落ちてしまった小鳥
「おい! ユリア! しっかりしろ」
「……………………――私は」
森の中を俺とユリアは駆け抜けていた。
謎の男から逃げたはいいがユリアの様子がおかしい。
こんな時なのに動きが止まりそうになったりよくわからないことをブツブツと繰り返している。
今までに見たことのない表情や声音に戸惑う半面、心配にもなった。
「私は……知ってる……? そうだ……思い出さなきゃ――思い、忘れ……なきゃ? 私は――」
「ユリア!!」
俺の声がやっと届いたのか未だ虚ろな瞳を揺らしながら首を傾げる。
「ケイト君……私、やっぱり変なんです……頭がグラグラして目の奥がぎゅーってなって腕が震えるんです。どうして、どうして……」
「――大丈夫だ。お前は変じゃない。確かに抜けてて俺なんかに懐く馬鹿だけど変じゃないよ」
子供をあやすように頭を撫でると安心したのか今にも泣きそうに顔を歪めた。
さっきまでの見たことのない表情は消えていたがどうしても腑に落ちない。
『オンズは溺死。ユイットは出血多量。サンクは餓死。もう、終わり、何もかも……』
意味のない言葉なはずなのに不穏な単語にどうも引きつけられる。
意味のない、はず――。
「っ――!? ケイト君!!」
ユリアの叫び声とほぼ同時に上から何かが攻撃してきた。
咄嗟に剣を出し攻撃を防ぐが僅かに反応が遅れたせいで左腕に敵の攻撃がかすった。そのまま敵は弾かれたように離れ距離をとる。
先程の敵、人形とも思える人間。得物は両手にナイフ。動きが全く読めず何をしてくるかわからない。
「ユリア、下がって――」
「――駄目です」
ユリアは俺を押し退けるように前へ出る。その目はまた遠くを見るような虚ろな生気のないものだった。
また、己を失う――そう感じた俺はユリアの襟首を引っつかんで無理やり後ろにやった。
それと同時にナイフが目前に迫り剣でそれをなぎ払った。
敵はわずかに体制を崩したがそれは一瞬のことですぐさま受身を取った。
その直後、敵の動きがピタリと止まったかと思うと一瞬のうちに敵の数が増えた。
「なっ――!?」
ざっと十人弱と判断したがそれらが全てそれぞれ違う武器を持って襲いかかってくる。正直、俺一人……いや、ユリアと二人でも捌ける気がしない。
「ケイト君! 右斜め前、そして真ん中寄りの左斜め前!!」
ユリアの言葉に従い剣を振ると敵の攻撃を受け止めることができた。ユリアもレイピアではなく普通の片手で持てる剣で押し返していた。
逃げ場は完全に失われどうにかして敵を殲滅しなければならない。
次々と容赦なく襲いかかる攻撃は何度か頬をかすめたが致命傷になるほどではなかった。
すると前方から勢いよく突進してきた敵をかわそうとし右にずれると狙いすましたように別の敵が俺を後方へと突き飛ばした。その際に腹部に鈍い痛みを感じた。
と、同時に唐突な浮遊感に襲われ後ろを見る。
川のようなものが見える。ただ距離感が掴めない。ただひとつ分かること、それは――
「ケイト君!!」
崖から転落してしまったという事実。
長く更新できなかった上にこんな切り方ですいません!早めに更新します……