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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 3章:亜人の婚約者
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ユリアVSシルヴィア



「え、しばらく留まるんですか」

「うん、まあ三日くらい? 悪いけど我慢してね。トーマスに言って修行できる場所は用意したから」

 早朝。結局ちゃんと寝付けず朝食の準備の手伝いをしようとしてたらなぜかエレナさんが朝食を作っていた。

 どうやらトーマスさんは朝早くから用事で家にいないらしく朝食作りを代わりに引き受けたそうだ。そういえばシルヴィアの母親の存在が話題に出ないが家にいないのだろうか。

「アタシはすることあるからあんたたちで頑張って。ああ、修行手伝ってくれる子はいるから」

 少し気まずそうに目を逸らす。その様子からなんとなく誰なのか予想できてしまった。

「念のため聞きますが……誰ですか?」

 そして、エレナさんは三秒深く息を吸って迷いながらもはっきりとその名を告げた。

「――シルヴィアよ」



 修行場は緊迫した雰囲気に包まれていた。

 理由はそう――シルヴィアとユリア、そしてアベルまでもが睨み合い牽制していた。

 ルカとサラは少し離れたところで様子を伺っている。特にサラはちらちらとユリアを見ているが声をかけるまでには至らないようだ。

 一触即発。この言葉が今ほどぴったりなのはないと思う。

 とりあえずこの状態が続くと俺を含む第三者の胃痛が止まることはないのでとりあえず声をかけた。

「えっと……それで、その……シルヴィア、修行――」

「黙ってて!!」

「黙れ!!」

「ケイト君はそのへんで座っててください!!」

 総攻撃喰らいました。俺が何をした。とりあえずシルヴィアとユリアはともかくなんでアベルまで……正直事情が把握出来てない。

「あんたは昨日からずっと思ってたけどムカツク奴ね……! ナトゥーラ名物帰らずの大森林に逝け」

「ぎゃーぎゃーうるさい女だな……俺はお前みたいな女が嫌いなんだよ。アルクスのエインセ川で溺れろ」

 ちなみにナトゥーラ名物帰らずの大森林とは一度踏み込んだら二度と太陽を拝めないと言われている恐ろしい場所である。アルクスのエインセ川は観光地として有名所で綺麗らしいが遥か昔、少女が冤罪で水死させられたとかなんとかで色々祟がどうこうという話を聞いたことがある。

 二人とも本気で気に食わないんだな……でもこういうのよくあるのかな。

 そんなことを考えているとシルヴィアは修行場の倉庫からあるものを取り出した。

「とりあえず、ユリア……だっけ。勝負よ、勝負。この人形を使って」

 シルヴィアが取り出したのはお世辞にも可愛いとは言えない歪な人形。というかどっかで見たような気がする。

「あ、訓練用人形シリーズ。まさかこんなところでお目にかかるなんて」

 サラが人形を見て懐かしそうに言う。ルカも「あー」と少し驚いたような声をあげている。

「僕たちもこれの類似品使ってたんだよね。ほら、アベルとユリアは覚えてるだろう?」

 するとユリアとアベルの顔が少し曇った。なんか嫌なこと思い出したような感じだ。

 シルヴィアが人形を空中に吊るす。鎖で吊るされた人形。まるでその光景は首吊り自殺現場だ。人形の不気味さも相まって相当怖い。

「この人形は受けたダメージを数値化できるサンドバックみたいなもの。人っぽく作ってるから実際に人に攻撃したときのダメージに近いらしいわ。ちなみに普通の人が無装備無強化で殴った場合は平均百」

 そして人形とセットなのか硝子の板を取り出す。そこには数字が零の状態で並んでいる。

「人形にダメージをより与えられたほうが勝ち。負けたら大人しく引いて」

「どうしてそんな勝負受けなきゃいけないんです。私はそんなことしたくないです」

 ユリアがちらりと人形を見る。そんなに人形が嫌なのか。それとも何か別の理由だろうか。

「別にしないならしないでもいいけど。しないなら私はケイトと遊ぶし」

「勝負します」

 あっさりと前言撤回し武器を出すユリア。シルヴィアも槍を出しやる気満々だ。

 シルヴィアはアベルのほうに少しだけ視線をやり槍を突きつける。

「こっちの問題が片付いたら相手してあげる。ぶっ倒す」

 アベルは何か文句を言いたげだったがとりあえず抑えたようで舌打ちだけして人形付近から離れた。

「いくわよ……!」

 掛け声とともにシルヴィアの一撃が人形に炸裂する。人形は大きく揺れ微妙に鳴き声みたいなのを漏らした。

 数字は五百。普通より強めといったところか。

「全然本気じゃないから。魔力強化もしてないしー」

 そしてユリアも人形に一撃。人形は揺れたが小馬鹿にするように笑ってる(ように見える)。

 数字は三百五十。シルヴィアよりかなり下だ。

 二人は何度か攻撃を互いに繰り返しているがこれといって大きく数値は変わらない。

「そーいや魔力強化ってたまに話にでるけどなんだ?」

「あれ、説明してなかったっけ? 魔力強化ってのは魔力で肉体の能力を上昇させることの総称。うまく応用すれば相手の攻撃もある程度受けても平気だし攻撃力も高まるよ」

「魔力の使い方は千差万別。魔力強化メインで戦うアタッカーもいれば魔法にがんがん魔力使う魔法使い。あとはまあ、色々あるけど……魔力を使った特殊能力とか」

 ルカとサラが交互に解説してくれる。この二人の解説は本当にありがたい。エレナさんが普段説明してくれないから。

 するとルカがユリアを見て複雑そうな顔をした。

「ユリアってやっぱり安定しないね。無意識に魔力強化使ってることもあるし……本当に彼女は何者なんだか」

「さあね。無意識に魔力強化使うって相当戦闘が身に染み付いてるんじゃない。全然想像つかないけど」

 二人の会話が気になったがシルヴィアの放った一撃で示された数字が大きく変化し気を取られる。

 千五十。さっきの二倍近くだ。

「ま、素人相手に本気出すのも大人げないしこれくらいで――」

「……せん」

 ユリアがかすれた声で何か言っている。そしてレイピアから棍棒に持ち替え人形に向き合う。

「負けません……負けてたまるものですか――――!!」

 渾身の一撃と言うに相応しい攻撃が人形にヒットする。

 吊るされた人形は勢いのせいで吊るしていた鎖が引きちぎれ壁に激突した。しかも壁にヒビが入った。

「ちょ……数値は!?」

 シルヴィアは慌てて硝子板を覗き込む。表示された数値は六千。

「嘘……魔力強化で本気でやっても私、四千が最高なのに……」

 吹っ飛んだ人形と俺たちを交互に見て困惑するユリア。いったい、一見あの大人しそうな少女にどれだけ力があるのか謎である。

 人形はキィィィ……と鳴いて動かなくなった。



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