。

 そしてエレナはこの場に三人しかいないことに気づきルカに問いただした。

「ルカ、ケイトとユリア、それにアベルは?」

「…………ケイトは敵と交戦中に崖から落ちてユリアとアベルが今探しに行ってますけど……絶望的です」

 その瞬間、エレナの表情から感情という感情が全て抜け落ちた。




しばらく主人公(笑)が不在になりますがそのうちすぐ戻ります

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