響け、悲鳴
戦闘に入り少しグロい?かもです 一応注意!
その男は異様な雰囲気を醸し出していた。
触れれば切れそうな刃のように鋭い空気をまとい村へ入り込んできた。
その後ろには十数人ほどの人間。全員顔は見えない。その姿はまるで『人形』。
「おやおや~? まーたお前かー。……って面識はないんだった」
男は俺を見て意味深なことを言うととびきり楽しそうに笑い高らかに宣言した。
「さーて、エルフェリア諸君。とてもとても気の毒だが全員抹殺しろって言われててねー。ちょっくら大量虐殺タイムはに入らしてよっと!」
軽快な掛け声とともに長剣を軽く振り回す。それとともに男を押さえつけようとしたエルフェリアの若者たちから血が噴き出し力なく倒れた。
「うぇ、返り血ついたー。こういう任務は向いてないってあれほど言ってるのに」
頬についた返り血を気持ち悪そうに拭い取り切り捨てたエルフェリアの頭を足蹴にした。
その目はまるで無感情。殺すことに抵抗がないかのように。
「おや? もっと抵抗すると思ったのに意外とおとなしいじゃん。ドール連れてきたってのにー」
後ろで構える人間たちを指し示し不満そうに頬をふくらませた。
エルフェリアのみんなはおとなしいんじゃない。恐怖で何もできない、何も言えないのだ。
「何よ……あんた……こんなことして何が――!?」
シルヴィアが絞り出すような声でようやくそれだけ言うとつまらなそうに男は答えた。
「上司に言われたから」
ただそれだけ、平然と言い剣を持ち直した。
「そろそろおしゃべりは終わりでいいかな。おとなしくすれば楽に逝かせてあげよう。抵抗したら……苦しみながら逝くよ」
男が剣を剣を持っていないほうの手で指を鳴らすと後ろの奴らが一斉に動き出した。
鮮やかに、軽やかに、殺戮が展開される。
「え――?」
その場にいた全員が理解できなかった。いや、したくなかったのかもしれない。あっという間に人の命が奪われているのを。
ただ、一人だけ気丈にも動く奴がいた。
「あんたらしっかりしなさい!!」
サラの声で現実に引き戻される。どうやらサラが結界を張ってくれていたようだった。
「もう持たないから……合図したら逃げるわよ!」
「で、でも! 村のみんなが――」
「酷いかもしれないけどそこまで助ける余裕はないの! 六人でギリギリなんだから早く!!」
合図なのか手を叩き結界が崩れる。その瞬間、俺たちは敵をかいくぐり逃げ出そうとした。
――が、
「ユリア!! 何してんだ!?」
その場から一歩も動こうとしないユリアはどこか遠くを見つめるような瞳で殺戮を行う彼らを見ていた。
「キャーンズ、キャトルズ、トレーズ、ドゥーズ、オンズ、ディス、ヌフ、ユイット、セット、シス、サンク、キャトル……………………」
何か呟くユリアは今にも自分に襲いかかろうとしている存在に気づいていない。
「ユリア!!」
力の限り叫びユリアの元へ駆け寄ろうとした瞬間、何か大きな違和感があることに気づいた。
「トロワ、ドゥ、アン…………ゼロ」
そして、視界は一瞬で赤く染まりユリアの金髪も、赤く染まった。
敵の、返り血で。
「なっ――!?」
「オンズは溺死。ユイットは出血多量。サンクは餓死。もう、終わり、何もかも……」
意味があるのかすらわからないことを呟き続け敵を返り討ちにしていく。
「あのガキ……まさか」
男がユリアを観察するように見つめているとシルヴィアは先程の空気はなかったようにいつものような雰囲気に戻っていた。
「え、あれ……私――」
「ユリア! 逃げるぞ!」
「えっ、あ、あの!?」
状況把握ができていないユリアを強引に引っ張りその場から逃げ出した。
男は意味深な笑みを浮かべ最後にこう言った。
「またな、フィアンマの小僧」
「さーて、一通り殺ったなー。『村にいたエルフェリアを全員抹殺』……と。別に逃げたやつまで追えとは言われてないし」
いくつか転がっているエルフェリア以外の死体を蹴飛ばし村を見渡す。
「英雄、レイフィア・カタルシスの墓、か……くっだらないなー」
男が石碑を蹴ると血がこびりつき汚れてしまった。
「あー、そういえばもしかしてあのフィアンマのガキがいるなら――」
「な――なによこれ!?」
そこに現れたのは驚き戸惑うエレナと絶句しているトーマスだった。
「おっと、本当にいたんだ。ついでだしあんたのことも済ませちゃおうか」
不敵に笑いエレナに切っ先を突きつける。エレナは怯むことなく対峙するが僅かに焦りの色が滲んでいた。
「いい気なもんだな。あんた、一人では何にもできないくせに調子乗ってさ。可笑しくて笑っちゃうよ」
「何が言いたいのよ」
男から目をそらさずエレナはトーマスに何やら伝えトーマスは村の奥へと消えた。
緊迫した雰囲気が漂う中男は楽しそうにエレナを観察する。
「確かに聞いてた通り美人ではあるけど俺の好みじゃねーわ。そうそう、自己紹介が遅れたな。俺はブロル。雑用から暗殺までなんでもやっちゃうお手軽下っ端~。まあよろしくね、『お姫様』」
「っ!? その呼び方……あんたまさか――」
「おそらくだーいせいかーい。俺は『アニムス』の下っ端ー。復活したんだよォ! 偉大な偉大なアニムスがな!」
その言葉を皮切りにブロルはエレナに切りかかった。
ギリギリのところでかわし体勢を立て直す。しかし、その表情は今までにないほど青ざめていた。
「あれー? なんか動き鈍くね? 中途半端ー、むかつくんだけど」
「……誰が、アニムスを動かしてるの」
「えー教えるわけ無いじゃん。まあでも幹部のヒントくらいはあげる」
爽やかな笑顔を振りまきながら剣をかかげる。
「あんたのことが大好きで大好きでたまらなくておかしくなった人が、今の俺の上司みたいなポジション。誰だかわかるだろ?」
右手に持った長剣ではなく左手を動かす。そこには赤いジュエルが握られていた。
エレナが気づいた時には既に魔法が発動しており盛大な爆発に巻き込まれていた。
「めーいちゅうっ! 弱いなぁ、弱い弱い弱い。それが最強の名を欲しいままにした『破壊の大剣士、ミラ・エルヴィス』の末路なの?」
腹を抱えて笑っているブロル。しかし、一瞬で顔を引き締め飛び上がった。
先程までいた場所にはブロルのものではない長剣。それが深々と地面に突き刺さっておりよけていなかったら一溜りもなかっただろう。
「なるほど……確かに私も鈍ったようね」
『アタシ』ではなく『私』。髪をおろしたままではなく結った状態に。纏う空気すら豹変させてエレナは突き刺さる長剣を抜いた。
「でもな、本気を出してると思うなよ。調子に乗ってると――」
言葉を一旦切りブロルを睨みつけ、声を張り上げた。
「あっという間にくたばるぞこのクソガキッ!!」